もっとカンタービレ第14回オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ
2009年聴きたい作曲家はコレ!生誕・没後記念特集
2009/05/16 石川県立音楽堂交流ホール |
1)マルティヌー/ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲第2番
2)ショパン/ピアノ三重奏曲ト短調op.8
3)メンデルスゾーン/弦楽五重奏曲第1番イ長調op.18
●演奏
坂本久仁雄*1,3,山野祐子*2,原三千代(ヴァイオリン),古宮山由里*1,3,長岡晶子*3(ヴィオラ),福野桂子*2,ルドヴィート・カンタ*3(チェロ)
鶴見彩(ピアノ*2)
2009年度最初の「もっとカンタービレ:オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)室内楽シリーズ」は,「2009年聴きたい作曲家はコレ!生誕・没後記念特集」と題して,マルティヌー,ショパン,メンデルスゾーンの弦楽器を中心とした室内楽曲3曲が取り上げられました。ヴァイオリンの坂本さんがおっしゃられていたとおり「図らずも,非常にマニアックなプログラムになってしまいました。(それにも関わらず)ようこそお越しくださいました」という感じでしたが,個人的には,OEK団員のトークや解説を交えて,「宝探し」をするような気分で聞いていますので,「願ったり適ったり」というところです。
ただし,今回のプログラム・リーフレットですが「生誕・没後記念特集」という割に,どこにも作曲者の生没年が書いてありませんでした。参考までに次のとおりです。
- マルティヌー 1890〜1959 没後50年
- ショパン 1810〜1849年 没後160年
- メンデルスゾーン 1809〜1847 生誕200年
ショパンの「没後160年」というのは,”記念”なのか微妙なところです。来年の生誕200年の方は文句のないところでしょう(それで,来年のラ・フォル・ジュルネのテーマということになります)。
最初に演奏されたマルティヌーの作品は,ヴィオラの古宮山さんの発案による選曲です。演奏前のトークによると,「第1番「3つのマドリガル」の方はまだ演奏されることはあるが,第2番は楽譜を探すのさえ難しかった」とのことです。楽曲の著作権については,作曲者の没後50年で消えるはずですので,マルティヌーの作品については,今後演奏される機会が増えるのではないかと思います。ただし,古宮山さんは,この曲の楽譜を,1年前にかなり高額で購入されたとのことです。この辺の曲に対する情熱が「芸術家魂」を感じさせてくれます。
この曲を聞くのはもちろん初めてのことですが(この曲に限らず,マルティヌーの曲を聞く機会自体少ないのですが),ちょっと不思議な雰囲気のある曲でした。曲の冒頭から,バロック音楽を思わせるような速い音の動きと民族的な雰囲気とが混ざっており,シリアスさとユーモアとが渾然一体になっている感じでした。少し不気味な気分のある対話といった感じの第2楽章,輝かしさとエネルギーのある第3楽章と地味ながら不思議な魅力を持った作品でした。
2曲目のショパンのピアノ三重奏曲は,ヴァイオリンの山野さんの発案によるものです。弦楽器奏者がショパンの曲を提案するというのも面白いのですが,ショパンの室内楽作品というのは,この曲とチェロ・ソナタぐらいだと思います。山野さんは,「ピアノが主役でヴァイオリンはおまけです」と語っていましたが,聞いていてそんなことはないと思いました。第1楽章から豪華さと甘さとコクを感じましたが,これはやはりピアノ独奏だけでは出せないものです。
もちろん,演奏の核となる鶴見彩さんのピアノの音も見事でした。クリスタルを思わせる磨かれたタッチには常に安定感があり,安心して音楽に身を任せることができました。第2楽章は,もう少しシンプルな楽章で,ちょっと切ない感じになるのがショパン的でした。
第3楽章は,ピアノ・ソナタ第3番の緩徐楽章辺りを思わせるような感じで,3人の濃厚なアンサンブルを楽しむことができました。山野さんのヴァイオリンにはテノールの声を思わせるようなところがあり,十分な存在感がありました。
最終楽章が民族舞曲風になるのはピアノ協奏曲にも共通します。暗さの中にちょっとのんびりとした哀愁が漂うのも,「やっぱりショパン」という感じです。それぞれの楽器の見せ場があり,最後は情熱的に締めてくれました。
この曲の演奏は,OEKの山野さんと金沢出身の鶴見さん,福野さんの組み合わせでしたが,お二方ともOEKファミリーといった感じで,金沢で行われる室内楽公演では無くてはならない存在になりつつあります。OEKが行っている新人登竜門コンサートの成果が,室内楽公演としてしっかりと定着しているのは嬉しい限りです。
後半のメンデルスゾーンの弦楽五重奏曲第1番は,ヴァイオリンの坂本さんの発案のようです。今回取り上げられた3人の作曲家の中では,やはり「メンデルスゾーン生誕200年」というのがいちばん重要ですね。今年はOEKの定期公演でも何曲か演奏されるようですが,彼の室内楽作品も隠れた名曲揃いです。
この曲は,有名な八重奏曲と作品番号的には近く,メンデルスゾーンが10代の頃に作曲されたものですが,最終稿が完成したのはかなり後のようです。弦楽四重奏にヴィオラをもう一つ加えた編成ということで,通常の弦楽四重奏よりもぐっと厚みがありました。楽器の配置は,次のような感じで,坂本さんがリードし,カンタさんが中央から睨み(?)を効かせるといった感じでした。
Vc
Va2 Va1
Vn1 Vn2
なお,この演奏での第1ヴィオラですが,長岡晶子さんという方が担当していました(調べてみると読売日本交響楽団の方でした)。
第1楽章から,ゆったりしたリラックスした気分がありました。内声部の刻みを聞くだけで嬉しくなったのですが...私も段々と室内楽の魅力にとりつかれて来ているのかもしれません。第2楽章もまた,歌と厚みがあり,のんびりとした広がりを感じました。
第3楽章は,フーガとスケルツォが合わさったような独特の雰囲気の楽章で,メンデルスゾーンらしさのある楽章です。このフーガの部分ですが,見ているだけでも面白いですね。音が飛び交うのが視覚的にも実感できます。演奏全体のノリも良く,大変密度の高い演奏でした。第4楽章はヴィヴァーチェということで,非常に勢いがありました。八重奏曲を思わせる流れの良さがある一方でがっちりとしたまとまりの良さも実感しました。
今回の3曲は,マイナーな曲揃いでしたが,しっかりと曲楽しむことができました。ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)で実証されたとおり,知名度の高い曲でなくても,プロが演奏する間近で聞く生演奏は十分楽しめることということ再認識しました。さすがに満席ではありませんでしたが,ゆったりと落ち着いた雰囲気でお客さんが入っていたのも悪くないと思いました。
この「もっとカンタービレ」シリーズには,7回7000円という回数券があり,これを使えば,LFJKよりもお得な金額になります。2009年もますます多彩なプログラムを楽しませてくれそうです。
(2009/05/19)
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もっとカンタービレ第19回(来年の3月27日)は,リクエスト特集になるそうです。それに向けて,リクエスト募集中とのことです。次の項目を含めて,ご応募ください。
@作曲者名・曲目
A演奏時間
B編成
C会員番号・氏名
D連絡先
※ABあたりは,分かる範囲で結構です。
■応募先
@音楽堂チケットボックス
AFAX:076-232-8101
Be-mail: Cantabile@oek.jp
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