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井上道義&オーケストラ・アンサンブル金沢21世紀美術館シリーズ
music@rt seasonV Christmas presents: Frohe Weihnachten!オーストリアのクリスマス
2009/12/23 13:30-16:00 金沢21世紀美術館内交流ゾーン,香林坊アトリオ,柿木畠通り等
1)クライスラー/プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ
2)シュトラウス,R/4つの最後の歌〜眠りにつくとき
3)シューベルト/アヴェ・マリア
4)ヘルツォーゲンベルク/祈り
5)アダム/オー・ホーリー・ナイト
6)グルーバー(黒瀬恵編曲)/きよしこの夜
7)イギリス民謡/みつかいうたいて(グリーンスリーヴス)
8)ドナ・ノービス・パーチェム
9)クリスマス曲集(もろびとこぞりて,ホワイト・クリスマス,サンタが街にやって来る)
10)(アンコール)グルーバー/きよしこの夜
●演奏
トロイ・グーキンズ(ヴァイオリン*1-7),直江学美(歌*2,4-7),黒瀬恵(オルガン*1-7,9-10),
合唱:OEKエンジェルコーラス*8-10
Review by 管理人hs  

12月23日。街中を歩けば,至るところからクリスマスの音楽が聞こえてきます。金沢21世紀美術館とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のコラボ企画としてすっかり定着した music@rtシリーズも,OEKのヴァイオリン奏者のトロイ・グーキンズさんのヴァイオリン,直江学美さんの歌,黒瀬恵さんのオルガン,OEKエンジェルコーラスの合唱による,クリスマスにちなんだ音楽の特集となりました。

演奏会のタイトルは,「オーストリアのクリスマス」ということだったのですが,「ややオーストリアの音楽が多いかな?」というぐらいで,世界各地のクリスマス音楽が10曲ほど演奏されました。まず,今回の演奏会で面白かったのは,ヴァイオリン+小型オルガン+歌という編成でした。最初に演奏されたクライスラー,リヒャルト・シュトラウスの歌曲をはじめ,純粋にクリスマス向けの音楽でない曲もあったのですが,オルガンの響きが入ると,途端にクリスマスの雰囲気になるのが面白いところです。

最初に演奏されたクライスラーの「プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ」などは,オルガンが加わることで,いつも以上にバロック音楽的に響いており,「バッハの様式による」という気分もありました。リヒャルト・シュトラウスの「4つの最後の歌」の中の「眠りにつくとき」は,間近で聞く直江さんの声が素晴らしく,美術館内の空気が,感動に満たされたような雰囲気に変わりました。本来はオーケストラ伴奏の曲ですが,一度,全曲を生で聞いてみたい曲です。

シューベルトのアヴェ・マリアには歌は入らず,ヴァイオリンとオルガンによる演奏でしたが,これも聞き応えがありました。ハイフェッツが演奏しているアヴェ・マリアのCDが我が家にはあるのですが,これと似た構成で,低音で始まった後,次第に高音部に移行し,高揚していくような演奏でした。オルガン伴奏のアルペジオにも宗教的な雰囲気があり,まさに「アヴェ・マリア」と祈りたくなるような演奏でした。

ヘルツォーゲンベルクの「祈り」という曲は,初めて聞く曲でしたが,トロイさんのトークにあったとおり,「大人の音楽」でした。「オー・ホーリー・ナイト」は,バレエ音楽で有名なアダム(アダン)の曲ですが,最近では(といっても10年以上前ですが),マライア・キャリーのクリスマス・アルバムの中での超高音が出て来る歌唱が有名かもしれません。個人的には,クリスマス・ソングの中でも特に好きな曲です。

続く「きよしこの夜」は,オルガンの黒瀬さん編曲によるものでした。トロイさんのヴァイオリンにとてもリラックスした気分があり,ジャズ・ヴァイオリンを思わせるような洒落た感覚がありました。

「みつかいうたいて」は,おなじみのグリーンスリーヴスのメロディによるクリスマス・キャロルということで,「オーストリア」とうテーマから次第に脱線していきましたが,やはりオルガン伴奏で聞くと味わいが一層増します。

と...ここまでは,大人の雰囲気のクリスマスだったのですが,ここで,遠くからOEKエンジェルコーラスの皆さんによる「まっかなお鼻の...」という歌声が近づいてきました。まさに,フェード・インという感じで,交流スペースに歌いながら入ってきたのですが,遠くから音が近づいてくるという感覚はワクワクさせるものがあります。エンジェルコーラスの皆さんは,キャンドルサービスをしながら美術館周辺の商店街を一回りして,戻ってきたのですが,その寒さに負けない元気さがそのまま伝わって来るようでした。この「商店街一周」は,昨年に続いて行われたのですが,どういう雰囲気だったのか見てみたかった気もします。いずれにしても,相変わらず金沢21世紀美術館の企画力は素晴らしいと思いました。

最後は,きよしこの夜などお馴染みのクリスマスソングを歌ってお開きとなりました。エンジェルコーラスの歌もとても可愛らしく良かったのですが,それを取り囲む,大人たちがそれ以上に気分を盛り上げていたと思います。黒瀬さんの演奏する小型オルガンの親しみやすい音,リラックスした気分を作るのが上手なトロイさんの優しいトークとヴァイオリン,それに直江さんの落ち着いた雰囲気の歌が加わり,とても親密で暖かな雰囲気を作っていました。この演奏会も,金沢21世紀美術館ならではのクリスマス行事として定着してきているようです。

(参考)21世紀美術館とその周辺の写真
21世紀美術館の展示室の入口。オラファ・エリアソンは,いつもとはかなり違った展示です。 入口横には,クリスマス企画に併せてカフェを営業していました。 現在,21世紀美術館で行っている3つの展覧会のポスターです。
21世紀美術館の旧石川県庁前の堂形の椎の木(天然記念物)です。 この辺りは「しいのき迎賓館」として再開発中です。ラ・フォル・ジュルネ金沢までには完成する見込み 今回の公演のチラシです。
(2009/12/25)

関連写真集

開演前の光景。後ろに写っているのがオルガンです。


演奏会の雰囲気。トロイさんは,クリスマス色のネクタイをしており,おしゃれでした。窓の外は雪で真っ白です。


演奏中の曲名を示すプレート


エンジェルコーラスの皆さんが入ってきました。


手にはキャンドル


伴奏は鍵盤付きハーモニカでした。


サンタクロースに扮した人(21世紀美術館の職員?)も登場


いつの間にかトロイさんもサンタクロースになっていました。会場の中を歩きながら演奏。