OEKfan > 演奏会レビュー

LFJk2009 熱狂のレビュー・トップページ
ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2009:モーツァルトと仲間たち
【315】ゴルカ・シエラ,ラ・フォル・ジュルネ合唱団他
2009/05/04 17:30- 石川県立音楽堂コンサートホール
1)モーツァルト/レクイエムニ短調,K.626
2)モーツァルト/アヴェ・ヴェルム・コルプス,K.618
3)(アンコール)[ルネ・マルタンの名前を歌った合唱曲]
●演奏
ゴルカ・シエラ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィア*1-2,ラ・フォル・ジュルネ合唱団(合唱指揮:朝倉喜裕),黒瀬恵(オルガン*1-2)
森麻季(ソプラノ*1),ダニエラ・ジャコヴァ(メゾ・ソプラノ*1),マーク・フォウラー(テノール*1),ヴェセリン・ストイコフ(バリトン*1))
Review by 管理人hs
  • コンサートホールでの最終公演ということで,実質的にラ・フォル・ジュルネ金沢2009の”大トリ”の公演。会場は,立ち見も出る大入り満員だった。
  • ナントをはじめ,世界各地で行われている「ラ・フォル・ジュルネ」の中でも,市民参加の合唱団による公演で音楽祭を締めくくるケースは珍しいと思われる。
  • ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)については,世界各地から集まってくる大勢のアーティストの演奏を楽しむと同時に,OEKをはじめとする地元アーティストの活躍のウェイトが大きいことが特徴となっている。最終公演にOEKが登場しなかったのは,残念な面もあったが,ゴルカ・シエラ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィアと地元の合唱団が共演するというのは,LFJKのあり方を見事に象徴していたとも言える。
  • 今回のモーツアルトのレクイエムの演奏上の特徴は,パイプ・オルガンが入っていた点である。随所で重低音が響き,「石川県立音楽堂あってのLFJK」を最後に印象付けていた。
  • 合唱団の人数は80名ぐらい。近年,OEK合唱団などでは,男声の人数の比率が非常に少ないことがあったが,今回の合唱団は,見た目的にも男女のバランスが良かったと思う。

■レクイエムニ短調,K.626
  • 出だしから,引きずるようなゆったりとしたテンポで開始。指揮のシエラさん自身,オルガン奏者ということだが,出てくる合唱の響きもオルガン・トーンでふくよか。悠揚迫らぬ迫力があり,市民が一丸になったような盛り上がりを1曲目から感じた。
  • ソリストは,ソプラノの森麻季さんから歌い始めたが,透明な声は相変わらず。この声を聞いて,さらに合唱のテンションが上がったのではないかと思う。
  • 「キリエ」の部分の合唱は,フーガになるが,そのくっきりとした歌いぶりも見事。
  • 「怒りの日」は,非常にキビキビとしたスピード感のあるテンポで,驚くほどの切れ味があった。「今回は合唱が主役だ!」と実感。
  • 「トゥーバ・ミルム」は,トロンボーンにちょっとヒヤリとする部分が合ったが(テンポがうまく合わなかった?),各ソリストのバランスは悪くなかった。
  • その後も合唱団の歌には,常に気迫がこもり,切迫感があった。
  • 「涙の日」は,かなり速いテンポで,透明で儚げ。それが次第に深みを増し,最後の「アーメン」の部分は,非常に長く伸ばしていた。ティンパニの音も加わり,中盤のクライマックスを築いていた。
  • 後半の曲では,随所に出てくるフーガの部分の力強さが印象的だった。男声の重量感が素晴らしいと思った。
  • シンフォニア・ヴァルソヴィアの演奏は,一貫して落ち着いた響きで,レクイエムに相応しい気分が出ていた。
  • 最後の「アニュス・デイ」では,広がりや大らかさを感じた。森さんのソプラノが,最初の時よりもさらに艶を増して再帰した後,いよいよ大詰めに。このフーガの部分では,LFJK全体の終結感も加わり,感動的だった。特に最後の一音はには,パイプ・オルガンとティンパニの音がダイナミックに加わり,大きな存在に包まれるような深さを感じた。

■アヴェ・ヴェルム・コルプス,K.618
  • モーツァルトの宗教曲の後,アンコール的にアヴェ・ヴェルム・コルプスが歌われることは多いが(今回は,最初からプログラムに入っていましたが),今回の演奏は,特に印象的・感動的だった。
  • こんなに遅いテンポで,弱音で維持したまま歌われるのを聞いたことがない。祭典が終わるのを惜しむ気持ち,レクイエムを歌い上げた安堵感,それと何だかよくわからないけれども感謝をしたい気持ち...そういうものが一体になった素晴らしい演奏だった。
  • そして,レクイエムでもそうだったが,この演奏で何より素晴らしかったのは,会場が非常に静かだった点である。静かにまじめに聞いていた聴衆もしっかり音楽に参加していたと思う。

■アンコール
  • 最後に,「隠し玉」的なアンコールが1曲演奏された。シエラさんが「ルネ・マルタンの名前を歌います」と語った後,ア・カペラで「ル・ネ・マ・ル・タン」という感じの歌詞で神秘的な響きの曲が歌われた。会場にマルタンさんがいたかどうか分からないのですが,このプレゼントにはびっくりしたことでしょう。



  • 終演後,ホールには,人が溢れ,合唱団が退場するまで拍手が止まなかった。私の近くに座っていた人は,「レクイエムのチケットが取れて本当によかった」といった会話をしていたが,金沢にラ・フォル・ジュルネの精神が根付いたことを示すような公演だったと思う。
  • ラ・フォル・ジュルネ金沢は,東京のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンに比べると,世界的に著名なアーティストの参加数は少ないと思うが(これはイベントの規模の差でもあるが),自らヒーロー,ヒロインを生み出し,それを楽しんでいるという点では,東京を越えていると思う。そのヒーロー,ヒロインというのは,オープニング・コンサートで,アマデウスの衣装で登場した中林君であり,モーツァルト・マラソンに登場した地元のピアニストたちであり,井上道義さんとOEKであり,そして,ラ・フォル・ジュルネ合唱団だったと思う。

(2009/05/12w)