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石川県ジュニアオーケストラ第16回定期演奏会
2010/03/28 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第8番ト短調op.46-8
2)エリントン/イン・ア・センチメンタル・ムード〜A列車で行こう
3)ガーシュイン/ラプソディ・イン・ブルー
4)チャイコフスキー/バレエ音楽「白鳥の湖」〜「情景」「ワルツ」「4羽の白鳥の踊り」「ナポリの踊り」「チャールダーシュ」「終曲」
5)(アンコール)宮川彬良/松井秀喜公式応援歌「栄光の道」
●演奏
鈴木織衛指揮石川県ジュニア・オーケストラ*1,3-5
西直樹(ピアノ*2-3)
Review by 管理人hs  

年度末恒例の石川県ジュニア・オーケストラの定期公演が行われたので聞いてきました。このオーケストラの歴史もいつの間にか長くなり,今回で16回目です。わが家の子供の知人にもこの団体に参加している人が居たので,家族全員で聞きに行ってきました。年々地域や学校とのつながりが強くなってきていることを実感しています。

今回のプログラムですが,前半にドヴォルザークのスラヴ舞曲とガーシュインのラプソディ・イン・ブルー,後半にチャイコフスキーの「白鳥の湖」の組曲が演奏されました。演奏時間的にはやや短めでしたが(その分,鈴木織衛さんのトークがかなり入っていました),前半後半とも,ソリスティックな部分の多い難曲ということもあり,指揮者の鈴木織衛さんをはじめ,各パートの指導者の皆さんも指導のし甲斐があったのではないかと思います。

まず,ドヴォルザークのスラヴ舞曲第8番がたっぷりと演奏されました。民族舞曲らしく,リズムが複雑に交錯する曲を,とても鮮やかに,力強く演奏していました。今回のメンバーには,どうみても子供ではない人(何とカンタさんも参加していました)が加わっていましたが,なかなか微笑ましい雰囲気もありました。

続いて,ジャズ・ピアニストの西直樹さんをソリストに招いてのラプソディ・イン・ブルーが演奏されました。ジュニア・オーケストラは,昨年の8月のジョイント・コンサートで,この曲を福井県出身の高校生ピアニスト,徳永雄紀君と共演していますので,「ピアニストが違うと,演奏も大きく違ってくる」ということを実感できたと思います。

今回もエキストラのサクソフォーンなどを加えての大編成での演奏ということで,堂々たるシンフォニック・ジャズになっていました。トロンボーンやトランペットがミュートをつけたり,スウィングするようなリズムで演奏したり,夏の演奏よりもさらにこなれた演奏になっていたような気がします。

これはやはり,指揮者の鈴木織衛さんによる「オーケストラが一丸となって楽しい音楽を作りましょう」というような雰囲気作りが素晴らしいのだと思います。鈴木さんは,トークも素晴らしいので,ジュニア・オーケストラの子供たちも,きっと楽しんで演奏できたのではないかと思います。

ただし,ソロを担当した子供たちは,とても緊張したことでしょう。特に最初のクラリネットのグリッサンドの部分は,大変難しい箇所です。ちょっとヒヤリとする部分はありましたが,とても瑞々しい音で演奏されており,心の中で「ブラーヴォ!」と言いながら,聞いていました。その他,ヴァイオリン,トロンボーンなどもしっかりとソロのフレーズを決めてくれました。

西さんのピアノもお見事でした。西さんは,OEKの定期公演ファンタジーシリーズの客演ピアニストとしてお馴染みの方です。大変大柄な方なので,見覚えがありましたが,いつもどおり,安心して音楽に身をまかすことのできるような演奏を聞かせてくれました。軽妙で粋な感じはあるのですが,音楽を崩しすぎないので,とても聞きやすい演奏になっていました。キレ良く,さっぱりとした感触のあるガーシュインでした。

ガーシュインの演奏前の,セッティングの時間を利用して,鈴木さんと西さんのトークがあり,その後,アンコールを先取りするような形で,西さんのピアノ独奏で,デューク・エリントンの「イン・ア・センチメンタル・ムード」と「A列車で行こう」がメドレーで演奏されました。美しく透明な音がホールに染み渡るような演奏でした。,

後半では,チャイコフスキーのバレエ音楽「白鳥の湖」の中から5曲を抜粋して演奏されました。OEKの通常の編成では演奏できない曲ということで,個人的に大変楽しみにしていた曲です。チャイコフスキーの曲らしく,オーボエ,トランペットをはじめソロが沢山出て来るのですが,そういうった部分を聞きながら,人間ドラマを感じ,妙に感動してしまいました。「きっと緊張しているだろうな」とか「家族が聞きに来ているのだろう」とか「指導されている先生も嬉しいだろう」...という風に音楽以外の部分のことばかり考えてしまいました。

全体にすっきりとしたテンポで,重くなる部分はなく,有名な「情景」などは,ややそっけないかな,という部分もありましたが,しっかりとオーボエが”あのメロディ”を聞かせてくれたのは大変立派でした。「ワルツ」もスマートな演奏でした。この曲では,ティンパニとシンバルは,賛助出演の大人が担当していましたが,これもお見事でした。さすがと思わせるような威力たっぷり,効果満点の音を聞かせてくれました。

この曲と「ナポリの踊り」では,トランペットも大活躍します。どちらのソロも大変長いので,プレッシャーがかかったと思いますが,本当によく頑張っていました。これだけ大勢のお客さんの前で,朗々と演奏する,というのは大変貴重な経験だったと思います。

木管楽器のアンサンブルがしっかりと決まった「4羽の白鳥の踊り」,前半のゆっくりとした部分とスピード感たっぷりの終盤の対比が鮮やかだった「チャールダーシュ」など,各曲に応援のしどころと聞きがいがありました。

その総決算が「終曲」でした。この曲には,大変ゴージャスな気分が漂い,昔から大好きな曲です。その最後の最後の方で,弦楽器とハープが静かに音を刻みながら,音階を上がって行き,ホルンが1音吹き,オーケストラの強奏となり,大きなクライマックスを築く部分がありますが,このホルンの音に妙に感動してしまいました。一瞬フラッとなった後,すぐに立ち直り,真っ直ぐな音を聞かせてくれたのですが,「よく頑張った」と女子フィギュアスケートの中継を見るような感じで聞いてしまいました。

アンコールでは,金沢ではすっかりお馴染みとなった松井秀喜公式応援歌「栄光の道」が演奏されました。「白鳥の湖」同様,オーケストラ全体の響きも大変堂々としており,しかも鈴木織衛さんの指揮の下,大変滑らかな音楽を聞かせてくれました。

わが家の子供と同世代の子供たちが多く属しているということで,このオーケストラを聞くのは,いろいろな面で楽しみがあります。新年度は,まずは,ラ・フォル・ジュルネ金沢という大舞台がまずありますが,ますますその活躍が楽しみです。  (2010/04/01)

関連写真集

公演のポスターです。


l出演者への花束が山のように届いていました。