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もっとカンタービレ第22回:IMA&カンタービレ ジョイントコンサート
2010/08/22 石川県立音楽堂 交流ホール
1)パガニーニ/24のカプリース〜第20番,第4番,第11番,第21番,第24番
2)ブラームス/クラリネット五重奏曲ロ短調op.115
3)ドヴォルザーク/ピアノ五重奏曲イ長調op.81
●演奏
神尾真由子(ヴァイオリン*1,3),遠藤文江(クラリネット*2),チュンモ・カン(ピアノ*3)
原田幸一郎(ヴァイオリン*2;ヴィオラ*3),江原千絵(ヴァイオリン*2),シンヤン・ベック(ヴィオラ*2),サンミン・パク(チェロ*2),レジス・パスキエ(ヴァイオリン*3),毛利伯郎(チェロ*3),
Review by 管理人hs  

今回の「もっとカンタービレ」は,現在開催中のいしかわミュージックアカデミー(IMA)にちなんで,神尾真由子さんをはじめとした,IMAの講師とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーとの共演となりました。会場の交流ホールは,神尾さんが登場するとあって,このシリーズ始まって以来の大入りだったのではないかと思います。

最初に神尾さんの独奏でパガニーニのカプリースの抜粋が演奏されました。神尾さんは全く神経質になることなく,平然と”技のデパート”といっても良い曲の数々を一気に聞かせてくれました。今回は,20番→4番→11番→21番→24番という独特の順番で演奏されましたが,いきなり,とても静かな曲で始めるあたりに”カプリースに対するこだわり”を感じました。

ただし,今回はあまりにもお客さんの数が多く,座席が庇の下のような後方の座席になったこともあり,やや音が通らない感じがあったのは残念でした。前日のライジングスター・コンサートは,同じ交流ホールの前の方で聞きましたが,もっと生々しく音が聞こえました。今回の場合,多数の来場が予想されたので,邦楽ホールを使っても良かったのではないかと思いました。

その後,OEKのファゴット奏者の柳浦さん(急遽,MC担当になってしまったとのことです)が神尾さんにインタビューを行いました。この内容がなかなか神尾さんらしい,興味深いものでした。まず,柳浦さんがOEKのメンバーだということを知らなかったのには,のけぞりそうになりました(柳浦さんもかなりカジュアルな服装だったので神尾さんの気持ちも分からないでもありませんが...)。そのことも含め,何でもかなりはっきりと言う方のようです。髪の毛の色も茶髪というよりは金髪に近い感じでしたが,金髪つながりで言うと,サッカーの本田圭佑選手並みの強さを持ったアーティストだと思いました。スター奏者の貫禄十分というやり取りでした。

2曲目のブラームスのクラリネット五重奏曲は,OEKとIMAの混成チームで演奏されました。IMAの音楽監督の原田幸一郎さんが第1ヴァイオリンを担当していたことも大きいのか,臨時編成とは思えないまとまりの良さがあり,正統的なブラームスの室内楽の世界をしっかりと楽しませてくれました。

OEKの遠藤さんのクラリネットの音は,いつもどおり高音から低音まで大変安定していました。第2楽章などには,叫ぶような高音も出てきますが,そういう部分も音楽的で,曲全体をとてもまろやかにまとめていました。原田さんを中心とした弦楽四重奏の方も大変柔らかな響きでした。3楽章のほっと一息入れるような脱力感,第4楽章の残照を思わせるしみじみとした表情など,奇を衒った部分はなく,大人の室内楽というムードを作っていました。

演奏前の柳浦さんのトークの中で,「江原さんの師匠は原田さん,ベックさんの師匠はサンミン・パクさん」という話題が出てきましたが,やはりこういう師弟のつながりが演奏のまとまりの良さとなって現れているのかなと思いました。ちなみに,遠藤さんの師匠ですが,次回9月の「もっとカンタービレ」に登場するとのことです。

後半に演奏されたドヴォルザークのピアノ五重奏曲は,IMA講師陣のみの室内楽でした。ピアノ五重奏曲というジャンルは,弦楽四重奏にピアノが1台加わるだけで,非常にダイナミックになり,室内楽の中でも親しみやすい名曲が多いジャンルです。その中でもこのドヴォルザークの作品は,もっとも楽しめる曲だと思います。

今年のラ・フォル・ジュルネ金沢で大活躍したレジス・パスキエさんが第1ヴァイオリン,神尾さんが第2ヴァイオリンというIMAならではの豪華室内楽でしたが,その柄の大きさにぴったりのジャンルと言えます。

冒頭チュンモ・カンさんのとてもクリアな音に続いて,安心して身を任せられるような毛利さんのチェロが出てくると,その後は,パスキエさんと神尾さんの”ツートップ”を中心にダイナミックに音楽が展開していきました。

第2楽章は,「ドゥムカ」ということで対照的に内省的な気分になります。カンさんのピアノのとても静かだけれどもクリアな音が基調を作った後,各奏者による味のある演奏が静かに絡み合います。ホールに染み入るような演奏は,まさに室内楽と言えます。第3楽章は,大変軽快な演奏でした。カンさんが球を転がすような軽快さで演奏し始めた後,他の奏者がそれにぴたりと,しかも若々しく付けていく面白さがありました。

第4楽章もまた楽しい演奏でした。演奏中,各奏者の表情はとても柔らかで,講師陣らしく,余裕たっぷりのアイコンタクトを取っていましたが,それがそのまま演奏の楽しさにつながっていました。恐らく,それほど練習時間は取れなかったと思うのですが,その一発勝負的なアンサンブルを逆に楽しんでいるような懐の深さのようなものが感じられました。聴いている方にも室内楽演奏の楽しさが伝わって来るような大変センスの良い演奏ということで,会場に居たIMAの受講生にも大いに刺激になったのではないかと思います。

「もっとカンタービレ」とIMAのコラボレーションというのは,今回初めての試みでしたが,トークが入ったころもあり,会場はとても盛り上がっていました。IMAを盛り上げるのに最適の企画であると同時に,OEKのメンバーにとっても刺激となる演奏会だったと思います。ただし,前述のとおり,会場の方は,コンサートホールとまでは行かなくても,特別に邦楽ホールで行っても良かったかなと思いました。

PS.演奏会の最後は,OEKの江原さんによる「次回の紹介」で締められました。今度は,「井上音楽監督プロデュースによる新作能」とのことです。「きっと井上音楽監督は江原さんには頭が上がらないんだろうな」と思わせるような(微笑ましさを感じました),アピール力満点の江原さんによる紹介でした。(2010/08/24)

関連写真集
公演のポスター


交流ホールの様子


終演後の交流ホール前


この日のエキコンには,IMA受講生の篠永さんと三井さんが出演しました。