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兼六園周辺文化の森:ミュージアムコンサート
2009/10/03 石川県立美術館ホール
シューベルト/即興曲変ト長調op.90-3
ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調op.57「熱情」
ショパン/アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ変ホ長調,op.22
(アンコール)ショパン/夜想曲第20番嬰ハ短調遺作
(アンコール)ショパン/幻想即興曲嬰ハ短調op.66
●演奏
鶴見彩(ピアノ)
Review by 管理人hs  

毎年10月第1週は,「兼六園周辺文化の森ミュージアム・ウィーク」ということで,金沢市内の博物館・美術館等でいろいろなイベントが集中的に行われています。その一環として,地元のアーティストによるミュージアム・コンサートが石川県立美術館で行われましたので出かけてきました。このコンサートは,10月3日から10月8日にかけて,連日,1時間以内のコンサートが行われるものです。初日の今回は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)との共演でもお馴染みのピアニストの鶴見彩さんによるピアノ・リサイタルが行われました。

この日は,暑くもなく,寒くもなく,風もなく,湿気もなくという,この秋いちばんと言っても良い気持ちの良い気候でした。石川県立美術館近辺から兼六園にかけての木々の緑も大変美しく,ピアノ演奏の素晴らしさと併せて,まさに「文化の森」の気分を堪能できました。

演奏会は,「休憩なし,1時間以内」ということで通常のリサイタルの半分ほどの長さ(つまり,「ラ・フォル・ジュルネ」サイズ)でした。プログラムは,シューベルト,ベートーヴェン,ショパンということで,オーソドックスで安心して楽しむことのできる内容でした。

最初に演奏されたシューベルトの即興曲op.90-3は,メンデルスゾーンの無言歌を思わせるような豊かな歌に満ちた曲で,個人的に大好きな作品です。県立美術館のホールは,残響は少ないのですが,それほどデッドな感じはせず,コンパクトなこともあり,音がクリアに伝わって来ます。この曲の演奏でも,最初の一音を聞いた瞬間から,鶴見さんのピアノの音の豊かさを堪能できました。たっぷりとしていながら芯のある響きに間近で接することができました。細かい装飾的な音が,ずっと気持ちよく続く上に,滑らかな歌がしっかりと歌われる曲ですが,音楽の流れに全然ムラがなく,しっかりと磨き抜かれた,高級感が漂っていました。聞いていて幸せな気分になる演奏でした。

次のベーーヴェンの「熱情」ソナタは,このリサイタルの核ということになります。実演で聞くのは,久しぶりのことですが,やっぱり見事な作品だと,改めて作品の素晴らしさを実感しました。鶴見さんの演奏は,大変オーソドックスで,曲を歪めることなく,ダイレクトに曲の立派さを伝えてくれました。

第1楽章は,ソナタ形式で書かれていますが,呈示部→展開部→再現部→コーダと4段重ねで迫力がヒタヒタと増してくるような,聞き応えがありました。「熱情」といっても我を忘れて荒れ狂うわけではなく,古典派のソナタとしての堅固さを感じさせてくれながら,奥に潜むロマンをしっかり伝えてくれました。第2主題の一瞬ホッとさせてくれるような表情との対比や,終盤部で印象的に出てくる「タタタ・タン」という運命のモチーフ的な音型のキレの良い強打であるとか,私が聞き所だと思っているツボをしっかり聞かせてくれるような演奏で大満足でした。

第2楽章は変奏曲のような形で,少しリラックスした感じになります。音が次第に装飾的になってくる辺りが大変鮮やかでした。第3楽章は,一気にアレグロで駆け抜けるのですが,このホールだと,一音一音が大変クリアに聞こえて来るので,非常に迫力がありスリリングでした(演奏者にとってはごまかしが聞かないので,ちょっと怖いホールだと思います。)。短調の曲なので,基本的には暗い表情が続くのですが,鶴見さんの演奏は,大変鮮やかだったので,華麗さも感じさせてくれました。コーダの部分では,アクセルを踏み込むようにテンポが上がりますが,実演ならではの迫力を実感できる部分です。奏者の気合が伝わって来る,見事な熱演でした。

演奏会の後半は,ショパンが演奏されました。演奏された「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は,オーケストラ伴奏版もあるので,来年のラ・フォル・ジュルネ金沢では,必ず弾かれる曲だと思います。前半の「アンダンテ・スピアナート」の部分は,前の曲の熱気を沈めるようなリラックスした自在さがありました。硬質な音がキラキラときらめくのが印象的でした。後半は,力強さを増し,さらに華やかになります。これでもか,これでもかとブリリアントなフレーズが続き,ちょっとしつこ過ぎるかなというところもある曲ですが,鶴見さんの演奏だと実に爽快に聞こえました。

以上で予定のプログラムは終わったのですが,拍手に応え,アンコールとして,ショパンの曲が2曲演奏されました。最初に演奏された,遺作のノクターンは,映画「戦場のピアニスト」で使われて以来,大変よく聞かれるようになりました。恐らく,近年のピアノ・リサイタルのアンコール曲として,いちばんよく演奏されている人気曲だと思います。鶴見さんの演奏は,暗くなりすぎることなく,さらりと気持ちよく聞かせてくれました。

もう1曲は,こちらは女子フィギュアスケートの曲としてよく聞かれる,幻想即興曲でした。誰もが知っているお馴染みの作品ですが,玉を転がすような粒立ちの良い音が見事でした。中間部のしっとりとした歌との対比もバランスが良く,自然に迫力が伝わって来るような余裕を感じさせてくれました。

数日前に,金沢出身のオルガン奏者の春日朋子さんの演奏を聞いたばかりですが,今回のミュージアム・コンサート・シリーズでは,金沢市を中心に活躍されているクラシック音楽奏者の演奏をじっくり楽しめそうです。近年,金沢市では,OEKの公演を中心として,クラシック音楽をいろいろな場所・いろいろな形で楽しむことができるようになってきていますが,段々とお馴染みの奏者が増え,層が厚くなってきているのが頼もしい限りです。

(参考)
この日は,上述のとおり,絶好の行楽日和でした。金沢21世紀美術館〜石川県立県立美術館周辺を歩きまわってみました。写真で紹介しましょう。
まずは,金沢21世紀美術館。現在,「未完の横尾忠則展」とコレクション展をやっています。 人気スポットの「レアンドロのプール」の中から外を見上げてみました。1 こちらはプールの外側です。
これもアートです。美術館内を巡ることができます。 21世紀美術館を出て,広坂の交差点に出ました。正面の森が兼六園です。この坂を上ると... 石川県立美術館です。こちらは普通の(?)美術館です。
入口付近は昨年リニューアルしました。 辻口カフェ(ル・ミュゼ・ドゥ・アッシュKANAZAWA)は,相変わらず賑わっていました。 辻口カフェを外から見たところです。
美術館の裏は本多の森と呼ばれて,を散策できるようになっています。 市街地の中心部とは思えないような急流があります。「美術の小径」と呼ばれています。 美術館の裏を流れる,辰巳用水の分流です。
県立美術館の隣の藩老本多蔵品館です。直江家と本多家は,ゆかりがあるので「天地人」のノボリが出ていました。 その隣の,石川県立博物館では,本願寺展を行っていました。 歴史博物館の外観です。手前の公園には生け花(?)が飾ってありました。
道路を渡り,金沢神社に向かいました。 神社の前では,古書の供養のようなことをやっていました。 合格祈願の絵馬も既に沢山掛かっていました。
金沢の地名の由来になっている「金城霊沢」です。
再度,石川県立美術館に寄り,辻口カフェで,お菓子を買ってきました。上の写真は最近発売された創作菓子「YUKIZURI(雪づり)」です。 県立美術館の隣にある,別館です。元々は,陸軍第9師団の師団長官舎だった建物で,なかなか良い雰囲気を持っています。
別館の入口です。 成巽閣の入口です。恩田陸さんの「ユージニア」の中に群青の間 ミュージアム・ウィークにあわせてスタンプ・ラリーを行っていました。とりあえず,県立美術館で「兼」の字のスタンプを押してきました。
辻口カフェで買ってきたお菓子です。この紙袋は,しっかりしているので,なかなか便利な”ブランドバッグ”になります。 少々お高いお菓子ですが,やはり濃厚な味でした。ロゴの描かれた紙は,本の栞にも使えます。 この日の空です。大変高い空です。大変秋らしい雲が出ていました。
(2009/10/04)

関連写真集


石川県立美術館の玄関


ミュージアム・ウィークのポスターです。


ミュージアム・コンサートの会場入口


左下からミュージアム・ウィークのちらし,本日のプログラム・解説,ミュージアム・ウィークのチラシです。