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読売日本交響楽団第511回名曲シリーズ
2009/02/10 サントリーホール
ドヴォルザーク/「オセロ」序曲,op.93
ドヴォルザーク/チェコ組曲ニ長調,op.39
ドヴォルザーク/交響曲第4番ニ短調,op.13
(アンコール)ドヴォルザーク/スラヴ舞曲op.72-7
●演奏
下野竜也指揮読売日本交響楽団(コンサートマスター:藤原浜雄)
Review by 管理人hs  
読売日本交響楽団の定期公演等の情報が書かれている「月刊オーケストラ」という冊子です。宇野功芳さん,青島広志さんの記事などが掲載されており,大変読み応えのある内容でした。背景に写っているのは,チラシ類です。スクロヴァチェフスキさんの写真が写っています。

このところ,東京方面に出張があった時には,都内のコンサートホールで演奏会を聞き,寝台特急北陸で金沢に戻る,というのがパターンになっています。今回は,サントリーホールで行われた下野竜也さん指揮の読売日本交響楽団の「名曲シリーズ」という演奏会を聞いてきました。

東京の場合,演奏会が行われない日はまずないので,いつでも複数公演が選べますが,今回は,(1)ドヴォルザークの交響曲第4番を聞いてみたい,(2)価格が手頃である,そして,(3)サントリーホールに行ってみたいという,理由からこの公演を選びました。もちろん,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)に客演したこともある下野さん指揮の読売日本交響楽団ならば悪いはずはない,という「品質保証」がその前提としてあったことも言うまでもありません。

サントリーホールに行くのは,2回目のことですが,やはり豪華なホールです(ただし,もう15年以上も前のことです)。アークヒルズの雰囲気をはじめとして,すべての点に高級感がありました。演奏会のチケットは,インターネットで入手済だったのですが,いちばん安いD席を指定したところ,自動的にパイプオルガンの前のブロックになってしまいました。音響的に問題があることは予想できたのですが,指揮者の顔を見られるというメリットもあるので,「モノは試し」とこの席にしてみました。

座ってみると,テレビのクラシック音楽番組で指揮者とオーケストラを見るような感じでした。クラシック音楽家の写真をたくさん撮られている写真家の木之下晃さんの作品に出てくるような,「これは良い表情だ」という瞬間を次々と見ることができました。ラ・フォル・ジュルネ金沢の際の「ステージ席」ほどのオーケストラとの一体感はありませんでしたが,上の方の席だったこともあり,ダイレクトに音が聞こえ過ぎることもなく,それなりに自然なバランスで演奏を聞くことができました。価格のことを考えると(特に指揮者のファンにとっては),悪くない席だと思いました。

さて,演奏会のプログラムの方ですが,「名曲シリーズ」というシリーズ名に反して,演奏される機会が少ない曲ばかりが選ばれていました。第511回ということで,歴史のあるシリーズのようですが,「もう一つの定期公演」といった位置づけなのかもしれません。

今回のプログラムは,ドヴォルザークの作品で統一されていましたが,何と言っても,メインの交響曲として第4番が選ばれていた点がポイントです。もちろん私自身,初めて聞く作品でしたが,下野さんとしては,是非この曲を聞かせたいという意図があったのではないかと思います。協奏曲がなかったこともあり,一見ちょっと地味な印象だった反面,非常にまとまりの良い構成の演奏会となりました。

最初に演奏された「オセロ」序曲も,実演で聞くのは初めての曲でしたが,不安げな部分から怒るような終結部まで充実した内容を感じさせてくれる曲であり演奏でした。上述のとおり,いつもと反対側で聞いたこともあり,弦楽器などは近くにいる割に音が遠く感じるという,ちょっともどかしい部分がありました(やはり反響版は表の方に向かざるを得ないので)。

管楽器なども後ろから見ていると誰が吹いているのかよく分からず,ちょっと戸惑いました。また,ホルン以外は,音の飛んでいく方向が逆なので,やはり,全体に音の響き方が間接的になっていました。というわけで,最初のうちは違和感を感じていたのですが,それでも段々と耳の中で補正されてきて,曲が盛り上がる終盤には,「こういう響き方も面白いな」と耳の方が適応してきました。「オセロ」というタイトルについては,少々意味不明のところはありましたが,下野さんのメリハリの効いた音楽作りで,最後は大きく盛り上がって終わりました。

次のチェコ組曲は,テレビ実写版「のだめカンタービレ」の挿入曲として使われて以来,人気が高まってきている曲です。昨年末のOEKの定期公演でもジョアン・ファレッタさんの指揮で聞いたばかりです。5曲から成る適度な長さの組曲ということで,今後ますます,実演で取り上げられる機会は増えてくるのではないかと思います。楽器編成は,OEKでも演奏可能な曲ということで,トロンボーンやテューバは入っておらず,弦楽器のプルトも1曲目よりは,少なくなっていました。

組曲の前半は穏やかな雰囲気の部分が多かったのですが,下野さんの指揮には,慌てたような部分がないので,聞いていてのびやかな気持ちになりました。緻密であると同時に音楽のつかみ方が大きく,常に微笑みをたたえているような音楽になっているのが魅力的でした。「のだめ」で有名になった,第2曲なども自然な息遣いの感じられる演奏でした。組曲後半の曲では,フルートやオーボエのソロも活躍していましたが,この辺はやはり,表(?)の席から聞いてみたかったところです。最後の第5曲は,テンポアップしながら大きく盛り上がるのですが,しっかりと引き締まった音が鳴っていました。

後半は,この日のメインの交響曲第4番が演奏されました。オーケストラの演奏会が毎日のように行われている東京でも演奏される機会はほとんどない曲だと思います。私自身にとっても,実演で聞くのは初めてのことでしたが,非常にがっちりとした感じのする「交響曲らしい交響曲」でした。演奏時間が40分ほどかかる曲ですが,下野さんの指揮が素晴らしく,退屈する瞬間は皆無でした。終盤の楽章を中心にオーケストラの音のグルーヴ感が素晴らしく,下野さんによって,新しく名曲が発掘されたと実感しました。「それで「名曲シリーズ」なのか!」と納得しました。

この演奏会を聞く前に,オトマール・スウィトナー指揮ベルリン国立管弦楽団のCDで予習をして行ったのですが,第1楽章などはかなり速いテンポでした。颯爽と若武者が馬に乗って駆けて来るような(少々レトロな比喩ですが...)感じで始まりました。続く第2主題は滴るような甘さがあり,しっかりとメリハリが付けられていました(呈示部の繰り返しは行ってたと思います。)。その後の展開部の盛り上がりも見事でした。裏から見ていたせいもあるのか,特に中低音楽器の威力を感じました。ブルックナーの交響曲を聞くようなオルガン・トーンを実感しました。

第2楽章もこの絶妙のトーンが続くのですが,ここでは,ワーグナーの「タンホイザー」の気分になります。トロンボーンの重奏を含む静かな雰囲気は,「巡礼の合唱」と呼ばれる部分にそっくりです。その後は変奏曲のように進むのですが,ほのかにロマンティックな気分が感じられる曲でした。ただし,下野さんの指揮には,大げさなところや強引なところはなく,ここでもオーケストラの自発性をしっかりと引き出していました。

第3楽章は,スケルツォ楽章です。木管楽器を中心に鮮やかで颯爽としたメロディを生き生きと演奏した後,ちょっとテンポを落としたトリオになります。この部分の田舎風だけれども華麗な盛り上がり方が最高でした。音がキラキラときらめき,大変楽しい演奏になっていました。

第4楽章も,キビキビとしたテンポで演奏されました。特にコーダの部分の迫力が素晴らしく,裏の席から見ていると,下野さんの指揮にオーケストラがしっかりと反応し,音楽がカッと燃え上がるのが実感できました。下野さんは,オーケストラの自発性を生かしながらも,曲全体についての大きな見通しを持った上で,オーケストラ全体を大きくドライブするような見事な指揮ぶりでした。恐らく,表の席から聞いたら,さらに迫力を実感できたのではないかと思います。

ドヴォルザークの交響曲の場合,第8番と第9番「新世界から」があまりにも有名なため,それ以外の曲が霞んでしまっているところがありますが,この第4番は,もっと聞かれても良い作品だと思います。特に今回の下野さんの指揮で聞いて,そのことを強く感じました。

盛大な拍手に応え,スラヴ舞曲op.72-7が演奏されました。「用意,ドン」で一斉にかけっこをするようなスピーディな曲ですが,アンコールということもあり,音楽に開放感があり,余裕たっぷりの美しさのある演奏でした。特に弦楽器の響きが印象的でした。

この日のお客さんの入りは,かなり地味なプログラムだったこともあり,空席が結構ありました。が,どのオーケストラにとっても,新しいレパートリーの発掘は大変重要なことだと思います。今回の演奏からは,その下野さんの心意気と実力を十分堪能できました。下野さんは,4月のOEKの定期公演に登場し,これまでのOEKになかったタイプのプログラムを聞かせてくれる予定ですが,今から非常に楽しみになってきました。


東京タワー,湯島天神,増上寺とその周辺写真集
この日は,仕事が終わった後,まず湯島天神に行き,さらにその後,東京タワーに向かい,そして,サントリーホールに向かいました。実は,東京タワーを近くから見たことがなかったので,嬉しくなって写真を取りまくって来ました。

5時前の東京タワー 5時過ぎの東京タワー。ライトアップが始まりました みるみる暗くなってきました
    
終演後の東京タワー。6時前とはまた別のライトアップがされていました。 浜松町方面から見た東京タワー     
湯島天神の入口です。

季節柄,絵馬が溢れかえっていました。 東京タワーのすぐそばにある徳川家の菩提寺の増上寺です。背景に東京タワーが写っています。
東京タワーと増上寺です。

増上寺の境内にあったお地蔵さんです。 徳川家霊廟ですが,入れませんでした。14代将軍家茂や和宮の墓もあるようです。
東京タワーの中にあった土産物店です。 東京タワーの入口です。作られて50年になるようです。 東京タワーのふもとにあった,カラフト犬の像です。
増上寺の門です。かなり大きな門でした。
JR浜松町の駅です。時間調整のため,サントリーホールからここまで歩いてみたのですが...疲れ果てました。 その後,上野駅まで移動し,寝台特急「北陸号」金沢行きで帰りました。
何枚も東京タワーの写真を撮ってしまいました。
ライトアップされた状態 タワーの隣ぬ写っているのは,月です。見た目にはもっと大きく感じました。
(2009/02/13)

サントリーホール周辺
写真集
今回の公演が行われた,サントリーホール周辺の写真です。何とも高級な雰囲気の場所でした。

スペイン坂の方から行きました。


サントリーホールの向かいのアーク森ビルです。


隣にあるアーク放送センターです。


テレビ朝日関連の建物だと思います。


サントリーホールの入口です。


ARKHILLSの看板です。


ホールの前の広場は,Karajan Platz(カラヤン広場)という名前が付けられています。


開演前は,この辺りで飲食をしている人が大勢いました。


ホールの隣にあった,滝の後からカラヤン広場を見たところです。


サントリーホールの入口の上にあるパイプオルゴールです。開場時間になると音楽が鳴るようです。


さすがにホール内の写真を撮るわけにはいかないので,扉の外から撮影してみました。


アンコール曲を示す案内板です。


終演後のカラヤン広場です。