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金沢室内管弦楽団第24回定期演奏会
2010/6/12 金沢市文化ホール
1)(追悼演奏)エルガー/愛の挨拶
2)シュトラウス,R./13管楽器のための組曲作品4
3)シュトラウス,R./メタモルフォーゼン:23の独奏弦楽器のための習作
4)シューマン/交響曲第3番変ホ長調作品97「ライン」
5)(アンコール)チャイコフスキー/バレエ音楽「くるみ割り人形」〜「情景:冬の松林」
●演奏
松田浚良指揮金沢室内管弦楽団
Review by 管理人hs  
金沢市に本拠地がある,一般社会人が参加しているアマチュア・オーケストラには,石川フィルハーモニー交響楽団,金沢交響楽団,金沢室内管弦楽団の3団体があります。その他にも活動をしている団体はあるかもしれませんが,毎年,定期演奏会を積み重ねている団体は,この3つでしょう。今回は,その中の金沢室内管弦楽団の定期演奏会に出かけてきました。

金沢室内管弦楽団は,1986年,先日亡くなられた川北篤さんを団長として発足したオーケストラです。川北さんは,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK),金沢大学フィルハーモニー管弦楽団をはじめとして,地元のクラシック音楽の演奏会を強力にサポートされていた方として有名な方でした。今回はその大先輩に対する追悼の意味も込めて,聴きに行くことにしました。

演奏会は,まず,川北さんに対する追悼演奏で始まりました。演奏されたのは,川北さんの好きだった,エルガーの愛の挨拶でした。今回は,十数名の弦楽合奏で演奏されましたが,川北さんご自身もチェロを演奏されていた方ということで,チェロ・パートの人数が多めでした。暖かな雰囲気のある演奏は,川北さんの人柄を彷彿とさせるものだったのではないかと思います。

さて,演奏会の方ですが,前半がR.シュトラウスの管楽器のための組曲と弦楽合奏のためのメタモールフォーゼン,後半がシューマンの交響曲第3番「ライン」という,OEKの演奏会を思わせるような,”アマチュアとは思えない”ようなプログラムでした。実は,今回定期演奏会を聞きにいこうと思ったのは,この選曲に惹かれたこともありました。特に前半の2曲は,オーケストラを管と弦に分ける,かなり冒険的な試みだったと思います。まずは,このチャレンジ精神に拍手をしたいと思います。

最初の13管楽器のための組曲という作品は,その作品番号からも分かるとおり,シュトラウスがまだ10代の時に作曲した作品で,モーツァルトのグラン・パルティータなどの影響を受けて作られた作品のようです。楽器編成は次のとおりです(モーツァルトの曲の編成とは少し違います。)。
       Hrn*4
   Ob*2  Cl*2  Fg*2
Fl*2            C-Fg


もちろん実演で聞くのは初めての曲でしたが,伝統的なドイツ音楽の気分を感じさせてくれるような演奏でした。曲の随所で出てくるハーモニーの溶け合いがとても美しく,各楽器のバランスがとても良いと思いました。今回指揮をされた松田さんは,長髪を後ろで束ね,鼻の下に髭という非常に個性的な雰囲気の方でしたが,以前,ドイツのオーケストラでホルンを吹いていたことがある方ということで,見た目とは違い(?)非常に真面目な音楽を作られる方だと思いました。編成的にも,ホルンが4本入るなど,少ない人数の割に,音の厚みもありました。全曲の印象は,やや渋いところはありましたが,素朴な暖かさのあるドイツのお土産といった感じの演奏だったと思います。

次のメタモルフォーゼンの方は,OEKファンならば,丁度1年程前のギュンター・ピヒラーさん指揮のOEKによる定期公演での演奏を思い出すことでしょう。今回の選曲も,もしかしたらそのことが関係していたのかもしれませんが,室内オーケストラにとっては,「究極のレパートリー」といった難しさのある曲に果敢に挑戦した素晴らしい演奏だったと思います。

もちろんOEKの演奏に比べれば,全体的にやや慎重で,音のダイナミックレンジや細部での精密さの点で不足する部分はありましたが,誠実さがしっかりと伝わって来る演奏でした。金沢市文化ホールは,残響が少なく,特に弦楽合奏の場合,どうしても,いつも聞いている石川県立音楽堂での演奏で聞くようなしっとりとした雰囲気にはならないのは残念でしたが,それでもこの曲の持つ,生々しい切実さのはしっかり表現されていたと感じました。

後半は,シューマンの交響曲第3番「ライン」が演奏されました。演奏会の後半で初めて,管と弦が全員勢揃いするという構成は,アマチュア・オーケストラとしてはかなり変則的だと思います。その響きですが,最初の一音からオーケストラ全体の音が一つにまとまり,ズシリとした充実感がありました。力んだ感じはなく,堂々とした落ち着きがあるのも素晴らしいと思いました。

個人的には,この曲のポイントはホルンだと思っているのですが,見事な演奏でした。指揮の松田さんの力もあるのか,要所要所で出てくる力強いホルンの響きが曲をしっかり引き締め,いかにもドイツのロマン派の交響曲らしい勇壮な気分を作っていました。

第2楽章最初のライン川の流れを思わせるようなチェロ合奏のゆったりとした雰囲気や,第3楽章でのじっくりとした温かみを感じさせる気分も印象的でした。第4楽章では,満を持して登場するトロンボーンが注目です。今回の演奏でも,このトロンボーンを中心とした管楽器のハーモニーが見事でした。「ケルンの大聖堂だ」といった重々しい感じはありませんでしたが,どこか敬虔な気分にさせてくれるような気持ちの良さがありました。

第5楽章は,無理のないテンポで,軽快にラインの旅を終える,といった趣きがありました。コーダの部分でも熱狂的にテンポを上げるのではなく,非常に率直にスパッと締めくくっていたのが印象的でした。小細工なしの質実剛健なドイツのサウンドといった感じがありました。

「ライン」交響曲は,今年のラ・フォル・ジュルネ金沢で,金聖響さん指揮のOEKで聞いたばかりだったのですが,それとはまた別の良さを感じさせてくれました。個人的には,松田さんと金沢室内管弦楽団さんには,この路線で,是非,シューマンの交響曲第2番,第4番あたりも取り上げて欲しいな,と思いました(単に実演で聞いたことがないからですが)。

最後にアンコールが1曲演奏されました。曲名は分からなかったのですが,チャイコフスキーのバレエ音楽のクライマックスのような感じの曲で,息の長いクレッシェンドを楽しませてくれました。

#その後,曲名を読者の方から教えて頂きました。やはり,チャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」の中の曲とのことでした。

金沢室内管弦楽団は,OEK同様に,室内管弦楽団といいつつ,かなり幅広いレパートリーを取り上げているようなので,これからも意欲的なプログラムに挑戦していって欲しいと思います。(2010/06/13)

関連写真集
会場前にあった看板