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第7回石川県学生オーケストラ&オーケストラ・アンサンブル金沢合同公演
2010/02/28 石川県立音楽堂コンサートホール
1)シベリウス/交響詩「フィンランディア」
2)プロコフィエフ/交響曲第1番「古典交響曲」
3)ラフマニノフ/交響曲第2番
●演奏
ヴァリシス・クリストプーロス指揮石川県学生オーケストラ*1,3;オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:マルロ・イウラート)*2,3
Review by 管理人hs  

この時期恒例の,石川県内の大学オーケストラとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の合同公演を聞いてきました。今回の指揮者は,数日前にOEKの定期公演に登場したばかりのヴァシリス・クリストプーロスさんで,ラフマニノフの交響曲第2番が合同で演奏されました。恐らく,この曲が音楽堂で演奏されるのは初めてのことだと思いますが,かなりの大編成になっていたこともあり,非常に聞き応えがありました。弦楽器はもちろんのこと,管楽器の多くも倍ぐらいの人数になっており,各楽章のクライマックスを中心に,たっぷりとした重量感を楽しむことができました。

ただし,コントラバスは6人程度でそれほど多くなく,楽器の配置も20世紀の音楽にしては珍しく対向配置を取っていました。先日の定期公演でも対向配置だったので,クリストプーロスさん好みの配置と言えそうです。

このラフマニノフの交響曲第2番ですが,全曲で1時間ほどかかる大曲です(今回の演奏時間は計っていないのですが)。これまでの合同公演で取り上げてきた曲の中でもいちばんの大曲,難曲なのではないかと思います。

曲は第1楽章の冒頭から憂鬱な気分に包まれ,大編成の威力を生かした,たっぷりとした深い音が続きました。展開部になると,コンサートマスター(学生が務めていました)のソロをはじめ,いろいろな楽器のソロが出てきますが,どの楽器も大健闘していたと思います。何よりも音楽全体に余裕があるのが素晴らしく,安心して音楽に浸ることができました。

今回,相当回数の練習を行ったとのことですが,その成果が十分に出ていたのではないかと思います。学生オーケストラの核となっている金沢大学フィルは,昨年の8月に行われた井上道義さんによる指揮講習会のオーケストラとして登場し,その後,12月の定期演奏会でマーラーの交響曲第1番「巨人」を取り上げていますが,そういった経験も生きているのではないかと思います。

第2楽章は一転して,速いテンポになりました。ホルン・パートが一体となった力強い音をはじめとして,非常に緊迫感がありました。ちょっと弾き切れていないかな,という楽器もありましたが,随所に出て来るヴァイオリンの速い動きを中心に,生気に満ちた演奏が続きました。対照的に,熱いカンタービレを聞かせるような部分もあり,非常に変化に富んだ楽章となっていました。途中,静けさを破るように出て来る,「ドン」という一撃もしっかり決まっていました。

「ラフマニノフ節」全開の第3楽章では,甘さよりも暖かさを感じました。寒い冬に暖房のしっかり効いた室内にいるような快適さが,徐々に熱い感動へと変わっていくような盛り上がりがありました。長いソロのあるクラリネットをはじめとした木管楽器のソロも良かったと思います。

第4楽章は,輝きに満ちていました。ここでも編成の大きさを生かして,たっぷりとしたボリューム感を楽しむことができました。特に6人もいたトロンボーンや大太鼓,シンバルなどがクライマックスで加わると,演奏の厚みや迫力が目に見えて増します。クリストプーロスさんの指揮ぶりも余裕たっぷりで,曲全体が伸びやかにまとめられていました。

前半は学生オーケストラとOEKがそれぞれ単独で演奏しました。学生単独で演奏したシベリウスの「フィンランディア」は,率直でケレン味のない演奏でした。どこか端正な雰囲気で,有名なフィンランディア讃歌のメロディなどは,やや大人しいかなという気もしましたが,全体を通じて,浮ついた感じがせず,真摯さを感じさせてくれました。この曲でもクリストプーロスさんの曲の組み立て方がうまく,中盤でジリジリと息の長いクライマックスを作ったり,最後の最後の部分でグイッと盛り上がりを作ったり,しっかりと計算された,まとまりの良いる音楽に仕上がっていました。

OEK単独で演奏されたプロコフィエフの古典交響曲は,「さすが」という演奏でした。この曲を聞くと,故岩城宏之さんと創成期のOEKを思い出します。この曲については,「ハイドンが現代に生きていたら...」というコンセプトで作られた”コンパクトな交響曲”という印象を持っていたのですが,今回の演奏は,非常にスケールの大きな演奏になっていました。第1楽章の冒頭からじっくりとテンポを落とし,くっきりしたと音と音の絡み合いを楽しませてくれました。

第2楽章のヴァイオリンの高音部の美しさもより一層際立っていました。第3楽章も遅いテンポでしたが,この楽章については,念を入れるように微妙にテンポを揺らしており,この楽章のパロディ性を強調していたように感じました。

対照的に第4楽章は,ここまでの遅いテンポを振り払うような爽快なテンポで演奏されました。もしかしたら普通のテンポだったのかもしれませんが,ここまで,非常にゆったりと演奏されていましたので,一気に手綱が解き放たれたような疾走感がありました。木管楽器を中心とした音の輝きも素晴らしく,大変聞き応えがありました。

通常の感覚だと,「フィンランディア」に音量の点で負けてしまいそうですが,そうならないのが,やはりプロなのだと思います。やはり「さすが」という演奏でした。

学生オーケストラとOEKの共演もすっかり定着しましたが,毎回,OEK単独で聞けない作品を大編成の曲を取り上げてくれるのが,オーケストラ音楽のファンとしてはありがたいところです。過去6回では,チャイコフスキーの交響曲第5番,シベリウスの交響曲第2番,ベルリオーズの幻想交響曲,ショスタコーヴィチの交響曲第5番といった名曲が演奏されてきましたが,今回のラフマニノフの交響曲第2番は,それらに比べるとややしマイナーな曲です。さて来年は,どういう曲が取り上げられるのでしょうか?

交響曲の大曲と言えば,マーラー,ブルックナーが残っています。管弦楽曲でいうと,R.シュトラウス,ストラヴィンスキー,バルトークなどがあります。いずれにしても難易度が高そうです。ただし,前述のとおり,学生オーケストラのレベルも,段々と上がっている気がします。本業との勉学との両立はなかなか大変かもしれませんが,是非,こういった難曲にもにチャレンジしてもらいたいと思います。

こういった学生オーケストラの活躍は,金沢のクラシック音楽の裾野を広げているのに着実に貢献していると思います。特に金沢大学フィルは,ラ・フォル・ジュルネ2010の有料公演に登場するなど非常に活発な活動を行っています。今後の活動に期待したいと思います。

PS.この「石川県学生オーケストラ」ですが,「R★Sオケ」のような何か名称があっても面白い気がします。ネーミングを募集してみるというのは,いかがでしょうか?
(2010/03/03)

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公演のポスターです。