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オーケストラの日2010
2010/03/31 石川県立音楽堂コンサートホール
1)宮川彬良/松井秀喜公式応援歌「栄光(ひかり)の道」
2)ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第8番ト短調,op.46-8
3)チャイコフスキー/バレエ音楽「白鳥の湖」〜ワルツ
4)エルガー/行進曲「威風堂々」第1番
5)シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲
6)ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調op.92
7)チャイコフスキー/バレエ音楽「白鳥の湖」〜情景,チャールダーシュ
8)(アンコール)メンデルスゾーン/劇音楽「夏の夜の夢」〜結婚行進曲
●演奏
鈴木織衛指揮石川県ジュニアオーケストラ*1-3
長尾枝里子指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団*4-5
山田和樹オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)*6
山田和樹指揮石川県ジュニアオーケストラ,金沢大学フィルハーモニー管弦楽団,オーケストラ・アンサンブル金沢の合同オーケストラ(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)*7-8
Review by 管理人hs  

3月31日は「全国一斉,ミミニイチバン,オーケストラの日」ということで,石川県立音楽堂では,石川県内の3オーケストラが揃う,演奏会が行われました。前半は石川県ジュニア・オーケストラと金沢大学フィルの単独演奏,後半はオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の単独演奏が行われた後,3団体の合同演奏が行われました。

ジュニア・オーケストラと金大フィルの演奏もよかったのですが,何と言ってもこの日のハイライトは,山田和樹さん指揮のOEKによるベートーヴェンの交響曲第7番でした。山田さんは,昨年,ブザンソンの指揮者コンクールで優勝して以来,大きな注目を集めています。OEKとは,故岩城宏之さんの代理で2006年北陸新人登竜門コンサートに登場して以来のつながりがあります(岩城さんは先見の明があったといえますね)。今回は,ベートーヴェンの7番を指揮するというのも注目です。

山田さんは,東京芸術大在学中に「学生有志オーケストラ」を結成し,その後,そのオーケストラを横浜シンフォニエッタに発展させ,音楽監督として活躍されています。「のだめカンタービレ」の”千秋先輩”と似た活動をされていますが,その山田さんが「のだめ」のテーマ曲である,ベートーヴェンの7番を指揮するというのも何かの因縁でしょうか。

OEKの演奏で,何回も何回も聞いてきたこの曲ですが,山田さんの若々しい指揮ぶりがピタリと決まっていました。今回の演奏は,硬質の音のするバロック・ティンパニを使っていましたが,特に古楽奏法を意識した演奏ではなく,OEKを非常に気持ちよく鳴らし切ったスケールの大きな演奏になっていました。楽器の配置も,最近のOEKにしては珍しく,第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが隣り合う「通常の」配置でした。

第1楽章の序奏部は,颯爽とした勢いと,堂々とした重みとが共存していました。「のだめ」のテーマとしてすっかり有名になった第1主題もホルンの強奏を核とした弾けるような音楽を聞かせてくれました。山田さんは,各楽章のクライマックスになると,非常に大きな振り方をされていましたが,出て来る音自体が,それにぴったりで,パフォーマンスだけではない,非常に理に適った,指揮ぶりだと思いました。

この山田さんの若々しい指揮ぶりに,OEKはすっかり感化され,惚れ込んだようで,いつもにもまして熱いサウンドを聞かせてくれました。今回,山田さんは暗譜で指揮をされていたので,譜面台はなしですが,そのこともダイナミックな演奏につながっていたと思います。

第1楽章の後,第2楽章へはほとんど切れ目なく続いていました。この部分を聞いて,岩城さんの解釈を思い出してしまいました。岩城さんは若い頃,「日本の火山」などと呼ばれ,指揮台で暴れまくるような指揮をされていた,と自身のエッセイで書かれています。時代は違っても,現在の山田さんのような頃には,岩城さんもダイナミックな指揮をされていたのかな,と勝手に想像を広げてしまいました。

第2楽章の方は一転して,淡々とした安定感のある音楽でした。第1楽章のダイナミックさと好対照を成しており,全曲を通じると,非常に正統的でまとまりの良い音楽になっていると感じました。

第3楽章以降は,またまた渾身の指揮ぶりとなっていました。「若い指揮者は,やっぱりこうでなくては」と理屈抜きに思わせるような気持ちよい演奏でした。第3楽章は,リズム感が良く新鮮でした。慌てた部分もなく,余裕も感じさせてくれました。それが中間部になると,「これでもかぁ(それでいて強引でない)」という感じで大きな盛り上がりを作っていました。室内オーケストラからこういうようなスケールの大きさを引き出せることが何よりも素晴らしい点です。そして,それはまたOEKの素晴らしさでもあると思いました。

第4楽章は,かなり速いテンポで演奏されましたが,それだけではなく,緊密で密度の高さを感じさせてくれる音楽となっていました。ティンパニの大久保さんによる,硬く締まったティンパニの強打も聞き応え十分でした。今回,ティンパニはコントラバスと同期を取るかのように,上手奥に座っていましたが,その方角に向かって,山田さんが大きな動作で指示を出すたびに,その横顔が客席から見えました(私は今回右サイドに座っていたこともあります)。そのプロフィールも決まっていました。それこそ,指揮者のプロフィールの写真用に使っても良いような,絵になる指揮ぶりでした。

山田さんは,ラ・フォル・ジュルネ金沢2010では,オープニングコンサートをはじめ,大車輪のような活躍をされますが,その指揮ぶりが益々楽しみになってきました。ラ・フォル・ジュルネで,さらに大ブレイクする予感があります。

プログラム前半は,まず,先日定期演奏会を行ったばかりの石川県ジュニア・オーケストラが登場しました。演奏した曲も同じものでした(曲順は違っていましたが)。「栄光の道」は,定期演奏会の時同様に,大変滑らかな演奏でした。今回座った右バルコニー席だとオーケストラの音がさらにヴィヴィッドに聞こえ,艶やかに感じられました。

スラヴ舞曲は,小細工するような部分のない堂々とした演奏で,生き生きとした躍動感がしっかりと伝わってきました。「白鳥の湖」のワルツは,改めて良い曲だと思いました。すっきりとしたテンポでしたが,その中に色彩的な豪華さをしっかりと感じさせてくれました。トランペットのソロも存在感がありました。

続いて,金沢大学フィルハーモニー管弦楽団が登場し,行進曲2曲が演奏されました。最初に演奏した「威風堂々」は,卒業式などで演奏する定番曲だと思います。全曲を通じてかなり直線的な演奏で,少々生まじめな感じはしましたが,オーケストラの音にハリがあり,「さすが大学生」と思いました。

続くラデツキー行進曲は,選曲の意図が分かりにくい部分がありました。「ラデツキー=手拍子」というのは,ほぼ全国的・全世界的に常識化しつつあると思いますが,指揮者が全く聴衆の方を見てくれなかったので,お客さんの方は「どうすればよい?」という感じになっていました。一部,拍手を入れている人もいたのですが,ニューイヤーコンサートのように,会場全体には広がらず,「やっぱり手拍子はやめるかな...」というもどかしさが残りました。今回のお客さんは,大半がOEKの定期会員で,ニューイヤーコンサートにも慣れていたと思うので,指揮者がちょっとお客さんの方に向かって合図を出すだけで,うまくいったと思います。そういう意味で,この曲はプロの指揮者向けの曲だったのだなぁ,と思った次第です。

演奏会の最後は,今回登場した3つの団体による合同演奏となりました。金沢大学フィルは,全員で120名部員がいるとのことですが,今回はそこまで大勢が参加していませんでした。ざっと見たところ,ジュニア60人,金大60人,OEK40人といった感じでしょうか?いずれにしても総勢150人以上の大編成による聞き応えのある演奏となりました。

。「白鳥の湖」の「情景」では,たっぷりとうねるような重い響きの中から加納さんのオーボエの音が「鶴の一声」ならぬ「白鳥の一声」という感じですっと浮かび上がり,「さすが!」と思いました。数日前,ジュニア・オーケストラでも聞いたばかりの曲ですが,隣で聞いていたジュニアの奏者も「すごい」と思ったことでしょう。

このテーマは,最後の方ではホルンで朗々と演奏されます。今回は何とホルン8本で演奏していました。聞いている方も気持ち良かったのですが,演奏している方もさぞかし気持ちよかったと思います。「チャールダーシュ」では,さらに鳴り物が加わり,最後を華やかに締めてくれました。

アンコールでは,ラ・フォル・ジュルネ金沢2010にちなんでメンデルスゾーンの結婚行進曲が演奏されました。今回は,ショパンとその同世代の作曲家がテーマですが,今回,OEKは,メンデルスゾーンを中心に演奏します。それを先取りする,選曲だったようです。

もともとおめでたい曲ですが,トランペット8人(だったと思います)が一斉にあのファンファーレを演奏すると,おめでたさが倍増します。今回のジュニア+大学+OEKの合同演奏は,年齢構成的にもバランスが良かったと思います。いろいろな世代の人が楽器を一緒に演奏する光景を見るだけで,幸せな気分を感じることができました。そういう点で,今回の合同演奏は,「オーケストラの日」の趣旨にぴったりだったと思います。

オーケストラを聞く幸福感を実感でた公演でした。

PS.今回の公演のポスターの方は,昨年までの「のだめ」からは卒業し,全国の小中学生の描いたオーケストラをイメージした絵画を組み合わせたものになりました。その最優秀作品に選ばれたのが金沢市出身の中学生の方の作品でした。全国表彰のためか,東京の公演の方に行かれたとのことですが,こちらも快挙ですね。OEKのある金沢から選ばれたということで,もしかしたらOEKのイメージを描いたのかもしれませね。そう考えると,OEKファンとしては,さらに嬉しくなります。
 (2010/04/02)

関連写真集


公募作品を組み合わせたポ「オーケストラの日」公演のポスターです。上半分が,金沢市出身の中学生による「最優秀作品」です。


ついに登場,ラ・フォル・ジュルネ金沢2010の看板