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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2009:モーツァルトと仲間たち
【131】ジェン=フレデリク・ヌーブルジェ
2009/05/02 10:30- 金沢市アートホール
モーツァルト/ピアノ・ソナタ第1番ハ長調K.279
モーツァルト/ロンドイ短調K.511
モーツァルト/ロンドニ長調K.485
モーツァルト/ピアノ・ソナタ第11番イ長調K.331「トルコ行進曲付き」
(アンコール)バッハJ.S./イタリア協奏曲ヘ長調BWV.971〜第3楽章
●演奏
ジャン=フレデリク・ヌーブルジェ(ピアノ)

Review by 管理人hs
ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)本公演初日,まず,金沢市アートホール(愛称:ジュスマイヤー)で行われたフランスの若手ピアニスト,ジャン=フレデリク・ヌーブルジェさんの演奏を聞きました。実は,ヌーブルジェさんについては,昨年11月に東京に出かけた時にたまたま行われていたルネ・マルタンさんプロデュースによる「ル・ジュルナル・ド・ショパン」で聞いたことがあります。その時のショパンの練習曲集の演奏が素晴らしかったので,今回,金沢で聞けるということで大いに期待をしてこの演奏会を選びました。

東京では,東京オペラシティ・コンサートホールという,石川県立音楽堂コンサートホールぐらいの大きさのホールで聞いたのですが,今回は金沢市アートホールという座席数300程度の小規模ホールで聞いたので,さらにその素晴らしさを実感することができました。早朝の公演にも関わらず,ほぼ満席になっていました。

最初に演奏されたピアノ・ソナタ第1番ですが,こういう一見地味な曲でも,ヌーブルジェさんのピアノの素晴らしさを実感できました。モーツァルトの演奏ということで,強烈なタッチではないのですが,すべての音が磨かれている感じで,大理石の彫刻を見るような立派さを感じました。基本的に音色が明るく,濁りが無いので,シンプルに演奏するだけで,古典的なバランスの良さを感じました。第2楽章もさらりと始まったのですが,次第に陰影が出てきて,曲に深みが出てきました。第3楽章も慌てるところのないしっかりとした演奏で,比較的初期のソナタにも関わらず堂々とした演奏になっていました。

一言で言うと,パーフェクトということになります。まさに朝一の時間帯の目覚めにぴったりの演奏でした。

次のロンドイ短調もまた,美しいタッチが印象的でした。しっかりしているけれども,優しいタッチの演奏からは,ショパンを連想させるような,少し甘い気分もありました。中間部は光が差すように明るくなるのですが,どこか悲しみが漂っていました。その余韻を残したまま,ずっと手を鍵盤から離さずにいましたので,拍手は入らず,そのまま次のロンドニ長調が始まりました。ソナチネ・アルバムなどに入っている可愛らしい曲ということで,大変やかな演奏でした。しかも,地に足が着いた落ち着きと余裕もあり,しっかりと聞かせてくれました。

最後に,おなじみのピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」が演奏されました。第1楽章は変奏曲形式ですが,多彩な表情を楽しむことができました。主題は,全く飾り気がなく意外なほどさらりと始まりました。それが変奏進むにつれて表情がどんどん変化していきました。それに応じて次第に熱気を帯びていくのはライブならではです。短調に変わる部分での不思議な音の輝き,魔法がかかったような幻想的なタッチ,そして快速に締めくくられる終曲とピアノの多彩な表現を堪能できました。今回は各変奏をしっかり繰り返していたので第1楽章の演奏時間はかなり長くなっていました。この点でも聞き応えたっぷりでした。

第2楽章はこの1楽章と対象的にコンパクトなメヌエットでした。しかし,ここでもニュアンスが豊かで単調にはなっていませんでした。第3楽章は,キビキビした明快なタッチによるすっきりした演奏でした。ダイナミックさを持ちながらも,ぎゅっと凝縮されたような演奏でした。特に,由紀さおり・安田祥子姉妹ならば「ダバダバ,ダバダバ...」と一息に歌う中間部のパッセージの音の粒立ちの美しさが聞きものでした。素晴らしいメカニックに加え,そこに詩情が漂うのかヌーブルジェさんの魅力だと思います。

LFJKでは,アンコールはないかと思ったのですが(この時点で既に1時間経っていたので),盛大な拍手に答えバッハのイタリア協奏曲の終楽章がアンコールで演奏されました。これは,東京で行われるラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンを意識しての選曲だったのかもしれませんが,これもまた目が覚めるように鮮やかな明快な演奏でした。聞いているうちに頭の回転がよくなって来るような(茂木健一郎さんでは,ありませんが,聞いている間はそんな気がしました)バッハでした。

この公演ですが,演奏時間が70分近くになってしまい,次の公演の開演時間が迫って来たので,若き逸材ピアニストの演奏に感嘆しながらも,ジュスマイヤーを足早に後にしました。

PS..左の写真のとおりサイン会も行われていたようですが,参加できませんでした。
(2009/05/05)


ジュスマイヤー
金沢市アートホール


金沢市アートホール(愛称:ジュスマイヤー)への入口となるエレベータの前です。


アートホール前のスケジュール表です。


アートホールの椅子に描かれている梅のデザインですが,ラ・フォル・ジュルネ金沢のロゴとがシンクロしていました。


終演後は,横断歩道を渡って音楽堂方面に戻ることになります。今回は,公演時間が延びたので,皆さん焦っていたと思います。


アートホールの入っているポルテの前にも案内の掲示が大きく出ていました。