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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2009:モーツァルトと仲間たち
【221】ファニー・クラマジラン,リディヤ・ヒジャーク
2009/05/03 10:15- 石川県立音楽堂邦楽ホール
モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第25番ト長調,K.301
モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第28番ホ短調,K.304
モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第36番変ホ長調,K.380
●演奏
ファニー・クラマジラン(ヴァイオリン),リディヤ・ビジャーク(ピアノ)

Review by 管理人hs

  • 本公演2日目の邦楽ホールの最初の公演。ヴァイオリン・ソナタ3曲の組み合わせ
  • 空席はいくらかあったが,朝の10時15分ということを考えると,非常によく入っているとも言える。
  • ヴァイオリンのファニー・クラマジランさんは,1984年パリ生まれの若手ヴァイオリン奏者。とても小柄な方で,ラ・フォル・ジュルネ金沢の公式ガイドブックの中の対談では「会うと普通のかわいい女の子だけど,演奏する時は毅然としている。...ヒラリー・ハーンと五嶋みどりを足して2で割ったような...」一同「おお!すごいね〜(笑)」「それば聴かなくちゃ!」と書かれています。
  • 個人的には,庄司紗矢香さんあたりと通じる雰囲気もあると感じた。黒髪が強い印象を与えると同時に,非常に親近感を感じた。見た目は初々しいけれども,既に完成されたヴァオリニストだと思います。年齢的にも庄司さんとほぼ同じ世代。今後注目の奏者だと思います。
  • ピアノのリディア・ヒジャークさんは,前日,ソロの演奏を聞いたばかりのサンヤ・ビジャークさんのお姉さんに当たる。同じく公式ガイドブックの記述によると「ピアノのビジャーク姉妹は見た目も美しいので,ナントでは冗談半分に”ビジュアル姉妹”と呼ばれていたのですが(笑)...」とのことです。さすが,クラシックソムリエの方々はうまいこと書かれますね。

■ヴァイオリン・ソナタ第25番ト長調,K.301
  • まず,クラマジンさんのヴァイオリンの素晴らしさを実感。そんなにお化粧をしなくてもストレートに演奏すればモーツァルトの良さが引き出されることを証明するような演奏。
  • 音程が正確でストレートな表現。音楽の流れはとても良いが流れすぎず,甘さを感じさせない(これは残響の少ない邦楽ホールで聞いたせいもあるかもしれません)。芯の強さや逞しさも十分にある。
  • モーツァルトのヴァイオリン・ソナタはピアノもとても重要だが,この演奏も互角のバランス。ビジャークさんのピアノは安定感抜群で,その上にのって,クラマジンさんが存分に弾いている感じ。
  • 第2楽章は哀愁のあるトリルが魅力的。今回のLFJK2009では,K.300前後の「モーツァルトのお母さんの死」前後のピアノ・ソナタをよく聞いているが,このヴァイオリン・ソナタもその頃の作品。後期の曲とは一味違う,別の魅力をもった曲が残っていることを実感

■ヴァイオリン・ソナタ第28番ホ短調,K.304
  • ヴァイオリン・ソナタの中では,数少ない短調作品。前曲同様,この曲も2楽章構成。
  • ストレートな表現で速いテンポで演奏しているので,悲しみに浸るだけでなく,それに立ち向かう強さも表現されている。音の流れに勢いがあり,センチメンタルなところはない。
  • しかし,第2楽章になると哀愁が漂い,はかないけれどもそこが心地よいといった感じになる。ピアノがやさしくヴァイオリンを慰めるような風情も良い。

■ヴァイオリン・ソナタ第36番変ホ長調,K.380
  • K.304がどこかプライベートな感じを与える曲だったのに対し,この曲は,冒頭からしっかりとした和音で始まり,公式的な曲という感じの立派さを持っている。
  • 第2楽章はピアノとヴァイオリンによる哀愁のある掛け合いが魅力的。どこかエキゾティクな気分さえ感じさせるところがある。第3楽章はステップするような若々しさが気持ちよい。しっかりとした主張の強さもあった。
(2009/05/09)