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ショパン生誕200年記念「石川県縦断ピアノコンサート」
2010/01/30 白山市松任学習センター
第1部 地元のピアニストたち
1)ショパン/ポロネーズ ト短調 遺作
2)ショパン/タランテラ 変イ長調,op.43
3)ショパン/ポロネーズ 変ホ短調,op.26-2
4)ショパン/子守唄 変ニ長調,op.57
5)ショパン/マズルカ ニ長調,op.33-2
6)ショパン/即興曲第2番 嬰ヘ長調,op.36
7)ショパン/バラード第4番 ヘ短調,op.52
●演奏
尾田萌々香*1,片岡真琴*2,江川友佳子*3,川岸香織*4-6,牧野 映美*7(ピアノ)

第2部 ゲストリサイタル
ショパン/ノクターン第1番変ロ短調 Op.9-1
ショパン/幻想即興曲 Op.66
ショパン/ワルツ第2番変イ長調 Op.34-1「華麗なる円舞曲」
ショパン/ノクターン第20番嬰ハ短調遺作
ショパン/バラード第1番ト短調 Op.23
(アンコール)ショパン/ワルツ第7番嬰ハ短調,op.64-2
●演奏
寺田まり(ピアノ)

Review by 管理人hs  

ラ・フォル・ジュルネ金沢の関連イベント,「ショパン生誕200年記念石川県縦断ピアノコンサート」が,白山市での公演でスタートしました。昨年の「モーツァルト・マラソン」では,オーディションを合格した地元のピアニストだけが登場したのですが,今年は,地元のアーティストに加え,世界的に活躍しているようなゲスト・ピアニストを加えての演奏ということで,より充実した内容となっています。

第1回目の白山市の会場は,白山市松任学習センター・コンサートホールでした。白山市は5年前に石川郡の市町村が合併してできた市です。このホールは,その中心の旧松任市の中心部にあります。一度行ってみたかったホールだったこともあり,30分ほど車に乗って,出かけてきました。当日券で入れるだろうと軽い気持ちで開演15分前ぐらいにホールに向かったのですが...驚いたことに,チケットは完売し,会場は超満員で立見になってしまいました(主催者側も予想外だったようで,入口付近はかなり混乱していました)。

今回のコンサートは,前半が地元のピアニストによる演奏,後半がゲストピアニストによる演奏という2部構成でしたが,やはり,地元を巻き込むと集客力がアップすることが分かりました。それとやはり,ラ・フォル・ジュルネ金沢への期待の大きさの反映だと思います。

前半は,白山市在住の3名の小中学生が学年順に登場する「ピアノの発表会形式」でした。白山市青少年ピアノコンクールで金賞を受賞した方ばかりということで,しっかりとしたタッチで,きっちりと曲を聞かせてくれました。続いて,地元の大人のピアニスト2名が登場しました。やはり音色の磨かれ方が一味違います。川岸香織さん,牧野映美さんともに,大変充実した演奏を聞かせてくました。

川岸さんが最初に演奏した子守唄の最初の音を聞いただけで,音の雰囲気の違いを感じました。技術的なことは分からないのですが,皆さん同じピアノを弾いていますので,ペダルの使い方,タッチの加減によって,音作りに個性が出るのでしょう。演奏全体にもたっぷりとした余裕があり,音楽に浸らせてくれました。

次のマズルカは,バレエ音楽「レ・シルフィード」にも出て来る曲で,一転して,パリッとした小気味良さを聞かせてくれました。即興曲第2番は,有名な幻想即興曲に比べるとあまり演奏されませんが,とても良い曲でした。前半のしっとりとした雰囲気と後半の華麗な指使いとが鮮やかコントラストを作っていました。

前半最後は,牧野映美さんが登場し,バラード第4番を演奏しました。前半の中ではいちばん規模の大きな作品ということで,曲の終盤に向けて大きく盛り上がるような演奏でした。

第2部では,ゲストピアニストの寺田まりさんが登場し,5曲を演奏しました。前半に登場した皆さんも,色とりどりのドレスを着て来られましたので,大変華やかでしたが,寺田さんの青緑のドレスも大変鮮やかで,雰囲気がさらに明るくなりました。

寺田さんの演奏も大変洗練されたものでした。最初のノクターン第1番から,非常に透明度の高い音を聞かせてくれました。今回,立見が幸い(?)して,結果的にかなり前の方で聞くことができ,磨かれたプロの音に間近に接することができました。シェープアップされた流線型のノクターンという感じでした。

続く幻想即興曲も落ち着いた雰囲気で始まった後,次第に流れが良くなり,曲のタイトルどおり,気分の赴くままに,音楽が漂っていきました。ワルツ第2番は,ちょっと速すぎるぐらいのテンポでしたが,非常に積極的に切り込んでくるような奔放さが魅力的でした。

ノクターン第20番は,このところ本当によく実演で演奏されます。思い入れたっぷりの演奏も良いのですが,今回は比較的さらりと演奏していました。最後のバラード第1番は,演奏会の締めということで,たっぷりと演奏されました。曲が進むにつれて,音楽が乗ってきて,華やかに花開くような感じになるような華麗な演奏でした。

最後にアンコールとして,嬰ハ短調のワルツがさらりと演奏されて演奏会は終わりました。

今回の演奏会ですが,満席だった割に拍手が少なかったのが,ちょっと残念でした。寺田さんの演奏の時,5曲の間,拍手が全く入りませんでした。ノクターンのような静かな曲の後に拍手が入らないことはよくありますが,ワルツとか幻想即興曲の後には,1回ぐらい拍手が入っても良いかなと感じました。恐らく,日常的に演奏会に出かけたことのない人が大勢来ていたのだと思います。

寺田さんも拍手が入らなかったので,ちょっと違和感を感じていたのではないかと思います。そのせいか,終盤の曲で,ちょっと詰めが甘いかなと感じさせる部分もありました。これだけ大勢のお客さんが入っていましたので,寺田さんの気分を乗せような拍手をして上げたかったな,と思いながら聞いていました。

また,演奏会全体の構成についても一考の余地があったと思いました。今回,演奏時間が予想より長く,1時間以上休憩なしで一気に行われました。「休憩を入れるには短く,通すには長い」という微妙な長さではありましたが,私自身,かなりのどが渇いたので,寺田さんの演奏の前に10分ぐらい休憩があっても良かったと思いました。

例えば,昨年のモーツァルト・マラソンの時のように,トークを交え,後半のボリュームを増すということも考えられたかと思います。寺田さんのプロフィールには,「トークコンサートを積極的に行っている」と書かれていましたので,そういうスタイルも可能だったと思います。恐らく,その方が,ショパンの音楽に対する,親しみを増すことができ(多分,拍手も増えたと思います),ラ・フォル・ジュルネ金沢の宣伝効果も上がったと思います。今回の会場には,ラ・フォル・ジュルネの「黄色いのぼり」やポスターもありませんでしたが(これは主催が違うからでしょうか),この辺を含め,企画・運営については,もう一工夫欲しいところでした。

何はともあれ,今年のラ・フォル・ジュルネ金沢もいよいよ始まりですね。

PS. 今回の白山市松任学習センターのコンサートホールですが,ピアノ・リサイタルにはぴったりのホールでした。響き過ぎず,すっきりとピアノの音が聞こえて来ます。席数もそれほど多くなく,傾斜が付いていますので,どこからも見やすいホールでした。

ただし,駐車場がよく分かりませんでした。図書館との複合施設なのですが,建物の周囲にはそれほどスペースはなく,最終的にJR松任駅近くの立体駐車場を使いました。今回,金沢方面から車で県道291号線を西に向かったのですが,JR松任駅前の交差点に着いた段階で,立体駐車場への案内が欲しいと思いました。

今回,一旦ホールのすぐ裏まで行った後,駐車場に入れないことが分かったので,少し離れたところにある立体駐車場まで移動したのですが,せっかくの良いホールなので,松任地区以外の利用者を想定した案内が必要かと感じました。

PS. 私には,白山市というよりは,いまだに松任市と呼ぶ方が分かりやすいのですが,金沢から近い割に,意外に松任市街に出かける機会はありません。今回,せっかく出かけてきましたので,JR松任駅周辺の様子を紹介しましょう。

ホールの反対側には図書館があります。 建物の中央には中庭があります。 この中庭には,所々に陶板画が置いてありました。これは松任出身の俳人・千代女の詠んだ「朝顔やつるべとられてもらい水」の句の俳画です。この絵は,白山市在住の挿絵画家西のぼるさんによるものです。
学習センターの向かいには,松任文化会館があります。2月14日には,合併5周年を記念して,ベートーヴェンの第9が金聖響さん指揮OEK等で演奏されます。 学習センター付近の遠景です。電柱がないせいか,非常にすっきりとした感じです。 「文化創生都市 白山」の立看。この辺は,「おかりや公園」というようです。
元は松任城本丸跡です。由来の書かれた石碑がありました。
その後,JR松任駅方面へ。途中の酒屋で見つけた一升瓶サイズの「キリン一番搾り」です。 JR松任駅です。こじんまりとしていますが,特急も時々は停まります。駅名よりも,「清酒手取川」の看板の方が大きいですね。
駅前はバスやタクシーの乗り場になっています。コミュニティバスも走っているようです。 駅の隣には,松任出身の宗教家・暁烏敏の銅像と歌碑(左側)がありました。「十億の人に十億の母あるも我が母にまさる母ありなんや」という有名な歌が刻まれています。 銅像の下には「汝自當知」と書かれています。「なんじみずからまさにしるべし」と読み下すのでしょうか。
どういう由来か分かりませんが,D-51もありました。
白山市立松任中川一政記念美術館がそのすぐ隣にあります。石川県出身ではないのですが,母方の出身地のようです。 千代女の出身地ということで,俳句ポストがありました。何か考えようと思ったのですが...とりあえず投句用ハガキだけもらってきました。
俳句ポストの隣の看板です。「駐 車」とスペースが空いているのが妙に気になります。「駐停車禁止」だった?った その近くには,白山市松任ふるさと館がありました。地元出身の吉田茂平氏の私邸を移築したものです。 俳句コンクールの結果が貼り出してありました。
千代女の里俳句館という施設がありました。こうやってみると,駅前に観光施設が密集していますね。 建物の前には千代女の像がありました。 こちらは,市民工房うるわしという建物です。5階建の立派な建物でした。
朝鮮通信使行列絵巻の横長の碑が俳句館の前にありました。

この絵も西のぼるさんによるものです。2つだけ座席が付いているのが面白いですね。 車を停めておいた駅前の立体駐車場に戻りました。
かなり安価な料金設定です。しかも,コンサートホール利用者の場合,3時間無料になりますので,私の場合無料で済みました。 今回,駐車場が混んでおり,最上階近くに停めました。南側からは白山連峰が見えました(白山自体が見えるのかは分かりませんが)。 反対側からはJR松任駅を見下ろすことができます。車両基地のようになっていました。再開発用(新幹線用?)のスペースもかなり残っていそうな感じでした。
   
特急が通過していったので,撮影してみました。良いカメラがあれば,鉄道ファンには良い撮影スポットになるかもしれません。 こちらは失敗写真です。すぐに通り過ぎてしまいました。     
(2010/01/31)

関連写真集

会場を示す看板


図書館とホールなどの複合施設です。


玄関


右手がコンサートホールです。


ホールの内部です。まだ新しい施設です。


ホール前にあったこの公演のポスター

パンフレットと配布されたチラシ類です。