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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2009:モーツァルトと仲間たち
001】 オープニング・コンサート
2009/04/29 14:00- 石川県立音楽堂コンサートホール
1)モーツァルト/ピアノと管弦楽のためのロンド ニ長調K.382
2)モーツァルト/歌劇「魔笛」K.620〜パパゲーノとパパゲーナの二重唱「パ,パ,パ...」
3)モーツァルト/交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」
4)(アンコール)倉知竜也/モーツァルト・ファンファーレ
●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲイル・ヤング)
中林理力(ピアノ*1),スタニスラヴァ・イヴァノヴァ(ソプラノ*2),ヴェセリン・ストイコフ(バリトン*2)
ナビゲーター:池辺晋一郎


Review by 管理人hs
ラ・フォル・ジュルネ金沢2009のオープニング・コンサートを担当するのは,やはり,ホスト役の井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)しかありません。イベント全体の中の核となる団体があるのは,東京で行われるラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンとの大きな違いです。

オープニング・セレモニーに引き続き,石川県立音楽堂洋楽監督で作曲家の池辺晋一郎さんの司会で演奏会は始まりました。昨年は,OEKの演奏のみでしたが,今年は違った編成の曲が3曲演奏されたこともあり,ちょっとしたガラ・コンサート風の雰囲気のある公演となっていました。

最初にピアノと管弦楽のためのロンド二長調,K.382が演奏されました。この曲は3月のOEKの定期公演で,小菅優さんのピアノ独奏で聞いたばかりでしたが,今回は,非常にウィットの効いたサプライズがありました。もともとチラシにはピアニスト名が書かれておらず,「一体誰が登場するのだろう?」と気になっていたのですが,ちょっと焦らすような間を置いて登場したのは...何とアマデウスさんご本人でした。

映画「アマデウス」の1シーンに出てくるような鮮やかな赤い衣装にカツラまでつけて登場したのは,金沢出身の中学生,中林理力(なかばやし・りりき)君でした(そういえば,青島広志先生もよくこういう衣装を着ていらっしゃいますね)。これは大受けでした。すらりとした長身の少年が,アマデウスに扮して登場するとは予想もしませんでした。

中林君は,LFJKのプレイベントとして継続中のモーツァルト・マラソンにも出演していますが,その出演者の中から抜擢された方です。選んだ方もお見事ならば,これしかないという衣装を着て登場した中林君もお見事でした。何よりもビジュアル面が素晴らしく,この日のローカル・ニュースの映像では,ひと際輝いていました。ステージ席に座っていた,ルネ・マルタンさんも,「一本取られた!」と感じたのではないでしょうか。

演奏の方も立派でした。井上さん指揮のOEKの演奏は,非常に軽やかで大変リラックスしたものでしたが,それを受ける中林君の演奏も軽やかでした。オーケストラの演奏にしっかりと乗りながらも軽やかに飛翔していました。LFJKの最初の曲のソリストという大役を見事に果たした中林君には,盛大な拍手が送られ,開幕の気分が一気に盛り上がりました。

演奏後のやりとりも微笑ましいものでした。大人のソリストならば,拍手をたっぷりと受ける余裕があるのですが,中林君は,井上マエストロを指揮台に残したまま,さっさと袖に退場してしまいました。慌てて井上さんが,袖に向かい,中林君をステージ中央に引き戻していましたが,こういうマイム的なパフォーマンスの面白さもまた,井上さんならではです。

次に「魔笛」の中の「パパパの二重唱」が歌われました。この曲は,チラシ等には書かれていなかったので,急遽付け加えられたものだと思いますが,こちらも大変楽しいパフォーマンスでした。二重唱と言いつつ,ソリストの2人がステージに現れないまま,曲は始まったのですが,すぐに下手の袖からソプラノのイヴァノヴァさんが茶目っ気たっぷりに顔を出し,それに応えるようにバリトンのストイコフさんの声が遠くから聞こえてきました。

一体どこから聞こえてくるのだろう?と考えているうちに,ストイコフさんは,1階席の客席からステージ上に上がってきました。音楽堂のステージと客席とをダイナミックに使ったパフォーマンスで,大いに盛り上がりました。リラックスした歌も良かったのですが,歌の内容に合わせた動作もサービス満点で,大いに盛り上がりました。

お二人の衣装は,パパゲーナがボディコン風,パパゲーノがジーンズで,LFJKのポスターにもなっている,”ウィンクするモーツァルト”のイメージとぴったりでした。きっと,現代風の演出で「魔笛」を上演するとこういう感じのペアとになるのでしょう。最初,喧嘩をしているのかな,と見えて,最後,キスをする辺りもクールな感じでした。

最後に演奏された「ジュピター」交響曲は,OEKがたびたび演奏してきた曲です。2001年に石川県立音楽堂が完成した式典の時にもこの曲が演奏されましたが,祝祭性とかっぷくの良い曲想はこういうセレモニー的なコンサートにもぴったりでした。

井上さんは,OEKとこの曲のCD録音も残していますが,今回の演奏もその解釈とほぼ同じだったと思います。ラ・フォル・ジュルネの公演時間は45分から1時間なので,繰り返しは省略するかな...とも思ったのですが,1楽章も4楽章も(もしかしたら2楽章も?)繰り返しを行っており,30分以上(多分)かかる堂々たる演奏となっていました。

第1楽章は颯爽と始まり,弦楽器のヴィブラートも控えめで,基本的にはすっきりとしていたのですが,所々,細かいニュアンスが付けられており,堅苦しい感じがしないのが井上さんらしいところです。トランペットやティンパニのアクセントも祝祭的で,堂々とした風格もありました。

第2楽章には,とても濃い雰囲気がありました。弱音器付きの弦楽器の音色が意味深なのですが,その中に甘くロマンティックな表情も漂っていました。第3楽章は,メヌエット楽章なのですが,メロディラインの動きが大変滑らかで,しなやかで優雅なワルツを聞くようでした。井上さんも踊っているようで,中間部の管楽器も大変表情豊かでした。

第4楽章も颯爽としたスピード感があり,開幕公演に相応しいエネルギーを感じました。フーガの部分は,各声部の動きが大変クリアでキリリと引き締まっていました。曲の最後の部分はティンパニが堂々と締めていましたが(この演奏では菅原淳さんがティンパニを担当していました。確か昨年のLFJKにも参加されていたと思います。),機関車がエンジンを停止するようなたくましさを感じました。

この日は,昨年同様,立ち見が出るほどお客さんが入っていたので(この公演では,ステージ席には実行委員の皆さんが座っていましたので,立ち見になったようです),心なしか音楽堂の残響が短く感じました。そのせいか,それほど壮麗な感じはしなかったのですが,2年目のLFJKのオープニングに相応しい力のこもった演奏でした。

LFJKでは,通常アンコールはないと思うのですが,オープニング・コンサートということで,特別に短い曲が演奏されました。恐らく,この日の午前11時にJR金沢駅でテープカットをした時に「ファンファーレ」として金沢大学フィルが演奏した,モーツァルトの曲のメドレーと同じものだったと思います(このファンファーレですが,OEKの演奏曲のアレンジでお馴染みの倉知竜也さんによるものです。実は,倉知さんご本人からこのファンファーレについてメールを頂きましたので,後日,その詳細をご紹介しましょう)。「ラ・フォル・ジュルネ」という言葉自体,「フィガロの結婚」に由来していますので,熱狂の気分にぴったりでした。

というわけで,これからの「熱狂の1週間」を予感させるような,楽しくて内容の詰まった公演となりました。

PS.演奏に先立って,池辺晋一郎さんの司会で開会式が行われました。谷本知事,前田実行委員長,飛田石川県芸術文化協会会長,ルネ・マルタンさんが挨拶されたのですが,それぞれ,率直にLFJKに対する思いを込めており,興味深いものでした。

まず,実行委員長の前田利祐さんですが,「お金集めが大変だった」と率直に語っていました。昨年は準備期間が短かった上に「”ラフォルなんとか...”というわけのわからないイベント」にお金を出してもらうのに苦労されたのですが,今年は知名度は上がったけれども,やはり不況の影響が大きかったようです。それでも文化活動を支えようという意識の高い北陸地方の底力に感心したとのことです。これもやはり,昨年の大成功に支えられているのだと思います。それと谷本知事が語られていたとおり,「前田のお殿様」に頼まれると,嫌とはいえない,というところがあると思います。そういう点で,LFJKのロゴが前田家の梅鉢のデザインになっているのはぴったりといえます。

谷本石川県知事は,「是非,来年以降も続けたい」ということを強調されていました。クラシック音楽ファンとしては,大変嬉しいのですが,やはりこれも,2年目の成果に掛かってくると思います。それと,北陸地方の景気次第でしょうか?

飛田氏は,LFJKの会場を金沢市中心部まで広げて欲しいという希望を述べていました。金沢という都市の核は,歴史的に見ても金沢城ですので,そのとおりではあるのですが,LFJKという音楽祭の「密度の高さ」という特質との両立という点では難しいところがあります。現在の密度の高さを維持したまま,市中心部で何かLFJKのテーマに沿ったイベントを行うというのは考えられると思います。例えば,1日だけ金沢城公園で野外オペラを上演するとかどうですかねぇ?

最後にルネ・マルタンさんの挨拶ですが,「ラ・フォル・ジュルネは精神である」と語っていました。その精神というか哲学は,誰もが参加できるということです。マルタンさんは,「この精神が金沢にはある」と語っていました。金沢市中心の中学生がアマデウスの衣装を着て,金沢のオーケストラと共演し,大いに盛り上がる...というのはまさにラ・フォル・ジュルネの精神そのものかもしれません。そういう意味で,最終日の市民合唱団によるレクイエムが大変楽しみになってきました。

池辺さんの司会もまた,ユーモアに満ちたもので,LFJK精神にぴったり(?)でした。「祝電を披露します。「何で君の曲ばかりもてはやされる。サリエリより」という架空の電報を作ったり(祝電の披露の準備ができていなかったため,とっさの機転を利かせたようです),「作曲家は寡黙(かもく=火木)ですが,今日は水曜日なのでしゃべります」とか,いつもにも増して冴えていました。

音楽堂入口付近は,昨年同様の雰囲気になっていました。もちろん交流ホールにはあの赤い八角形のステージができていました。グッズコーナーではやはり辻口さんのケーキが人気を集めていました。私は公式CD(1枚1000円(ただしOEKの演奏は含まれていません))を購入しました。

金沢オリジナルのチケット・ホルダーがあれば買ったのですが(今年はマルチパスがないので使い出がありそう),残念ながら東京と共通のデザインだったので購入しませんでした。

以下,写真で音楽堂内の光景をご紹介しましょう。午前中だったので,まだ人気がほとんどありませんが,午後からは一気にお客さんの数が増えました。
全スケジュールの書かれたボードです
当日券売り場です。

青島広志さんのイラストです。
4月30日と5月1日の公演情報です。
案内板を見ているだけで楽しい気分が伝わってきます。 コンサートホールの愛称はアマデウスです。
インフォメーションコーナーです。 お薦めコンサートに印がつけられていました。 「熱狂のグルメ」の冊子です。クーポン券があると割引になる店も多いようです。
当日の公演情報です。 館内の案内図です。 グッズコーナーは,「モーツァルト市場」という名称です。
ラ・フォル・ジュルネのマークの入ったワイン?やモーツァルトにちなんだ日本酒です。

Tシャツも沢山販売していました。 絵はがきです。こちらもヴォトルバさんのデザインによるものです。
ルネ・マルタンさんの選曲による公式CD(各1000円)です。左がモーツァルトの作品集,右が東京会場のテーマであるバッハの作品集です。

昨年同様,石川県出身のパテシエの辻口さんによるオリジナル・スイーツを販売していました。 ピアノ・ソナタとレクイエムという名前のお菓子です。既に大人気でしたので,売り切れは必至でしょう。
おなじみの八角形の赤いステージも交流ホールに登場していました。

交流ホールの愛称は,ダ・ポンテです。 チケット・ボックス前です。色合いがどこかLFJK2009と似ていますね。
チケットボックス前でもおすすめコンサートを紹介していました。

Magic Flute Stageと名付けられたコーナーです。一体,どういうイベントが行われるのでしょうか?

邦楽ホール前のスケジュール表です。
ラ・フォル・ジュルネカレンダーです。我が家にもあります。

協賛企業のリストも掲示されていました。 音楽堂前の掲示です。
(2009/05/01)

アマデウス
コンサートホール

音楽堂の入口です。


コンサートホール内には,ケイタイ禁止の大きなサインが出ていました。これが切り札となるかどうか?


今回の公演のリーフレットです。


2階のロビーから入口付近を見たものです。


入口付近です。赤じゅうたんを見るとラ・フォル・ジュルネ気分になりますね。


こちらは,邦楽ホールに向かう通路です。



3階席からも金沢市立泉野小学校の演奏が見えました。