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オーケストラの日2009:オーケストラ・アンサンブル金沢ウェルカムスプリングコンサート
2009/03/31 石川県立音楽堂コンサートホール
第1部
1)ヴィヴァルディ/協奏曲集「四季」〜「秋」第1楽章
2)ボッケリーニ/メヌエット
3)コレルリ/12の室内ソナタ〜第1番ニ長調
4)ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調op.67〜第1楽章
5)ジマー(ラヴェンダー編曲)/映画「パイレーツ・オブ・カリビアン:デッドマンズ・チェスト」メドレー
6)久石譲/崖の上のポニョ
7)ヘンデル/オオンブラ・マイ・フ
8)ロウ/ミュージカル「マイ・フェア・レディ」メドレー

第2部
9)モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲
10)モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」〜「もうお前の勝ちだと言ったな」「ため息をつきながら」
11)モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488〜第1楽章
12)上田真樹編曲/クラシックのおもちゃ箱
13)(アンコール)レノン&マッカートニー(池辺晋一郎編曲)/レット・イット・ビー
14)(アンコール)レノン&マッカートニー(池辺晋一郎編曲)/イエスタディ
15)(アンコール)宮川彬良/松井秀喜公式応援歌「栄光(ひかり)の道」
●演奏
清水直季指揮スズキメソード金沢ジュニア合奏団*1-3
鈴木織衛指揮石川県ジュニアオーケストラ*4-6
大久保譲指揮石川県立金沢辰巳丘高等学校管弦学部*7-8
山田和樹*9-12,15;池辺普一郎*13-14指揮オーケストラ・アンサンブル金沢*9-15
安藤常光(バリトン*10,15),平野加奈(ピアノ*11)
ナビゲータ:池辺晋一郎
Review by 管理人hs  
数年前から3月31日は,「ミミにいちばん,ミミにいい日!」という語呂合わせで「オーケストラの日」ということになっています。日本全国のオーケストラの活動を盛り上げ,お客さんに感謝するということで,全国各地のプロ・オーケストラがこの日周辺に集中的に演奏会を行っています。金沢では,ここ数年,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が従来から行っていたウェルカム・スプリング・コンサートと兼ねて,OEKと地元のオーケストラが次々と登場するような演奏会が行われています。

今年は,前半に石川県内の高校生以下の子どもたちによる3つのオーケストラが登場した後,後半,真打のOEKが登場し,モーツァルトの曲などを演奏するという2部構成となっていました。前半と後半の間には30分間の長い休憩が入り,”定期会員様ご招待のお客様感謝デー”らしく,フリードリンクのサービスなどもありました。司会の石川県立音楽堂洋楽監督の池辺晋一郎さんのダジャレもいつも以上に快調に飛び出しており,「オーケストラによるガラ・コンサート+音楽堂アワー」といった親しみやすい雰囲気がありました。まさに”年度末感謝祭”といった演奏会じでした。

ただし,この日は年度末最後の最後の3月31日で個人的にも大変慌しかったこともあり,うっかり開演時間を間違えてしまい,最初のスズキメソード金沢ジュニア合奏団のステージは聞き損なってしまいました。やはりいつもの定期公演の開演時間に慣れてしまうと,18:30開演というのは,かなり早く感じます。

というわけで,石川県ジュニア・オーケストラの演奏から聞き始めました。このオーケストラは,この日の数日前に音楽堂で定期演奏会を行ったばかりですが,その時に演奏した曲の中から鈴木織衛さんの指揮で3曲を演奏しました。最初のベートーヴェンの「運命」の第1楽章は,さすがにOEKの演奏に比べると粗が目立ってしまうのですが,部分的にはハッとするような充実した響きが聞こえてきました。例えば,第2主題のホルンの音など立派だと思いました。そういう発見があるのが,若いオーケストラを聞く大きな楽しみです。

その後の「パイレーツ・オブ・カリビアン」「崖の上のポニョ」の音楽については,打楽器が活躍することもあり,より聞き映えがしました。特に「パイレーツ・オブ・カリビアン」の方は,リズムの変化が独特で面白く,途中,見事なチェロのソロも入っていたりして,特に楽しめました。曲の合間に,池辺さんと鈴木さんが,国全体として,ユース・オーケストラの育成に力を入れているベネズエラの例について語っていましたが,石川県ジュニア・オーケストラの団員の中から未来のアーティストがどんどん育っていって欲しいと思います。

続いて石川県立辰巳丘高等学校管弦学部が登場しました。それほど大きな編成ではなく,特に最初に演奏された「オンブラ・マイ・フ」などは,弦楽合奏中心によるしっとりとした演奏でした。「マイ・フェア・レディ」の方は,もう少し元気が欲しい気もしましたが,おなじみの曲の数々がメドレーで軽妙に演奏されました。

曲のつなぎの時間を利用して,池辺さんとこのオーケストラの部長さんによるトークが入りましたが,オーケストラにしても合唱にしても,「みんなでやる音楽」というのは,一度やるとずっと続けたくなるもののようです。池辺さん自身,高校生の頃,オーケストラ部を創設したそうですが,今ではこの部は,非常に大きな団体になっているそうです。辰巳丘高校の管弦学部の歴史も20年以上ということで,県内唯一の管弦学部として頑張って欲しいと思います。

後半は,OEKのステージとなりました。まずラ・フォル・ジュルネ金沢を意識するような形で,山田和樹さん指揮でモーツァルトの「フィガロの結婚」の序曲が演奏されました。やはり,前半のアマチュア・オーケストラの演奏と比べると,音楽全体に感じられる余裕のようなものが格段に違います。OEKは,音量的にも豊かでゆったりとした気分でモーツァルトの世界に浸ることができました。

続いて,バリトンの安藤常光さんによって,同じ「フィガロ」の中のアルマヴィーヴァ伯爵のアリアが歌われました。「フィガロ」については,2月前半に「落語版」で聞いたばかりですが,オーケストラの演奏会の中で歌が1曲でも入ると,演奏会全体が華やかな気分になります。安藤さんと池辺さんのトークの中で,「フィガロの結婚」全4幕の話は1日の中の出来事である,という話題が出てきました。フィガロの原作はボーマルシェによるフランス語の戯曲ですが,そのサブタイトルが「熱狂の日」です。まさに,「ラ・フォル・ジュルネ」の原点のような曲だと再認識しました。

その後,金沢出身で現在東京芸術大学に在学中の平野加奈さんのピアノとOEKによるモーツァルトのピアノ協奏曲第23番の第1楽章が演奏されました。この曲は,個人的に大好きな曲なので,久しぶりに実演で聞いて耳が洗われた気がしました(今度のラ・フォル・ジュルネ金沢2009でも演奏されないはずです)。平野さんによる衒いのない演奏には,水がすっと流れるような気持ち良さがありました。鮮やかな青のドレスも大変印象的でした。

ちなみにこの日の出演者の皆さんですが,鈴木さん,山田さん,池辺さん,安藤さん,大久保さん,平野さんとすべて東京芸術大学の関係者でした。こういうことも大変珍しいと思います。

プログラムの最後には,上田真樹さんという方の編曲による「クラシックのおもちゃ箱」というクラシック音楽の名曲をメドレーにした曲が演奏されました。池辺さんのトークに出てきたとおり,ホフナング音楽祭に出てきそうなウィットのある編曲でしたが,いきなり,ベートーヴェンの交響曲7番の第1楽章の「のだめカンタービレ」のテーマ曲になった部分が出てきた後,ラプソディ・イン・ブルー,ブラームスの交響曲第1番,プロコフィエフのロミオとジュリエットなども出てきましたので,実写版「のだめカンタービレ」のハイライト集といった気分もありました。この「オーケストラの日」全体のポスターが「のだめ」そのものですので,若い人たちに気軽にオーケストラ音楽を楽しんでもらおう,と思いを込めた編曲だったのではないかと思います。

聞いているうちに「聞き所ばかりでもったいない(?)」という気がしないでもありませんでしたが,ブラームスの交響曲第1番とベートーヴェンの第9が自然につながったり,思わず「巧い」と唸りたくなるようなメドレーでした。演奏前に池辺さんが「何曲出てきたか数えてみた」という話をされていましたので,私の方も分かる範囲でメモを取って聞いてみました。次の順に出てきたと思います。
  1. ベートーヴェン/交響曲第7番〜1楽章
  2. ベートーヴェン/交響曲第1番から
  3. ショスタコーヴィチ/交響曲第5番〜第4楽章
  4. サラサーテ/ツィゴイネル・ワイゼン
  5. ベートーヴェン/交響曲第5番〜第1楽章
  6. ガーシュイン/ラプソディ・イン・ブルー
  7. ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界から」〜第4楽章
  8. プロコフィエフ/バレエ音楽「ロメオとジュリエット」〜モンタギューとキャピュレット
  9. ロッシーニ/歌劇「ウィリアムテル」序曲
  10. ガーシュイン/ラプソディ・イン・ブルー
  11. ブラームス/交響曲第1番〜第1楽章
  12. ブラームス/交響曲第1番〜第4楽章
  13. ベートーヴェン/交響曲第9番〜第4楽章
  14. ブラームス/大学祝典序曲
  15. ブラームス/交響曲第1番+ガーシュイン/ラプソディ・イン・ブルー+ラヴェル/ボレロ
途中,ベートーヴェンの第9の部分では,指揮者の山田さんの合図で「晴れたる青空漂う雲よ...」と「歓喜の歌」を合唱するように事前リハーサルを行ったのですが,皆さん恥ずかしかったのか,本番の方は,ちょっと元気がなかったかもしれません(むしろ,ドイツ語の「フロイデ・シェーネル...」の方が歌いやすかった?)。ただし,こういう”聴衆参加型”の曲というのはとても楽しいですね。

その後,アンコールとして 池辺さんのアレンジによるビートルズの曲2曲と安藤さんが再度登場し,松井秀喜選手の公式応援歌「栄光の道」が演奏されました。この辺は,以前にも同種の演奏を聞いた記憶があるので,もう一ひねりほしかったところです。

新年度からは,個人的にはしばらく落ち着かない日々が続くのですが,音楽から元気を得て,何とか乗り切っていきたいと考えています。そして,OEKファンとしては,まずは,ラ・フォル・ジュルネ金沢2009の成功に向けて,応援をしていきたいと思います。 (2009/04/11)

関連写真集
公演のポスターです。