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第6回石川県学生オーケストラ&オーケストラ・アンサンブル金沢合同公演
2009/03/01 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ロッシーニ/歌劇「セビリアの理髪師」序曲
2)モーツァルト/交響曲第35番ニ長調,K.385「ハフナー」
3)ショスタコーヴィチ/交響曲第5番ニ短調,op.47
●演奏
シズオ・Z・クワハラ指揮石川県学生オーケストラ*1,3;オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)*2,3
Review by 管理人hs  

この日は午前中,北國新聞赤羽ホールでラ・フォル・ジュルネ金沢のプレイベントのモーツァルト・ピアノマラソンの第1回目の公演を聞いた後,午後からは石川県立音楽堂に行きました。ラ・フォル・ジュルネの開幕前に,既にハシゴをしてしました。

音楽堂の方では,今回で6回目となる石川県学生オーケストラとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の合同公演が行われました。毎年,OEK単独では演奏できない大曲が取り上げられるので楽しみにしているイベントですが,今回は,シズオ・Z・クワハラさんの指揮でショスタコーヴィチの交響曲第5番が合同で演奏されました。

この曲は,プロのオーケストラにとっても難曲だと思いますが,今回,管楽器のソロパートは,ほぼ全部,大学生が担当していました。これは大変立派だったと思います。もちろん,パーフェクトな演奏ではなかったのですが,演奏に掛ける気合を感じることができました。クワハラさんの指揮は,この若々しいエネルギーをうまくコントロールし,非常にスケールの大きな,聞き応えのある音楽にまとめ上げていました。

今回の編成は,総勢約130名という大人数でした。特に金管楽器と打楽器の圧倒的なパワーに圧倒されました。プログラムのメンバー表によると,ホルン8人,トランペット6人,トロンボーン5人,打楽器5人という具合です。木管楽器もかなり大勢の人数がいました。弦楽器もステージ前方にぎっしりと並び,ステージ上は,超満員という感じでした。

第1楽章冒頭は,ベートーヴェンの「運命」に匹敵するような,衝撃的な部分ですが,今回の演奏も,素晴らしい緊迫感がありました。その後続く,静かな部分からは,冷ややかな怖さというよりは,抒情的な温かみを感じました。楽章の中間部では,突然,行進曲調になり,場違いなくらいな賑々しい音楽になります。この部分での,エネルギーが全開となったような迫力も聞きものでした。今回は,OEKの渡邉さんが小太鼓を担当していましたが,その強烈なリズムに引っ張られるように,金管楽器も咆哮し,壮絶な音楽となっていました。

第2楽章は,こうやって実演で聞いてみると,マーラーの交響曲にそっくりだなぁと感じました。途中,ヴァイオリンのソロが入りますので,マーラーの交響曲第4番の第2楽章などと通じるものがあると思います。第1楽章もそうだったのですが,クワハラさんの作る音楽には,慌てたところがなく,大きく構えた感じがあるのが素晴らしいと思います。

第3楽章は,静か目の緩徐楽章ということで,さすがにちょっと長く感じる部分はありましたが,非常に濃い味をもった深さを感じさせてくれました。第4楽章は,やはり全曲のクライマックスだったと思います。楽章の最初から,金管楽器や打楽器の響きが鮮やかで,生の大編成の迫力にどっぷりと浸ることができました。楽章の最後の部分は,テンポを速くするか,遅くするか,解釈が分かれる箇所ですが,今回は最後に行くにしたがって,遅くなるという形を取っていました。

弦楽器が同じ音を強烈に延々と弾く上で,金管楽器と打楽器がファンファーレ風のフレーズを演奏するのですが,終わりに向かうにつれてじりじりと熱気と興奮が高まっていきます。トランペットの高音が非常に苦しそうで,心の中で「頑張れ,頑張れ」と思いながら聞いていたのですが,そのリアルに苦しげな感じがさらに興奮を高めていました。そういったこともあり,単純な「勝利の行進」という感じではありませんでした。「きっと,この部分には,ショスタコーヴィチのいろいろな思いが込められているのだろう」と考えさせてくれるような終わり方でした。

それにしても,この部分は,打楽器,特にティンパニの見せ場ですねぇ。大変演奏しがいのある部分なのではないかと思います。今回の場合,テンポがどんどん遅くなってくるので,いつも以上に,ティンパニの音に集中してしまいました。堂々たる演奏でした。

演奏全体を通じて,率直でストレートな若々しさを感じさせてくれる演奏だったのですが,例えば,全員で演奏する,強奏部分にもいろいろな段階があり,いろいろな表情を作っていました。そういったこともあり,大作の大河ドラマを見終わった後のような充実感を感じさせてくれる演奏になっていたと思います。

前半は,学生オーケストラとOEKそれぞれの単独演奏でした。こちらも楽しめました。学生オーケストラが演奏した歌劇「セヴィリアの理髪師」序曲の方は,途中ちょっとヒヤリとする部分はありましたが,冒頭の打楽器を含む一撃から明るく引き締まった響きがあり,ロッシーニらしい颯爽とした演奏になっていました。弦楽器を中心とした,すっきりと澄んだサウンドが大変爽やかでした。

OEKの演奏した,モーツァルトの「ハフナー」交響曲の方は,OEKにとって「定番中の定番」ということで,自信たっぷりの勢いのある演奏でした。この日のOEKには,かなり大勢のエキストラが入っていましたが,オーケストラ全体としての音のバランスの良さは,やはり,学生とは格段に違います(曲の編成自体も全く違うのですが)。

第1楽章は,とても颯爽とした演奏でした。コンサートミストレスのヤングさんの動きがとても大きく,演奏をぐいぐい引っ張っているように見えました。反対に展開部での静かですっきりとした風情も印象的でした。第2楽章も停滞感のない演奏で,全曲を一気に聞かせるような,直線的な流れの良さを感じさせてくれました。品の良いメヌエットの第3楽章に続く,第4楽章には,フィナーレに相応しい力強さがありました。全曲を通じて,直線的だからこそ感じられる,ちょっとしたニュアンスの変化が効果的な演奏だったと思います。

この合同公演も,すっかりこの時期の恒例になった企画ですが,「OEKの定期公演には,まだ登場していないけれども注目の指揮者」といった指揮者が登場することが多いのも特徴です。今回のシズオ・Z・クワハラさんも学生たちを燃え上がらせてくれるようなとても気持ちの良い指揮ぶりでした。是非機会があれば,また金沢で公演を行って欲しいものです。 (2009/03/02)

関連写真集
この日の公演を含む,3月の公演の立て看板が音楽堂前に出ていました。


この日の公演のポスターです。


公演パンフレットです。


この日から,一般向けのラ・フォル・ジュルネ金沢のチケットの発売が始まっていました。