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ジョイントコンサート:朝日親子サマースペシャル
2009/08/16 石川県立音楽堂コンサートホール
1)アンゲラー(伝モーツァルト,L.)/おもちゃの交響曲
2)ドビュッシー(カプレ編曲)/子供の領分
3)鈴木輝昭(山川啓介作詞)/モーツァルトの百面相
4)ショパン/小犬のワルツ
5)ガーシュイン/ラプソディ・イン・ブルー
6)宮川彬良(ヒビキトシヤ作詞)/音のつばさ
7)宮川彬良(ヒビキトシヤ作詞)/サヨナラの星
8)宮川彬良(須川美稀作詞,ヒビキトシヤ補作詞)/松井秀喜選手応援歌「栄光の道」
9)(アンコール)宮川彬良(ヒビキトシヤ作詞)/サヨナラの星
●演奏
鈴木織衛指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(1-3,5-9);石川県ジュニア・オーケストラ(5-9),徳永雄紀(ピアノ)*4-5
司会:橋本和芳(北陸朝日放送アナウンサー)
Review by 管理人hs  

夏休み真っ盛り!...というよりは,今年の場合「やっと夏」という感じです。真夏らしい天候の中,恒例のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の「ジョイント・コンサート:朝日親子サマースペシャル」に出かけてきました。この演奏会では,毎年,OEKとOEKエンジェルコーラス,石川県ジュニアオーケストラが共演し,子供連れの家族をターゲットにした曲が演奏されます。お客さんも出演者も”子供が主役”ということで,指揮者の鈴木織衛さんのトークでも触れられたとおり,今回は,「子供のパワー」をテーマとしたプログラムが組まれました。

前半は,作曲家が子供のために作った曲ということで,まず,「おもちゃの交響曲」が演奏されました。この曲の作曲者は,モーツァルトの父親のレオポルド・モーツァルト作曲と言われてきましたが(今回のプログラムでもそうなっています),近年の研究の結果,エトムント・アンゲラーという人の作曲ということが判明しています。

聞く方としては,レオポルド・モーツァルトがアマデウス・モーツァルトのために書いた曲というストーリーを作りたくなりますが,そううまくは行かないようです。ただし,子どもを意識した曲であることは確実でしょう。

この曲は,今年のラ・フォル・ジュルネ金沢でも演奏されましたが,「普通の演奏会」で全曲が演奏される機会は意外に少なく,私自身,OEKのフル編成で全曲を聞くのは,今回が初めてのような気がします。ただし,フル編成といっても「おもちゃパート」以外は,弦楽器のみです。しかも,何故かヴィオラ・パートが抜けています。

当然,主役はおもちゃということで,指揮者と並んで,5人の「おもちゃ奏者」の皆さんが,ソリスト扱いでステージ前方に登場しました。皆さん,何となく照れくさそうでしたが,打楽器奏者の3人に加え,出番のないヴィオラ奏者の2人が加わっていたのが,さらに微笑ましさを増していました。

演奏は,ゆったりとした気分のある,のどかなもので,曲の気分にぴったりでした。使われていたおもちゃは,小型の太鼓とラッパ(1人で同時に演奏),トライアングル,ガラガラ,水笛,カッコウなどの鳥の笛...といったもので,第2楽章などでは,わざと間延びした感じを出していました。第3楽章は,同じフレーズを繰り返しながら,次第にテンポアップしていきますが,最後の繰り返しの直前に大きな間を入れるなど,ユーモアたっぷりの演奏となっていました。

続く,「子供の領分」は,昨年の春に行われた,井上道義さん指揮によるイースター・チャリティー・キッズ&ファミリー・コンサートで演奏されたことがあります。この曲は,もともとはピアノ独奏曲ですが,今回は,前回同様,カプレ編曲による管弦楽版で演奏されていました。ほぼOEKの編成で演奏できる編成ということで,ファミリー向け公演の定番曲となって来ているようです。

この曲は,6曲から成る組曲ですが,今回は,各曲の前に,鈴木さんの「ひとこと解説」を加えて演奏されました。長い説明でなく,端的な説明だったので,曲全体の流れが悪くなることなく,言葉を音楽で膨らませるといった趣きがありました。

組曲の前半は,穏やかなテンポの曲が多く,演奏の方も,音の色彩感が淡く穏やかに変化するような感じでした。ピアノ独奏でおなじみの曲集ですが,オーケストラで演奏すると,「やっぱりドビュッシーだ」というイメージどおり世界になるのが面白いところです。OEKのソリストたちの演奏もとてもスマートで,心地よいファンタジーの世界を作っていました。

最後の「ゴリウォークのケークウォーク」は,最初の部分の弦楽器のユニゾンの響きが鮮烈でした。打楽器の音も十分に柔らかいけれども生々しさがあり,トリに相応しい華やかさがありました。

その後,OEKエンジェル・コーラスとOEKのステージになりました。今回演奏されたのは,エンジェル・コーラスの十八番と言っても良い「モーツァルトの百面相」でした。この曲は,今年のラ・フォル・ジュルネ金沢をはじめ,過去,何回か演奏していますが,OEKのフル編成の伴奏で歌うのは,2回目ぐらいではないかと思います。

「フィガロの結婚」の序曲で始まった後,モーツァルトのいろいろな曲の断片が次々とメドレーで出てくるのですが,その上にモーツァルトの生涯を歌った歌詞がかなり早口で続きます。以前,斉藤晴彦さんがクラシックの曲に早口の歌詞を付けて歌うパフォーマンスがよくやっていましたが,それにちょっと似た感じのところがあります。その他にも,手拍子が入ったり,足踏みが入ったり,ザワザワとした雑踏の雰囲気を出したり,歌以外のパフォーマンスも入る曲です。歌詞を覚えるだけでも大変だと思いますが(歌劇「魔笛」の「夜の女王のアリア」まで入っています),その難しい曲をエンジェル・コーラスはしっかりと聞かせてくれました。

ただし,オーケストラと声が重なると歌詞が聞き取れない部分がありました。以前,交流ホール(ピアノ伴奏で?)でこの曲の演奏を聞いた時はよく聞き取れたので,コンサート・ホールだと少々広すぎるのかな,という気もしました。

また,今回は,指揮者の鈴木織衛さんがピアノも兼ねており,弾き振りになっていました。途中,短調のメロディがピアノ独奏で出てくる辺りがとても印象的でしたが,指揮者がアマデウスの扮装で引き振りをしても面白い曲かもしれません(青島広志先生ならばやりそう?)。

余談ですが,モーツァルト・メドレーといえば,ラ・フォル・ジュルネ金沢の時の「モーツァルト・ファンファーレ」を思い出します。こういう曲については,「編曲」というよりは,モーツァルトを素材とした「作曲」と呼ぶ方が正しいのではないか,といつも思っています。プログラムには,「モーツァルト作曲,鈴木輝昭編曲」となっていましたが,とてもよく出来た「編曲」だったと思います。

後半の最初は,今年のジョイント・コンサートのハイライトと言っても良い,高校1年生ピアニストの徳永雄紀君が登場しました。プログラムに書かれているラプソディ・イン・ブルーに先立って,まず,ショパンの小犬のワルツが演奏されましたが,この演奏を含め,余裕たっぷりの演奏で,「らしからぬ大人」の演奏を聞かせてくれました。徳永さんの演奏を聞くのは,2008年の北陸新人登竜門コンサートでのショパンのピアノ協奏曲第1番以来のことですが,その時同様,曲が完全に手の内に入っているのがすごいところです。一気呵成に演奏するのではなく,かなり大きくテンポに変化をつけながら,非常に聞き応えのある音楽を作っていたのには感心しました。演奏前は,「ラプソディの前になぜ独奏曲?」と思っていたのですが,演奏を聞き終わった後は,アンコール曲を先取りしたような,”お得感”を感じました。

ラプソディ・イン・ブルーは,OEKと石川県ジュニア・オーケストラとの合同オーケストラとの共演になりました。この曲の管弦楽の部分については,「ビッグバンド風」と呼ばれることもありますが,それどころではなく,合計で100名ほど!の超々ビッグバンドとなっていました(サクソフォンも加わっていました)。

この曲での徳永君の演奏も大変安定したものでした。「ジャズ風」の柔軟な音の動きが堂に入っており,すべてがしっかりとコントロールされていました。演奏全体としては,細部の詰めがちょっと甘い部分があった気もしましたが,危うさを感じさせる部分は皆無で,,徳永君のやりたい音楽が音として聞こえて来ました。何よりも,ピアノの音自体に意味がこもっているように聞こえるのが見事でした。

もちろん,過去OEKとラプソディを共演してきた,山下洋輔さんや小曽根真さんのようなアドリブはほとんどなかったのですが,テンポの揺れが非常に自然で,「正統派のすがすがしいラプソディ」を楽しませてもらいました。これを受ける合同オーケストラの演奏も立派なものでした。特に,ステージ後方にずらりと並んだトランペットの爽快の響きが最高でした。もう少しデリカシーが欲しい部分もありましたが,「真夏に聞く若々しいガーシュイン」というコンセプトがしっかりと伝わって来る,とても魅力的な演奏でした。

なお,冒頭のクラリネットを担当した木藤さんをはじめ,「ここは外せない」といった箇所では,OEKメンバーが演奏&サポートしており,演奏全体としても粗の少ない演奏だったと思います。ピアニストもオーケストラも10代中心ということで,うまく行くのだろうか?と思ったりもしたのですが,予想以上に「子供たちのパワー」は凄いと実感しました。

最後のコーナーでは,宮川彬良さんがオーケストラと児童合唱のために書いた組曲の中から2曲が歌われました。以前,宮川さんが登場した,ファンタジー定期公演で演奏されたものと重なっていますが(このときは,エンジェル・コーラスを含めた合同の合唱団で歌われました),どちらもとても良い曲です。素直で明るい曲想は演奏する方も気持ちよいと思うのですが,その中にペーソスが漂うのが魅力です。そのペーソスは,児童合唱で素直に歌われるからこそ,感じられるものだと思います。

詞は,お馴染みのヒビキトシヤさん(カタカナ表記にすると,一気に作詞家っぽくなりますね)によるものでした。詳細は覚えていないのですが,特に最後に歌われた「サヨナラの星」には,明るく澄んだ静けさのような気分が漂い,宮川さんの音楽とぴったりでした。この曲集については,エンジェル・コーラスの”基本レパートリー”としてこれからも歌い続けていって欲しいと思います。

最後は,おなじみゴジラ松井の応援歌で締められました。松井選手については,ここ数年,ケガのせいもあり,十分に力を発揮しているとは言えないのですが,時には,この曲をヤンキー・スタジアムで盛大に鳴らし,気分転換を図ってもらいたいところです。

アンコールでは,「サヨナラの星」が,聴衆参加で歌われました。鈴木さんは「さよならは1人で言うものではない」とおっしゃられていましたが,この曲自体,その発想を生かして書かれています。合唱団を2つに分け,一方が「さよなら」というと,もう一方が「さよなら」と答える形になっています。アンコールでは,その「もう一方」の方をお客さんが歌いました。単純に同じフレーズを繰り返すだけではなく,ちょっとニュアンスを変えて答えるあたり,なかなか歌っていて楽しい曲だと思いました。

この公演は,毎年行われていますが,改めて考えると,エンジェルコーラスの皆さんもジュニア・オーケストラの皆さんも大変恵まれていると思います。練習は大変かもしれませんが,若い時期に,毎年プロ・オーケストラと共演できるというのは素晴らしいことです。私自身,「仮に,自分が子供の時,OEKと共演していたらどうだっただろう?」などと思いながら聞いていました。

PS.今年の司会も,昨年と同じ北陸朝日放送の若いアナウンサーが担当していました。ちょっと元気が良すぎるかな,という感じの若々しさたっぷりの進行でした。

PS.今回のOEKのコンサート・ミストレスはゲストの方だったようです。ただし,OEKのメンバー表が付いていなかったので,お名前は分かりませんでした。(2009/08/18)

関連写真集


今回のポスターです。





この公演の直後,交流ホールでは,金澤攝さんの演奏会も行っていたようです。