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オーケストラ・アンサンブル金沢第277回定期公演F
2010/03/06 石川県立音楽堂コンサートホール
1)宮川彬良/OEKポップスのテーマ
2)ショパン(宮川彬良編曲)/華麗なる大円舞曲op.18
3)ショパン(宮川彬良編曲)/子犬のワルツ
4)ポーランド民謡(宮川彬良編曲)/クラリネット・ポルカ
5)ブレイク(宮川彬良編曲)/メモリーズ・オヴ・ユー
6)アイルランド古歌(宮川彬良編曲)/ダニー・ボーイ
7)サイモン(宮川彬良編曲)/明日に架ける橋
8)プッチーニ(宮川彬良編曲)/歌劇『ジャンニ・スキッキ』〜「私のお父さん」
9)プッチーニ(宮川彬良編曲)/歌劇『蝶々夫人』〜「ある晴れた日に」
10)ロータ(宮川彬良編曲)/映画「ゴッド・ファーザー」〜愛のテーマ
11)モリコーネ(宮川彬良編曲)/映画「ニュー・シネマ・パラダイス」の音楽から
12)喜納昌吉(宮川彬良編曲)/花
13)日本古謡(宮川彬良編曲)/さくら幻想
14)宮川彬良編曲/ディズニー・シンフォニック・パレード
15)(アンコール)レノン&マッカートニー(宮川彬良編曲)/オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ
16)(アンコール)バーク(宮川彬良編曲)/映画「わんわん物語」〜ベラ・ノッテ
●演奏
宮川彬良指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:マウロ・イウラート)
宮川彬(ピアノ),遠藤文江(クラリネット*4,5),木藤みき(クラリネット*4),藤井(トランペット*8,9)
響敏也(台本・構成)

Review by 管理人hs  

宮川彬良さんとOEKポップスによる,ファンタジー定期公演を聞いてきました。宮川さんがオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演に登場するのは,2008年の12月以来3回目ですが,これまでと一味違った,「大人のコンサート」になっていました。

宮川さん(というよりはアキラさん)は,子供たちにも人気の音楽家ということで,この公演の翌日,同じ組み合わせ・同じ場所で「キッズのためのコンサート」と題したファミリー向けコンサートが行われました。その公演は,約1時間で入場料1500円(子供は500円)という演奏会だったので,定期公演の方とどう差別化を図るのかな,と気になっていたのですが,定期公演の方は,値段相応(?)のゆったりと楽しめるような雰囲気のある演奏会になっていました。

宮川さんのトークの中にも,「皆様,よく高い方をお選び頂きました(笑)」といったフレーズが出てきましたが,どちらかというとクラシカルなアレンジが多く,また,「さあ,皆さん,ご一緒に歌いましょう」「手拍子しましょう」といったう部分はなく,「大人向け」ということを相当演奏した内容になっていたと思います。ただし,ユーモアたっぷりのトークは健在で,大人から子供まで誰が聞いても全く飽きることのない構成になっていたのはいつも通りでした。

まず最初に宮川さんの作曲による「OEKポップスのテーマ」が演奏されました。この曲は,前回,宮川さんが登場した時に「序曲」として初演を行い,その時,タイトルを公募しました。その結果が今回発表されました(私も応募したはずですが,何と書いたか忘れてしまいました。)。

宮川さんが作曲した松井秀喜選手の応援歌に出て来るメロディを散りばめた作品というのがポイントということで,ティンパニーのロールに続いて239通の応募の中から「発表します!」と選ばれたのが「The 55(ザ・フィフティ・ファイブ)」というものでした(OEKの山田エグゼクティブ・プロデューサーが選定したということです)。ちょっと意外な気はしましたが,ちょっと抽象的なネーミングの方が後に残りやすいので,段々と馴染んでくるのではないかと思いました。

併せて,「こういう面白い応募もありました」という事例がいくつか報告されましたが,こちらも面白かったですね。「オーイケイケ,オーイーケー」とか「アゲアゲ...」とかセンスが良いもの(?)が多かったようです。

その後は,「予感」を基本テーマとして,いくつかの部分に分けて演奏会が進められました。まずは,「200年の予感」ということで,今年生誕200年となるショパンの作品が2曲演奏されました。華麗なる大円舞曲の方は,宮川さんのピアノを中心に据えたもので,ポール・モーリアとかフランク・プールセルとか往年のフレンチポップスを思わせる軽やかな華やかさのある演奏でした。小犬のワルツの方は,「キュキュとハンドルを切るような小回りの良さを残したまま,ちょっと大きくしてみました」ということで,こちらも楽しい演奏になっていました。

なお,最近,OEKは,ラ・フォル・ジュルネ金沢2010年用に公募した「公式ファンファーレ」を録音しましたが,こちらもショパンの曲をモチーフにしたアレンジ物ということで,ここで演奏してもらっても面白かった気がします。やはり本番までのお楽しみでしょうか?

その後は,OEKのメンバーをソリストにした曲を交えて,いろいろなタイプの曲が演奏されました。ソロを演奏したOEKのメンバー紹介をしながら進められましたが,ファンとしては嬉しかったですね。

ショパンの曲を演奏した後,宮川さんは,50人ぐらいの編成で(今回は少し管楽器を増強していました),こういう演奏ができることは素晴らしい,とOEKのことを称えていました。その理由として,個々のメンバーの力量が高いことを上げ,OEKについて「メンバーの顔やキャラクターが分かるオーケストラ」とおっしゃっていました。このことは,定期会員も同様に感じていることだと思います。オーケストラのメンバーと一体となって,楽しいステージを作り,盛り上げようという宮川さんの姿勢も良かったと思います。

さて「お喋りな楽器の予感!」のコーナーですが,まず,OEKのクラリネット奏者の遠藤文江さんと木藤みきさんを独奏者として,「クラリネット・ポルカ」が演奏されました。まさにお喋りな楽器という闊達な演奏になっていました。次の「メモリーズ・オブ・ユー」は,ベニー・グッドマンの演奏でよく知られた穏やかな曲です。かなり前,映画「ベニー・グッドマン物語」を見たときから(もちろんリバイバル上映です),良い曲だなぁと印象に残っていた曲ですが,今回の遠藤さんの演奏も余裕たっぷりのスウィング感のある,気持ちの良い演奏でした。

「平和への予感!」のコーナーは,非常に感動的でした。今回の演奏会の台本と構成は,定期公演のプログラムの曲目解説でお馴染みの響敏也さんによるものでした。その台本が冴えていました。

最初に演奏された「ダニー・ボーイ」は,「ロンドンデリーの歌」としても知られている曲ですが,そのネーミングの由来は,侵略者側が付けたものだと今回初めて知りました。もともとはデリーという地域の歌だったのが,イングランドが攻め込んで来て「ロンドンデリー」と改称されたものとのことです。これを身近が例に置き換え,「大阪が金沢に攻め込んで来て,香林坊が「浪速香林坊」に変えられたようなもの」と説明されていましたが,そう言われると,これは許せないネーミングですね。非常に分かりやすい比喩でした。

というようなわけで,地元では「ロンドンデリー」という呼び名は喜ばれず,むしろこの曲のメロディを使ったアメリカでの曲名の「ダニー・ボーイ」の方が好まれているとのことです。今回は,このダニー・ボーイの歌詞を柳浦さんのファゴット独奏をBGMとして宮川さんが朗読した後,OEKが演奏しました。この構成も見事でした。

戦地に旅立つ息子ダニーに向かって呼びかける感動的な詞なのですが,ファゴットの暖かい音との相性が抜群で,メロディだけを聞くよりも深く曲の良さを味わうことができました。朗読の時間と柳浦さんの演奏の時間がぴったり一致していたのもお見事でした。続くOEKの演奏では,加納さんのオーボエ独奏にメロディが引き継がれていましたが,この流れもピタリとはまっていました。この日は,ティンパニを菅原淳さんが担当していましたが,相変わらず迫力のある演奏で,曲の最後の部分を感動的に盛り上げてくれました。

このダニー・ボーイを受けるように,「明日に架ける橋」が演奏されました。こちらの方は,ヒロイックに困難に立ち向かうような格好良さのあるアレンジでした。小太鼓の音とチャイムの音が静かに絡むあたり「いかにも」という感じで,,前半を華やかに締めてくれました。

後半は,「楽器の花形の予感!」ということで,トランペットがソプラノ歌手に代わってオペラのアリアを歌う編曲物が2曲演奏されました。演奏されたのは,プッチーニの名アリア2曲で,OEKの藤井幹人さんがソロを演奏しました。ずっと以前,トランペット奏者のモーリス・アンドレがオペラのアリアを演奏する録音を聞いたことがあるのですが,トランペットは,プリマドンナの雰囲気にぴったりですね。藤井さんは「有給休暇の中日に出勤された」とのことですが(お疲れ様です),まろやかな音色は人の声にぴったりでした。

続く「伊太利亜が歌う予感!」では,イタリアを舞台とした映画音楽が2曲演奏されました。今回のコンサートマスターは,2月末の定期公演に続きマウロ・イウラートさんでしたが,この方がシチリア島の出身なのだそうです。宮川さんが面白いエピソードを紹介してくれたのですが,何と,イウラートさんは,シチリア島にあるノトという町の出身なのだそうです。ちょっとGoogle Mapで調べてみました。


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ありました,ありました。ノートと書いてありますが,表記は確かに「Noto」です。小浜市とか南砺市とか,国際的に通用しそうなネーミングが北陸にもあるので,シチリアにノトがあっても不思議はないのかもしれません。

さて,演奏の方ですが,宮川さんがおっしゃっていたとおり,イウラートさんのリードもあって,本物のイタリアの音楽になっていた感じです。いずれにしても,ニーノ・ロータとかエンニオ・モリコーネといった作曲家は,もはやクラシック音楽の作曲家と言っても良いですね。「ゴッドファーザー」の方は,宮川さんお得意の鍵盤付きハーモニカ(商品名で言うとピアニカ)のソロと交えての演奏でした。この楽器は,「のだめカンタービレ」でも活躍していましたが,非常に演奏効果の上がりますね(自分でもやってみたくなりました)。

ニュー・シネマ・パラダイスの方は,4曲メドレーとのことでした。その区別ははっきり分からなかったのですが,有名なテーマ以外にも美しくノスタルジックなメロディの連続で,イウラートさんのヴァイオリン,宮川さんのピアノをはじめとしてソリスト集団としてのOEKの本領を発揮したような素晴らしい演奏でした。

「花咲く明日の予感」のコーナーでは,日本の曲が演奏されました。喜納昌吉さんの「花」は,それほど古い曲ではなりませんが,昔からあった沖縄民謡のような曲です。今回の演奏では上田智子さんのハープが大活躍していました。個人的に,ハープの音を聞くと,海の波を思い出します。沖縄の海のイメージなどを勝手に浮かべてしまいました。続く「さくら幻想」は,お馴染みの日本古謡をアレンジしたものでした。宮川さんのピアノと同時に,ティンパニが「さ・く・ら...」の音程を出していた部分が印象的でした。

演奏会の最後は,「夢の国からの伝言」ということで,ディズニーの曲から「歩いているシーン」を集めた「シンフォニック・パレード」が演奏されました。こういう発想も面白いと思いました。

拍手が鳴り止まなかったらアンコールをやります,ということで2曲アンコールが演奏されました。この中では2曲目に演奏された「ベラ・ノッテ」が印象的でした。華やかな曲ではなく,弦楽合奏だけによる静かなワルツで,演奏会を締めてくれた辺りが,「大人向け」という感じでした。演奏会の後,その余韻を残したまま,高級レストランで食事にでも...といった感じの経済波及効果(?)をもたらしてくれそうなアンコールでした。

今回演奏された曲は,再演されたものか,今回が初演なのか分からなかったのですが,演奏会全体としてのまとまりも良く,1枚のCDにまとめても面白いと思いました。毎回,違った雰囲気の演奏会を用意してくれる宮川さんですが,今回の演奏会で,ファン層をさらに広げたのではないかと思います。

PS.「OEKポップス」という名称ですが,もっと本格的に定着させていっても良いと思います。プログラムの雰囲気やステージ上の雰囲気を通常の定期公演と変え,OEKポップスとしての独自のイメージトーンを作って行くとアピール力が増すと思います。ただし,そうなるとファンタジーシリーズの中に入れるよりは,「OEKポップス・スプリング・コンサート」という感じで,定期公演とは別のシリーズ(「もっとカンタービレ」のような感じ)にした方が独自色を出せる気がします。...と勝手に想像をめぐらせてしまいました。  (2010/03/07)

関連写真集

公演の立看板です。


翌日のキッズのためのコンサートのポスターです。こちらは年齢制限なし,だったと思います。

終演後,OEKの遠藤さん,木藤さん,藤井さんを交えてアキラさんのサイン会が行われましたが,今回は参加してきませんでした。