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メサイア公演:クリスマス・コンサート
2010年12月5日(日)15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)榊原栄編曲/クリスマス・ソング・メドレー(諸人こぞりて,もみの木,赤鼻のトナカイ,ホワイト・クリスマス,サンタが街にやってくる,天には栄え,ジングルベル)
2)ヘンデル/オラトリオ「メサイア」(抜粋,9,10,18,25-26,28,31-33,36-37,39,41,49-52曲省略)
3)(アンコール)賛美歌(曲名不明)
●演奏
天沼裕子指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)*1-2,春日朋子(オルガン)*2-3
合唱:北陸聖歌合唱団*2-3,OEKエンジェルコーラス*1,北陸学院高等学校聖歌隊*1
独唱:朝倉あづさ(ソプラノ)*2,小泉詠子(メゾ・ソプラノ)*2,志田雄啓(テノール)*2,安藤常光(バリトン)*2
Review by 管理人hs  

12月恒例の北陸聖歌合唱団とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)によるヘンデルのメサイア公演を聴いてきました。昨年は,ヘンデル没後250年記念ということで,全曲が演奏されたのですが,今年は一昨年まで同様,「大半の曲を演奏する抜粋」という形で演奏されました。今回の指揮は,OEKファンにはおなじみの天沼裕子さんでした。

まず,一昨年まで同様,「メサイア」の演奏の前に,OEKエンジェルコーラスと北陸学院高校の聖歌隊とOEKによるクリスマスソング・メドレーが歌われました。今回の演奏ですが,近年でいちばん良かったと思います。歌がとてもキビキビしており,声がよく出ていました。それと,例年よりも振りが沢山ついており,視覚的にも楽しめました。「ジングルベル」では,「ヘイ」の掛け声とともに,手を上げていましたが,「若い者は,こうでなくては!」という歌でした。途中,合唱団が左右に揺れながら歌う曲がありました。こちらの方は,結構動きがバラバラで,微笑ましかったりしたのですが,指揮者の方は見ていて,目が回らないものかなと変なことを思いながら聞いていました。やはり,天沼さんは,歌と子供の扱いに慣れているなぁと思いました。

さて,メサイアの方です。天沼さんがこの公演に登場するのは,今回が初めてのことだと思います。オペラを得意とされているだけあって,「さすが!」という音楽を聞かせてくれました。特に,合唱団が例年にも増して,まろやかで感動に満ちた歌を聞かせてくれたと思います。

合唱団は,下手側からソプラノ−テノール−バス−アルトの順に並び,女声が男声を囲むような形になっていました。配列になっていました。例年通りかなり男声が少ないのですが,この形の方が合唱団全体としての音の溶け合い方が良い気がしました。また,昨年よりも,歌う曲数が少ないので,各曲の完成度が高かった気がします。テンポの速い曲では,少々窮屈な感じを与える部分もありましたが,全曲を通じて,確固たる自信が溢れ,大変引き締まった演奏になっていたと思います。

オーケストラの方は,弦楽器がノン・ヴィブラート主体の演奏でしたので,最初から最後まで,宗教音楽に相応しい,清潔感と清々しさがありました。最初の序曲から,大変すっきりとしており,大げさになり過ぎない折り目正しさがありました。

続いてテノール独唱になります。毎年,この部分を聞くと,いよいよ「メサイア」が始まったなという気分になります。今回のテノールは,2007年3月の金沢歌劇座改装記念の「カルメン」公演でホセ役を歌った志田雄啓さんでした。この時のカルメン役は今回のメゾ・ソプラノの小泉詠子さんだったのですが,このお二人の「メサイア」での共演は,2008年の「メサイア」公演以来ということになります。志田さんの声は,大変たっぷりとしており,柔らかな落ち着きがりました。ただし,この部分では,高音の音程がやや不安定だった気がしました。

メゾ・ソプラノの小泉さんは,今回特に素晴らしかったと思います。みずみずしい声がホールに染み込むように響いていました。金沢出身の小泉さんの方は,ここ数年連続して出演されていますが,ソプラノの朝倉あづささん共々,名コンビになりつつあると思います。バリトンも,いつも安定した声を聞かせてくれる,金沢在住のお馴染みの安藤常光さんということで,OEKの活動の活性化と共に,地元声楽界も年々充実してきている気がします。

第1部は,合唱曲の「For unto us a child is born」あたりから,クリスマス公演に欠かせない部分になります。この合唱曲は,毎回歌われていると思いますが,「ワンダフル」の部分が毎回印象的です。今回は叫ぶ感じにならず,喜ばしさがすっきりと伝わり,次の田園交響曲に綺麗につながっていきました。

田園交響曲では,弦楽器のノン・ヴィブラートの響きが特に印象的でした。低音部のオルガンの響きも充実しており,しっかりと安定したシチリア舞曲になっていました。

その後は,ソプラノの朝倉あづささんと,合唱の見せ場が続きます。朝倉さんの声は,つい先日,シューマンの歌曲の演奏会で聞いたばかりだったのですが,その時同様の凛として気持ちの良い声を聞かせてくれました。今回は,特にくっきり,しっかりと情景を描くよう歌っていたと思います。

トランペットがピリっと加わる「Glory to God」の合唱も無くてはならない曲ですね。前のソプラノの曲とのコントラストが鮮やかでした。歌詞の中に出てくる,「天」と「地」の対比も大変鮮やかで,大変面白く聞くことができました。

第1部の最後の方に出てくる,メゾ・ソプラノの後にソプラノが連続して歌う曲は,ゆったりと心に染みる感動的な曲です。今回は,大船に乗ったような気分で,お二人の歌唱を堪能しました。この曲も毎回のように聞いている曲ですが,今回聞きながら,リズムやメロディの感じが田園交響曲としっかり呼応していることを発見しました。こういう発見は嬉しいものです。

第1部の後,休憩が入り,第2部から第3部は,連続して演奏されました。

第2部の最初では,まず,メゾ・ソプラノの大きなアリアが聞きものです。ここでも小泉さんのしっとりと耳に馴染む声を楽しむことができました。この曲では,弦楽器の伴奏も雄弁でした。タッカ,タッカ...と続くリズムが強く印象に残りました。今回,このリズムについても他の曲で韻を踏むように出てきていることを発見したのですが,聞けば聞くほど発見があるのが名曲たる所以なのだと思います。

続く「Surely」の合唱は, 決然と,ビシっと決まっており,全曲との対比が鮮やかでした。その後は,今年の選曲の特徴だと思うのですが,テノールの曲が多く選ばれているようでした。流れ良く,しっとりとした曲が続くいていました。

第2部の終盤では,バリトン独唱による「Why do the nations...」も定番曲です。安藤さんは,大変朗々と伸びやかに歌っており聞いていて爽快な気分になりました。それと,聞くたびに思うのですが,この曲も伴奏が非常に格好良いですね。キレ良く,スピード感があり,生き生きした表現を聞かせてくれました。

そして,満を持して出てくるハレルヤ・コーラスですが,今回は,感動を率直に歌い上げるような歌でした。トランペットとティンパニもバランス良く決まっており,非常に晴れやかなハレルヤでした。

ここで一旦盛大な拍手が入った後,そのまま第3部に入りました。今回は,45曲から48曲が連続的に演奏されました。朝倉さんのソプラノ,静から動への動きがドラマティックな合唱曲の後,「The trumpet shall sound」が出てきます。この曲は,バリトン以上にトランペット・パートに注目してしまいます。今回は,藤井さんが担当していましたが,非常に柔らかく明るい音を聞かせてくれました。宗教音楽の雰囲気にぴったりの品の良さがありました。

最後のアーメン・コーラスまで来ると,毎回,感動的な気分いっぱいになります。天沼さんの自信に満ちた指揮の下,メリハリの効いた音楽を聞かせてくれました。途中,一旦合唱が休止し,弦楽器だけになる部分がりますが,その部分でのノンヴィブラートの響きも印象的でした。最後の最後の部分のスケール感も見事でした。何よりも指揮も合唱も感動に満ちているのが素晴らしいと思いました。

アンコールで,オーケストラが退場した後,オルガンと合唱団だけで讃美歌が歌われるのが定番なのですが,それを聞きながら,暖かい雰囲気に包まれて,会場を後にしました。

PS.このメサイア公演ですが,毎年,ハイライトで歌われる曲が違うこともあり,休憩がどこで入るのか迷います。多分,第1部の後かな,と予想していたのですが,プログラムに明記してある方が分かりやすいと思います。休憩前に拍手を入れるかどうかで結構迷ったりします。(2010/12/09)

関連写真集


公演のポスター


年末恒例のケーキ型の飾りが音楽堂玄関にありました。

終演後のアンコール曲を歌っている様子です。ロビーのモニターで眺めていました。


音楽堂玄関の飾りと12月の公演予定の看板