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ショパン生誕200年記念「石川県縦断ピアノコンサート」
2010/03/14 北國新聞赤羽ホール
第1部 オーディション合格者による演奏
1)ショパン/ポロネーズ変イ長調 遺作
2)ショパン/マズルカ第45番イ短調 op.67-4
3)ショパン/ワルツ イ短調 遺作
4)ショパン/ノクターン変ニ長調 op.27-2
5)ショパン/ボレロ ハ長調 op.19
6)ショパン/幻想曲ヘ短調 op.49
7)ショパン/即興曲第2番嬰ヘ長調 op.36
8)ショパン/ポロネーズイ長調 op.40-1「軍隊」
●演奏
東田和佳奈*1;杉本和佳奈*2;小林美穂*3;寺尾黎花*4;鴻渡千亜季*5;篠永紗也子*6;山岡良平*7;堀口美加*8(ピアノ)

第2部 ゲスト・リサイタル
ショパン/ワルツ第4番ヘ長調op.34-3「華麗なる円舞曲」
ショパン/ノクターン第20番遺作
ショパン/ピアノ・ソナタ第3番ロ短調op.58〜第1,第4楽章
(アンコール)ショパン/小犬のワルツ
(アンコール)ショパン/前奏曲第7番イ長調op.28-7
●演奏
宮谷理香(ピアノ)

Review by 管理人hs  

ラ・フォル・ジュルネ金沢2010の協賛イベントとして1月末から行われている「石川県縦断ピアノコンサート」が,音楽祭のお膝元の金沢で行われました。登場したのは,オーディションに合格した8人の地元ピアニストと宮谷理香さんでした。

前半は,オーディション合格者によるステージで,足がまだ地面に届かない小学2年生から音楽大学を卒業した方までが,年齢順に登場し,次々とショパンのピアノ曲を演奏しました。どの方も「この1曲」に懸けてきただけあって,技巧的に危ういところはなく,充実した演奏の連続でした。

その中でもやはり,中高生以上になると,ピアノの音自体の迫力が違ってきます。8人の中では,昨年のいしかわミュージックアカデミーのフェルティバル・コンサートで,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と共演した篠永紗也子さんによる幻想曲が,やはり大変聞き応えがありました。まだ高校1年生の方ですが,すでに修羅場(?)を数多くくぐり抜けてきたような凄味を感じました。その一つ前に演奏した,中学2年生の鴻渡千亜季さんによるボレロもとても颯爽としており,大変良い演奏だったと思います。

後半は,金沢出身のピアニスト宮谷理香さんのステージでした。宮谷さんの演奏は,金沢ではすっかりお馴染みですが,ますます自在さを増しているような感じです。さすがに音のダイナミックレンジが広く,緩急もかなり鮮明に付けており,「見せて,聞かせて,さらに魅せる」といった演奏になっていました。

最初に演奏されたワルツ第4番「華麗なる円舞曲」(通称,「猫のワルツ」と言うのだそうです)は,躍動感とスピード感に満ちた演奏でした。この曲を聞くと,1985年のショパン国際コンクールで優勝したスタニスラフ・ブーニンによる”コンクールとは思えない”ような「どうだ」という感じの演奏をいまだに思い出すのですが,今回の宮谷さんの演奏も,手の動き自体も華やかで,文字通り「華麗なる」演奏になっていました。

続くノクターン第20番遺作は,近年,ショパンを取り上げた演奏会で,取り上げられないことの方が少ないぐらいの曲です。宮谷さんは,演奏の間のトークの中で「赤羽ホールは,弱音がとても奇麗に聞こえます」とおっしゃっていましたが,そのことを意識した演奏で,非常にデリケートな弱音をしっかりと聞かせてくれました。極端に遅いテンポというわけではなかったのですが,非常に濃い味わいのある演奏で(演歌っぽくなる一歩手前という感じ),ショパンの歌を堪能させてくれました。

ちなみに,宮谷さんのトークですが,本当に見事でした。宮谷さんは,OEKのカウントダウン・コンサートで司会を担当されたり,「心を耕す」シリーズで,金沢市内のいくつもの小中学校でトーク入りの演奏会を行ってきましたが,その経験がしっかりと生きていると思いました。

プログラムの最後には,ピアノ・ソナタ第3番の第1楽章と第4楽章が演奏されました。個人的に,「この曲がショパンの作品の集大成かな」と思っている作品です。今回,全曲は演奏されなかったのですが,久しぶりに生で聞いて,やはり良い曲だと思いました。

宮谷さんは,最近この曲のCDをリリースしたばかりですが,第1楽章の最初の音から,ガツンと来るようなインパクトの強さがありました。非常にくっきりと自信たっぷりに演奏しており,聞いているうちに,元気が沸いてくるようなショパンでした。第4楽章も,常に前向きの気分のあり,曲が進むにつれて,聞き応えが増してくるような演奏でした。

アンコールでは,「猫のワルツ」に対応するかのように,お馴染みの「小犬のワルツ」が演奏されました(予想どおりでした。)。緩急自在の手馴れた演奏で,見事な名人芸を楽しませてくれました。特に曲の終盤のスピードの限界に挑むような猛スピードには驚きました。

最後に,胃腸薬がわり(?)に前奏曲第7番"胃"長調がさらりと演奏されておしまいとなりましたが,実際,胃腸薬が必要になるぐらい,いろいろなジャンルの曲を取り揃えた,ボリュームたっぷりの演奏会でした。ラ・フォル・ジュルネ金沢2010期間中の5月2日には,今回と同じ赤羽ホールで,宮谷さんと地元アーティストによって「1日中ショパン」というすごい企画がありますが,その予告編に相応しい内容だったと思います。こちらの方も大変楽しみになってきました。他の都市で同様の企画が行われるのか分かりませんが,ショパンも草葉の陰で大喜びしているのではないかと思います。

PS.今回残念だったのは,前半,断続的にアラーム音が会場から鳴っていたです。途中から「これは携帯電話の音ではないな(バッテリー切れか何かを定期的に知らせるようなアラーム音でした)」と分かったのですが,医療機器から出ている音だったようです。本人が気づかないというのが不思議でしたが...。それほど大きな音量ではなかったのですが,前半,かなり長い時間に渡って,間歇的に鳴っていたので,集中力がそがれてしまいました。
 (2010/03/17)

関連写真集

赤羽ホールに行くのは,2回目です。


しっかりラ・フォル・ジュルネのノボリ?が出ていました。