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モーツァルト室内楽の旅 その7
2010年11月30日(火)19:00〜 金沢蓄音器館
1)モーツァルト/フルート四重奏曲第2番ト長調,K.285a(1778年)
2)モーツァルト/フルート四重奏曲第1番ニ長調,K.285(1777年)
3)モーツァルト/弦楽四重奏曲第17番変ロ長調,K.458(1784年)
4)(アンコール)モーツァルト/フルート四重奏曲第4番イ長調,K.298(1786年)〜第2楽章メヌエット
●演奏
岡本えり子(フルート*1-2,4),クワルテット・ローディ(大村俊介*1,3,4,大村一恵*2,3(ヴァイオリン),大隈容子(ヴィオラ),福野桂子(チェロ))
Review by 管理人hs  

「明日から12月」という時期にしては暖かなこの日,自転車で金沢蓄音器館に出かけ,「モーツァルト室内楽の旅」のシリーズ第7回を聴いてきました。このシリーズでは,クワルテット・ローディによるモーツァルトの弦楽四重奏全曲演奏の完結の後を受け,弦楽四重奏のメンバー+αといった編成でモーツァルトの室内楽の演奏を行っています。今回は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のフルート奏者,岡本えり子さんをゲストに迎え,前半まず,フルート四重奏曲2曲が演奏されました。

蓄音器館での演奏会に行くのは久しぶりだったこともあるのですが,最初の1音を聞いて,どこか懐かしい気分になりました。フルートと弦楽器の音がまろやかに溶け合い,幸せな気分にさせてくれました。岡本さんとローディの音の相性は抜群だと思いました。蓄音機館の場合,部屋がとても狭いので,楽器の生の音を楽しむことができます。デッドな響きではあるのですが,これだけ間近だと無理に強い音を出す必要はなく,非常に自然にかつ生々しく各楽器の暖かい音が伝わってきす。

最初に演奏されたモーツァルトのフルート四重奏曲第2番は,2つの楽章からなる,コンパクトな曲です。両楽章とも”速くはない”楽章で,このシリーズならではの急がない音楽を楽しむことができました。

その後,トークが入りました。いつもは大村俊介さんが担当しているのですが,今回は岡本さんが担当しました。これが大変興味深い内容でした。数年前,ペーター・シュライシャーがOEKに客演し,マタイ受難曲を指揮した際,「フルートは木製のものを使うこと」という指示があったのだそうです。それ以降,岡本さんは,木製フルートも使うようになり,曲の性格によって,暖かな音の出る木製フルートも使い分けるようになったとのことです。こういう話が聞けるのもこのシリーズならではの楽しみです。

次にフルート四重奏曲第1番が演奏されました(岡本さんがこの曲について「よく,大和デパートで流れている曲です」と語っていました。なるほど,その通りですね。)。今回はその木製フルートを使っていたこともあり,大変,暖かで穏やかな雰囲気がありました。第1楽章や第3楽章など,フルート協奏曲のように華麗に演奏されることのある曲ですが,今回の演奏は,大変慎ましい雰囲気がありました。どこか手作りの素朴さを感じさせる演奏で,地に足が着いた落ち着きがありました。特に第2楽章は,一つ一つの音が深く染み渡るような演奏でした。弦楽器のピツィカートの音も深々と響き,狭い部屋での室内楽ならではの充実感を味わうことができました。

このフルート四重奏曲の演奏ですが,ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロ各1名とフルートとのアンサンブルということで,クワルテット・ローディのメンバーが1名余ってしまいます。今回は,第2番のヴァイオリンは大村俊介さん,第1番の方は大村一恵さんが担当しました。俊介さんが「家内分業」と仰られていましたが,こういう夫婦による分業もローディならではです。

後半は,フルート抜きで,弦楽四重奏曲「狩」が演奏されました。モーツァルトの弦楽四重奏曲の中では,いちばん有名な作品です。大変明るい気分のある曲ですが,各楽章とも,慌てて走り出すことのない,穏やかな演奏でした。大きな身振りの変化やダイナミックな音の動きを聞かせるというよりは,各フレーズを噛み締めるようにじっくりと聞かせてくれるような演奏でした。特に第3楽章のアダージョの深みが印象的でした。

アンコールでは,再度,岡本さんが登場し,フルート四重奏曲第4番の中のメヌエットが演奏されました。フルートの音が加わっただけでパッと明るさが増し,いかにも優雅な気分になりました。この曲の全曲は,「次回演奏します」ということで,絶好のPRになっていました。

今回,久しぶりに蓄音器館に出かけてみて,しっかり固定ファンがいるのを見て嬉しくなりました。会場は満席で,やや狭苦しかったのですが,何とも暖かい雰囲気がありました(いつもながら,ワインのサービスがあるのも素晴らしいですね)。こういうコンサートが,すっと街の中に溶け込んでいるのは,良いものだな,と再認識しました。(2010/12/02)

関連写真集

入口の案内サイン


つい最近,岡本さんは,ハープの山本真美さんと一緒に,讃美歌集のCDを出されました。そのCDを館内で発売していたので,買ってきました(¥2400→\2000に割引)。

岡本さんは,12月4日と4日に,このCDを録音した白山市めぐみキリスト教会でクリスマスコンサートを行うとのことです。

このCDに収録されているような作品を中心にフルートとハープによる演奏を楽しむことが出来ます。お近くの方は是非お出かけ下さい。