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井上道義&オーケストラ・アンサンブル金沢21世紀美術館シリーズ
music@rt seasonV Vol.4 光の散策
2010/03/22 13:00-/14:00- /15:00- 金沢21世紀美術館 館内交流ゾーン
1)ジルヴェストリーニ/「6つの絵」〜第4曲「森の中の小路(オーギュスト・ルノワール, 1874)」
2)ドラティ/5つの小品〜第4曲「ゆりかご」
3)ブリテン/「オヴィディウスによる6つの変容」〜第1曲「パン」
4)金澤攝/「光の踊り」(新曲)
●演奏
加納律子(オーボエ),金澤攝(ジュ・ドゥ・タンブル*4),大久保貴之(打楽器*4)
ナビゲーター:井上道義 
※13:00からの回の感想です。

Review by 管理人hs  

金沢21世紀美術館で定期的に行っている,井上道義&オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)21世紀美術館シリーズですが,今回の「光の散策」と題されたミニ・コンサートは,これまででいちばん美術館っぽい企画だったと思います。演奏会のチラシに使われていたルノワールの「森の中の小路」にインスパイアされて作られた作品,キラキラとした光の雰囲気のある曲など,印象派的なムードのある4曲が演奏されました。

まず登場したのは,OEKのオーボエ奏者の加納律子さんでした。オーボエの音をこれだけ間近で聞く機会は滅多にないことですが,本当に良い音でした。目が覚めるようなくっきりとした音でした。この日は,3連休の最終日ということで,もともとお客さんは多かったのですが,加納さんの演奏が始まると,その音に惹かれるようにお客さんが続々と集まってきたような気がしました。

最初に演奏されたジルヴェストリーニの作品は,ルノワールの「森の中の小路」に基づいた曲ということで,加納さんも,森の中を歩くように,左右を見ながら演奏していました。時々,カッコウのような音型が出てきたり,音によるパフォーマンスという感じの演奏でした。

今回,ある意味,加納さん以上にすごかった(目立っていた?)のが,ナビゲータとして登場した井上道義さんでした。曲を口頭で紹介するだけでなく,演奏中にマイムを行ったり,演奏中の加納さんにちょっかいをかけたり,あの手この手で演奏を盛り上げてくれました。衣装もパン(牧神)を意識したようなインパクトのあるものでした。

2曲目は,指揮者として有名なアンタル・ドラティの作品が演奏されました。日本語のタイトルは,「ゆりかご」となっていましたが,聞いた感じは「子守唄」そのものでした。日本のメロディと言っても通じるような5音階で作られていたこともあり,大変親しみやすい曲でした。

一方の井上さんです。「なぜこんなものを持っているのだろう?」と不思議だったのですが,どこからか,本物のゆりかごを持って来られました。さらに,そのゆりかごの中から,小さな子供用の靴を取り出し,演奏中の加納さんのオーボエの先端に引っ掛ける,という「演奏者もびっくりorめいわく」という悪戯をしていました。この小さな靴は,うまい具合にミュートになっており,オーボエの音をさらに優しいものにしていました。

3曲目は,ブリテンの曲で,シリンクスとパンの物語を描いたものでした。ドビュッシーのフルート独奏用の作品に「パンの笛」という曲がありますが,そのオーボエ版と言っても良い作品です。この演奏の時,井上さんが,妖精シリンクスに付きまとう牧神を迫真のマイムで演じていました。即興的な演技だったようですが,ちょっとした前衛芸術を見るような迫力がありました。

ここまでは,オーボエ独奏でしたが,最後に,金澤攝さんのジュ・ドゥ・タンブル,打楽器の大久保貴之さん,オーボエの加納さんの共演で,金澤さん新作「光の踊り」が演奏されました。金澤さんの演奏は,これまでも別の会場で何回か聞いたことがありますが,明るい場所で金澤さんを見るのは初めてのような気もします(金澤さんと言えば,黒い衣装,という印象があったので)。白っぽい衣装を着た金澤さんを見るのも初めてかもしれません。それが,結構,新鮮でした。

この「光の踊り」という作品ですが,「カスティリオーニアーナ」「インヴェンションとワルツ」「風と光の中のラプソディ」「ボレロ」の4曲から成っていました。ジュ・ドゥ・タンブルという楽器は,チェレスタのような形で,キラキラした音の出る楽器です。実は,チェレスタと区別がつかなかったのでが,もっとオモチャっぽいところがあるような気がしました。

このジュ・ドゥ・タンブルに,ウッドブロック,チャイム,大太鼓と曲ごとに違う打楽器が絡み,さらにその上でオーボエが語り歌うという構成でした。どこか国籍不明の不思議な響きとなって感じられたのが面白いところです。時折出て来る,ジュ・ドゥ・タンブルによる華麗なグリッサンドも印象的でした。

この日の21世紀美術館は,前日までの黄砂の影響で,売り物の窓ガラスがすっかり砂まみれになっており,「光の散策」というよりは「擦りガラスの散策」という感じだったのは皮肉でしたが,視覚と聴覚の両方に訴えるパフォーマンスということで,この美術館ならではの好企画だと思いました。この日が最終日だった展覧会「オラファー・エリアソン:あなたが出会うとき」の雰囲気にもぴったりでした。

美術館の外には,オラファー・エリアソンによる常設展示が設置され,公開されたばかりでしたが,そちらもカラフルな光を生かした,誰もが楽しめるオブジェでした。今回のコンサートの内容ともぴったりでした。この美術館も見所が増え,さらにパワーアップした感じです。


オラファー・エリアソンの作品を中心に,美術館周辺を散策してみました。
オラファー・エリアソン展のポスターです。 日曜・祝日の午後は,いつも大賑わいです。 オラファー・エリアソンの図録です。図書室前に展示されていたものです。
つい最近,お披露目されたばかりのオラファー・エリアソンによる,新しい恒久展示作品「カラー・アクティビティ・ハウス」です。 絶好の撮影スポットです。色々な色のフィルターを通した景色を楽しむことができます。まずは黄色。 赤とピンク
青と緑 公開されたばかりということもあって,記念撮影しているグループが沢山いました。 別の角度から撮影したものです。
21世紀美術館の顔の恒久展示作品レアンドロ・エルリッヒの「スイミング・プール」です。披露。こちらも黄砂の影響があったと思います。 エリアソン展の色つきの霧に満たされた展示室の中で撮影。撮影禁止とは書いてなかったようですが...見落としたのかもしれません。 こちらもお馴染みの永久展示作品ジェームス・タレルの「ブルー・プラネット・スカイ」(通称タレルの部屋)です。なかなか面白い写真になりました。この美術館の永久展示は,それぞれが独立して観光名所になっている気がします。そこがすごいところです。
美術館を出て,オープン直前のしいのき迎賓館方面に向かいました。この建物の由来になっている「堂形のしいのき」(国指定天然記念物)も全国的に有名になるチャンスかもしれません。
4月10日オープンです。ロゴマークは,このしいのきとた建物そのものです。 建物の右側,兼六園側から眺めた風景です。この辺りも非常にすっきりとしてしまいました。
    
こちらも,水を張る直前の宮守(いもり)です。後から見ると貴重な写真になりそうです。 石川門方面まで足を伸ばしました。赤い柱は,花見時期の雪洞用だと思います。公園整備をしていた,笠をかぶった4人組の姿がとても面白かったので撮影してみました。    
 (2010/03/17)

関連写真集

公演のチラシと案内のサインです。


今回の演奏会場です。いちばん右にあるのがジュ・ドゥ・タンブルです。


この辺にはカーペットが敷いてあるので,その上に座っている人がいました。私も座って聞きました。


ルノワールの「森の中の小路」がチラシに使われていました。


演奏中の曲名を示すプレートです。


金澤さんの作品のプレートです。


本当は撮影してはいけないのですが...加納さんのオーボエの先端にオモチャの靴が引っかかっています。手前にはゆりかごがあります。



いつも透明なガラスも,この日ばかりは砂まみれでした。清掃もかなり大変かもしれません。