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夏休みコンサート:朝日親子サマースペシャル
2010/08/20 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ビゼー/歌劇「カルメン」〜闘牛士,前奏曲,アラゴネーズ,間奏曲,アルカラの竜騎兵,ジプシーの踊り
2)山本直純(阪田寛夫作詩)/管弦楽と児童合唱のための「えんそく」
3)倉知竜也編曲/ディズニーメドレー
4)シューベルト/劇音楽「ロザムンデ」序曲
5)シュトラウス,J.II/ワルツ「美しく青きドナウ」
6)(アンコール)山本直純(阪田寛夫作詩)/歌えバンバン
●演奏
鈴木織衛指揮オーケストラ・アンサンブル金沢;OEKエンジェルコーラス*2,5,6;石川県ジュニアオーケストラ*4-6
司会:金子美奈
Review by 管理人hs  

夏休み中盤恒例のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と石川県ジュニアオーケストラ,OEKエンジェルコーラスによるジョイントコンサートを聞いてきました。このジョイント・コンサートですが,今年からは,名称が「夏休みコンサート」と変更されました。この方がシンプルで分かりやすくて良いですね。年に一度のサマー・スペシャルということで,今年も子供たちとOEKの合同演奏を中心に多彩な曲が演奏されました。指揮は,お馴染みの鈴木織衛さんでした。

まず,OEK単独でカルメン組曲が演奏されました。私の方は,このところ,中高生の演奏する吹奏楽コンクールばかり聞いていたのですが,やはりコンクールとコンサートは別物だなと思いました。一発勝負の張り詰めた空気には何物にも代え難い純粋な気分があり,感動してしまうのですが,プロのオーケストラによる余裕のある演奏は本当にリラックスした気分にさせてくれます。

鈴木織衛さんの指揮ぶりは,いつもどおり大変流麗で,全く無理なく,颯爽と音楽が流れていきました。美しい流線型を感じさせる上石さんのフルート,貫禄十分の余裕の歩みを感じさせる柳浦さんのファゴットなど随所で管楽器がソリスティックに活躍したり,打楽器が鮮やかにアクセントを付けたり,いかにも「カルメン」らしい華やぎも感じさせてくれました。

最後の「ジプシーの踊り」は,非常にゆっくりしたテンポでひっそりと始まり,艶っぽい音楽を聞かせた後,後半に向けて,熱く盛り上げてくれました。見事に計算された,さすがOEKという演奏でした。

続いて,OEKエンジェルコーラスとOEKの共演で山本直純作曲,阪田寛夫作詞による「えんそく」という組曲が演奏されました。この曲は,1970年(大阪の万国博覧会の年ですね)に作曲された曲ということで,山本直純さんの才気と高度経済成長の時代空気を感じさせてくれました。曲の根底に,前向きな明るさと豊かさのある曲だと思いました。

曲は,遠足に出かけた子供の一日を順に描くような6つの曲からなっていました。1曲目の「光る」から直純さんのメロディ・メーカーとしての才能が溢れていました。OEKエンジェル・コーラスのメンバーは,かなり幅広い世代の子供たちがあつまっていますが,いかにも夏休みらしい,大らかな歌を聞かせてくれました。

2曲目の「歩く時の歌」は,掛け声が入ったり,オノマトペが入ったり,言葉遊び的な楽しさ一杯の曲でした。こういう世界は,児童合唱以外には表現できないと思います。途中,ドドンパ(?)風のリズムが出てきたり,直純さんのユーモア精神がしっかり伝わってきました。

3曲目の「おべんとう」もまた,ユーモラスな曲でした。「かつおぶし」や「いりたまご」が続々と出てくる阪田寛夫さんの詩自体が大変楽しいものでした。「おべんとう」を描いた曲(どれくらいあるか知りませんが)の中でも傑作なのではないかと思います。

4曲目の「城跡」もまた,傑作だと思いました。やや渋いタイトルですが,「晴れた日の昼下がりに城跡の石垣の上の雲を見ているうちに眠くなる」というのは,実感としてよくわかりますねぇ。ソプラノ独唱の見事なオブリガートが付いていましたが,全曲の中でもっとも”聞かせる”曲だと思いました。一度,金沢城公園に寝ながら聞いて見たい作品です。

その後,5曲「山の上の合唱」,6曲「家路」と続き,無事,帰宅します。最後の曲は「家路」なのですが,ドヴォルザークの「家路」のように静かに終わるのではなく,途中から行進曲になって元気良く終わる辺りも良いですねぇ。

この曲は,夏休み自体を描いた曲ではなかったのですが,私が思い浮かべる夏休みの気分にぴったりでした。ただし,その印象は,「昔の夏休み」なのかもしれません。自分の子供の頃を振り返りながら,この曲に描かれているようなもっと大らかな気分があったような気がするなぁと,勝手にノスタルジーに浸ってしまいました。

後半は石川県ジュニアオーケストラとOEKの共演によるステージで始まりました。ディズニー・メドレーと「ロザムンデ」序曲がたっぷりと演奏されましたが,金管楽器が最後列にずらりと勢ぞろいした大編成の響きは夏休み気分にぴったりでした。

「ロザムンデ」の方は,来年3月のジュニアオーケストラの定期演奏会でも演奏される曲とのことです。恐らく,来年のラ・フォル・ジュルネ金沢を意識して準備している曲だと思います。来年に向けて,さらに磨きをかけて欲しい部分もありましたが,この曲ならではのザワザワ,ウキウキした感じとちょっと甘いムードがしっかり伝わって来ました。OEKの加納さんのオーボエ・ソロもさすがでした。

最後にシュトラウスの「美しく青きドナウ」が3団体合同で演奏されました。この曲を合唱付きで聞くのは久しぶりのことです。OEKエンジェルコーラスの結成のきっかけが,ウィーン少年合唱団との共演ということなので,この合唱団の原点といっても良い曲と言えそうです。合唱なし版で聴き慣れていることもあり,ホルンを中心とした序奏に続き(ジュニアオーケストラのホルン奏者が立派に演奏していました),児童合唱が入ってくると,とても新鮮な気分になりました。この演奏会のトリにぴったりの作品だなぁと改めて感じました。

アンコールでは,前半の「えんそく」と同じ,山本直純−阪田寛夫コンビによる名作「歌えバンバン」が演奏されてお開きになりました。こちらの方も「これしかない」というぴったりのアンコール曲でした。

この日の司会は,北陸朝日放送の金子美奈アナウンサーが担当されていましたが,やはり昨年までの若手アナウンサーによる司会に比べると落ち着きが違います。今回のコンサートをとても気持ちよく楽しめたのは,金子アナウンサーの進行の力も大きかったと思います。

夏休みも今がたけなわです。私の方は,かなりバテ気味ですが,7月の中旬以来約1ヶ月ぶりに音楽堂でオーケストラの演奏を聞き,しっかり鋭気を養うことができました。8月の後半は,いしかわミュージックアカデミーと井上道義さんによる指揮者講習会ということで,また違った夏休み気分を味わってこようと思います。(2010/08/21)

関連写真集
公演のポスター


いしかわミュージックアカデミーも開幕


石川県立金沢ニ水高校新聞部が編集した「二水新聞」が音楽堂の掲示板に掲示されていました。ラ・フォル・ジュルネ金沢を取材した特集記事が掲載されています。井上音楽監督にインタビューを行うなど,「カデンツァ」も顔負けの立派な出来です。