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金沢アジア祭2009
2009/10/11〜12 石川県立音楽堂
Review by 管理人hs  

10月11日と12日は,石川県立音楽堂を中心に「金沢アジア祭」と題したイベントが行われました。このイベントは,アジア各地の芸能・音楽が盛り込まれた公演が,ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)のような形で連続的に行われるもので,開催されるのは,昨年に続いて2回目です。公演数は,LFJKほど多くはありませんが,各公演の時間はほぼ1時間以内で,コンサートホール,交流ホール,邦楽ホール(+JR金沢駅コンコース)をハシゴするスタイルは共通しています(LFJKの1年目時同様のマルチパスもありました。)。私は楽友会と定期会員の特典を含め,コンサートホール,邦楽ホール,交流ホールで行われた公演を各1回ずつ聞いてきました。

このイベントは,「アジア音楽祭」ではなく「アジア祭」となっているのがポイントです。音楽を聞くだけではなく,関連イベントも充実していました。特に音楽堂前に並んだ「アジア屋台横丁」には,各国の料理が出店しており,いろいろな味覚を楽しむことができました。その雰囲気も含め,イベントの概要を紹介しましょう。


C1 オアシスの民 ウィグル族の音楽
2009/10/11 10:00〜 石川県立音楽堂交流ホール
1)チャビヤット・ムカムから(ラワプとダップの二重奏)
2)ヤル(恋人)
3)バッハロクシャルク(春の喜び)
4)グルメレム
5)(アンコール)アトシュ
*各曲名の表記は間違っているかもしれません。
●演奏
アブドセミ・アブドラフマン(ラワプ*1-2,4-5)
鷲尾惟子(ピアノ*3-5,ダップ*1)

恥ずかしながら,そもそもウィグルというのが国の名前なのか?地域の名前なのか?どこにあるのか?といった確かな知識も持っていなかったのですが,新疆ウィグル自治区という中国の中の一つの地域です。中国の西端にあり,日本の4.5倍もの面積があるとのことです。

今回は,その民族楽器,ラワブを中心とした演奏を楽しむことができました。ラワプというのは,三味線のような形の楽器で,弦を弾いて音を出します。楽器の構え方は,田端義夫(...古い)が,ギターを持つような感じで,かなり高い位置で楽器を支えます。

今回登場した,アブドセミ・アブドラフマンさんは,ウィグルの芸術大学でラワプを学んだ後,現在は,東京芸術大学に所属して,国内外で活躍されている方です。この日は,ピアノ伴奏の鷲尾惟子さんともども,とても鮮やかな色合いの民族衣装を着て演奏されましたが,そのとおり,とても明るい雰囲気がある演奏でした。

最初に演奏されたチャビヤット・ムカムという曲は,もともと非常に長い曲ということで(全部演奏すると24時間かかるとおっしゃっていました),抜粋して演奏されました。ダップという打楽器と一緒に演奏されましたが,土着のお祭りなどと密接につながりのある曲なのかもしれません。

その他の曲は,ウィグルの中でも西部のカシュガル方面の曲ということで,オリエンタル(ヨーロッパから見れば東ですが)な気分がありました。途中,ピアノ独奏用に編曲した版で1曲演奏されましたが,バルトークのルーマニア民俗舞曲を聞くようなリズムの変化の面白さがありました。ラワプの音は,三味線よりは,音がよく響く感じでしたが,熱狂的な速弾きのテクニックを見せつけるように演奏するあたりは,共通する雰囲気があると思いました。和音を演奏するよりは,トレモロのような弾き方を多用する辺りもロマの音楽と共通する野性味を感じました。

ちなみにウィグルの音楽についてですが,ピアノの鷲尾さんが作っている次のサイトが参考になります。
http://yui-wsh.kir.jp/

この公演については,「金沢大学連携融合事業日中無形文化遺産」協力ということです。来年以降もまた,ウィグルの音楽を楽しむ機会はあるのではないかと思います。



B1 親子のためのコンサート:スーホーの白い馬
2009/10/11 11:30〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
1)草原の帷
2)昇る太陽
3)ノーンジャ
4)スーホーの白い馬
5)草原の伝説
6)万馬
7)(アンコール)しあわせになる(?)
●演奏
セーンジャー(馬頭琴),進藤亜子(ピアノ),武藤智史(パーカッション),三嶋身耶子(朗読),三嶋幸彦(スライド上映)

続いて,LFJKの時同様,邦楽ホールに移動し,セーンジャーさんの馬頭琴を中心としたモンゴル音楽の公演を聞いてきました。モンゴルといえば,朝青龍,白鵬...など大相撲を思い浮かべる人が多いと思いますが,子供たちの多くは,「スーホーの白い馬」を連想するのではないかと思います。私の子供時代には,入っていませんでしたが,近年の小学校の国語の教科書には,このお話がずっと採用されているとのことです(我が家の子供もこのお話をよく知っていました)。「スーホーの白い馬」というお話自体,馬頭琴という楽器の由来を紹介する話ですので,本物の馬頭琴の音を聞きながら,物語を楽しむという企画は,教育的に見ても大変有意義だったと思います(国語と音楽と社会の総合学習ですね)。

今回の主役の馬頭琴奏者のセンジャーさんですが,ちょっと韓流スターを思わせるような優しく穏やかな雰囲気を持った方でした。馬頭琴は,チェロと二胡の中間のような楽器で,非常に滑らで伸びやかな音を持っています。センジャーさんは,馬頭琴について「モンゴルの大草原をイメージさせる音です」と語っていましたが,確かにそのとおりでした。今回は,演奏に併せて,ステージの背景にモンゴルの風景を投影していましたが,頭を空っぽにして,リラックスするには,最高のシチュエーションでした。

ちなみに,演奏前に投影されていた,モンゴルの風景ですが,WindowsXPのデフォルトで設定されている,お馴染みの草原の壁紙と大変良く似ていました。一瞬,Windowsの画面がそのまま表示されているのでは?と錯覚してしまいました。

その後,ピアノの進藤さんとパーカッションの武藤さんが演奏に加わりましたが,この組み合わせが作り出す音の世界も大変楽しめました。特にパーカッションの音が印象的でした。武藤さんは,手で叩く太鼓やシェーカーなどを使い分けていましたが,特に太鼓の低音がしっかりと効いており,ピアノの音ともども,馬頭琴の作る滑らかな音楽にメリハリを付けていました。

「スーホの白い馬」では,三嶋身耶子さんによるいかにも民話らしい,温かみのある絵本の朗読とセーンジャーさんによる馬頭琴の演奏とが,しっかりと組み合わり,素朴でドラマティックなストーリーを堪能させてくれました。羊飼いの少年スーホーと彼が可愛がっていた白馬(なぜか名前はなかったようです)との心温まる結び付きと,その数奇な運命を描いた話でしたが,正真正銘の馬頭琴の音が加わることで,話がさらに生き生きとしたリアルなものになっていました(右の写真は,会場で販売していた「スーホーの白い馬」の絵本です。三嶋さんもこの絵本をそのまま読んでいたようです。また,スライドとしてそのままステージ奥に投影されていました。)。

白馬は弓矢を体中に受け,スーホーの前で息を引き取るという悲しい結果になるのですが,最後に,スーホーの夢の中で「自分の骨や皮などを使って楽器を作って欲しい」という白馬の遺言(?)が伝えられ,馬頭琴という楽器として永遠の命を得ることになります。「スーホーの白い馬」という話も馬頭琴という楽器も,名前だけは聞いたことがあったのですが,こんなにも悲しく美しい由来があったとは,知りませんでした。モンゴルについての教養が一つ身に着いた感じです。

その後,再度,トリオで数曲演奏されましたが,どこか坂本龍一さんの曲あたりと共通する気分があるような気がしました(映画「ラスト・エンペラー」の音楽で使っていた,ニ胡の印象のせいい?)。

この馬頭琴という楽器ですが,馬のいななきのような音を出したり,馬が一斉に疾走するギャロップの雰囲気を表現したり,文字通り,馬を表現するのが得意なようです。最後に演奏された「万馬」という曲などもその名のとおりの曲でした。

セーンジャーさんは,モンゴルの方ですが,朝青龍や白鵬同様,日本語も大変お上手でした。モンゴルの民族衣装を着て演奏されていましたが,「金沢で是非演奏したかった。それで,今回は「金」の衣装を着てきた」といったトークの内容もとても爽やかでした。演奏し終わった後,軽く跳ねるように弦を持ち上げる仕草も印象的でした。

セーンジャーさんの言葉と関連するのかもしれませんが,日本海の真ん中に突き出している能登半島は,大変目立つと思います。立地的な意味でも,金沢でアジア音楽の音楽祭を行うのはぴったりではないか,と実感しました。

参考ページ セーンジャーさんの公式サイト
http://senjiya.net/index.html



A1 邦楽器&OEKジョイントコンサート
2009/10/12 11:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)千鳥の曲
2)宮城道雄/春の海
3)倉知竜也編曲/沖縄の歌メドレー(さとうきび畑,てんさぐぬ花,安里屋ゆんた,花)
4)普久原恒勇(倉知竜也編曲)/芭蕉布
●演奏
鈴木織衛指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直)*1,3,4
山本邦山(尺八*2),石垣清美(筝*2,4)
筝合奏:石川県筝曲協会*1,4,沢井筝曲院*4,合唱:石川県合唱連盟*3,4

1日目(11日)は,C1,B1の後,音楽堂前の屋台に行ってみたのですが,先に2日目(12日)の午前に行われた,コンサートホールでの公演についてご紹介しましょう。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は,金沢という土地柄を反映してか,毎年のように邦楽器とのジョイント・コンサートを行ってきましたが,その延長のような内容の公演でした。

最初に石川県筝曲連盟の筝合奏と共演した千鳥の曲は,以前から何回も取り上げられてきた作品です。筝のユニゾンが大変堂々としており,風格が感じられる演奏でした。石川県筝曲連盟の皆さんのパステル・カラーの着物も大変美しく,上品な華やかさがありました。

次の「春の海」は,尺八の山本邦山さんと筝の石垣清美さんの共演でした。西洋音楽風に言うと室内楽ということになりますが,どちらも日本を代表する邦楽器の演奏家ということで,大変聞き応えがありました。「春の海」については,池辺晋一郎さん編曲による,オーケストラ版で聞いたことはありますが,意外なことに,オリジナルの尺八と筝による演奏を聞くのは今回が初めてのことかもしれません。

まずお2人の音の美しさに感動しました。石垣さんの筝の音は,凛とした強さがあると同時に,大変軽やかでした。伸ばした音の最後の方のヴィブラートの音も大変繊細で,夢見るような美しさがありました。山本邦山さんの尺八の音には,「これぞ尺八」といった感じの渋みがあるのですが,どこか悟り切ったような落ち着きがあり,曲全体が大変すっきりとしてました。これまで何回も何回も演奏してきた曲だと思いますが,音の流れが流麗で,生き生きした新鮮さを失っていないのがさすがだと思いました。

一足先に正月気分に浸れる曲ですが,お2人が丁々発止のやり取りを行う部分,曲の最後の方で溜めを作るようにたっぷりと演奏する部分など,曲自体も変化に富んでおり,やはり邦楽を代表する名曲だと実感しました。

続いて,石川県合唱連盟の皆さんの女声合唱とOEKの共演で,「沖縄の歌メドレー」が歌われました。この団体は,石川県内の複数の女声合唱団の混声チームで,70名ほどがステージに乗っていました。今回は「さとうきび畑」「てんさぐぬ花」「安里屋ユンタ」「花」が歌われましたが,オーケストラとの共演ということもあり,大変のびのびとした暖かさのある歌声を楽しむことができました。

演奏会の最後は,本日の出演者が勢揃いして(山本邦山さんだけは,難波竹山さんに交替していましたが),同じく沖縄の曲の「芭蕉布」が演奏されました。まず,演奏前に,セッティングの時間を利用して(やはり筝が沢山あると準備に時間がかかるのです),編曲者の倉知竜也さんとOEKの岩崎 ジェネラル・マネージャーとのトークが入りましたが,これが面白い内容でした。まず,の曲は,1965年に琉球放送のラジオ歌謡として英語の歌詞で作られたものがオリジナルなのだそうです。今回は,それを七五調の日本語の歌詞にしたもので歌われました。

沖縄の曲には,2拍子の曲が多く,当然のことながら沖縄音階で書かれていることが多いのですが,この曲については,3拍子で書かれ,しかも沖縄音階は使われていないとのことです。実際に聞いた感じでは,沖縄の雰囲気があったので,少々不思議だったのですが,非常に良い曲でした。3拍子系の海に関連する歌といてば,「浜辺の歌」を思い出しますが,この曲に通じるような明るさがありました。

倉知さんの編曲も,いつもどおり大変楽しめるものでした。曲の最初の部分で,筝合奏が低音でトレモロを演奏する箇所があったのですが,この音を聞きながら,ロシアの民族楽器のバラライカ合奏の響きなどを思い出してしまいました。この意外性に嬉しくなってしまいました(実際,筝合奏でロシア民謡を演奏しても合うかもしれません)。

途中,合唱団の中の1人が「アーアーアー」とヴォカリーズ風にオブリガードを付ける部分があったのですが,これも大変印象的でした。とてもよく通る美しい声だったので,どなたが歌っているのだろう?とよくよく見てみると,年末恒例の「メサイア」公演のソプラノ独唱でおなじみの朝倉あづさでした。「これは上手いはず。さすが」と思いました。曲の最後の方には,尺八と筝のカデンツァ風の部分も出てきたり,聞き所満載の編曲でした。

公演時間は,1時間ほどでしたが,違った編成の曲が次々と5曲演奏され,とても充実感のあるステージとなっていました。OEKは邦楽器と共演する機会が非常に多いオーケストラですが,その面目躍如たる公演だったと思います。


こういった演奏を楽しんだ後,音楽堂の玄関前の「アジア屋台横丁」で,(チケットをタダで頂いた分も含め)あれこれ食べてみました。次に写真で紹介するように大変賑わっていました。私は,バングラディシュのカレー,台湾の紅茶, ベトナムの揚げ春巻を食べましたが,どれも各国の人(プロの料理人ではなく,留学生なども多かった感じですが)が作っていただけあって,アジアン・テイスト満点の美味しさでした。

穏やかで爽やかな秋の休日,といった空気の漂う音楽堂周辺でした。
アジア各国の屋台が並んでいました。これはマレーシアの方です。 こちらはバングラディシュ イラン(?)だったと思います。何の肉か分かりませんが,ぶら下がっているのはケバプだと思います。
私の昼食のバングラデシュのカレーと台湾のタピオカ・ティーです。 その後さらに,ヴェトナムの揚げ春巻も食べました。 こちらはフェアトレードの雑貨コーナーです。
カエルの形のギロです。棒で背中をこすると,ケロケロと良い音で鳴きます。 音楽堂前は歩行者天国になっていました。 ニューハウス工業のほほえみコンサートも同じ時間帯に行われていました。

PS. その後,赤羽ホール〜中央公園〜金沢21世紀美術館〜金沢城にも行ってみました。美術館では,開館5周年記念の「まるびぃdeパーティ」というイベントをやっており,大変賑わっていました。こちらの方もジャズバンドが演奏していたり,雑貨店が沢山出ていたりして,楽しげな雰囲気になっていました。

赤羽ホールでも金沢アジア祭をやっていたのですが,こちらは大変静かでした。 中央公園では,スィーツのイベントをやっていました。 金沢市役所前です。「おしゃれメッセ」ののぼりが出ていました。
21世紀美術館前です。
野外でいろいろなイベントをやっていました。 地元の3つのジャズバンドが順に演奏していました。
ピアノに色を塗っている人がいました。
まるびぃアイスの立看です。 小型機関車が走っていました。
芝生の上でジャズバンドの演奏を聞く人々 21世紀美術館では,常に複数のイベントを行っています。 入口付近はいつもどおり大賑わいでした。
おなじみのプール付近です。 周囲には,店が沢山出ていました。 不思議なオブジェ
木にも飾りがついていました。 21世紀美術館の後は,石川門方面へ 金沢城公園の中では茶会をやっていました。
五十間長屋です。ここまでずっと歩いたのでさすがに疲れました。




(2009/10/15)





関連写真集


音楽堂前の歩行者天国の立て看板


音楽堂前


アンケートに答えると,アジア・ツァーのチケットがもらえる,という企画もやっていました。


今回のポスターです。


小松空港のポスターです。空飛ぶ弁慶?文字通り「飛び六法?]


アジアの雑貨の販売コーナー

ニューハウス工業のほほえみコンサート(お得意様向け?)を行っていましたが...


背広姿の社員の姿が目立ち,少々違和感のある光景でした。