OEKfan > 演奏会レビュー
モーツァルト室内楽の旅 その2
2009/04/17 金沢蓄音器館
1)モーツァルト/弦楽四重奏曲第2番ニ長調,K.155(134a)(1772年)
2)モーツァルト/クラリネット五重奏曲断章変ロ長調 Anh.91(516c)(1789年)
3)モーツァルト/クラリネット五重奏曲イ長調 K.581(1789年)
4)(アンコール)モーツァルト/クラリネット五重奏曲イ長調 K.581(1789年)
●演奏
木藤みき(クラリネット*2-4),クワルテット・ローディ(大村俊介,大村一恵(ヴァイオリン),大隈容子(ヴィオラ),福野桂子(チェロ))
Review by 管理人hs  
開幕まで2週間ほどに迫ったラ・フォル・ジュルネ金沢のプレ・イベント....として企画されたわけではないのですが,金沢蓄音器館でクワルテット・ローディによるモーツァルトの室内楽の演奏会が行われました。クワルテット・ローディは,2006年から2008年にかけて,モーツァルトの全弦楽四重奏曲をこの会場で演奏しましたので,3年ほど前からすでに「熱狂」していたことになります。言ってみれば,「ラ・フォル・ジュルネ金沢よりもこっちが先」なのですが,この「全部やる」という発想には,ラ・フォル・ジュルネに通じるところもあり,先見の明があったといえます。

さてこのシリーズですが,既に弦楽四重奏は全部やってしまいましたので,新シリーズでは,クワルテット・ローディ+1人という形でモーツァルトの五重奏を順次取り上げています。前回は(これには参加していないのですが),弦楽五重奏が演奏され,今回はオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のクラリネット奏者の木藤みきさんをゲストに迎え,クラリネット五重奏がメインプログラムとして演奏されました。

前半まず,クワルテット・ローディの専門である,弦楽四重奏曲が1曲演奏されました。今回は第2番が演奏されました。弦楽四重奏曲については,「二巡目」ということになります。大村俊介さんは,「3年ぶりに弾いて新しい発見の連続だった」と語られていましたが,聞く方にとっても再発見シリーズということになります。曲については,実のところ前回聞いた記憶があまり残っていないのですが,可愛らしさと落ち着きが同居したようなまとまりの良い作品だと感じました。脱力感のある第2楽章,小走りするような最終楽章など各楽章のキャラクターがしっかりと立っている曲でした。

続いて,今回のゲストの木藤さんが登場したのですが,まずは,未完成の別のクラリネット五重奏曲の断章という珍しい曲が演奏されました。これもこの「こだわり」のシリーズならではです。

モーツァルトは,晩年,クラリネット奏者の友人のシュタドラーと組む形で,クラリネット五重奏曲とクラリネット協奏曲という「世界音楽遺産」と言っても良い不朽の名作2曲を残したのですが,その他にもクラリネット五重奏曲を数曲書こうとしていました。今回は,変ロ長調の書きかけの作品の断章が演奏されました。第1楽章の呈示部+数小節の楽譜が残されているということで,途中で「ブツッ」と切れてしまうのですが,名曲と同時代の作品ということもあり,明るいけれども,明るすぎない,風格の漂う作品でした。

これだけの至近距離で,文字通りの普通の室内で,クラリネットを聞く機会は滅多にないのですが,弦楽器のちょっとざわざわとした感触とクラリネットの滑らかな感触との対比と溶け合いを楽しむことができました。管楽器ということで,奏者の息遣いもしっかりと感じられるような演奏でした。

ちなみに前半に演奏された断章の方はB管(ベーカン)クラリネット用の曲ですが(変ロ長調ということになります),有名な五重奏曲の方はA管(アーカン)クラリネット用の曲です(こちらはイ長調)。ただし,作曲当時は,A管よりさらに低い音の出る楽器を想定していたようで,現在の楽器で演奏する際には,ちょっと楽譜の変更が必要とのことでした。こういった知識を得られるのもこのシリーズの特徴です。

モーツァルトの別のクラリネット五重奏曲が完成していたら...と想像するのもちょっと夢のある話です。その時は,クラリネット五重奏曲A,クラリネット五重奏曲Bと区別するのでしょうか。

さて,後半はおなじみのクラリネット五重奏曲Aが演奏されました。この曲はラ・フォル・ジュルネ金沢でも毎日のように演奏されるとのことです(調べてみると,5月2日赤坂達三さん,5月3日西田宏美さん,5月4日桐朋アカデミーとなっています。全曲でないかもしれませんが,これも「熱狂の日」ならではです)。木藤さん自身,この曲を演奏するのは,久しぶりとのことでしたが,饒舌過ぎずにストレートに曲の深さを伝えてくれる見事な演奏でした。

第1楽章から,速すぎず遅すぎずというテンポ設定で,特に木藤さんのクラリネットが大変くっきりとまろやかに聞こえてきました。近くで聞くと微妙にディミヌエンドするよう部分も,しっかりと実感できます。親密かつダイナミックな「室内で聞く室内楽」ならではの演奏でした。

第2楽章ももたれ過ぎるところがなく,率直でありながらじわじわと味が広がってくるような演奏でした。チェロの福野さんの深々とした音が曲をさらに深い雰囲気にしていたと思います。第3楽章は明るいメヌエットですが,そこはかとなく陰影があります。トリオが2つ入りますが,それぞれに別の表情を持っており,大変魅力的でした。悲しみがにじむようにどんどん深みを増していくような演奏でした。

第4楽章は変奏曲の形式で,最初は軽快にスキップするように始まります。それでもローディの演奏はしっかり地に足が着いた落ち着きがあります。途中短調になったり,無邪気に明るくなったり,いろいろと表情が変わるのですが,終盤近くでテンポを落とし,大きな息遣いでたっぷりと聞かせてくれる部分がこの曲全体のクライマックスだったと思います。絶妙の間とテンポの変化でした。楽章を追うごとに,味が濃く浸みてくるような聞き応えのある演奏でした。アンコールでは,第2楽章が再度演奏されましたが,5人の音のまとまりがさらによくなっていた気がしました。

金沢蓄音器館で管楽器の生の音を聞くのは初めてのことですが,この調子で,フルート四重奏曲,オーボエ四重奏曲,ホルン五重奏曲なども聞いてみたいところです(モーツァルトにファゴット五重奏曲がないのが残念です)。今後このシリーズでは,前シリーズで取り上げてきた若い頃の弦楽四重奏曲と新しく取り上げる曲とを組み合わせるということですが,新シリーズにも期待したいと思います。

PS.恒例のトークコーナーですが,今回は木藤さんの”自己紹介”がありました。OEKに入団前に青年海外協力隊としてペルーに行き,2年間,首都リマのオーケストラのクラリネット奏者として過ごしたことなど楽しい話題を聞くことができました。この蓄音器館でのシリーズですが,ゲストとしてOEK団員を次々招いてプロフィールを伺うというだけでも,面白いと思います。

PS.金沢蓄音器館では,ラ・フォル・ジュルネ金沢協賛企画として,以下のようにSPレコードでモーツァルトを聞く企画を行います。音楽堂からちょっと足をのばし蓄音器館まで行ってレトロな気分に浸るのも良さそうですね。

GW特別企画 ラ・フォル・ジュルネ金沢協賛
「SP盤で聴くモーツァルト名曲選」
連日 15:00〜17:00,料金:入館料のみ
  • 4月29日(水)交響曲第35番「ハフナー」 他
  • 5月2日(土)交響曲第40番 他
  • 5月3日(日)交響曲第41番「ジュピター」 他
お話:浅田和幸(金沢蓄音器館プロデューサー)

PS.クワルテット・ローディの大村夫妻ですが,6月19日(金)に,小林道夫さんをゲストに招き,金沢市アートホールでデュオ・コンサートを行います。詳細は演奏会情報のページに掲載したいと思います。 (2009/04/18)



この公演の前日,「金沢市民の台所」と呼ばれている近江町市場が新装開店しました。まさに”新装”という感じで,これまでの市場と新しさとがうまくマッチしていました。開演前に一巡りしてきいたので,写真でご紹介しましょう(私は自転車を使ったのですが,蓄音器館まで徒歩でも5分ほどだと思います。)

新装近江町市場写真集  →:近江町市場公式サイト
市姫神社側(金沢蓄音器館方面)からアクセスしました。右のビルが新装の近江町いちば館です。 近江町いちば館の正面には,4月16日グランドオープンの横断幕がありました。 近江町いちば館の全景とエムザ口です。
近江町いちば館の前は北陸鉄道バスの停留所になっています。 案内図です。上から見ると道が”女”という字になっているという説がありますが,いかがでしょうか →拡大図 お向かいの名鉄エムザ百貨店です。近江町市場との相乗効果で「食のムサシ」で売り出そうとしているようです。
エムザの隣の宝くじ売り場です。「よく当たる」という説ですが... 現在発売中の宝くじのデザインにラ・フォル・ジュルネ金沢が使われているということで3枚買ってみました。 エムザには,ラ・フォル・ジュルネ金沢の宣伝もしっかり出ていました。
いちば館の中です。建物の中から近江町市場本体を見下ろせるようになっていました。地下にも店がありました。 夕方なので既に店じまいしていますが,近江町市場です。この辺の”迷宮”的な複雑さが大型店にない魅力です。 いちば館の隣にある北国銀行です。レトロなデザインを残したまま,少し平行移動させたものです。
いちば館の入口付近にあったカフェです。石川県にあるカンパーニュというレストラン・グループの一つのようです。一度行ってみたいと思います。 昔からある「金澤青草辻近江町市場」の碑です。こういうのがあると観光客は写真を撮りたくなりますね。