OEKfan > 演奏会レビュー
もっとカンタービレ第12回大作曲家青春の息吹:オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ
2009/02/12 石川県立音楽堂交流ホール
1)ブラームス/ピアノ三重奏曲第2番ハ長調,op.87
2)メンデルスゾーン/弦楽四重奏曲第4番ホ短調,op.44-2
●演奏
ヴォーン・ヒューズ(ヴァイオリン),上島淳子,原三千代(ヴァイオリン*2),古宮山由里(ヴィオラ*2),ルドヴィート・カンタ(チェロ*1),早川寛(チェロ*2),鶴見彩(ピアノ*1)
Review by 管理人hs  
この公演の案内です。

オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ「もっとカンタービレ」第12回に出かけてきました。今回は,「大作曲家青春の息吹」ということで,ブラームスとメンデルスゾーンの比較的渋めの作品が演奏されました。このシリーズでは,比較的大編成の室内楽が演奏されることが多かったので,今回のようなピアノ三重奏と弦楽四重奏という「純粋な室内楽公演」は,かえって新鮮に感じます。こういう「大曲2曲」という正統的なプログラムも良いものです。

最初に演奏されたブラームスのピアノ三重奏曲第2番は,ヴァイオリンのヴォーン・ヒューズさん,チェロのルドヴィート・カンタさん,ピアノの鶴見彩さんによって演奏されました。どの楽章もじっくりとしたテンポで演奏され,非常に味わい深く,聞き応えのある音楽を聞かせてくれました。

第1楽章から,少々慎重な感じがするぐらいの粘り気のある重さがあり,堂々たる風格を漂わせていました。鶴見さんのピアノも堅実で,演奏全体に硬質な引き締まった響きを加えていました。短調の第2楽章は,かなりセンチメンタルな雰囲気がありましたが,過剰に甘くなることはなく,さり気ない”渋さ”が決まっていました。第3楽章のスケルツォでは,独特のトリルが怪しい雰囲気を出していました。ゆったりとしたトリオからは,各奏者の息遣いを感じました。第4楽章も,動きはあるけれども熱くなり過ぎることのない演奏で,全曲をがっちりとまとめていました。

ブラームスの室内楽作品には,いろりろな編成の曲がありますが,どれも聞き応えのある曲ばかりです。今後も,OEK室内楽シリーズの核として,順番に取り上げていって欲しいもので。

後半は,上島淳子さんと原三千代さんのヴァイオリン,古宮山由里さんのヴィオラ,早川寛さんのチェロによってメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第4番が演奏されました。ちょっと生真面目な感じはしましましたが,所々出てくるほの暗い感じが大変魅力的な作品です。隠れた名曲と言っても良い作品だと思います。

演奏前に,原さんがとても丁寧に曲についての紹介をされましたが,この曲については,同一メンバーで,2年前に1楽章だけを演奏したことがあるとのことでした。調べてみると,「ふだん着ティータイム・コンサート」で演奏されていました。今回の演奏は,満を持しての再演といえます。

第1楽章は,憂いのある響きで始まり,それが次第に安堵感に変わっていくのが魅力的でした。特に第1ヴァイオリンの上島さんのしっかりとした美しい音が印象的でした。スケルツォといえば,メンデルスゾーンの得意分野ですが,この曲の第2楽章のスケルツォも独特の雰囲気を持っています。細かい音の動きが面白く,とても新鮮な感じがしました。

第3楽章アンダンテも,上島さんのヴァイオリンのしっとりとした歌が印象的でした。その他のメンバーの作り出す穏やかな雰囲気も絶妙でした。第4楽章は,第1楽章と同様,暗さを持った雰囲気に戻ります。しっかりとした強さを感じさせてくれる演奏でした。

全曲を通じて,大胆さや意外性はあまり感じなかったのですが,同じフレーズを違う楽器で次々と受け渡していくような部分がとても丁寧で,室内楽らしくて良いなぁと感じました。メンデルスゾーンは,モーツァルト以上に駄作の少ない作曲家ですが,今年は生誕200年の年に当たりますので,例年にも増して,室内楽曲が演奏される機会が多いと思います。このシリーズでも是非取り上げて欲しいと思います。

次回の,「もっとカンタービレ」ですが,3月4日に「エキサイティング・ナイト!」と題して,グルダ作曲のチェロとブラス・オーケストラのための協奏曲という曲などが演奏されます。古宮山さんは「すっごく楽しめる曲です」とPRされていましたが,そう言われると「これは聞き逃せない」という気分になります。「もっとカンタービレ」シリーズの3年目のスケジュールの書かれたチラシも配られていましたが,さらに独創的なプログラムが続くようです。
(2009/02/14)