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2009ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭 吹奏楽の祭典
2009/11/08 石川県立音楽堂 コンサートホール
1)島田尚美/コミカル★パレード
2)久石譲(森田一浩編曲)/ラピュタ:キャッスル・イン・ザ・スカイ
3)喜多方寛丈/Uchinada March
4)三浦秀秋編曲/ジャパニーズ・グラフィティXIV
5)花岡優平/愛のままで...
6)カーペンター,ベティス,ハモンド(森田一浩編曲)/サクソフォンとバンドのための「青春の輝き」:カーペンターズ永遠のレパートリーより
7)小西康陽(林直樹編曲)/こちら葛飾区亀有公園前派出所
8)ウィルソン(岩井直溥編曲)/76本のトロンボーン
9)久石譲(鈴木英史編曲)/アニメ・メドレー「ハウルの動く城」より
10)宮川泰(宮川彬良編曲)/ゲバゲバ90分
11)クラーク(三國浩平編曲)/トランペット・ヴォランタリー
12)成田為三(三國浩平編曲)/浜辺の歌
13)オリヴァドーティ/バラの謝肉祭
14)ブラックモア他(佐橋俊彦編曲)/ディープ・パープル・メドレー
15)ムソルグスキー(石津谷治法編曲)/組曲「展覧会の絵」から
16)和泉宏隆(真島俊夫編曲)/宝島
17)(アンコール)イッツ・ア・スモール・ワールド
●演奏
上高裕希指揮能美市立根上中学校吹奏楽部*1-2
奥泉清人指揮内灘町立内灘中学校吹奏楽部*3-4
田中一宏指揮金沢市立額中学校吹奏楽部*5-7,中田真砂美(サクソフォン*6)
北村善哉指揮石川県立小松高等学校吹奏楽部*8-10
小松市立高等学校吹奏楽部員*11-12
木村有孝指揮小松市立高等学校吹奏楽部*13-14
斉藤忠直指揮石川県立小松明峰高等学校吹奏楽部*15-17  
司会:辰島佳寿美
Review by 管理人hs  

石川県立音楽堂コンサートホールで石川県吹奏楽連盟主催の「吹奏楽の祭典」という楽しげなタイトルの演奏会が行われたので出かけてきました。この公演は,「ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭」の一環として行われたもので,今年度の全日本吹奏楽コンクールに石川県代表として出場した中学校,高等学校の中から合計6校の吹奏楽部が登場するというものでした。この歴史のあるコンクールは,10月に全国大会が終わったばかりなので,言ってみれば吹奏楽コンクールの石川県版エキシビション公演ということになります。

演奏会の前半には中学校3校,後半には高校3校が登場しましたが,レベルの高い演奏の連続で,吹奏楽人口の層の厚さとレベルの高さを実感できました。実は,我が家にも吹奏楽部に入っている子供がおり,今回は一緒に聞いてきたのですが,自分と同じ世代の生徒たちによる同じ楽器の演奏を見聞きでき,大きな刺激を受けていたようでした。

今回登場したのは,次の学校の吹奏楽部でした。
  • 能美市立根上中学校
  • 内灘町立内灘中学校
  • 金沢市立額中学校
  • 石川県立小松高等学校
  • 小松市立高等学校
  • 石川県立小松明峰高等学校
今年度の全日本吹奏楽コンクールでは,トリで演奏した石川県立小松明峰高校が全国大会でも金賞を受賞するという快挙を成し遂げましたが,どの学校も「さすが」といった演奏を聞かせてくれました。コンクールとは違い,ポップス系の曲を含めたり,曲目紹介を生徒自身が行ったり,ダンスを含めたり,どの学校も「祭典」に相応しいパフォーマンスを見せてくれました。

以下,各学校ごとに演奏内容をご紹介しましょう。

1.能美市立根上中学校
最初に全国大会で銀賞を受賞した,根上中学校が登場し,コンクールの課題曲だったコミカル★パレードを演奏しました。美しくブレンドされたマイルドな音とゆとりのある響きが素晴らしく,曲全体にしっかりとした落ち着きが漂うような演奏でした。音楽堂で聞く吹奏楽の響きには,うるさく感じられる部分はなく,オーケストラや弦楽器の響きとは一味違った,より空気そのものに近いような透明な響きを楽しむことができました。

次の「ラピュタ:キャッスル・イン・ザ・スカイ」は,久石譲作曲の映画音楽のメドレーです。編成がさらに大きくなり(他の学校でもありましたが,ハープが入っているのには驚きました),演奏のスケールも大きくなっていました。ホルンやトランペットのソロもしっかりと決まっていました。

2.内灘町立内灘中学校
白いブレザーで登場しましたが,そのこともあって,とても大人っぽく見えました。最初に演奏された,Uchinada Marchは,つい最近できた内灘中学校のためのオリジナルの曲で,今回が初めての公開演奏とのことです。根上中学校よりも低音の楽器が多かったせいか,大変重厚なサウンドを楽しめました。大変分かりやすい曲で,ジョン・ウィリアムスの曲を彷彿とさせるような格好良さがありました。こういうオリジナル曲を持てるというのは,とてもうらやましいことです。

次の「ジャパニーズ・グラフィティXIV」ですが,分かりやすく言うと「嵐ヒット曲メドレー」です。今の時期に演奏するのにぴったりの選曲で,大変ノリの良い演奏でした。「ジャパニーズ・グラフィティ」というのは,「ニューサウンズ・イン・ブラス」という毎年発表されている吹奏楽用のCD・楽譜の中の人気シリーズですが,人気絶頂の嵐の曲ということで,これから全国の多くの吹奏楽団がこのアレンジで演奏することになるでしょう。我が家の子供も「やってみたい」としきりに言っていました。

この演奏では,いろいろな楽器のソロがいろいろと出て来るのですが,それが終わるたびに,ペコリとお客さんの方に向かって頭を下げ,パチパチと拍手を受けるのが「お約束」になっています(他の学校についてもこのパターンでした)。こういうシーンを見ると,「部活だなぁ」という感じで,どこか懐かしい気分になります。

ちなみに出番が終わった後,多くの学校で「ありがとうございました!」と斉唱していましたが,これも「部活だなぁ」という光景です。

3.金沢市立額中学校
額中学校のステージは,さらにエンターテインメントに徹していました。最初に,予定を変更して「愛のままで...」が演奏されました。この曲は,昨年の紅白歌合戦に還暦を過ぎて初出演して話題になった秋元順子さんによるスローテンポのバラードもしくは演歌っぽい歌ということで,中学生が演奏するには,意外性のある選曲でしたが,非常にねっとりとした感じで演奏しており,良い雰囲気を出していました。何よりも,曲の流れに乗せて,テューバが左右に揺れるのを見て,「おおっ」となりました。

次のカーペンターズの曲では,指揮の田中先生の根上中学校時代の教え子であるサクソフォンの中田真砂美さんとの共演となりました。師弟共演というのは,緊張感もあったかもしれませんが,特に先生からすると,とても嬉しかったのではないかと思います。中田さんのサックスは,カレン・カーペンターの声を思わせるようなたっぷりしたもので,聞いていて懐かしさを感じました。それにしても「青春の輝き」は良い曲です。

最後の「こちら葛飾区亀有公園前派出所」は,爽快な演奏に加え,何とも可愛らしいチアダンス風のパフォーマンスが入りました。アップテンポの曲に乗せて,4人の生徒が,ポンポンを振ったり,ボードを持ったり...学校の運動会を思わせる楽しい演奏でした。

どの学校の吹奏楽部も,地域の文化祭などの行事に出演する機会が多いと思いますが,こういう演奏だったらさぞかし喜ばれるだろうな,と思わせるステージでした。

4.石川県立小松高等学校
後半は,高等学校のステージとなりました。中学校の吹奏楽部の演奏も十分素晴らしいと思ったのですが,やはり,こうやって比較してみると,高校の吹奏楽部の方がさらにパワーがあるようです。最初に演奏された,「76本のトロンボーン」は,岩井直溥編曲ということで,ニュー・サウンズ・イン・ブラスの楽譜による楽しい演奏でした。

続く「ハウルの動く城」のメドレーも,おなじみの曲です。変化に富んだ,大変シンフォニックな演奏でした。続く,ゲバゲバ90分は,オリジナルは懐かしのテレビ番組(私自身,見た記憶はありませんが)のテーマ曲ですが,最近では,ビールのCMの曲としての方がよく知られています。金管楽器が,ステージ前方に出てきて,豪快に演奏していましたが,行進曲っぽい曲想にぴったりでした。

このステージでは,生徒自身が曲目の紹介を行っていました。これもまた高校の文化祭っぽい感じで懐かしくなりました。

5.小松市立高等学校
小松市立高等学校には,芸術コースがあるということで,吹奏楽部の演奏に先立ち,芸術コースに在籍する5名の部員によるアンサンブルで2曲演奏されました。編成は,トランペット2,ホルン,トロンボーン,チェロということで,チェロが入っているのが異例でしたが,ここまで大編成の曲が続いたので,気分転換には丁度良い感じでした。演奏された2曲のうち,特に最初に演奏されたトランペット・ヴォランタリーでの,トランペット(ピッコロ・トランペット?)の音の輝かしさが印象的でした。浜辺の歌では,チェロ独奏で始まりましたが,こちらも管楽器の演奏とは一味違ったしっとりとした味のある演奏でした。

その後は,吹奏楽部の演奏となりました。オリヴァドーティ作曲の「バラの謝肉祭」は,吹奏楽の世界では,有名作品のようです。静かな前半と明るく盛り上がる後半の対比が面白い曲ですが,特に品格が漂うような美しい響きの前半が新鮮でした。この日欠場した金沢桜丘高校は,アルメニアン・ダンスPart1を演奏することになっていたのですが,こういう吹奏楽の定番曲が聞けるのも「祭典」の楽しさの一つだと思います(そういう点で,金沢桜丘の演奏を聞けなくて残念でした)。恐らく,コンクールでは,「定番曲」は,かえって演奏しづらいのではないかと思います。

このステージ最後の「ディープ・パープル・メドレー」は,これぞシンフォニック・ロックという感じの素晴らしい演奏でした。途中,ドラム奏者が豪快にスティックを飛ばしてしまったのがご愛嬌でしたが,このドラムを中心に熱気に満ちた演奏を聞かせてくれました。この路線の音楽を他にも聞いてみたいな,と感じました。

6.石川県立小松明峰高等学校
演奏会のトリは,全国大会で金賞を受賞した小松明峰高校による,「さすが」というステージでした。まず,ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」からプロムナード,古い城,バーバヤガーの小屋,キエフの大門が演奏されました。まず,冒頭のトランペット・ソロがお見事でした。大変美しい演奏でした。続く,古い城でのサクソフォーンをはじめとする木管楽器群のソロもしっとりと聞かせてくれるものでした。バーバヤガーからキエフの大門に掛けてもスケール感たっぷりでした。こうやって聞くと,やはりクラシック音楽系の曲の方が,曲想の変化が大きく,聞き応えがあるなぁと感じました。最後のステージに聞くのに相応しい高揚感のある演奏でした。

次に演奏された「宝島」も,吹奏楽の世界では定番中の定番のおなじみの曲です。「展覧会の絵」の後ということで,アンコール・ピース的な雰囲気もあり,開放的な気分が一気に弾けた華やかな演奏となりました。

この曲は,大変盛り上がるので,演奏会の最後に演奏されることが多いのですが,この日の演奏は,見た目も大変派手でした。まず,パートごとに色分けされた鮮やかなポンチョ風の布をかぶって演奏していました。冒頭のラテン系のパーカッションのリズムが曲全体の基本的なテンポを決めるので,指揮の斉藤先生が曲が始まるとすぐに退出してしまったのですが,その後は,すべての楽器が,上下左右斜めに大きく楽器を動かし,あたかもシンクロナイズド・スイミングを見るかのようなダイナミックなパフォーマンスの連続でした。

「宝島」については,こういうパフォーマンスが「お決まりのパターン」になっているようですが,これだけ美しく決まると惚れ惚れとしてしまいます。途中のパーカッションによるアドリブの部分も本当に楽しそうでした。そして,最後に指揮の斉藤先生が,松平健もびっくりの金色のポンチョを羽織って,客席から再登場しました。豪華なケーキの上に,しっかりとロウソクを立てるような見事な演出だったと思います。最後の音の後のストップモーションもピタリと決まっていました。

最後にアンコールとして,ディズニーの「イッツ・ア・スモール・ワールド」が演奏されましたが,ここでは,団員の一部が客席の通路まで飛び出し,曲に合わせて「ララランランラン」と歌ったり,楽しげな踊りを見せたりしてくれました。「祭典」の締めに相応しい,華やかなステージでした。

この日は,出場予定だった金沢桜丘高校が欠場したり,ホール内にはマスクをしている生徒の姿が目立つなど,新型インフルエンザの影響が至る所で見られましたが,こういう「年に一度の祭典」というのは,良いものです。何より石川県立音楽堂で演奏できる,というのが一種のステータスなのではないかと思います。5月の連休に行われている「ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)」も,実は「(全国的な)吹奏楽の祭典」でもあるのですが,それと並ぶ「秋の祭典」として定着していって欲しいと思います。私自身,これまで吹奏楽の演奏会には,あまり出かけてこなかったのですが,これを機会にあれこれ聞いてみたいと思います。

PS. 来年のLFJKでは,県内の高校選抜メンバーによるバンドを結成するとのことです。どういう演奏を聞かせてくれるのか大いに期待したいと思います。

PS2. 今回のイベントのパンフレットですが,入場料とは別に200円が必要でした。ただし...それにしては,内容が少々薄い気がしました。石川県吹奏楽連盟のウェブ・サイトには掲載されているとは思うのですが,今年の吹奏楽コンクールの演奏曲・結果一覧とか今年度の活動報告といったデータ的なものも掲載してくれると,PRにもなるのではないかと思いました
(2009/10/24)

関連写真集

開演前のステージ。



公演のパンフレット(200円)です。