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石川県ピアノ協会 第8回ピアノ協奏曲の午後:オーケストラ・アンサンブル金沢と共に
2010/06/06 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ハイドン/ピアノ協奏曲ニ長調Hob.XVIII:11
2)ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番ハ短調op.37
3)モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488
4)シューマン/ピアノ協奏曲イ短調op.54
●演奏
西村友里*1,川岸香織*2,障子口和歌奈*3,木下由香*4(ピアノ)
新田ユリ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
Review by 管理人hs  
石川県ピアノ協会に所属するピアニストとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が共演する,「ピアノ協奏曲の午後」という演奏会に出かけてきました。文字通り,日曜日の午後にピアノ協奏曲ばかりを演奏する演奏会で,今回で8回目になります。ラ・フォル・ジュルネ金沢の効果もあり,石川県内で活躍するピアニストの知名度も高くなってきましたので,今回のような企画は,ラ・フォル・ジュルネによる「地元重視」の流れをさらに拡大する点からも歓迎すべき内容だと思いました。ピアノ協奏曲の名曲4曲を並べたプログラム自体充実していましたが,演奏の方もレベルの高い演奏の連続で,石川県のピアニストの層が非常に厚いことを改めて実感できました。

最初に,西村友里さんによってハイドンのピアノ協奏曲ニ長調が演奏されました。冒頭から,透明感あふれるOEKの弦楽器の音色が素晴らしかったのですが(この日のコンサートミストレスは,いしかわミュージック・アカデミーででお馴染みのシン・ヒョンスさんだった?),西村さんのピアノも大変軽快で,すっきりと澄んだ古典派音楽の魅力を伝えてくれました。第3楽章は,ハイドン好みのハンガリー風の楽想に面白い味がありました。ただし,この辺はもう少し野性味というかリラックスした感じがあると良いかな,と感じました。ハイドンのピアノ協奏曲が演奏される機会はそれほど多くはありませんが,今回の演奏を聞いて,OEKの定期公演でも取り上げて欲しいなと思いました。

続いて,川岸香織さんによってベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番が演奏されました。ベートーヴェンのハ短調作品ということで,大変聴き応えのある作品ですが,川岸さんの演奏も「お見事!」と声を掛けたくなるような立派な演奏でした。OEKによる堂々とした序奏も流石でした。いかにもベートーヴェンというスケールの大きな気分を作っていました。全曲を通じて,不安定な部分はなく,安心して聞くことができました。

川岸さんのピアノは,どのパッセージもクリアで,とても気持ちよく響いていました。カデンツァ(いちばんよく聞かれるベートーヴェン自身のものだったと思います)も華麗でした。第2楽章は,大変落ち着いた気分があり,じっくりと祈りの音楽を聞かせてくれました。第3楽章も速いパッセージでのクリアな音の動きが見事でした。それでいて音楽が走りすぎることはなく,いかにもベートーヴェンの大曲らしいまとまりの良さもありました。

後半は,障子口和歌奈さんによるモーツァルトのピアノ協奏曲第23番で始まりました。ここでもOEKによる序奏部の演奏が見事でした。奇を衒ったところは全くなく,大きく暖かく包み込むような安心感がありました。新田ユリさんがOEKを指揮するのを聞くのは今回初めてでしたが,どの曲からも,若手ピアニストをしっかりとサポートしようという誠実さが感じられ,素晴らしいと思いました。

この伴奏に乗って,障子口さんも安心して邪気の無い,流れの良い音楽を聴かせてくれました。第2楽章も深刻になり過ぎず,サラリと聞かせてくれました。第3楽章は快適なテンポによる,軽快な演奏でした。途中,1箇所,音楽の流れが止まりそうになり,一瞬ヒヤリとしましたが(ホルンだけが音を伸ばしていたおかげで,止まらなかった?),その後はしっかり立ち直ったのは,立派でした。

反面,「シンプルだからこそ,一音もおろそかにできない」モーツァルトの曲の持つ怖さを実感しました。この曲の第3楽章ですが,アルトゥール・シュナーベル演奏による古いライブ録音で,同じような箇所で止まってしまうのを聞いたことがあります。それだけ演奏が難しいロンドなのだと思います。

3楽章については,木管楽器とピアノが掛け合いをしながら,次第にグルーヴ感を増していく感じが大好きなのですが,さすがにこの辺は,まだ若いピアニストということで,ちょっと遠慮がちかなと思いました。

演奏会の最後は,木下由香さんによる,シューマンのピアノ協奏曲でした。この曲は,ラ・フォル・ジュルネ金沢の最終日に,ジャン=フレデリック・ヌーブルジェさんのピアノで聞いたばかりの曲ですが,今回の木下さんの演奏も,音楽全体に勢いがあり,客席までシューマンらしい情感がしっかり伝わってきました。木下さんは,1999年の石川県新人登竜門コンサートでOEKと共演していますが,さすが,曲に対する入れ込み方が深いなぁと思いました(これは,シューマンだからということもあると思います)。冒頭の和音から真剣勝負という感じでした。

その後に続く,加納さんによるオーボエのソロもいつもながらお見事でした。こういう部分を聞くと,シューマンにオーボエ協奏曲を作って欲しかったな,と思ってしまいます。私がこの曲を最初に聞いたのは中学校1年生の時のFM放送だったのですが,このオーボエのソロを聞くとその頃のことを思い出して,何となくせつなくなります。というわけで,私にとっては重要なチェックポイントなのです。

第2楽章の最初に出てくる,脱力した感じのピアノ・ソロも聞くとせつなくなります。その後に続く,チェロ軍団(なぜか,チェロ軍団と呼んでしまうのですが,これもまた,その当時の「スーパー・チェロ軍団」という,何かのLPレコードに付けられていた名(?)キャッチコピーの印象が抜けないからです)による夢見るようなロマンティックな気分も絶品でした。ラ・フォル・ジュルネの時のパリ室内管弦楽団による明るい演奏も素晴らしかったのですが,今回のOEKによるじわじわと盛り上がってくるようなせつなさも最高でした(どうもこの楽章については,どこを聞いてもせつなく感じてしまって困ります)。

第3楽章も大変勢いのある音楽でした。少々荒っぽいかなという部分もあったのですが,全編「青春の音楽」という感じでした。「3拍子なのに何故か行進曲」の部分,ピアノが転調しながら次々音階を演奏していく部分,ホルンの力強い咆哮...どこを取ってもシューマンという曲です。木下さんの演奏にも,シューマンの音楽に対する共感と熱気が感じられ,やっぱりこの曲は良い曲だ再認識できました。

今回は,30分前後のピアノ協奏曲4曲という独特のプログラムでしたが,どの曲も,新田ユリさん指揮OEKのサポートが万全で,皆さん,大船に乗った気分で演奏できたのではないかと思います。考えてみると,指揮者も含めて,女性アーティストばかりが続々登場する大変華やかな(視覚的な面でも)ステージでした。ラ・フォル・ジュルネでお馴染みになったピアニストをコンサートホールで聞けるということで,来年以降もこの演奏会には注目していきたいと思います。(2010/06/08)

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