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オーケストラ・アンサンブル金沢第271回定期公演PH
2009/11/28 石川県立音楽堂コンサートホール
マーラー/交響曲第3番ニ短調
●演奏
井上道義指揮新日本フィルハーモニー交響楽団,オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:マイケル・ダウス(OEK),崔文洙(NJP))
バーナデッド・キューレン(メゾ・ソプラノ)
合唱:金沢・富山マーラー特別合唱団(合唱指揮:佐藤正浩)
児童合唱:OEKエンジェルコーラス,AUBADEジュニア・コーラス(合唱指揮:古橋富士雄)
プレトーク:横山邦雄(NJP専務理事),岩崎巌(OEKゼネラルマネージャー)
Review by 管理人hs  

お待ちかねの井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と新日本フィルハーモニー交響楽団(NJP)の合同オーケストラによるマーラーの3番を聞いてきました。OEKは,11月上旬,海外に演奏旅行に行っていましたので,前回の定期公演から1ヶ月ほど間が空いてしまいました。普通の人(?)の場合,そうでもないと思いますが,私のような熱狂的なOEKファンにとっては,「かなり久しぶり」という感覚のある公演でした。

”OEK名物”の合同公演ということで,ステージいっぱいにオーケストラ・メンバーが入っていました。今回は,さらに女声合唱,児童合唱が入りましたので,一睡の余地もないような状況になっていました。次のような配置でした。

(場外:ポストホルン)
    
        児童合唱
=======パイプオルガンの前=======

  女声合唱 MS独唱 女声合唱 

      Tb Tuba Timp
   Hrn   Tp    Perc各種
     Cl   Fg
     Fl   Ob
     Va   Vc   Cb
 Vn1    指揮者     Vn2
  

*合唱+オーケストラで総勢231人,オーケストラだけでも100人以上(OEK公式サイトの情報による)

演奏前に,ぎっしりと並んだイスを見るだけでワクワクしましたが,演奏の方も大変聞き応えのある内容でした。

冒頭のホルン8本のユニゾンの部分ですが,力強いけれども,大変すっきりとしており,爽快感がありました。その後,パーカションの迫力たっぷりの響きが続きます。2名いたティンパニ奏者のうちのお一方は,見るからに「ただ者ではない(遠くから見ると井上さんそっくりでした)」といった雰囲気の方でした。OEK公式サイトの情報によると,井上さんが連れてきたサンクト・ペテルブルク・フィルのティンパニ奏者,ヴィクトル・カナトフさんという方とのことです。正確にバチっと音を決めてくるような感じがあり,長大な第1楽章の要所要所でオーケストラ全体の音を引き締めていました。この部分ですがシンバル奏者2人で叩いていました。こういった部分も実演で見て初めて気づく点です。冒頭部では,最後に大太鼓のドロドロドロ...という弱音が残るのですが,こういう音の一つ一つが生々しく,「やっぱり生で聞くマーラーは面白い」と最初の数小節を聞いただけで実感しました。

その後はじっくりとしたペースで,パーツをじっくりと積み重ねて大きな建造物を組み立てていくような感じで曲が進んでいきました。そのパーツの中の最も重要なものの一つが長大なトロンボーンソロでした。NJPの箱山さんの演奏は,存在感をしっかりとアピールしながらも目立ちすぎることがなく,安定感抜群の見事な演奏でした(演奏後も盛大な拍手を受けていました)。ピッコロが鋭い音を出す部分も印象的でした。これだけ集団でピッコロが出て来る曲というのも,少ないかもしれません。OEKのマイケル・ダウスさんのソロも出てきましたが,この部分を含め,意外に室内楽的に音ががっちりと絡み合うような部分もあり,本当に多彩な要素が盛り込まれた曲だと,曲の面白さを再発見できました。

所々で出て来る,爆発的に盛り上がる部分は,マーラーの意図どおり,夏を思わせるような煌くような明るさを持っていました。音楽堂だと,かなりうるさくなるかな,という気もしたのですが,全くそういうことはなく,余裕すら感じました。

第1楽章の途中,打楽器奏者数名が場外に抜け出し,”全くの別行動です”という感じで舞台裏でスネアドラムを演奏し始める部分があります。この部分を”お呼びでない”と無視し,最初のホルンのメロディが”待ってました”とばかりに再現してくる辺りにもいかにもマーラーらしい不思議な雰囲気がありました。

楽章の最後は,タンブリンを含む打楽器が大活躍し,華やかかつスッキリと結ばれました。井上さんの指揮姿同様,キレ味鋭く,格好良く締めてくれました。

その後のインターバルでは,合同公演の恒例となりつつある「席替え」がありました。ここまではOEK側がトップ奏者でしたが,ここから後はNJP側がトップ奏者になりました。マーラーのプランでは,第1楽章が第1部,それ以降が第2部ということですので,ここで大きなインターバルがあり,気分を変えるというのは,理に適っています。ちなみに,NJPのコンサートマスターの崔文洙さんですが,「のだめカンタービレ」のキャラクターに出てきそうな爆発したような髪型で,井上さんと好対照(?)でした。

第2楽章は,マーラーにしては珍しいメヌエット風の楽章です。最初にオーボエのソロが出てきますが,ここでは,ソリストとしても活躍されている古部賢一さんの大変しっかりとした音が印象的でした。続く,フルートのソロにもとても存在感がありました。その後は,ゆったりと浮遊するような雰囲気が続きます。全曲の中では,地味目の楽章ですが,どこか,宇宙的な広さを思わせる陶酔感と浮き世離れしたような優雅さのある演奏でした。

NJPとOEKのメンバーの席替えの成果ですが(これは楽章の性格そのままだとは思いますが),NJPがトップの時の方が洗練された感じがあると思いました。OEKがトップの第1楽章は,よりワイルドな雰囲気だったと思います。これは,NJPの方が,マーラーの演奏に慣れていることと関係があるかもしれません。その点で,OEK主体による非日常的なマーラー演奏は,「白日夢」といった感じのある第1楽章に相応しかったと思います。

第3楽章は,鳥の声を思わせるクラリネットの甲高い音をはじめとして,自然を描写したような音楽が続きました。軽妙さのある演奏でした。

この楽章の中間部では,ポストホルンが長いソロを演奏します。今回はパイプオルガンのステージの後方で演奏していたようです。どこで演奏していたのか分からない方もあったと思いますが,私の座っていた席からは,オルガン・ステージの奥の扉が開放されているのがよく見えました。これもOEKの公式サイトの情報ですが,舞台裏で井上さんの指揮をモニターで見ながら演奏していたようです。

このソロですが,最初の方,結構苦しそうな感じに聞こえ,少々ハラハラしたのですが,段々と滑らかな演奏になってきました。どこから聞こえてくるのか分からないぐらい,遠くの方から哀愁に満ちた音が聞こえてくるといのは,大変効果的でした。夕暮れ時の寂しさといった趣きでした。

この楽章の最後の部分では,第4楽章以降に出番のある,合唱団とソリストがサーッと入ってきました(楽章が終わるのとほぼ同時,「ギリギリ,セーフ」という感じで,ちょっとバタバタした感じが無きにしもあらずでした)。合唱団については,最初から入っている場合と途中から入る場合とがありますが,楽章の途中に移動するというケースは少ないと思います。白い衣装を着た児童合唱団は,まるで天使のようで大変鮮やかでした。舞台裏でのポストホルン・ソロに加え,一瞬にして気分を変える辺り,視覚的で演劇的なパフォーマンスの要素の盛り込まれた第3楽章でした。

その第4楽章ですが,鮮やかな青のドレスを着たメゾ・ソプラノのキューレンさんが,ステージ奥の真ん中の高いところに堂々と立っていましたので,会場全部を支配する女神のように見えました。深々とした貫禄のある声もそういう雰囲気にぴったりで,一瞬にして宗教的な儀式を思わせる,スピリチュアルな気分になりました。この楽章は,全曲の中でも要のような位置にあります。今回の演奏では,視覚的に見ても,キューレンさんが要のようになっていましたので,時間的にも,空間的にも「バッチリ」という感じでした。絵になる光景でした。

続く第5楽章では,再度気分が変わり,女声合唱と児童合唱が加わってメルヘンの世界になりました。今回は,金沢・富山合同制作ということとで,金沢・富山連合の特別編成の女声合唱と児童合唱が登場しましたが,暖かさと華やかさのある歌を聞かせてくれました。特にステージの上の方から降り注ぐ児童合唱というのは,マーラーのイメージどおりの効果を生んでいたのではないかと思います。

第6楽章へは,そのままインターバルなしで入りました。この楽章の前半は,幸福感に包まれた弦楽器主体の静かな部分ですが,それほど重くもたれるような感じはありませんでした。それでいて,情感がしっかりとこもったカンタービレの連続で,優しさと同時に真摯な気分を持っていました。その気分を維持したまま,ストレートに終盤の盛り上がりを作っていましたので,クライマックスでは,非常に誠実で嘘のない響きに満たされました。

前楽章まででも,要所要所で管楽器がベルアップをしていましたが(多分,譜面どおりなのだと思います),最後の部分ではかなり大勢の奏者が楽器を持ち上げており,壮観でした。最後の部分では2台のティンパニによる堂々たる響きも印象的でした。CDで聞くと,「終わりそうで終わらない」しつこさを感じるのですが,今回の演奏は,もったいぶった感じはなく,ストレートに締めくくっていたと思います。

やはり,CDで聞く場合と実演で100分通しで聞く場合では違うのだと思います。「100分間続いた後のエンディングなら,やはりこれぐらいないと...」という感じの堂々たる終わり方でした。全曲を聞き終えた後,この最後の部分のティンパニは,永遠に続く大自然の鼓動の描写なのではないか,感じました。

この曲は,マーラーの交響曲の中でも特に明るさのある曲です。劇場的な要素も含め,井上さんのキャラクターによく合った作品だと思いました。今回は,両オーケストラにつながりのある井上さんならではの合同公演でしたが,マーラーの交響曲という大きな器の中に,金沢も富山も,合唱もオーケストラも,OEKもNJPも...とあらゆる要素が盛り込まれていたのが素晴らしいと思いました。

今回は,金沢と富山の合同制作という点が注目でしたが,その第1弾としても相応しい作品だったと思います。是非今後も,「金沢・富山合同制作による大曲シリーズ」(マーラー,ブルックナー,ショスタコーヴィチなどを取り上げて欲しいですね。桐朋アカデミーとの合同公演ならばすぐにでも実現できそう?)に期待したいと思います。

PS. 最終楽章の間,合唱団とソリストがそのままずっと立っていました。何か演出上の効果があるのかな?と気になっていたのですが,どうも井上さんが「着席」という指示をし忘れたようですね。学校の式典の時などでは,「来賓の方の挨拶の時は,着席の指示があるまでは勝手に座ってはいけません」などと学校などでは言われますが,そんな感じだったのかもしれないですね。お疲れ様でした。

PS 今回のプレトークはNJPの理事の横山さんによるものでした。NJPとOEKについては,両者とも井上さんとのつながりが深い点,どちらも拠点ホールを持っている点が共通している,といったお話をされていました。金沢公演は,22年ぶり(OEKが出来る前)とのことですが...実は,私は行っています。いつの間にか長いこと生きてきたなと実感しているところです。[→その時の記録1987年5月29日]

そのさらにずっと前,私が小学生だった頃,TBS系で放送していた「オーケストラがやってきた」の金沢での公開収録を聞きに行ったことがあります。この時のオーケストラが,山本直純さん指揮の新日本フィルでした。これが私が初めて聞いたオーケストラの生演奏でした。

その他,左の写真のとおり「事業仕分け」に反対しましょう,という呼びかけがありました。会場内にも,反対メールを送りましょうというポスターが掲示されていました。[→詳細はこちら] (2009/11/29)

関連写真集

公演の立看


翌日の富山公演のポスター


CD売り場には,新日本フィルのコーナーもありました。


終演後,出演者による懇親会を行っていたようです。


音楽堂玄関には,ケーキのようなクリスマス飾りがありました。12月を前に音楽堂内には,クリスマス飾りが溢れはじめていました。


カフェコンチェルトの机の上にもクリスマス風の飾りがありました。


音楽堂前の音叉のオブジェもクリスマスツリーになっていました。手前にあるのは12月のメンデルスゾーンのイベントの立看です。


終演後は,照明が点いていました。


音楽堂内のあちこちにも小さなツリーがありました。


音楽堂の玄関の風景です。