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祝プリツカー賞 妹島和世+西沢立衛/SANAA:
建築と音のアンサンブル:音のギャラリーツァー
2010/09/05 金沢21世紀美術館
■オープニング
金澤攝/暑中見舞
●演奏 井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢メンバー(ヴァイオリン3,ヴィオラ,チェロ,フルート,クラリネット,ファゴット,トランペット)

15:00〜/16:00〜/17:00〜
■展示室6
山本直純/えんそく
●演奏 OEKエンジェルコーラス

■展示室7・8
ベリオ/作品番号第獣番
●演奏 名雪裕伸(フルート),水谷元(オーボエ),遠藤文江(クラリネット),柳浦慎史(ファゴット),金星眞(ホルン)

■展示室13
武満徹/クロス・ハッチ
ゴメス&リフェ/4つのフォークダンスから
シューマン/トロイメライ
久石譲/サマー
●演奏 渡邉昭夫,ひらまつさとこ(打楽器)

■展示室14
キュイ/4つの作品
マリピエロ/秋の前奏曲
マリピエロ/はるかな歌
ゲルシュター/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
ゲルシュター/シルエット
●演奏 金澤攝(ピアノ),坂本久仁雄(ヴァイオリン)

15:15〜/16:15〜/17:15〜
■展示室1
テレマン/12のファンタジー〜第3番へ短調,第7番変ホ長調
イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタop.27〜オブセッション
バッハ,J.S./無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番ホ長調,BWV.1006から
●演奏 山野祐子(ヴァイオリン)

■展示室3
バッハ,J.S./無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調,BWV.1009から
●演奏 スンジュン・キム(チェロ)

■展示室12
ルクレール/ソナタ第3番
ヴィエニャフスキ/エチュード・カプリスop.18-1
バルトーク/44の二重奏曲から
ルクレール/ソナタ第5番
お楽しみ
●演奏 トロイ・グーキンズ,ヴォーン・ヒューズ(ヴァイオリン)

15:30〜/16:30〜/17:30〜
■展示室4
アゲイ/5つのやさしいダンス
アーノルド/スリー・シャンティーズ
●演奏 岡本えり子(フルート),加納律子(オーボエ),木藤みき(クラリネット),渡邉聖子(ファゴット),山田篤(ホルン)

■展示室11
シャルパンティエ/テ・デウムから
レスピーギ/リュートのための古風なアリアと舞曲第3番〜2曲
クラーク/トランペット・ヴォランタリー
●演奏 藤井幹人,谷津謙一(トランペット),サイモン・ブレンディス,大隅容子,藤田千穂,大村俊介,原三千代(ヴァイオリン),ギョーゾ・マーテ,シンヤン・ベック(ヴィオラ),早川寛(チェロ),マルガリータ・カルチェヴァ(コントラバス)

■展示室14
ブリテン/シンプル・シンフォニーop.4
●演奏 坂本久仁雄,竹中のりこ(ヴァイオリン),古宮山由里(ヴィオラ),福野桂子(チェロ),今野淳(コントラバス)

15:45〜/16:45〜/17:45〜
■展示室2
モーツァルト/弦楽四重奏曲ト長調,K.387「春」〜第1楽章
ハイドン/弦楽四重奏曲変ロ長調,op.76-4,Hob.III-78「日の出」〜第1楽章
ショスタコーヴィチ/バレエ組曲「黄金時代」op.22a〜ポルカ

■展示室5
作曲中(井上道義)

■展示室9・10
バルトーク/44の二重奏曲から
ベリオ/二重奏曲から
バッハ,J.S./音楽の捧げ物〜2声のための2つのカノン
バッハ,J.S./6つの小前奏曲〜第5番ホ長調BWV.937
バッハ,J.S./2声のインベンション〜第2番,第6番
モーツァルト/2つのヴァイオリンのための「魔笛」から
●演奏 原田智子,江原千絵(ヴァイオリン)

Review by 管理人hs  

金沢21世紀美術館の設計者の妹島和世さんと西沢立衛さんが,建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞したのを記念し,美術館の展示物を完全に取っ払い,さらに,いつもは有料ゾーンと無料ゾーンを仕切っている透明アクリル板も取り払い,その代わりにオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のメンバーが各展示室で室内楽演奏を行うという大変面白いイベントが行われました。入場無料ということもあったのですが,美術館はいつもにも増して大盛況で,「市民で祝う」というお祝いムードでいっぱいでした。

今回,記念式典に続いて行われた「音のギャラリーツァー」というイベントですが,館内の展示室で数箇所同時に15分単位で室内楽の演奏会が行われましたので,だんだんと「ミニ・ラ・フォル・ジュルネ金沢」といった楽しげな雰囲気になってきました。21世紀美術館には,いろいろな大きさの展示室があり,しかもそれぞれが厚い壁でしっかりと仕切られているので,同時に演奏しても他の演奏に影響を与えません。建物内は,迷宮のような構造ですので,展示室間を自由自在に動き回ることもできます。まさに今回の企画に打ってつけの建物と言えます。

床・壁がコンクリートで出来ており,しかも天井が高いので,音が響き過ぎるのが難点と言えば難点なのですが,この残響がまた気持ちよく,イベント全体の非日常性を高めていました。どの展示室も人で溢れており,コンクリートの床にどっかりと腰を下ろしたり,壁にもたれ掛かったり,非常にリラックスしたムードがありました(実は,私も床に座って聞いていました。連日,あまりにも暑い日が続いているので,ひんやりとした床が非常に気持ちよかったのです。)。この光景も面白かったですね。21世紀美術館の快挙を市民で祝うには最高の企画だったと思います。

この「音のギャラリーツァー」に先立ち,山出金沢市長,秋元金沢21世紀美術館長の挨拶,妹島さん,西沢さんへの記念品贈呈,井上道義さんの音頭による乾杯といった記念式典が行われ,さらに,金澤攝さん作曲による「暑中見舞」という曲がオープニングとして演奏されました。この曲については,「ほとんど雑踏」(金沢弁で言うところの”ムタムタの状況”)で聞いたので,正直なところ訳が分からなかったのですが,この訳の分からなさが意外に21世紀美術館にはぴったりという気もしました(ただし,このキャンディーズ(古い?)を思わせるタイトルですが,厳密には「残暑見舞」でしょうか。いっそ「異常気象」の方が良かったかもしれません)。

というわけで,開館以来初となる,全館開放ツァーが始まりました。上記のとおり非常に多彩なプログラムで,全部聞くには3時間ぐらい必要という計算になります。私は,最初の1時間余りを聞いてきました。「どこから聞いても構いません」というイベントでしたが,以下,私の取ったコースをご紹介しましょう。

展示室6
OEKエンジェルコーラスが,先日の「夏休みコンサート」で歌った山本直純さんの「えんそく」の中の1曲(「かつおぶし」の曲でした。リハーサルだったのかもしれません)を歌っていました。非常に残響が多かったので,輪唱の効果満点で,「かつおぶし」という言葉がどんどん増殖していく感じでした。

展示室14
美術館の中心にある円形の展示室です。金澤攝さんが,キュイのピアノ曲(多分)を演奏していました。知名度の低い作品でしたが,大変聴きやすい作品でした。「白壁の展示室の中に黒いピアノ」というのは,視覚的にもとても格好良いですね。

展示室7・8
木管五重奏でベリオの作品番号第獣番を演奏していました。こちらの方も語りが入っていましたが,さすがに残響が多くて,遠くからだとよく聞こえませんでした。この部屋を通り抜けた後...

展示室13へ。マリンバ(だと思います)の二重奏でシューマンのトロイメライを演奏していました。この部屋も大変残響が長いので,文字通り「夢」のような世界を作っていました。続いて久石譲さんのサマーを演奏されました。この曲もまた優しい気分にさせてくれる曲でした。



最初の15分が終わり,第2ラウンドに入りました。ただし,このラウンドのプログラムは,狭い展示室での演奏ばかりでしたので,どの部屋の満席で入ることができませんでした。この辺は,プログラム構成としては,改善の余地があったかもしれません。というわけで,第3ラウンドに備えて,あらかじめ部屋の中で待っていることにしました。



第3ラウンドは,どのプログラムにしようか迷ったのですが(この辺が実に「ラ・フォル・ジュルネ」的なのです),トランペットが編成に加わった,最も編成の大きい曲が演奏される展示室11に行くことにしました。

展示室11
この部屋に行ってみると,既にかなり大勢のお客さんが入っていました。ここでも大半のお客さんは,ひんやりとした床にどっかりと座っており,リラックス・ムード。お客さんの層も,通常のOEKの定期公演よりは,もっと幅広く,親子連れの姿が多い点は,やはりラ・フォル・ジュルネと同様です。

まず,シャルパンティエのテ・デウムからファンファーレが演奏されました。この曲は,タイトルは知られていませんが,聞けば「ああ,あの曲か」と分かる曲です(ヨーロッパの都市で行われるコンサートのライブ放送のテーマとしてよく使われています)。この部屋は,美術館の中ではいちばん広く,例によって残響もとても長いので,藤井さんと谷津さんが交互に演奏するトランペットの音が大変気持ちよく響いていました。

次のレスピーギのリュートのための古いアリアと舞曲の第3番は,弦楽合奏のみで演奏されました。いつもは現代アートを展示している空間が,なんともロマンティックな空間に変貌していました。最後に再度,トランペットのお二人が加わり,クラークのトランペット・ヴォランタリーが演奏されました。この曲も「聞けばわかる」という曲です。最初のシャルパンティエのファンファーレと対を成しており,実に見事な構成になっていました。

第1ラウンドの15分間のように,あちこち歩き回るのも良し,今回のようにじっくり聴くのも良し,ということで,今回の音のギャラリーツァーは,「もしかしたら画期的なコンサートのスタイルかも」と大発見をしたかのように嬉しくなってしまいました。

第3ラウンドでは,展示室14で演奏されていたブリテンのシンプル・シンフォニーも聴いてみたかったのですが,行ってみたら,丁度演奏が終わったところでした(その気になれば,1時間後にもう一度,トライできる,というのも嬉しいですね)。



最後の第4ラウンドは,第3ラウンド同様に,一箇所でじっくり聞くことにしました。

展示室2
ここでは,松井さん,上島さん,石黒さん,大澤さんによって,モーツァルトとハイドンの弦楽四重奏曲の1つの楽章とショスタコーヴィチのポルカが演奏されました。このグループは,今年3月の「もっとカンタービレ」シリーズでショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第15番という難曲を演奏したとおり,ほぼ常設の団体のように活躍していますので,今回の演奏もまた大変密度の高いものでした。ユーモアたっぷりのポルカがアンコール・ピース的に響く辺り,余裕たっぷりの演奏でした。

ここまでで約1時間でしたが,21世紀美術館の建物の面白さとOEKの響きの多彩さとをリラックスしながらもとてもじっくりと味わうことができました。もう1ラウンドぐらい聞いても良かったのですが,今回はこの辺で切り上げることにしました。



21世紀美術館が兼六園の斜め前に出来た時は,一体どうなるのかなとも思ったりしましたが,あっと言う間に金沢にはなくてはならない施設として定着してしまいました。今回のイベントを通じても実感したのですが,展覧会の内容のみならず,建物自体が愛されているのが素晴らしい点です。例えば,「レアンドロのプール」とか「タレルの部屋」とかは,美術館とは別に,独立した立派な観光名所になっているとと思います。

恐らく,大都市圏にこの美術館があったとしても,これだけの成功はなかったと思います。金沢市の中心の兼六園の前にあるから凄いのだと思います。いずれにしても,街の真ん中に市民に愛されている”公園のような美術館”を持っている金沢市は本当に恵まれていると思います。妹島さんと西沢さんの設計意図が完全に実現したという点で,やはりこれは賞に相応しい建物に違いないと実感しました。

今回の21世紀美術館とOEKによる大胆なコラボ企画は、相乗効果でどちらにも大きなPRになったと思います。見事なWINーWIN企画ということで,是非、続編にも期待したいと思います。やはり,大きな展示の切り替え時期が狙い目でしょうか。

以下,写真でも今回の企画を紹介しましょう。
ツァー開始。本当に大勢の人がいました 壁面が白いので,奥行きの感覚が麻痺するところがあります。
展示室11の入口
いつも設置されている透明アクリル板がありません(右側)

皆さん,プログラムとマップを見ながら館内ツァー OEKの皆さんもプール付近で記念撮影されていました。
OEKエンジェルコーラスです。この部屋は特に天井が高い部屋なので,本当に残響が多かったですね。

展示室5。中にいるのは,何と,作曲中の井上道義さん。ちゃんと井上さんもOEKメンバー同様に参加しているのが素晴らしいところです。
狭い展示室の入口はこういう感じで混みあっていました。
展示室11です。今回,いちばんの大編成でした。

演奏を待つ聴衆。床も背景も白っぽいので,ちょっと不思議な感じの写真になっています。 展示室2での弦楽四重奏曲の演奏
レアンドロのプールの下から上を見上げたところです。

このプールは,親子連れに特に人気です。 こちらはプールの上部です。こんなにプール周辺に人がいるのを初めて見ました。
かなり太陽が傾いてきました。 今回のイベントのプログラムです。A3サイズの紙でした。
記念の絵ハガキ(といっても全然関係ない展覧会の絵ハガキでしたが)を頂きました。
(2010/09/08)

関連写真集


今回の公演のポスター


美術館の外観です。いつもの日曜日同様に大賑わい

以下,記念式典の様子です。

記念式典で挨拶する山出金沢市長。入口は人で溢れていました。


記念式典に先立って,妹島さん,西沢さんによる記念公演が行われていたようです。


妹島さんと西沢さんです。


金澤攝さんから市長に記念の曲の楽譜を進呈。


井上道義さんの音頭で乾杯。左から山出市長,井上道義さん,背後に妹島さん,西沢さん,秋元館長


オープニング曲は,レストラン「フュージョン21」の前で演奏されました。


乾杯用の飲み物も用意されていましたが...残念ながら私のところまでは回ってきませんでした。


妹島さん,西沢さんの回りに集まるマスコミ・取材関係者