OEKfan > 演奏会レビュー

LFJk2010 熱狂のレビュー・トップページ
ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2010:ショパン,ジェネラシオン1810
La Folle Journee de Kanazawa : CHOPIN et la generation 1810
オープニング・コンサート
2010/04/29 14:00- 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ショパン/ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調op.35「葬送」〜第3楽章
2)早川太海/フレデリック・ファンファーレ(ラ・フォル・ジュルネ2010公式ファンファーレ)
3)三國浩平/グランド・ファンファーレ(ラ・フォル・ジュルネ2010公式ファンファーレ)
4)グラズノフ/組曲「ショピニアーナ」op.46
5)ショパン/ピアノ協奏曲第2番ヘ短調op.21
●演奏
山田和樹指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲイル・ヤング)*2-5
ブルーノ・リグット(ピアノ*5),菊池洋子(ピアノ*1)
司会:上坂典子

Review by 管理人hs  
14:00からは,オープニング・コンサートに先立ち,例年どおり,主催者側のオープニング・セレモニーが行われました。今年は,さらにそれに先立ち,4月に不慮の航空機事故のため亡くなったポーランドのレフ・カチンスキ大統領を追悼する黙祷と追悼演奏が行われました。追悼演奏では,ショパンの葬送行進曲が演奏されました。ポーランド国民にとっては,アニバーサリー・イヤーと大惨事が重なり複雑な思いだと思います。照明が落とされたスポットライトの下で菊池洋子さんによって演奏されましたが,深刻すぎるところはなく,癒しを感じさせてくれました。大変美しい演奏でした。

オープニング・セレモニーでは,前田利祐ラ・フォル・ジュルネ金沢音楽祭実行委員長,谷本石川県知事,山出金沢市長,飛田石川県芸術文化協会長,梶本眞秀氏(KAJIMOTO社長,ルネ・マルタン氏の代理)5人の方の挨拶がありました。また,先の追悼演奏に応えて,駐日ポーランド大使代理の女性の挨拶がありました。

どの挨拶もとても面白かったのですが,追悼演奏で時間が延びたので,「ちょっと長いかな」という感もありました。こういう式典があること自体,官民が一体となって強力に進めているイベントなのだな,ということが実感でき,東京とは違う金沢らしさの一つになっている気がします。ただし,純粋な音楽イベントとして見た場合,必ずしも大げさに行う必要はないと思います。3年間続き,金沢のラ・フォル・ジュルネが特別なイベントでなくなった現在,この少々お役所的なセレモニーについては,もう少し簡素化しても良いのではないか,と感じました。

続いて,山田和樹指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)とブルーノ・リグットさんのピアノによる,オープニング・コンサートになりました。まず,今回,公募により作られた2曲の公式ファンファーレが作曲されたお2方の前で演奏されました。午前中のオープニングでは,吹奏楽版が演奏されましたが,私自身,オーケストラ版を生で聴くのは,今回が初めてでした。

早川太海さん作曲の「フレデリック・ファンファーレ」は,英雄ポロネーズや華麗なる大円舞曲などをメドレーにしたもので,華麗な雰囲気があり,三國浩平さん作曲の「グランド・ファンファーレ」の方は,ノクターンop.9-2などをモチーフにしたもので,優雅な雰囲気があります。ちょうど,ショパンのピアノ協奏曲第1番と第2番のような,キャラクターの違いが感じられて面白いと思いました。

最初に演奏された,グラズノフの「ショピニアーナ」は,初めて聴く曲でした。グラズノフ作曲とはなっていますが,実際はショパンのピアノ曲5曲をオーケストラ用に編曲したバレエ組曲ということで,大変聴きやすい作品でした。ショパンの曲によるバレエ音楽といえばダグラス編曲の「レ・シルフィード」も有名ですが,それよりも曲数は少なく,コンパクトにまとまっている感じです。

軍隊ポロネーズで始りましたので,どこか,早川さんのオープニング・ファンファーレの余韻を感じさせるようなところがありました。2曲目のノクターンはホルンのソロで始りました。そういえば,メンデルスゾーンの「夏の夜の夢」の中のノクターンもホルンで始ったなぁ,「うーん同世代だ」などと思いながら聴いていました。3曲目のマズルカになると,グラズノフとの相乗効果もあるのか,スラヴっぽい雰囲気になりました。こちらの方はチャイコフスキーの曲にありそう,と感じました。4曲目はワルツ嬰ハ短調でした。これは「レ・シルフィード」にも出てくるので,いちばんショパンっぽい雰囲気があると思いました。山田和樹さんの指揮ぶりも若々しいもので,5曲目のタランテラを華麗に生き生きと締めてくれました。

いずれもピアノ曲をアレンジしたもので,よりダイナミックになっていましたが,例えば,ポロネーズの場合,オーケストラ版の方が生ぬるく聞こえるようなところがありました。この曲については,やっぱりショパンのオリジナル版の方が良いかな,と感じました。

今回,まだ,井上道義さんや金聖響さんほどには知名度が高くない山田和樹さんがオープニング・コンサートの指揮者として登場したのは,一種「大抜擢」だったと思います。OEKファンにとっては,既にお馴染みの指揮者ですが,今回初めて山田さんの指揮に触れたお客さんは,新しい風を感じたのではないかと思います。OEKの演奏も,それに応える爽やかな流れの良さを感じさせてくれました。

さて,2曲目ですが,今回のLFJKの核となる作曲家,ショパンのピアノ協奏曲が演奏されました。ブルーノ・リグットさんは,フランスのベテラン・ピアニストで,以前からショパン弾きとして有名な方です(”サンソン・フランソワの唯一?の弟子”という紹介がよくされていましたね)。金沢で演奏するのは,今回が初めてだと思いますが,オープニングに相応しい,”品格”の高さのようなものを聞かせてくれました。

ショパンのピアノ協奏曲では第1番の方が華麗さがあるので,一般的な人気は高いと思いますが(最近では映画版「のだめカンタービレ」の力も大きいと思いますが),リグットさんのキャラクターには,今回の2番の方がぴったりなのではないかと思いました。ベテラン奏者らしく,慌てたところや,気負った部分が全くなく,安心してショパンの音楽に浸らせてくれる演奏でした。意外性が少ないとも言えるのですが,その分,「ショパンらしいショパン」を聞いたという聞き応えを感じさせてくれました。

第2楽章は,熟成された雰囲気がありました。普通に弾いているのに落ち着いた味わい深さと艶を感じさせてくれました。第3楽章は,ショパン得意の民族舞曲風になり,テンポも軽快になりますが,それでも慌てた感じはありませんでした。ホルンの信号の後は,キラキラとした音が華麗に続きます。これ見よがしではないけれども,平然と技巧を見せつけてくれるのが「さすが!」でした。

演奏後,会心の出来だったことを祝福し合うように山田さんとリグットさんは抱き合っていましたが,ベテランと若手による気持ちの良いコラボレーションを楽しむことができました。

今年のラ・フォル・ジュルネ金沢(東京もそうだと思いますが)は,世界的な不況の後遺症もあり,資金集めが特に大変だったようですが,金沢の場合,チケットの売れ行き自体は昨年を上回っているとのことです。恐らく,昨年以上のお客さんが金沢に集まるのではないかと思います。金沢市中心部でのプレイベントなども含め,これから1週間,音楽に存分に浸りたいと思います。

PS.この演奏会の前,入口のカフェ・コンチェルトで,3人の地元奏者によるプレコンサートを行っていました。ディズニーランドなどのテーマパークでは,各アトラクションに入る前に,列に並びながら徐々に期待を膨らませるような仕掛けになっていますが,丁度それと似た効果があったと思います。オーディションで合格した方々(だと思います)ということで,どれもしっかりとした演奏でした。今回はショパンがテーマということで,3日からの本祭の方でもこういう形で,”ホールの外のピアノ”が大活躍しそうです。

PS.上述のとおり,オープニング・コンサートの前の「あいさつ×5連発」が少々長く感じたのですが,一つ一つの挨拶は,それぞれに個性的で含蓄があり,「これでラ・フォル・ジュルネも安泰...かな」と安心させてくれるような説得力がありました。中では,山出金沢市長の挨拶が味がありました。近年益々円熟味(?)を増しているなぁと変なところで感心してしまいました。

↑黄色と赤というのが,やはりLFJの基本色でしょうか
↑当日券販売コーナー ↑ショパンにまざって井上さんのパネルもあります。記念写真撮影に最適?
↑プログラムのパネル。最終日には「SOLD OUT」続出? ↑おなじみとなった熱狂のグルメのパンフレット ↑音楽堂前にもプログラムのパネル
↑5月3日からは,ここを何回も行き来することになるでしょう。 ↑交流ホールもLFJK仕様に(ニックネームはプレイエル) ↑交流ホールからJR金沢駅地下に向かう通路。ここにも赤じゅうたんが敷かれていました。

↑音楽堂の地下のサイン ↑ショパン市場ではワインを販売していました。 ↑LFJオリジナルの公式CD(1000円)。早速購入しました。
↑こちらも恒例となった辻口さんによるお菓子 ↑黒い方がノクターン,ピンクの方がマズルカです。 ↑売り切れ必至ということで,早速,家族へのお土産にノクターンを購入。大変おいしいマカロン+チョコレートでしたが,一口250円という感じで一気になくなりました。
↑JR金沢駅に止まっていた「フランス芸術週間」仕様のバスです。LFJKに続いて金沢市で行われるイベントです。 ↑時間があったので,金沢市街まで自転車で。途中,三谷産業の前を通りかかったので,見てみたところ,LFJKのノボリがありました。ここでも公演が行われるようです。 ↑尾山神社の前を通りかかったのですが,ここにもショパンがいました。この期間,街中のあちこちで演奏会が行われます。
(2010/05/01)

演奏会場の光景










↑開演前のプレコンサート


↑OEKが出演するプログラムを紹介したポスター