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いしかわミュージックアカデミー ライジングスターコンサート2010
2010/08/21 石川県立音楽堂交流ホール
1)バッハ,J.S./イタリア風協奏曲へ長調 BWV. 971〜第1, 3楽章
2)ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第3番変ホ長調 Op. 12-3
3)ドビュッシー/ヴァイオリン・ソナタト短調
4)プロコフィエフ/ヴァイオリン・ソナタ第2番二長調 Op.94bis〜第1, 2, 4楽章
5)リスト/巡礼の年第1年スイス S160/R10 第6番「オーベルマンの谷」
6)プロコフィエフ/4つの小品〜Op. 4 第4番「悪魔的暗示」
7)ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調 Op. 26〜第2楽章,第3楽章
8)シューベルト/ヴァイオリンとピアノのための華麗なるロンド ロ短調 Op. 70
9)ラフマニノフ/練習曲「音の絵」 Op. 33-6
10)スクリャービン/ピアノ・ソナタ第4番 嬰へ長調 Op. 30
11)チャイコフスキー/ロココ風の主題による変奏曲 イ長調 Op. 33
12)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第8番ハ短調 「悲愴」 Op. 13〜第1楽章
13)リスト/3つの演奏会用練習曲第2番 へ短調 「軽やかさ」
14)ショパン/バラード 第3番
15)ラヴェル/ヴァイオリン・ソナタ ト長調
●演奏
尾田奈々帆(ピアノ*1),ヒョンジョン・キム(ピアノ*5-6),篠永紗也子(ピアノ*9-10)
,小野田有紗(ピアノ*12-14),山根一仁(ヴァイオリン*2),松本紘佳(ヴァイオリン*4),インモ・ヤン(ヴァイオリン*3),大江馨(ヴァイオリン*7),青木尚佳(ヴァイオリン*8),クララ=ユミ・カン(ヴァイオリン*15),三井静(チェロ*11)

鈴木深喜(ピアノ*2,4.7),ヤンヒ・リー(ピアノ*3,8<15),インスン・チェ(ピアノ*11)
Review by 管理人hs  

夏休み後半の恒例イベント,いしかわミュージックアカデミー(IMA)の「ライジングスターコンサート」を聞いてきました。2008年から始まった,「のだめカンタービレ」を連想させる名称のこのコンサートも,すっかり定着したようです。11人の若手演奏家が次々登場し,15分程度の曲を演奏するマラソンコンサートというで,休憩2回を含め,約3時間30分という聞きごたえたっぷりの内容でした。

何より,どの演奏にも技巧的に危ういところはなく,磨き上げられた演奏の連続という点が驚異的でした。IMAのレベルの高さを示す素晴らしい内容の演奏会でした。以下,登場順に紹介していきましょう。

1.尾田奈々帆(ピアノ)
大変明快で,気持ちの良いバッハでした。明快なタッチが素晴らしく,生き生きと一直線に進む若々しい演奏を聞かせてくれました。尾田さんは,地元出身の中学校1年生ですが,他のアーティストに負けない堂々たる演奏を聞かせてくれたのが,大変頼もしく感じました。

2.山根一仁(ヴァイオリン)
外観は大変スマートな方でしたが,芯のある力強い音を平然と聞かせてくれました。とても清潔感のある演奏で,古典派の曲らしい様式美と落ち着きを感じさせてくれました。山根さんもまだ,今年15歳ということですが,非常に大人っぽい演奏をされる方だと思いました。

3.インモ・ヤン(ヴァイオリン)
山根さんの演奏に比べると,ドビュッシーの作品ということもあり,一気に雰囲気が色彩的になりました。柔らかく包み込むような音,迫力のある静寂など,濃厚な味わいもありました。ヤンさんは山根さんと同じ年の生まれということで,これからも好敵手として活躍されていくことでしょう。

4.松本紘佳(ヴァイオリン)
大変小柄でまだあどけなさの残る松本さんですが,楽器の鳴らしっぷりが本当に見事でした。曲の冒頭のクールな美音をはじめ,大変,思い切りの良い演奏を聞かせてくれました。3つの楽章を聞かせてくれたのですが,楽章を追うにつれて,音楽のノリが良くなり,大変キレの良いリズムや技巧を次々と聞かせてくれました。正真正銘の大器と言っても良い,凄味を感じさせるような熱演だったと思います。

松本さんはここ数年,IMAに参加されています。私自身を含め,聴衆の中には,その成長を見守る親のような気分になっている人も多いのではないかと思います。

5.ヒョンジョン・キム(ピアノ)
ヒョンジョン・キムさんの演奏を聞くのは2回目ですが,前回同様,ふてぶてしいまでに押しの強い,惚れ惚れするような演奏を聞かせてくれました。2年飛び級で韓国国立芸術大学に入学し,2009年の浜松国際ピアノコンクールで第5位入賞を果たしている方ということで,既に成熟した,大変完成度の高い音楽を聞かせてくれました。リストの曲は,どの曲も実演では大変映えるのですが,ねっとりとした詩的な雰囲気と豪快さとが見事に共存しており,大変聴き応えがありました。

2曲目のプロコフィエフは,不気味な迫力を持った演奏でした。平然と演奏する辺りに底知れぬスケールの大きさを感じました。

6.大江馨(ヴァイオリン)
大学2年生の大江さんも大変スマートな方で,どこか先に登場した山根さんやヤンさんと雰囲気が似ている感じがしました。ヒョンジュン・キムさんが肉食系だとすれば,草食系と言っても良いかもしれません。

今回は,ブルッフのヴァイオリン協奏曲の第2楽章と第3楽章が演奏されました。第2楽章は,曲想にぴったりの切なさを丁寧に聞かせてくれましたが,甘さよりはすっきりとしたスマートさがあり,現代的な感性が感じられました。第3楽章もまた,曲想どおり大変伸び伸びと,熱い音楽を聞かせてくれました。

大江さんは,10月の仙台クラシックフェスティバルでこの協奏曲を仙台フィルと共演するとのことです。大変よく鳴る,明るい音は,オーケストラと共演すると,さらに聞き映えするのではないかと思います。

7.青木尚佳(ヴァイオリン)
青木さんは,昨年の日本音楽コンクールで第1位を受賞されている方です。ここまで登場してきた奏者に比べると,さらに一段と大人っぽさのあるステージマナーで,安心して音楽を楽しむことができました。ヴァイオリンの音も引き締まり,密度の高さを感じさせてくれました。何よりも,音楽全体がとてもスタイリッシュで気品のようなものが漂っているのが素晴らしいと思いました。

8.篠永紗也子(ピアノ)
篠永さんは,昨年のIMAフェスティバルコンサートに登場して以来,金沢ではすっかりお馴染みの若手ピアニストです。さすがに韓国のヒョンジョン・キムさんあたりと比べるとパワーには不足するところはありましたが,「音の絵」のタイトルどおり,大変鮮やかな演奏でした。音楽の流れに乗って,自然に曲が盛り上がるのが素晴らしいと思いました。

9.三井静(チェロ)
三井さんは,今回登場した中で唯一のチェロ奏者でした。昨年のIMAの発表会で演奏を聞いた時から立派な演奏をする奏者だなぁと思っていたのですが,今回も誠実な音楽を聞かせてくれました。

チャイコフスキーのロココ変奏曲は,大変な難曲です。三井さんは,見事な技巧を見せるだけでなく,チェロならではの歌心を輝きのある音で聞かせてくれました。交流ホールの良い点は,演奏者の息づかいまでしっかり伝わるところですが,その集中力の高さもすばらしいと思いました。

10.小野田有紗(ピアノ)
小野田さんは,3曲演奏しました。プログラムを見たとき,ベートーヴェンの「悲愴」ソナタを全曲演奏するのか!と勘違いしたのですが,さすがにそれだと長すぎますので,第1楽章だけが演奏されました。演奏前にしっかりインターバルを取った後,思いつめたような切迫感のある音楽を聞かせてくれました。その気分が,次第に軽やかに飛翔して行く辺りに若々しさを感じました。リストの練習曲の鮮やかさ,可愛らしさ,ショパンのバラードの抑制の効いたバランスの良い演奏も見事でした。

11.クララ=ユミ・カン(ヴァイオリン)
マラソン・コンサートのトリを務めたのは,昨年のIMA音楽賞を受賞した後,ハノーファー国際ヴァイオリンコンクール2位,今年の仙台国際音楽コンクールで優勝と乗りに乗っているクララ=ユミ・カンさんでした。チラシに載っている写真は,まだ幼い感じなのですが,ステージに登場したカンさんは,全く別人のようで,厳しい難関を勝ち抜いてきたアーティストの自信と落ち着きを感じさせてくれました。

カンさんの演奏は,今年のラ・フォル・ジュルネ金沢でも聞いたのですが,音自体にしっかりとした安定感があり,演奏全体にゆるぎない軸のようなものがあります。ジャズ風の第2楽章での堂々たる貫禄。最終楽章,曲が進むにつれて音の輝きがどんどん増して来る異様な迫力,と中途半端でない完成度の高い演奏を聞かせてくれました。

こうやってライジングスターたちの演奏を聞いていると,「これ以上学ぶことはあるのだろうか?」という気さえします。しかし,そこにとどまらず,さらに納得の行く演奏を目指したいという意識の高さが,並の奏者とは違うところなのだと思います。IMAの成果は,年々目に見えて高まっています。金の卵が集結するこのコンサートは,数年後に振り返ると,大変貴重な記録となっていることでしょう。

PS.IMA関連では,26日に井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢と若手奏者が共演する演奏会が行われます。今度はコンサートホールでの協奏曲演奏ということで,こちらもまた楽しみです。

PS.参加した全奏者から聴衆へのメッセージの書かれたリーフレットが配布されていましたが,これも良かったと思います。既に有名なアーティストの演奏を聞くのも良いのですが,新たなアーティストを発見する機会が提供されていることは,それ以上に贅沢なことのような気がします。(2010/08/24)



この日は,大変暑い日でしたが,金沢市内では金沢アカペラ・タウン2010というイベントを行っていましたので,市内をあちこち回ってみました。

金沢市役所前のステージ。聞く方も熱そうでした。 金沢21世紀美術館前にあった自転車乗り場。無料貸し出しを行っていました。 金沢21世紀美術館。青空が主役。
柿木畠のステージ。休業中でした。 香林坊アトリオの前のステージでは,宝船という女性アカペラグループが歌っていました。 武蔵が辻付近。アカペラタウンのフラッグが沢山飾られていました。
コンサートの後,しいのき迎賓館裏の緑地に行ってみました。月も出ていました。 石垣を背景にアカペラというのは,なかなか見られない光景です。 しいのき迎賓館付近にも大勢の人が集まっていました。
石垣側から撮影。歌っている方も気持ちよかったでしょう。 配布していたチラシとうちわ。 裏返して撮影してみました。うちわの裏が地図というのは,便利そうでした。

関連写真集
いしかわミュージックアカデミーの看板


交流ホールの様子を上の窓から撮影


交流ホールの入口付近の様子