もっとカンタービレ第19回:皆様からのリクエストに応えて!
2010/03/27 石川県立音楽堂 交流ホール |
1)ミヨー/弦楽四重奏曲第14番op.291-1,第15番op.291-2
2)モーツァルト/オーボエ四重奏曲へ長調K.370
3)ショスタコーヴィチ/弦楽四重奏曲第15番変ホ短調op.144
4)ショスタコーヴィチ/バレエ「黄金時代」〜ポルカ
●演奏
坂本久仁雄,ソクジュン・イ,藤原朋代,嶋志保子(ヴァイオリン*1),古宮山由里,デルフィー・ティソ(ヴィオラ*1),ルドヴィート・カンタ,福野桂子(チェロ*1)
水谷元(オーボエ*2),山野祐子(ヴァイオリン*2),石黒靖典(ヴィオラ*2-4),大澤明(チェロ*2-4),松井直,上島淳子(ヴァイオリン*3-4)
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバー,プロデュースによる室内楽公演シリーズ「もっとカンタービレ」の今年度最終公演が行われたので聞いてきました。今回は「皆様からのリクエストに応えて」ということで,昨年,お客さんから公募したリクエスト曲の中から,団員が選んだ曲が3曲演奏されました。
「リクエストに応える」といえば有名曲に偏りがちですが,さすが一味違うのがこのシリーズです。ミヨーの弦楽四重奏曲第14番,第15番,モーツァルトのオーボエ四重奏曲,ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第15番というちょっと渋目の「3曲」が演奏されました。
「3曲」と言いつつ「4曲」あるように見えますが,これは最初に演奏されたミヨーの曲のせいです。14番と15番は,バラバラに演奏すれば2曲ですが,同時に演奏すれば八重奏になるという,ミヨーの遊び心や職人気質が出た,変わった作品なのです(2曲の小節数が全く同じということになります)。楽器配置は次のとおりでした。
【第14番担当】 【第15番担当】
ヴィオラ チェロ|チェロ ヴィオラ
第2ヴァイオリン 第2ヴァイオリン
第1ヴァイオリン 第1ヴァイオリン
各曲の担当は,次のとおりでした。
第14番担当 坂本,イ,古宮山,カンタ
第15番担当 藤原,嶋,ティソ,福野
実験的な作品ということで,八重奏版を全曲演奏する前に,各曲の各楽章の一部分を別々に演した後,同じ部分を同時に演奏するという実験を行ってくれました。こういう”変な”曲があることは,今回初めて知りましたが,聞き比べはさらに貴重だったかもしれません。ただし,何回も何回も繰り返されたので,ちょっと冗長だった気がしました。
曲の印象としても,やはり,2つの曲を同時に聞くような感じがあり,多調的な曲性の面白さよりは,雑然とした印象が残りました。音が多過ぎて,聞いていて疲れてしまいました。通常は静かな楽章となる中間楽章などは,もう少し落ち着いた雰囲気が欲しいと感じました。反面,非常に生き生きとした音楽の第3楽章には,ぴったりでした。
2曲目のモーツァルトは,CDでは聞いたことはありますが,実演で聞くのは初めてかもしれません。演奏前,この曲をリクエストされた方は,インタビューの中で,テレビ実写版「のだめカンタービレ」のパリ編で使われていたこの曲をもう一度聞いてみたいというリクエスト理由を語っていました。フランスの古い城かどこかで演奏するという設定だったと思いますが,いろいろなところでこのドラマはクラシック音楽の裾野を広げているようですね。
オーボエといえば,つい先日,21世紀美術館の交流スペースの至近距離で加納さんの見事な音を聞いたばかりです。今回の水谷さんの演奏にも目が覚めるような鮮やかさがありました。私の前の座席の方は,前の曲の時はウトウトしていたのですが,この曲になった途端,シャキーンとされていました。なかなか面白い現象でした。至近距離で聞く,プロのオーボエ効果を今回もまた実感できました。
第1楽章から,水谷さんの繊細かつクリアな音で会場は満たされました。全く慌てたところはなく,ゆったりとした気分で,モーツァルトの音楽に浸ることができました。
第2楽章は,「フィガロの結婚」などオペラの中のアリアのような雰囲気がありました。少し哀しみをにじませた水谷さんのオーボエの音は,大変聞き応えがありました。第3楽章のロンドは,楽章が進むにつれて技巧的なパッセージが次から次へと出て来るような曲で,こちらもまた聞き応え十分でした。山野さんのヴァイオリンの音も大変艶やかで,先日の定期公演「コンチェルトオー!」の続編的なソリストの饗宴といった感じの充実感のある室内楽となっていました。
さて問題の後半です。ショスタコーヴィチの最後の弦楽四重奏曲第15番は,ナビゲータの大澤さんが,「辛抱して聞いてください」とあらかじめ断っていたとおり,とんでもく重苦しい作品でした。6楽章構成なのですが,全部アダージョというの構成が「何を考えているんだ!」と思わせるほど非常識(?)です。
ステージの照明もかなり暗く落とされ,「こうなったらショスタコーヴィチの世界にじっくり浸ってやろう」と思って聞き始めました。そうすると,同じアダージョでもかなり変化に富んでいることがわかりました。予想以上に波長が合ってしまいました。
延々と暗い音楽が続く第1楽章「エレジー」の後,第2楽章「セレナード」は,弱音から強音へと一気に音量を増す音形が何回も繰り返される,非常に変わった雰囲気ではじまりました。第3楽章では,第1ヴァイオリンの松井さんの熱演が印象的でした。大澤さんが語っていたように,バッハのシャコンヌ風の部分もありました。
第4楽章「ノクターン」では,しみじみとした石黒さんのヴィオラが前面に出ていました。第5楽章「葬送行進曲」は,ベートーヴェンの「月光」ソナタの第1楽章の音型が,葬送行進曲とシンクロするような作りで,かなり逞しい印象がありました。
第6楽章は,全体の総括のような楽章で,前の楽章に出てきたメロディが再現されました。悪夢にうなされるようなトリルが不気味で,演奏後は非常に長〜い沈黙が残るりました。
というようなわけで,個人的には「こういう世界もたまには良いかも...」とはまってしまいました。聞く方もエネルギーが必要ですが,奏者の皆さんはそれ以上にお疲れだったと思います。ショスタコーヴィチ好きの大澤さんを中心としたOEKメンバーで,彼の全弦楽四重奏曲を演奏するシリーズを数年掛けて富山で行ったとのことですが,やはり,それぐらいはまり込まないと演奏できない曲なのだな,と実感しました。
ただし,陰気なまま終わるのも,今年度の締めには相応しくない,ということで,同じショスタコーヴィチ作曲のポルカが1曲,アンコールとして演奏されました。音をわざと外したようなメロディが続く,ユーモラスな曲で,演奏会を粋に締めてくれました。
今回は,リクエストした3人の方が演奏前にステージ上に登場し,選曲した理由などを語られました。もともと団員のトークも売り物のシリーズですが,今回のような「ファンとOEK団員による共同企画」といった発想も面白いと思います。今回のショスタコーヴィチのような恐ろしく暗い作品であるとか,ミヨーのような実験精神に溢れた作品だとしても,トークが入ることで,聞き手としては「なるほど」という感じで満足感を得ることができます。「リクエストに応えて」という趣旨からすると,もう少し大勢の人のリクエストに応えてもらってもよかったかな,という気もしましたが,このシリーズならではのチャレンジ精神に溢れたリクエスト大会だったと思います。
PS.今回のリクエスト結果ですが,その他にどういう曲のリクエストがあったのか,全結果を見てみたい気がします。また,個人的には,次のようなことについて知りたいと思いました。
- どういう作曲家の人気が高かったのか?
- 曲単位だとどいうう曲の人気が高かったのか?
- 全体で何人から何曲の応募があったのか?
(2010/03/29)
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関連写真集 |

公演のポスターです。

lこの日は,JR金沢駅の地下から音楽堂に入りました。
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