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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2009:モーツァルトと仲間たち
【324】能舞・筝・モーツァルト
2009/05/04 16:30- 石川県立音楽堂邦楽ホール
1)モーツァルト(倉知竜也編曲)/ピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466〜第2楽章
2)宮城道雄/さらし風手事
3)モーツァルト(倉知竜也編曲)/ピアノ・ソナタ第11番イ長調K.331「トルコ行進曲付き」〜第3楽章
4)モーツァルト(倉知竜也編曲)/ピアノ・ソナタ第11番イ長調K.331「トルコ行進曲付き」〜第1楽章
5)モーツァルト/セレナード第13番ト長調K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
●演奏
能舞:藪俊彦*1,5,筝合奏:石川県筝曲連盟*2-4
オーケストラ・アンサンブル金沢メンバー(アビゲイル・ヤング,原田智子(第1ヴァイオリン),江原千絵,ヴォーン・ヒューズ(第2ヴァイオリン),ダニイル・グリシン,田中茜(ヴィオラ),早川寛(チェロ),ダニエリス・ルビナス(コントラバス))*1,5
江尻南美(ピアノ*1),藤舎眞衣(笛*4)
司会:池辺晋一郎)

Review by 管理人hs

  • 今回のLFJKの目玉と言っても良い公演。この公演の後,市民参加による合唱団によるレクイエムがコンサートホールの方で行われ,音楽祭が締めくくられたが,この構成は,「金沢ならでは」「金沢らしさ」を強くアピールする内容で,大成功だった思う。この公演も満席。
  • これまでOEKは,地元の和楽器奏者との共演を行ってきたが,その集大成となるような面白い公演だった。特にあれこれ普通のクラシック音楽を聞きまくった後だと,和風の雰囲気やビジュアル面でアピールするような公演内容が非常に新鮮に感じた。
  • 進行役として,池辺晋一郎さんが登場。池辺さん自身も,この公演内容に大変感心したようで,曲や演奏に対するコメント(及びシャレ)も大変冴えてしました。

■モーツァルト(倉知竜也編曲)/ピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466〜第2楽章
  • 意図したものではないと思うが,つい先ほどまで菊池洋子さんの演奏で聞いていたのと同じ曲を続けて邦楽ホールで聞くという面白さを実感。
  • 真っ暗な会場の幕が開くと,ステージ奥にOEKの弦楽メンバーとピアノの江尻南美さんが並んでおり,静かにピアノ協奏曲第20番の第2楽章の演奏を開始。能楽師の藪俊彦さんがこれまた静かにすっと競り上がってくると,雰囲気は一気に能の舞台に。幕や競り上がり装置のある邦楽ホールならではのパフォーマンス。
  • 藪さんは,予想していたよりも大きく動いており,からくり人形を見るような雰囲気もあった。途中で衣装が変わると同時に,面の方も鬼になったが,音楽の変化とぴったりと一致しており,素晴らしかった。静かなドラマが音楽によってさらに分かりやすくなったようなところがあり,クラシック音楽ファンにとっては,親しみやすかったのではないかと思う。
  • 演奏後の池辺さんのトークによると「源氏物語」の「葵上」をイメージしたものとのこと。この辺については,やはり予備知識があった方が良いと思うので,プログラムに一言書いておいて欲しかった。

■宮城道雄/さらし風手事
  • 幕が上がると金屏風があり,その前に美しい和服を来た女性が4名。演奏されたのは,モーツァルトは全く関係なく,宮城道雄作曲による純粋な邦楽作品。
  • 池辺さんの説明によると,今回は生田流と山田流の合同演奏ということで,どこか華やいだ気分もあった。

■モーツァルト(倉知竜也編曲)/ピアノ・ソナタ第11番イ長調K.331「トルコ行進曲付き」〜第3楽章,第1楽章

  • 金屏風を取り払うと,さらにその後ろに筝奏者数名が控えており,筝合奏によるモーツァルト演奏を開始。
  • 最初にトルコ行進曲を演奏。倉知竜也さんによる編曲は,「さくら」とトルコ行進曲が合体された,凝ったもの。
  • その後,同じK.331のソナタの第1楽章も演奏された。こちらは,藤舎眞衣さんの笛(名前は分かりませんが横笛です)のソロも入り,さらに華やかな雰囲気になった。主題の後,かなり細かい音の動きが入る,変奏の部分も演奏してくれていたのが嬉しかった。
  • リーフレットの出演者名には,藤舎眞衣さんのお名前が書いてなかったが,藤舎さんが登場すると,「あっ藤舎眞衣さんや」という声が,近くの座席から聞こえてきた。地元では有名な方なのだということを実感(周りの空気を変えるような雰囲気を持った方です)。
  • 演奏後,池辺さんは,シェークスピアの作品を日本風に置き換えて「蜘蛛の巣城」「乱」といった映画を作った黒澤明監督の例にして,「モーツァルトについても,やはりモーツァルトですね」といった説明をしていたが,今回の編曲は,大変面白い試みだったと思う。

■モーツァルト/セレナード第13番ト長調K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
  • 最後に,再度,能楽師の藪さんの能舞を交えた曲が演奏された。
  • ここでは,胡蝶のイメージで「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」が演奏された。池辺先生が,「アイネ・クライネ...」というのは,「夜の音楽」という意味なので,「これは夜の蝶?」というコメントも面白かった。
  • 能舞は,第2楽章の部分にだけ登場したのだが,実はこの2楽章が終わった時点で,かなり演奏時間が長くなっており,次の公演のレクイエムの開演時間が迫ってきていた。恐らく,この公演の後,レクイエムを聞くためにコンサートホールに移動する人はかなり多いはずなので,「皆で遅れれば怖くない」という感じで慌てなかったが,第3楽章,第4楽章は,ほとんど落ち着いて聞けなかった。この慌しさはLFJKの問題点かもしれない。演奏後の拍手の途中で立ち上がっている人が多く,演奏者の皆さんには申し訳なかった。

■備考
  • 池辺さん恒例のシャレですが,邦楽ホールだと,また違った趣きになるのが面白かった。 次のような感じでした。
  • 「邦楽ホールで演奏されるモーツァルトというのは「方角」違いですが...」
  • 「今のステージを見て高速道路を思い出しました。渋滞がない→じうたいがない→地謡がいない(これは非常に高度なシャレでした)」

(2009/05/11)