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クリスマス,クリスマス・チャペル・コンサート2010
2010年12月4日(土)19:00〜 白山めぐみキリスト教会チャペル
1)バッハ,J.S./高き天よりわれは来たれり
2)新聖歌73番「生けるものすべて」
3)レドナー/しずかに眠れる(聖歌124番)
4)イギリス民謡/グリーンスリーブス変奏曲(イギリスのキャロル)
5)ドイツ民謡/もみの木(ドイツのキャロル)
6)カタロニア民謡/鳥の歌(スペイン・カタロニア地方のキャロル)
7)アメリカ民謡/アメイジング・グレイス
8)ハッセルマン/泉
9)バッハ,J.S./無伴奏フルートのための組曲イ短調,BWV.1013
10)アダムス/聖なる都
11)(アンコール)アダン/さやかに星はきらめき(オー・ホーリー・ナイト!)(第2賛美歌219番)
12)(アンコール)グルーバー/きよしこの夜(賛美歌109番)
●演奏
岡本えり子(フルート*3-7,9-12),山本真美(ハープ*3-8,10-12)
山村聡子(オルガン*1-2,12),聖歌隊*2,12,矢田幹太(司会)
Review by 管理人hs  

クリスマスには少し早いのですが,白山めぐみキリスト教会のチャペルで行われたクリスマス・チャペル・コンサートに行ってきました。11月30日に金沢蓄音器館で行われた,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のフルート奏者,岡本えり子さんとクワルテット・ローディのコンサートの時に,この演奏会についてのお知らせがあったのですが,その時に販売していた,岡本さんの新譜CDの録音場所がこの教会ということで,「一体どういう場所なのだろう?」という関心もあり,聴きに行くことにしました。

もちろんこの教会に行くのは初めてです。金沢市の南の白山市にあるとはいえ,金沢市郊外を走る山側環状道路を使えば,すぐに到着しました。今回は,教会でのコンサートということで,オルガンの演奏があったり,聖歌隊の合唱があったり,牧師さんが司会をしたり...通常のコンサートホールでのコンサートとは違った雰囲気でしたが,それらが全て暖かく,落ち着いた気分を作っていました。

演奏された曲は,新譜CDに収録されている曲が中心で,岡本さんのフルートと山本真美さんのハープとの二重奏をたっぷり楽しむことができました。岡本さん自身,この教会の会員ということもあり,ホームグランドでの演奏らしい親しみやすい雰囲気がありました。今回は,岡本さんのトークを交えて進められましたので,その内容を交えながら,紹介していくことにしましょう。

オルガンの独奏,聖歌隊による聖歌の合唱,牧師の矢田さんによるあいさつに続き,岡本さんと山本さんによる演奏会が始まりました。岡本さんは緑のドレス,山本さんは赤のドレスということで,クリスマス・カラーにコーディネートされていました(余談ですが,この色合いを見て,近日公開の映画「ノルウェイの森」の原作本の装丁などを思い出してしまいました。)。

まず最初に聖歌124番の「しずかに眠れる」が演奏されました。このチャペルは,2004年にストローベイル工法という,わらと漆くいを使った珍しい方法で建てられたものです。残響はそれほど長くはないのですが,音がスーッと奇麗に耳に入ってきます。岡本さんのフルートの音色をそのまま伝えてくれるような,虚飾のない響きが印象的です。ふやけた感じではなく,清々しさを感じさせてくれる辺り,癒しの空間にぴったりだと思いました。CDに収録されている音もそのとおりです。

「しずかに眠れる」は,タイトルだけではよく分からなかったのですが,聞いてみると「あぁ,この曲か」と聞いたことのある曲でした。クリスマスの定番曲の一つだと思います。

今回のトークは,聖書やクリマスにまつわる内容を,岡本さんご自身の体験談を交えて語られたもので,大変分かりやすいものでした。穏やかな語り口の中から,自然に岡本さんの信仰の深さが伝わってきたのですが,演奏の方も,信仰にしっかりと裏付けられた誠実な演奏だったと思います。前半の曲は特に,フルートの中音域が中心で,無理なく耳に入ってきました。

続いて「グリーンスリーブス」「もみの木」「鳥の歌」が演奏されました。それぞれ,イギリス,ドイツ,カタロニアのクリスマス・キャロルということで,「ヨーロッパ各地のクリスマスめぐり」という趣きがありました。それぞれ,しっとりと演奏されましたが,特に「鳥の歌」が印象的でした。パブロ・カザルスの演奏により,チェロの曲として有名になった作品ですが,今回の岡本さんのお話で,もともとはクリスマスの曲だということを知りました。曲の最初の部分のハープによる非常に繊細なトレモロの部分から独特の緊張感があり,他の曲に比べるとドラマティックでした。

続く「アメイジング・グレイス」は,メロディがとても美しい曲なので,甘いムード音楽的に歌われることもありますが,岡本さんのお話によると,黒人奴隷貿易など,多くの悪行を重ねてきた作詞者のジョン・ニュートンの悔恨の歌とのことです。何となく,親鸞の「悪人正機説」などを連想してしまいました。演奏の方も,穏やかなメロディの中に強さを秘めたような演奏でした。

次のハッセルマンの「泉」は,山本さんのハープ独奏で演奏されました。今回,山本さんは,全くトークはされなかったのですが,その控えめな雰囲気にぴったりのしっとりとした演奏でした。粒立ちの良い静かなトレモロがスーッと膨らんでいく様子が,まるで生き物のようでした。水が湧き出るように大きく広がったり,また弱音になったり...という雰囲気が大変ロマンティックでした。

この演奏の後,ペダルの動かし方の実演などを含め,ハープの奏法についての説明がありました。見ている分には大変面白かったのですが,うまく演奏するには,相当の熟練が必要だと実感しました。今回,山本さんは,通常のグランド・ハープに加え,手に抱きかかえられるぐらいの大きさのサウル・ハープ(小型のハープ)も持って来られていました。次にこの楽器のデモンストレーションの演奏がありました。こちらの方はかなり可愛らしい響きでした。この楽器の名前自体,聖書に出てくるサウル王にちなんでいるということで,今回のクリスマス・コンサートにぴったりと言えそうです。ちなみにこのハープとフルートという取り合わせは,旧約聖書の詩篇150篇に出てくるなど,非常に長い歴史があるようです。

次の曲では,今度は山本さんがお休みになり,岡本さんの独奏でバッハの無伴奏フルートのための組曲が演奏されました。これまで演奏されて来た曲に比べるとさすがにシリアスな雰囲気がありました。特に第3楽章のサラバンドの深い響きが印象的でした。ただし,組曲といってもコンパクトな作品でしたので,他の聖歌や賛美歌などとのバランスは悪くありませんでした。プログラムの中に「重し」を置くような選曲だったと思います。

プログラム最後に演奏された「聖なる都」は,トリの曲だけあって,特に聞き映えがしました。凛とした強さと華やかな響きが一体となり,天国を感動的に讃えるような曲でした。岡本さんは,OEKのオーディションに合格した時に信仰に目覚めたそうですが,そういった感動をフルートを吹きながら持ち続けていることは素晴らしいことだ,と演奏を聴きながら思いました。

アンコールでは,クリスマスの定番曲の一つ,「オー・ホーリー・ナイト」が演奏されました。マライア・キャリーの有名なクリスマス・アルバムに入っている曲ですが,岡本さんもそれに負けない,美しい高音を聞かせてくれました。

最後は,聖歌隊が再登場し,全員で「きよしこの夜」を歌って締めくくられました。教会で音楽を聞くこと自体,久しぶりのことなのですが,やはり,クリスマスの曲は教会が似合うと思いました。

自分自身の人生を振り返ってみると,後悔することばかりです。毎日のように自分の弱さを感じているのですが,こういう場所で音楽を聞いていると,「こういう私でも,イエスは受け入れてくれそう...」などと,安らかな気分になります。西洋音楽の原点の一つが教会にあるのだな,と感じることができた演奏会でした。

PS.この日は,12月4日だったのですが,キリスト教では,アドベントと呼ばれる期間(待降節)とのことです。ロウソクを4本用意し,クリスマスに向けて毎週1本ずつ火を灯していくということで,この日は1本だけ火が灯っていました。(2010/12/06)

関連写真集

建物の上の十字架とステンドグラス


演奏会の立看板


入口です。


チャペルの中のステージです。天井の構造が独特でした。


外観です。


岡本さんと山本さんによるCDです。この写真は,OEKのチェロ奏者のカンタさんの撮影によるものとのことです。