OEKfan > 演奏会レビュー
もっとカンタービレ第24回:2010年に聴きたい作曲家はコレ!2010年 生誕・没後記念 作曲家特集
2010年12月7日(火)19:00〜 石川県立音楽堂交流ホール
1)バーバー/木管五重奏曲「サマー・ミュージック」op.31
2)ショパン(Zinn編曲)/練習曲ホ長調op.10-3「別れの曲」
3)ショパン(バラキレフ編曲)/練習曲ニ短調op.25-7
4)ショパン(グラズノフ編曲)/練習曲ホ短調op.25-7
5)ショパン(ローズ編曲)/序奏と華麗なるポロネーズハ長調op.3
6)ペルゴレージ/コンチェルティーノ・アルモニコ第1番
7)(アンコール)コレルリ/クリスマス協奏曲〜パストラル
8)(アンコール)ヴィヴァルディ/歌劇「ダリオの戴冠」〜シンフォニア
●演奏
岡本えり子(フルート*1)、加納律子(オーボエ*1)、遠藤文江(クラリネット*1)、柳浦慎史(ファゴット*1)、金星眞(ホルン*1)
大村俊介、竹中のり子(ヴァイオリン*3,4)、大隈容子(ヴィオラ*3,4)、ルドヴィート・カンタ(チェロ*3-6),鶴見彩(ピアノ*5,6)
上島淳子、原三千代、山野祐子、イェジュ・イ(ヴァイオリン*6-8)、石黒靖典(ヴィオラ*6-8)、大澤明(チェロ*6-8)、今野淳(コントラバス*6-8)、加藤純子(チェンバロ*6-8)
Review by 管理人hs  

2010年最後のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)室内楽シリーズ「もっとカンタービレ」は,2010年が生誕○○年・没後△△年となる作曲家の特集でした。今年は,何といってもショパン生誕200年の年でしたが(それとシューマン),実は,それ以外にもいろいろな作曲家の記念の年でした。今回は,ショパンに加え,バーバー(生誕100年),バラキレフ(没後100年),ペルゴレージ(生誕300年)の作曲・編曲による作品等が取り上げられました。

最初に演奏されたバーバーの木管五重奏曲「サマーミュージック」は,オーボエの加納さんが担当でした。この曲は,少々捉えどころのない作品だったのですが,演奏前に加納さんによるサブタイトルに関する解説があったので,いろいろとイメージを膨らませつつ楽しむことができました。

「最初のファゴットはコヨーテの鳴き声?」「フルートとクラリネットのパートは,とても難しく,岡本さんと遠藤さんは,夏からいつも練習していた」「オーボエはおいしいパート。美しといよりは渋いメロディ」「ホルンがバーバーでオーボエがパートナーのメノッティを表している」...など普通に聞くだけでは分からない部分や演奏者側の視点を知ることができるのは,このシリーズならではの楽しみです。

次はショパンの曲を弦楽器用にアレンジした作品を集めたコーナーでした。このコーナーは第2ヴァイオリンの大村俊介さんの担当で「ショパン,トランスクリプションの世界,そしてショパンが愛したチェロの響き」という格好良いタイトルが付けられていました。

大村さんの解説によると,「各地のラ・フォル・ジュルネでも演奏されなかったような,珍しいアレンジ物も含めた」とのことです。金沢蓄音器館のシリーズでも大村さん博識ぶりとそれを噛み砕いて伝えてくれるセンスの良さは感じていましたが,今回の選曲にもそのことが発揮されていました。

最初に弦楽四重奏版の「別れの曲」が演奏されました。最初のバーバーの曲は,”避暑地の音楽”とはいえ,少々とっつきにくい部分がありましたので,お馴染みのメロディが出てきて,ますホッとしました。この曲では,大村さんのヴァイオリンが主旋律を歌う部分が多かったのですが,しっかりと歌いこまれており,大変気持ちよく酔わせてくれました。メロディがテノールぐらいの音域からソプラノの音域に移って行き,ほのかに高揚していくのも魅力的でした。

次の練習曲op.25-7は,ノクターン風の静かな曲です。これをバラキレフ編曲版とグラズノフ編曲版で聞き比べをするという趣向になっていました。大村さんの話によると,ショパンの作品の弦楽器編曲版というのは,非常に沢山残されており,それだけで演奏会ができるぐらい,とのことです。

まず,変奏曲のテーマを提示するような感じで,鶴見彩さんがオリジナルのピアノ独奏版の一部を演奏しました(これが良かったですね。全部聞きたかったぐらいでした。)。

オリジナル版は,調性が嬰ハ短調なのですが,バラキレフ編曲による弦楽四重奏版の方は,ニ短調になります。弦楽四重奏版とはいえ,チェロがソロを独占しており,カンタさんによる歌の世界を堪能できました。その後,グラズノフ編曲による,チェロとピアノ版が演奏されました。こちらの方は調性がさらにホ短調に上がり,テンションも上がります。心なしか,音楽の持つ,せつなさも強くなった感じがしました。深く,熱い演奏でした。

ショパンのピアノ曲以外の作品では,チェロを中心とした室内楽作品が意外に多いのですが,レガートの魅力を引き出しやすく,ショパンの感性にしっかり合った楽器といえそうです。

今回演奏された編曲版の中で,特にバラキレフ編曲の方は,没後100年+生誕200年という二重のアニバーサリー作品ということで,今回の「目玉商品」という作品でした。こういう曲を発掘し,いろいろと実演で比較しながら楽ませてくれる,というのもこのシリーズらしいところです。

このコーナーの最後は,「序奏と華麗なるポロネーズ」でした。その名のとおりの作品で,ピアノ曲の「アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ」のチェロ版といた感じの作品でした。カンタさんの独奏は,すっかりお馴染みですが,この曲は特にライブで映える曲だと思いました。千両役者のような貫録のある演奏で,人間が歌うような温かみと技巧的な部分のスリリングさを同時に感じさせてくれるような聞き映えのする演奏でした。鶴見さんのピアノもまた素晴らしく,華麗だけれども,きっちりと全体を締めていました。

後半は,チェロの大澤さんの進行で,ペルゴレージ(真偽は,不詳なのですが)作曲のコンチェルト・アルモニコ第1番が演奏されました。初めて聞く曲でしたが,ヴァイオリンの陶酔的な響きとチェロの熱い音とが絡み合った,美しい演奏で,聴きごたえがありました。この曲は,緩−急−緩−急 という教会ソナタ形式を取っていますが,特に緩やかな楽章での弦楽器の美しさが印象的でした。4本のヴァイオリンが別々に動いているのも面白く,とても華やかでした。最終楽章では,各楽器がひとつずつ加わっていく面白さがありました。

ちなみこの曲は,ペルゴレージではなく,ヴァン・ヴァッセナール伯爵の曲と言われることもあります。大澤さんのトークによると,「どう考えてもイタリア風の曲。ここではペルゴレージ作ということにします」とのことでした。

その他,このコーナーでは,ストラヴィンスキーのイタリア組曲とかプルチネルラの中で,ペルゴレージの曲として引用されている曲がサンプルとして2曲演奏されました。恐らく,後半が1曲だけだと時間が短すぎるので,追加された企画だったと思いますが,聞いたことのあるメロディが出てきて,楽しむことができました。

ペルゴレージは,26歳の若さで亡くなってしまった作曲家で,現在では演奏される機会の少ない作曲家ですが,生誕300年を機会に,再発見していって欲しいと思いました。

アンコールでは,クリスマスを意識して,まず,コレルリのクリスマス協奏曲の中のパストラールがたっぷりと演奏されました。その後,「やっぱり明るく終わった方が良いかな」ということで,大澤さんの大好きなヴィヴァルディ作曲の元気で短い曲がもう1曲演奏されました。1分ぐらいで終わる曲で大澤さんのケイタイの着メロとして使っているとのことです。

今回の企画もそうでしたが,このシリーズが定着してきたお陰で,OEKについては,オーケストラ全体だけではなく,個々の奏者の個性やトークについても楽しめるようになりました。今年はこれで最後ですが,来年はどういう企画が出てくるのか楽しみにしたいと思います。

PS.今回,ステージの背景にパネルのようなものがありました。反響板として使っていたのでしょうか?

PS.大村さんのトークの中で,ショパンが弦楽器のために編曲した作品を沢山書いていることを紹介していましたが,その例として,鈴木理恵子さんのCDの話をされていました。調べてみると,次のような内容でした。

ショパン・ファンタジー:ヴァイオリンとピアノのための編曲集
キングインターナショナル/たまゆら KKC-30 \3000
なかなか面白そうなアルバムです。(2010/12/11)

関連写真集

公演のポスター


リハーサルが終わったところのようです。今回は,ステージ奥にパネルのようなものが立っていました。