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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2010:ショパン,ジェネラシオン1810
La Folle Journee de Kanazawa : CHOPIN et la generation 1810
Le Jour de CHOPIN ジュール・ド・ショパン:ショパンの日 第1回 エチュード,プレリュード
2010/05/02 北國新聞赤羽ホール

Review by 管理人hs  

ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)2010のプレイベントの”目玉”と言っても良いのが,この「ジュール・ド・ショパン:ショパンの日」という連続演奏会でした。今回のLFJKのテーマの核は「ショパン」なのですが,本祭の方は,オーケストラ公演や室内楽公演を含めている関係上,ショパン単独の演奏会はそれほど多くありません。それを補うかのように,1日中,ショパンのピアノ独奏曲を聞こうというのが,このジュール・ド・ショパンの狙いです。

次のとおり45分程度のコンサートを5回行うもので,金沢出身の宮谷理香さんが,扇の要とナビゲータ役を務めました。
  • 第1回 エチュード,プレリュード 10:00〜10:45
  • 第2回 ポロネーズ,マズルカ 12:00〜12:45
  • 第3回 ワルツ,ノクターン,歌曲 14:00〜14:45
  • 第4回 スケルツォ 16:00〜16:45
  • 第5回 バラード 18:00〜18:50

練習曲などをはじめとして,プロでないと弾けない難易度の非常に高い曲もありますので,プロとアマチュアのコラボという形になっていますが,これも地域密着型の金沢ならではの面白さです。ただし,アマチュアといっても,オーディションを合格した方ばかりで,聞き応え十分。地元のピアニストの絶好の発表の場になったのではないかと思います。

私は,この中の第1回を朝一で(朝10:00から!)聞いてきました。この回ですが,宮谷理香さんと鶴見彩さんが揃うという豪華な回でした。他の回のプログラム(このページの下に参考までに掲載しました)と比較すると分かるのですが,練習曲も前奏曲も他のジャンルよりも短い曲が多いため,文字通り,次から次へと違う奏者が出てきて,競うように演奏する形になりました。途中で鐘がなることはありませんが,NHK「のど自慢」風の「次はどういう人が出てくるのだろう...」という普通のクラシック音楽の演奏会にはない,楽しみ方ができました。

最初に宮谷さんが颯爽といつも通りにこやかに登場し...いきなり「ガーン」と「革命のエチュード」を演奏して始りました。空気を変えるような緊張感のある音とスリリングな音の連なり...さすがでした。

続いて,肩大祐さんによって「別れの曲」が演奏されました。名前に見覚えがあったので,調べてみると昨日の宮谷さんの「公開マスタークラス」に出演された中学生でした。肩さんのマスタークラスは聞いていないのですが,恐らく,その時のレッスンをしっかりと消化した上での演奏だったのではないかと思います。淡々としみじみと聞かせてくれる演奏でした。他の回にもマスタークラス受講者が出演されていましたが,この前日のレッスンとの連携という企画も良いと思いました。

その後,お馴染みの鶴見彩さんが登場し,練習曲op.10-4とop.10-5が演奏されました。ピアノの技術については,知識がないのですが,恐らく,「プロ仕様」の難易度の高い曲2曲だったと思います。キレ良く,バランス良く,鮮やかに聞かせてくれました。

中学生の桶樫夏海さんによって,練習曲op.25-2が優雅に演奏された後,オーケストラ・アンサンブル金沢との共演でお馴染みの福井市出身の徳永雄紀さんが登場し,op.25-1と「木枯らしのエチュード」が演奏されました。細部はもっと磨けるかな,という気はしましたが,イマジネーション豊かな演奏で,難曲をダイナミックに聞かせてくれました。

ここで再度,鶴見さんが登場し,練習曲op.25のトリの12番を安定感抜群の見事な演奏で聞かせてくれました。演奏後,宮谷さんが入ってきてステージ上で,宮谷さんと鶴見さんによるトークがありました。金沢出身のピアニストのお二方がステージ上で揃うのは初めてとのことで,大変貴重なトークを楽しませてもらいました。「ショパンの曲は,音楽とテクニックが一体になっている」という言葉など,なるほどと思いました。

後半は,大学生の阿部慧聖さんによる幻想即興曲,棒田美江さんによる前奏曲第7番(”胃腸”調=太田胃酸の曲ですね),雨だれの前奏曲がそれぞれ大変丁寧に演奏されました。阿部さんは,大変長身の方で,ピアノの音に余裕があり,ゆったりとした気分にさせてくれました。棒田美江さんのお名前は,金沢市でのいろいろな演奏会でお名前を見たことがありますが,非常に美しいタッチが印象的でした。

演奏会の最後は,宮谷理香さんが登場し,24の前奏曲の最後の4曲が演奏されました(ただし,曲間のインターバルはなく,ほとんど一体になっていたので1曲と言っても良いぐらいでした)。昨日の公開マスターコースでの宮谷さんの指導を思い出しながら聞いたのですが,宮谷さんの作る音楽は,曲自体が独立した生き物のように聞こえるなぁと感じました。曲の持つ激しさや複雑な表情のアピールの仕方も圧倒的でした。

昨日から宮谷さんの教育者としての側面,演奏家としての側面,演奏会のナビゲータとしての側面に連続的に触れることができましたが,類稀なマルチタレント・アーティストになられたな,と実感しました。金沢を舞台にした,宮谷さんによる新たな企画に期待したいと思います。赤羽ホールも今回のようなピアノを使ったイベントにぴったりのホールだと思いました。

■第1回 10:00〜10:45 ≪エチュード、プレリュード≫
12の練習曲Op.10
 練習曲第12 番 ハ短調Op.10-12「革命」/宮谷理香
 練習曲第 3番 ホ長調Op.10- 3「別れの曲」/肩大佑
 練習曲第 4番 嬰ハ短調Op.10-4/鶴見 彩
 練習曲第 5番 変ト長調Op.10-5「黒鍵」/鶴見 彩

12の練習曲Op.25
 練習曲第 2番 ヘ短調O.25-2/樋樫夏海
 練習曲第 1番 変イ長調 Op.25-1「エオリアのハープ」/徳永雄紀
 練習曲第 11番 イ短調 Op.25-11「木枯らし」/徳永雄紀
 練習曲第12番 ハ短調Op.25-12「大洋」/鶴見 彩
幻想即興曲 嬰ハ短調Op.posth.66/阿部慧聖
前奏曲第 7番 イ長調Op.28-7/棒田美江
前奏曲第15番 変ニ長調Op.28-15「雨だれ」 /棒田美江
前奏曲第21番 変ロ長調Op.28-21/宮谷理香
前奏曲第22番 ト短調Op.28-22/宮谷理香
前奏曲第23番 ヘ長調Op.28-23/宮谷理香
前奏曲第24番 ニ短調Op.28-24/宮谷理香

■第2回 12:00〜12:45 ≪ポロネーズ、マズルカ≫
マズルカ(第5番) 変ロ長調Op.7-1/重森光太郎
ポロネーズ(第1番) 嬰ハ短調Op.26-1/座主真衣佳
ポロネーズ(第3番) イ長調Op.40-1「軍隊」/清水直季
アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調Op.22/平野加奈
3つのマズルカOp59/竹田理琴乃
ポロネーズ(第6番) 変イ長調Op.53「英雄」/宮谷理香

■第3回 14:00〜14:45 ≪ワルツ、ノクターン、歌曲≫
華麗なる大円舞曲(ワルツ第1番) 変ホ長調Op.18/宮谷理香
華麗なる円舞曲(ワルツ第4番)ヘ長調Op.34-3/野坂卓史
ワルツ(第6番)変ニ長調Op.64-1「小犬」/ 加森日奈子
ノクターン(第8番)変ニ長調 Op.27-2/中林理力
ノクターン(第13番)ハ短調Op.48-1/久世麗
17のポーランドの歌 Op.posth.74より/浪川佳代(ソプラノ)、大野由加(ピアノ)
 第1曲 乙女の願い、第12曲 私のいとしい人、第16曲 リトアニアの歌

■第4回 16:00〜16:45 ≪スケルツォ≫
スケルツォ第1番 ロ短調Op.20/山崎綾夏
スケルツォ第2番 変ロ短調Op.31/塚田尚吾
スケルツォ第3番 嬰ハ短調Op.39/野澤麻乃
スケルツォ第4番 ホ長調Op.54/ 宮谷理香

■第5回 18:00〜18:50 ≪バラード ≫
バラード第1番 ト短調/杉本裕美
バラード第2番 へ長調/生垣淑子
バラード第3番 変イ長調/相良容子
バラード第4番 ヘ短調/宮谷理香
(2010/05/03)

演奏会場の光景


↑開場前の列


↑イベントのポスター