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ラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭2009
モーツァルト・ピアノマラソン第1回
2009/03/01 北國新聞赤羽ホール交流ホール
1)モーツァルト/ロンドニ長調,K.485
2)モーツァルト/ウィーンソナチネ第1番〜第1,3,4楽章
3)モーツァルト/四手のためのピアノ・ソナタニ長調〜第3楽章
4)モーツァルト/ピアノ・ソナタ第1番ハ長調K.279
●演奏
鴻渡千亜季*1, 加森日奈子*2, 尾田萌々香*3, 尾田奈々帆*3, 米谷昌美*4(ピアノ)
司会:米谷昌美
Review by 管理人hs  
ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)「熱狂の日」音楽祭2009のプレイベント「モーツァルト・ピアノマラソン」の第1回目が行われたので,北國新聞赤羽ホールに出かけてきました。3月になり,いよいよ,LFJK2009も始動といったところです。

LFJKの特徴として「市民参加型」「地域密着型」といったことが言われていますが,このマラソン企画は,その典型と言えます。これから5月までの約2ヶ月,ピアノ・ソナタを中心に,モーツアルトのピアノ曲ばかりを県内各地で地元のピアニストが演奏することになります。世界的に見ても,過去にこういう企画が行われたことがあるかどうか分かりませんが,いろいろな年代のピアニストと聴衆が「モーツァルト」「金沢」というキーワードで集まってくるというだけで嬉しくなります。子どもでも演奏可能な曲が比較的多い,モーツァルトという作曲家だからこそ実現可能な企画と言えます。

今回の公演は,通常のコンサートホールではなく,赤羽ホールの入口のすぐ隣にある交流ホールで行われました。この交流ホールで音楽を聞くのは初めてのことでしたが,石川県立音楽堂の交流ホール同様,非常に間近で演奏を聞くことができる空間です。ステージはなく,平坦な多目的スペースにピアノを置き,そのすぐ傍にお客さん用の椅子を並べるという形になっていました。金沢蓄音器館の多目的スペースと同じ形ですが(収容人数はこちらの方がかなり多いと思います),通常のコンサート・ホールでは味わえない親近感を持って音楽を楽しむことができました。

第1回公演ですが,小学2年生から大人のピアニストまで,5人の方が登場しました。一見したところ,ピアノ教室の生徒さんと先生という感じなのですが,1月末に中村紘子さんを審査委員長とするオーディションに合格された方たちばかりである点が違います。どの曲の演奏も大変レべルの高いもので,各曲の個性と演奏者の個性がしっかり伝わってきました。公演の長さは,LFJKの本番同様,45分から60分ほどの時間でしたが,進行役も兼ねていたピアニストの米谷昌美さんと子どもたちとの楽しいトークを交え,とても充実した楽しい時間を過ごすことができました。

まず,石川県ピアノ協会の東海林也令子さんのあいさつがあった後,米谷さんが進行役となり,演奏が始まりました。最初に登場したのは,中学校1年生の鴻渡千亜季さんでした。LFJK全体から見ても最初の演奏ということで,緊張されたと思いますが,大変しっかりとしたタッチで,澄んだ青空を思わせる演奏を聞かせてくれました。この曲は,モーツァルトの晩年近くの作品ですが,この邪気の無さというのは,モーツァルトのいちばんの魅力だと改めて感じました。

続いて,小学2年生の加森日奈子さんが登場しました。演奏したウィーン・ソナチネという曲は,バセットホルンのためのディヴェルティメントをピアノ用にアレンジしたもので,曲の形式を勉強するための教材としてとても良い曲集とのことでした。加森さんは,通常の椅子だと地面に足が届かないぐらい小柄なのですが,とても立派に演奏しており,大きな拍手を受けていました。モーツァルトと言えば「神童」ということで,小さい子が弾く方がぴったり来る曲だと思いました。

その後は,ピアノ連弾でした。小学校3年生と5年生の尾田萌々香さん, 尾田奈々帆さん姉妹による四手のためのソナタニ長調の第3楽章が演奏されました。2台のピアノのためのソナタについては,「のだめカンタービレ」ですっかり有名になりましたが,この四手(つまり連弾)のためのソナタは,それとはまた別の作品です。演奏後のインタビューによると,毎日毎日,時折喧嘩(?)をしながらも,練習を積み重ねてきた演奏ということで,とても迫力のある演奏でした。米谷さんもおっしゃっていましたが,ピタリと息のあった演奏を聞いて,聞きに来ていた大人たちは,しっかりと元気をもらったのではないかと思います。

最後は,米谷昌美さんの演奏で,ピアノソナタ第1番の全曲が演奏されました。通常のピアノ・リサイタルで,この曲が取り上げられることはまず無いとのことでしたが,こうやってトリで演奏すれば,しっかりとトリの曲となるのが面白いところです。

ただし,この曲は,モーツァルト18歳の時の曲ということで,ケッヘル番号的に言えば,交響曲第25番や第29番といった名作よりは後の番号になります。また,弦楽四重奏だと第1番「ローディ」は,K.80ですので,それと比較すれば,それほど初期の作品というわけでもありません。モーツァルトの場合,満を持してピアノ・ソナタに取り組んだとも言えると思います。

この曲は,演奏旅行のために作られた曲ということで,15分程度の曲です。全体にとても明るく親しみやすい曲ですが,その中では2楽章オペラのアリアのような雰囲気が特に印象的です。米谷さんの演奏は,子どもたちの演奏に比べると,やはり演奏の陰影が違うなと感じました。とても濃厚な演奏でした。その後に続く,第3楽章は,非常にさわやかで,第1回目を気持ち良く締めてくれました。

私が参加した第1回は,午前中に行われた公演も関わらず,かなり沢山のお客さんが入っていました。恐らく,「ラ・フォル・ジュルネ」という冠を付けるかどうかによって,かなり集客力が違うのではないかと思います。その辺に”熱狂のマジック”のようなものを感じました。今回の公演については,出演者やそのご家族の皆さんにとって,恐らく,一生の思い出になったと思います。

このモーツァルト・マラソンは,2ヶ月ほど掛けて,金沢市内だけでなく,津幡町,野々市町等石川県内各地でも行われます。約40公演が90人以上のピアニストによって行われるイベントということで,かつて無かった面白いものになりそうな予感がします(金沢でピアノ・ブームになるかも?)。LFJKをオリンピックに例えれば,”熱狂の聖火リレー”といったところです。このリレーともに,徐々に「モーツァルト熱」が県内に波及していくことになります。

LFJKの気分を少しでも早く楽しみたい,という方は,是非一度参加してみてください。 
(2009/03/02)

関連写真集
いよいよ,ラ・フォル・ジュルネ金沢2009のプレイベントが始まりました。音楽祭のポスターは,青地の背景にモーツァルトがウィンクをしているものです。北國新聞赤羽ホールの入口です。


公演の行われた交流ホールの入口です。


初めて入った交流ホールです。ピアノの奥に豪華な屏風がありました。


入口には,花束沢山届いていました。


公演のリーフレットとラ・フォル・ジュルネ金沢全体のリーフレットです。