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金澤ジャズスクエア2010
2010/06/27 石川県立音楽堂周辺〜JR金沢駅構内
■金沢駅コン 金沢大学モダンジャズソサエティ
13:00〜 JR金沢駅コンコース
1)Sing Sing Sing
2)曲名聞き取れず
3)ア・ナイト・アット・エル・モロッコ
4)プレッシャー...(聞き取れず)
5)(アンコール)ブルース・イン・フォー...(聞き取れず)
●演奏
金沢大学モダン・ジャズ・ソサエティ

これからジャズを楽しむための入門講座
13:45〜 石川県立音楽堂交流ホール
1)A列車で行こう
2)A Thousand cranes
3)虹のかなたに
●講師・演奏
守屋純子(講師,ピアノ)

Review by 管理人hs  

JR金沢駅と石川県立音楽堂の交流ホールで金沢ジャズスクエア2010というイベントを行っていたので,その一部を聴いてきました。金沢市では,昨年から,5月の「ラ・フォル・ジュルネ金沢」に対応させるように,9月に「金沢ジャズ・ストリート」というイベントを大々的に行われています。今回の「スクエア」の方は,「ストリート」とは直接関係ないのですが,前哨戦といった感じのイベントと言えます。

金沢ジャズスクエアは,ラ・フォル・ジュルネ金沢同様,石川県立音楽堂とJR金沢駅を使ったイベントで,いくつかの演奏会が連続的に行われました。私はそのうち,JR金沢駅で金沢大学モダン・ジャズ・ソサエティ(金大MJS)によるビッグ・バンド・ジャズと守屋純子さんによる,「入門講座」を聞いてきました。

金大MJSの演奏は,金沢エキコンとして午前と午後2回行われました。午前11:00の方は,トリオによる演奏でしたが,私は午後13:00からのフル編成のビッグ・バンドの方を聴いてきました。

この日の金沢は「ものすごく」蒸し暑く,JR金沢駅のコンコースは蒸し風呂状態。聴く方も演奏する方も汗だくになっての演奏でした。しかし,この気分もまたジャズ的で,間近で聴いたこともあり,大変迫力のあるサウンドを楽しむことができました。

今回は,ソロを取る楽器などについては,PAを使っていましたが,要所要所で音がビシっと揃い,ズバっと立ち上がってくるような,ビッグ・バンドならではのパンチ力に感嘆しました。若い人たちによるビッグバンド,と言えば,映画「スイングガールズ」を思い出します。調べてみると,この映画は2004年に公開されていますので,年齢的に言って,中高生の頃,この映画を見て,大学になってジャズ・バンドに入ったような学生が多いのではないかと感じました(そういう目で見るからか,MC担当の元気の良いサックス奏者を始め,女子部員が大半でした)。

今回演奏された曲の中では,最初の「シング,シング,シング」だけが聞いたことのある曲でした。ベニー・グッドマンの楽団の定番曲で,映画「スイングガールズ」のクライマックスでもお馴染みの作品です。上述のとおり,演奏全体にパンチ力とエネルギーが溢れていると同時に,がっちりとよくまとまった演奏で聴き応え十分でした。

後でご紹介する,守屋純子さんの講座の中で「有名アーティストのCDよりも,アマのライブ演奏の方が楽しいのがジャズ」という言葉が出てきたのですが,そのとおりだと実感しました(この言葉ですが,ジャズに限らず,クラシック音楽でもそうですね)。

その後に演奏された曲は,曲名がはっきり聞き取れなかったのですが,それぞれにソロをフィーチャーし,変化に富んだ曲を楽しませてくれました。ア・ナイト・アット・エル・モロッコ(後で調べてみたのですが,カウント・ベイシー楽団の曲のようです)は,緩やかなムード音楽風で,私の貧困な発想で言うと「ウィスキー片手に...」というのが合いそうでした。

金大MJSは,駅コン以外にも,12:00から行われた,石川県立音楽堂前で行われたサンデイ・ジャズ・ブランチにも出演し,大活躍だったようです。いかにも学生らしい元気のよいMCと演奏を聴きながら,景気低迷,就職難,国の借金,増税...など世の中の閉塞状況を打破するのは,若者による音楽しかないかな,などと考えながら聴いてしまいました。

さて,その後は地下通路を通って石川県立音楽堂に移動し,JO-HOUSEさんのカレーの匂いの漂う入口を抜けて,守屋純子さんによる「ジャズ入門講座」を聴いてきました。私自身,何事につけ「○○講座」という企画が大好きで,いろいろなジャンルの「○○入門」のような本ばかり,ついつい買ってしまいます。決め事やルールを知っておくと,より深く楽しめるということで,ジャズに関する入門書も読んだことはありますが,今回はピアノの実演を交えての講座ということで楽しみに聴きに行きました。

守屋さんのお話は大変分かりやすいものでした。クラシック音楽関係を含め,いくつか講座を聴いたことはありますが,まず,今回のようにきちんとしたハンドアウトが配られることは滅多にありません。配布することで,学校の授業のように堅苦しくなるのはよくないのですが,今回の守屋さんのトークは大変リラックスしたもので,「楽しく,わかりやすく,ためになる」講座になっていました。

以下,その要点をご紹介しましょう。

1.即興演奏ってどうやって成り立っているのでしょう?
  • ジャズのいちばんの特徴が即興演奏(アドリブ)。これは難しそうだが,ある程度のものならば,誰にでもできる。外国語を学ぶようなものである。
  • 即興演奏を成り立たせる技法を説明する前に,ジャズとクラシック音楽との違いを説明。実は,ジャズはクラシック音楽と良く似ている。
@リズム: クラシック音楽は4拍子の場合,1拍目と3拍目が強いが,ジャズは2拍目と4拍目(いわゆる裏拍)が強い。これは黒人のリズムである。
Aメロディ: メロディを変えすぎるとその曲でなくなってしまうが,ジャズでは,アドリブとして,メロディを応用する。詳細はアドリブの説明で。
Bハーモニー: 独特のテンション(緊張感)を持った不協和音が特徴。ただし,テンションの高い不協和音はドビュッシー以降のクラシック音楽でも頻繁に使われている。その不協和音を楽しむのがジャズ。
C譜面: 最低限の譜面しかなくアドリブ中心である。

  • こういう条件を満たせば,どういう曲でもジャズになる。つまり,ジャズというのは曲ではなくスタイルである。
  • その例を童謡の「夕焼け小焼け」で説明。
@まず,リズムを裏拍に変える。それだけでジャズっぽくなる。
# 最後の質問で補足があったが,強迫を半拍ずらすシンコペーションもジャズの特徴

Aクラシック音楽や童謡については,F・G・Cの3コードが基本。これにテンションを加えるとジャズらしくなる。ちなみに「夕焼け小焼け」のコード進行は次のとおり。
  C|C|C|G
  C|F|G|C
  F|C|G|C
  C|F|G|C
Bこれらのコードを換え,構築し直し,もっと複雑な動きにする。このことをリハーモナイズという。
Cさらにリズムパターンをスイング,バラード,ワルツ,ボサノヴァに順に変える。どう変えても良いのがジャズの特徴
Dさらに,調(キー)を変えることもジャズでは許される。実はキーによって表情はかなり変わる。
Eテンポも動かしても良い。
Fそのコード進行の上で,基本メロディにどんどん修飾を加えていく。少しだけ変えるものをフェイクと言う。アドリブは,それをどんどん変化させて行った結果である。

@〜Fをすべて自分で自由に選ぶのがジャズである。

2.ジャズという音楽の特徴・聴き所について
■自由な音楽
  • クリーニング屋,牛丼屋...とにかく,ジャズは,どこでも流れている。邪魔にならない,便利な音楽である。その反面,どこから聴いたら良いのか分かりにくい音楽でもある。・ジャズのいちばん面白いところは,1.で紹介したとおり,自由なところである。演奏者の自己責任が大きく,その人の人間性が出る。
  • 即興演奏は,事前準備がない分,嘘がつけない。演奏者の内面がダイレクトに伝わるのがジャズの魅力であり,聞き所である。普通は,大人しい人が,楽器演奏になると饒舌になることがあるが,音楽の方がその人の本来の姿である。指が動いても何も伝わらない演奏もある一方,指が動かなくても情念が伝わる演奏がある。

■アンサンブルの音楽
  • ジャズのもう一つの特徴としてアンサンブルの音楽であることが上げられる。
  • ジャズ演奏は,対話・絡みである。自由であると同時に,協調性も必要である。ソロの部分での主張とそれ以外の部分での協調性の両方を学ぶことができる。子供の教育にも有効

■地域性と時代性が関わる音楽
  • ジャズは,地域性と時代性が大きく関わる音楽である。1950年代のアメリカのジャズがいちばんではない。
  • 日本国内でも,関西のビッグバンド(笑いを取る)と関東のビッグバンドは全然違う。金沢のビッグバンドは...何か内に秘めているような感じがする。
  • ジャズは,現代では,世界中の音楽になった。一過性の生き物のような音楽なので,その場に居合わせることが何より重要である。お客さんの反応によってもどんどん内容が変わる。こういったことが分かると本当にジャズが楽しくなる。
  • ジャズで重要なのは,その人にしか出せないオリジナリティである。ジャズでは誰かに似ていることに価値はない。例えば,「日本のビル・エヴァンス」といった言葉は褒め言葉ではない。

以上のような講座の後,守屋さんのピアノ独奏で,3曲が演奏されました。この中では,「サダコと千羽鶴」を題材に,守屋さんのおばさんを偲んで作った「ア・サウザンド・クレインズ」が印象的でした。「戦争をすれば子供が死ぬ」という哀しみを描いた曲とのことです。

今回の講座を聴いて,ジャズというのは,一種のスタイルで,「ジャズのリズムとハーモニーをつければ,何でもジャズになる」ということをしっかり実感できました。私自身もジャズというのは,クラシック音楽の応用=根底は同じと考えていましたので,大変分かりやすく感じました。

クラシック音楽の場合,楽譜どおりに演奏するのが常識ですが,ジャズの場合は,それを即興的に変更して演奏します。作曲者よりは演奏者の個性が前面に出る,自由裁量の非常に大きいジャンルということになります。

この「自由な音楽」という側面ですが,講座を聴いたにも関わらず,やはり,私にとっては,あまりに自由過ぎる音楽には付いていけない部分があります。演奏者によるアドリブと作曲者のオリジナルを比較した場合,やはり,時間を掛けて練り上げた譜面の方が客観的に見て面白いのではないか,という気がどうしてもします。どうもジャズのアドリブについては,どれもこれも饒舌すぎる気がするのです。井上道義さんがよく言っているのですが,「普通に演奏しても,演奏者の個性はにじみ出るもの」という気がします。

クラシック音楽系の奏者の演奏の中にも「ジャズ的」な側面はあるし,ジャズ系の奏者の中にもクラシック音楽的な側面があると思います。結局のところは,ジャズとクラシックについては,大きな区別をする意味はなく,どれぐらいの自由裁量が良いか,という聞き手側の好みの問題になると思います。

というわけで,私の場合に当てはめると,自由過ぎるジャズよりは,「ジャズ風味」ぐらいが好みかな,と今回の話を聴きながら感じました。(2010/07/03)

関連写真集

エキコン金沢のポスター


レッド・カーペットの上でのビッグ・バンド演奏


正面から撮影。音楽が始まると,大勢のお客さんが足を止めるのは,いつもどおりです。


石川県立音楽堂前でも演奏を行ったようです。


こちらは音楽堂前にあったポスター


交流ホールの入口付近は,「ジャズ喫茶」風になっていました。鍵盤付きハーモニカを加えての独特のトリオによる演奏でした。


アルコールも販売していたようです。JO-HOUSEのカレーも食べたかったのですが,時間が取れず,残念ながら食べることができませんでした。


ジャズ講座のステージです。ホワイトボードが置いてあるのが講座ならではです。


終演後,入口前で守屋さんによるサイン会がありました。