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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2010:ショパン,ジェネラシオン1810
La Folle Journee de Kanazawa : CHOPIN et la generation 1810
本公演1日目
2010/05/03 石川県立音楽堂,JR金沢駅周辺

Review by 管理人hs  
ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)2010の本公演1日目に行ってきました。この日もまた快晴に恵まれたこともあり,例年どおり大盛況でした。1日目だけを比較すると,昨年を上回る人手だった気がします。私はコンサートホール(フレデリック)と邦楽ホール(ドラクロワ)を往復して1日を過ごしましたが,ほとんどストレスを感じることなく,ゆったりとハシゴを楽しむことができました。

ラ・フォル・ジュルネ金沢のフォーマットとしては,年々進化を続け,今回でほぼ完成形にたどり着いたのではないかと思いました。何よりも,駅に行っても,ホテルに行っても,もちろんホールの中でも...どこでも音楽が鳴っている状態が実現し,気軽にいろいろな音楽を楽しめる雰囲気が満ち溢れていました。

以下,私が足を運んだ各公演・会場の様子を時間の流れに沿ってご紹介しましょう。


初日は,午後の公演からスタートしました。しばらく時間があったので,各会場の雰囲気を見るためにあちこち歩いてみました。

11:30頃 サロン・ド・ノアン
1階邦楽ホール前のサロン・ド・ノアンは1日中大盛況でした。3日間,この前を何回も通りましたが,常に盛況でした。この時は,響敏也さんの司会で相良容子さんのピアノ演奏が行われていました。最後に,予定外のアンコールを演奏していましたが,お二人のやり取りがなかなか面白く,大変和やかな雰囲気になっていました。

このスペースでは,飲料を出していましたが,LFJK後もピアノを置いたままにして,LFJK記念「サロン・ド・ノアン」として使えないですかねぇ。

サロン・ド・ノアンのイベントの書かれた看板
この時は相良容子さんが演奏していました。 響敏也さんとのトークの様子
演奏中の曲を示すプレート これは別の時間帯に撮影したものです。石川県立金沢ニ水高校の合唱部の皆さん。 このコーナーを通りかかるたび,ついつい見てしまいますね。この時は歌を歌っていました。



【112】12:15〜 石川県立音楽堂コンサートホール
さて,LFJK2010の最初のコンサートです。昨年までは,井上道義さんだけがオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)を指揮されていましたが,今年は3人の指揮者による分業になっていました。そのお一人の金聖響さんが登場し,次のようなメンデルスゾーン・プログラムが演奏されました。

メンデルスゾーン/劇音楽「真夏の夜の夢」序曲op.21
メンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調「イタリア」op.90
●演奏
金聖響指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)

この公演は,LFJKのホスト役であるOEKが本公演に初めて登場する演奏会ということで,「既に最終日?」と思わせるほど多くのお客さんが入っていました。ステージ上には,LFJKの1年目にあったようなステージ席が設けられていました。これは,「客席」ではなく「キャスト席」ということで,名札のようなものを首にぶらさげた”キャスト”の皆さんがステージ上の椅子に座っていらっしゃいました。満席になったら,柔軟に席数を増やすことのできる,この作戦は,なかなか面白いアイデアです。今後もLFJK名物の一つになりそうです。

ちなみにディズニーランドでは,従業員のことをキャストと呼んでいますね。ステージ上でオーケストラと一緒になって盛り上げて下さる方々ということで,立派な”キャスト”と言えそうです。

金聖響さんが指揮台に登場すると,満席のお客さんから,盛大な拍手が起こりました。金聖響さんに対する期待,OEKに対する期待とLFJKに対する期待とが入り混じった熱い拍手でした。

「真夏の夜の夢」序曲は,デリケートな透明感と颯爽とした雰囲気が気持ちよい演奏でした。今回のLFJKでは,”こだわりの古楽奏法”は採用していませんでしたが,楽器の配置は,いつも通り,コントラバスが下手奥に来る,古典的な対向配置を取っていました。ストレートに曲の若々しさを伝える,”開幕”に相応しい演奏でした。

「イタリア」交響曲を聞くのは,昨年末のクルト・マズアさん指揮OEKによるメンデルスゾーン・フェスティバル以来のことです。OEKが過去何度も演奏してきた,得意とする曲ということで,無理なく伸びやかに歌った演奏でした。速目のテンポで爽快さがありましたが,堂々とした自信にも満ちていました。淡い哀しみを感じさせる第2楽章,夢のように滑らかに流れる第3楽章(管楽器を中心としたリラックスした気分が心地よかったですね)に続き,力感たっぷりの第4楽章へ。速いテンポにも関わらず,余裕があり,しっかりと弾き切っているのがヤングさんを中心としたOEKの力だと思います。

金聖響さんは,来年の定期公演でこの曲を演奏する予定ですが,恐らく,その時は”もう一ひねり”入れてくる気がします。そちらの方も楽しみにしたいと思います。

なお,今回のLFJK中のOEKのメンバーですが,弦楽器にクレメラータ・バルティカのメンバーが2名ほどエキストラで参加していました。管楽器奏者の方もエキストラ奏者を数名入れており,ハードスケジュール(4月29日のLFJKオープニング以降,金沢→軽井沢→東京→金沢という移動をされているんですねぇ)を乗り切っていたようです。

初日から本当に大勢のお客さんが入っていました。 コンサートホール前の看板 LFJKはサインの色合いが鮮やかです。これが楽しさを盛り上げていると思います。



【122】13:15〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
その後,邦楽ホールに移動し,レジス・パスキエさんと広瀬悦子さんによる公演へ。ホール間の移動に関しては,この2年間で「10分あれば余裕でOK」ということが分かっていました。今となっては,1年目の混乱ぶりが懐かしむもありますが,歩いて移動し,トイレに入り,席について一息つくと,次の公演が始まるという感じで,全くストレスなくハシゴを楽しむことができました。

メンデルスゾーン/ヴァイオリン・ソナタヘ短調op.4
シューマン/ヴァイオリン・ソナタ第2番ニ短調op.121
●演奏
レジス・パスキエ(ヴァイオリン),広瀬悦子(ピアノ)

演奏された,メンデルスゾーンとシューマンのヴァイオリン・ソナタは,どちらも有名な作品ではありませんが,聞き応えがありました。パスキエさんのヴァイオリンには,若手奏者にはない味があり,広瀬さんのピアノの瑞々しさが,「さあ頑張りましょうね」という感じで,それをしっかりとサポートしていました。

メンデルスゾーンの方は,無伴奏のヴァイオリン・ソロで始まりました。この部分がまず,印象的でした。考えてみるとメンデルスゾーンの作品には,本当に駄作は少なく,聴きはじめると,どれも楽しめてしまうのが凄いところです。この曲も大変魅力的でした。

パスキエさんは,ステージに登場したところから常に余裕があり,大げさな表現はないけれども,しみじみとした渋さのある味のある演奏を聞かせてくれました。残響の少ない邦楽ホールで聞いたせいもあり,特にそう感じた気がします。広瀬さんのピアノは,大変クリア,透明感がありました。広瀬さんは,9月の定期公演で,「のだめ」映画版で有名になった(多分),ラヴェルのピアノ協奏曲をOEKと共演することになっていますが,こちらも大変楽しみです。

シューマンの方は,メンデルスゾーンに比べると,渋さを越えて,晦渋という部分もある曲ですが,今回のパスキエさんによる演奏を聞いて,妙に波長が合ってしました。老骨(?)に鞭打つように,気迫を込めて演奏するが,途中で疲れ果て,最後に生命力を回復する,という「生命力回復のストーリー」というのを勝手に作りながら聞いてしまいました。特に不気味なピツィカートで始まる第3楽章の独特なムードがパスキエさんの雰囲気にぴったりでした。

邦楽ホール前の当日の公演を示す看板 邦楽ホールの公演を全部示す看板



次の演奏会まで1時間近く余裕があったので,昼食を兼ねて,エリア・コンサートを一回りしてきました(ハシゴが目玉の音楽祭ですが,やはりこれぐらいの余裕は必要ですね)。

14:30頃 ANAクラウンプラザホテル金沢
石川県立音楽堂の道路を挟んだすぐお隣のANAクラウンプラザホテル金沢の1階ロビーにあるザ・ステージアクアにも行ってみました。クララ=ユミ・カンさんのヴァイオリン,松井晃子さんのピアノでシューマンの曲が丁度終わるところでした(5月2日に赤羽ホールで演奏していた曲と同じだと思います)。この場所で音楽を聞いたのは初めてでしたが,天井が高く,開放感があり,なかなか良い響きでした。もちろん大盛況でした。音楽堂からは本当に近いので,ここにもホールのニックネームを付けてあげたいくらいでした。

ANAクラウンプラザホテル金沢前のフラッグ ステージアクアで行われる公演リスト 入口にはエッフェル塔を思わせる見事な飾りがありました。
階段の上にも大勢の人 階段の上から眺めてみました。 ステージアクアの看板


14:30過ぎ JR 金沢駅コンコース
JR 金沢駅コンコースに行ってみると,笛と箏合奏の演奏が丁度始まりました。笛の藤舎眞衣さんは,邦楽をほとんど聞かない私でも顔を覚えてしまうぐらい上品な華やかさを持った方です。このLFJKの”邦楽部門”のスターと言って良い存在ですね。

演奏していた曲ですが,よくよく聞くと...シューマンの合唱曲「流浪の民」でした。その後,華麗なる大円舞曲を含むショパンメドレーになりましたが,途中でテンポを落とす辺り(箏だと演奏が難しい?),微妙におしとやかな感じになって独特の味わいを持っていました。和風ショパンという感じになり,最高です。

このステージを途中まで見た後,次はJR金沢駅東口地下広場へ。


14:30過ぎ JR金沢駅東口地下広場
大型モニターに青島広志さんが移っていたので,何の映像だろうと思って見ていたところ,音楽堂の交流ホール(プレイエル)の八角形ステージでのライブ映像でした。このホールの中にも大型モニターがあるのですが,さらにこの映像をJR金沢駅地下までネットでつないで中継をしていたようです。次から次へと新しいアイデアが採用されるのが面白いところです。これを応用すれば,「客寄せ用」ネット配信もできるかもしれないですね。

そのうちに次の公演時間が迫ってきたので,井上道義指揮京都大学交響楽団の公演へ。



【113】15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)リスト/交響詩「前奏曲」
2)リスト(ドップラー編曲)/ハンガリー狂詩曲第2番嬰ハ短調
3)ベルリオーズ/幻想交響曲op.14〜第4楽章
●演奏
井上道義指揮京都大学交響楽団,金沢大学フィルハーモニー管弦楽団*3

昨年のLFJKでも井上道義さんは,桐朋アカデミーのオーケストラを指揮されましたが,若い学生との共演を楽しみにしているのかもしれません。今回の演奏ですが,まず京都大学交響楽団の演奏が立派なのには驚きました。例えば,ホルン,オーボエといったパートは,アマチュアのオーケストラだと結構粗が目立つのですが,大変立派な演奏だったと思います。ティンパニをはじめとした打楽器の思い切りの良さも演奏をダイナミックなものにしていました。

リストの前奏曲やハンガリー狂詩曲第2番は,有名な割に最近,実演ではあまり演奏されないのですが,どちらも井上道義さんの指揮の下で,思い切り良くエネルギーを発散していました。ハンガリー狂詩曲の方は,冒頭の低音のユニゾンの音から大変魅力的でした。所々出てくるクラリネットのソロも雄弁でした。多少粗っぽい部分はあっても,この曲に関しては曲想によく合っているなと思いました。

井上さんは,いつもどおりの踊るような指揮ぶりで,オーケストラから発散される熱気をさらに泡立てるように曲の盛り上がり作っていました。テンポの緩急の差の付け方も非常に滑らかでした。

最後に,地元の金沢大学フィルハーモニー管弦楽団のメンバーとの合同演奏で幻想交響曲の第4楽章「断頭台への行進」が演奏されました。この演奏も大変ダイナミックでした。じっくりとしてテンポだったこともあり,非常に大柄な雰囲気があり,エネルギーをしっかりと蓄え,要所要所でどぎついぐらいに強く爆発させるような,見事な演奏になっていました。2台のティンパニ,増強された金管楽器を中心とした,「ちょっとやり過ぎか?」と思わせるほどの原色的な響きが素晴らしく,音楽のお祭りにぴったりの演奏でした。

演奏の合間の井上さんのトークもお祭り向きでした。「昔,私が京都市交響楽団の指揮者をしていた頃は,京大の方が上手かったんですよ(もちろん冗談だと思いますが...)」とか「京大のコンマスは3回留年しています(名誉コンサートマスターですね)」とかありとあらゆるネタで盛り上げてくれました。

京都大学と金沢大学のオーケストラは以前から交流があるのですが(もしかしたら,旧制高等学校時代からの交流の名残かもしれないですね。京大の前身が三高,金大の前身が四高で,スポーツなどの交流戦を行っていたようです。京都に遠征するのを”南下”と言っていたようです。),これをきっかけに,さらに交流が深まって行きそうな感じです。

次の公演まで30分ほど時間があったので,今度は,ホテル日航金沢まで足を伸ばしてみました。こちらでは,池辺晋一郎さんのトーク付きのミニコンサートをやっていました。こちらも大盛況。今回のLFJKでは,青島広志さんも普通にあちこち歩いていましたが,やはりアンバサダーの皆さんの影響力は絶大です。
ホテル日航ロビーの公演リスト ソファーは,絶好の休息場?

続いては,LFJの常連のシンフォニア・ヴァルソヴィアの公演です。

【123】16:15〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
1)ウェーバー/歌劇「魔弾の射手」序曲op.77
2)シューマン/ヴァイオリン協奏曲ニ短調
●演奏
ジャン=ジャック・カントロフ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィア
レジス・パスキエ(ヴァイオリン*2)

この公演ですが,邦楽ホールで行われました。もともと邦楽専用のホールですが,オーケストラが入るのは初めてのことです(オペラの伴奏でメンバー数を減らした編成のOEKが演奏したことはりますが)。この日は,2階席で聴いたのですが,今回の室内オーケストラぐらいの編成ならば,うるさすぎることなく,狭い分音がとても生々しく聞こえてきました(邦楽ホールの機能を生かして,指揮者が,せりあがって登場というのはどうでしょうか?一度みてみたいものです。)。

今回登場した指揮者は,ヴァイオリニストとして有名なジャン=ジャック・カントロフさんでした。昨年は,クラリネット奏者として有名なポール・メイエさんが指揮されていましたので,指揮に興味のあるソリストに門戸を開いているオーケストラなのかもしれません。

このカントロフさんの指揮ですが,やはり本職の指揮者のような滑らかな動作はではなく,演奏全体にも堅さを感じました。「魔弾の射手」序曲もスパッと音を切るような鋭さはあったのですが,どうも雑然とした響きに感じられました(これは邦楽ホールの残響の少なさにもよるのかもしれません)。

2曲目は,この日2回目の登場となるレジス・パスキエさんのヴァイオリンを加え,シューマンのヴァイオリン協奏曲が演奏されました。この協奏曲は,数あるロマン派のヴァイオリン協奏曲の中でもかなり地味で渋い曲です。その面では,先ほどヴァイオリン・ソナタ第2番で渋い演奏を聞かせてくれたパスキエさんに相応しい曲なのですが,協奏曲となるとやはり,ちょっと地味すぎるところがあると感じました。

これはシューマンの曲自体の問題とも言われているのですが,技巧的である割に映えないところがあります。最終楽章など地味な職人仕事を見る面白さはあったのですが,どこかすっきりしない感じがしました。ロマン派的な感情の表出も少なめで,ソナタの演奏よりは物足りなく感じました。

オーケストラのシンフォニア・ヴァルソヴィアは,音色全体にちょっとくすんだような落ち着きがあります。その点では,シューマンの音楽に相応しかったのですが,私自身,この曲に馴染んでいないこともあり(シューマンの音楽の特徴として,馴染んでいるほど味わいが深くなるようなところがあります),難解さを感じてしまいました。

なお,シンフォニア・ヴァルソヴィアの奏者ですが,とても”大きな方”が2人いらっしゃいます(縦・横各1名)。ステージに登場しただけで,すごいなぁと圧倒されます。邦楽ホールだったこともあり,特に迫力を感じました。

次は,本日2回目となる,金聖響さん指揮OEKの公演です。こうやって振り返ってみると,1日目は,シューマンとメンデルスゾーンばかり聞いている感じです。


【114】17:15〜 コンサートホール
シューマン/歌劇「ゲノヴェーヴァ」序曲 ハ短調op.81
シューマン/交響曲第3番変ホ長調op.97「ライン」
●演奏
金聖響指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)

お昼の公演に比べると,お客さんの数が少なかったのですが,シューマンとメンデルスゾーンの人気の差なのでしょうか?演奏の時間帯も関係するのかもしれません。

最初に演奏された「ゲノヴェーヴァ」序曲は,初めて聞く曲でした。ヒロイックな4本のホルンの響きがまず印象的でした。先ほどのカントロフさんの指揮と比べると演奏全体の表情のが豊かでしなやかな音楽になっていたのもさすがでした。

「ライン」交響曲は,5年ほど前に金聖響さんが急病の故岩城宏之さんの代役で定期公演に登場した時に演奏されたのを聞いた記憶があります。恐らく,金聖響さんのお得意な曲なのでしょう。この時は古楽奏法を取り入れた演奏だったと思いますが,今回は「イタリア」同様,通常の現代的な奏法による演奏でした。OEKが古楽奏法をするには,通常以上に緻密なリハーサルが必要なのだと思いますが,LFJKだとそこまで徹底できないのかもしれません。その分,第1楽章から,大変開放的で,流れの良い演奏になっていました。

民謡風の旅情を感じさせる第2楽章,どこか可愛らしい表情を見せてくれる第3楽章と,音楽による”ライン川旅行”を続けた後,第4楽章でケルンの大聖堂に到着します。この楽章で,トロンボーン3本が初めて出てきますが,その透明なハーモニーが印象的でした。重苦しくなる部分はなかったのですが,どこかバロック音楽を聞くような心地よい厳粛さがありました。最後の第5楽章は第1楽章を受けるような,明るく快活な演奏でした。特にコーダ部分でのホルンの音が素晴らしく,オーケストラの響きの核になっていました。

金聖響さんとしては「普通の解釈」の演奏だったと思いますが,その分,神経質な部分は皆無の,大河の流れを彷彿とさせるような滑らさと大きさを感じさせてくれる演奏になっていたと思います。

ここまで有料公演ではショパンの曲は1曲も聞いてこなかったのですが,次のブルーノ・リグットさんの公演では,ついにショパンを聞くことができました。


【124】18:15〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
シューマン/クララ・ヴィークの主題による変奏曲op.5
リスト/「巡礼の年」第2年「イタリア」〜ペトラルカのソネット集第123番
リスト/詩的で宗教的な調べ〜葬送
ショパン/ノクターンヘ長調op.15-2
ショパン/ノクターン変ロ短調op.9-1
ショパン/ワルツ変ホ長調op.18「華麗なる大円舞曲」
ショパン/ワルツ嬰ハ短調op.64-2
ショパン/ポロネーズ変イ長調op.53「英雄」
(アンコール)ショパン/ワルツ第19番イ短調(多分)
●演奏
ブルーノ・リグット(ピアノ)

「待望のショパン」ということもあり,1日目に聞いた公演の中では,いちばん印象に残りました。何よりもブルーノ・ルグットさんのピアノが見事でした。透明感のある本当に美しいタッチで,すべての音がホールに染み渡り,大げさな身振りはまったくないのに,充実感を感じさせてくれました。”マジック・タッチ”と言っても良い素晴らしさでした。

最初のシューマンの曲から落ち着きのある澄んだ響きに支配されました。聞いていて全く疲れず,ずっと浸っていたいと思わせてくれました。リストの曲は,より色彩的でした。詩的な情緒も自然に漂い,曲の良さをしっかりと感じさせてくれました。「詩的で宗教的な調べ」の方は,かなり重い響きもありましたが,重苦しくなることはなく,常に透明感があります。曲想にも変化があり,大変格好良い曲だと思いました。

この辺まで聞いて,「やっぱりリグットさんはすごい」と思ったのですが,後半のショパンでは,さらに音の透明感が高まった気がしました。

ノクターンの演奏は美の極致という演奏でした。特にop.9-1の最初の1音は,この世のものとは思われないほど(ちょっと大げさかな)の不思議な透明感のある光を放っていました。無駄な力が全く入っておらず,さらりと水のように流れるのですが,しっかりとした聞き応えを感じさせてくれました。

おなじみの華麗なる大円舞曲は,ピアノを叩きつけるような部分がなく,非常に軽やかで上品な演奏でした。かなり速いテンポでしたが,雑な感じを全く与えないのが素晴らしいと思いました。嬰ハ短調op.64-2のワルツも大変有名な曲です。こちらも速いテンポの演奏で,美しさと同時に儚さを感じさせてくれました。

最後の「英雄」ポロネーズも,濁ることのない美しいタッチによる演奏で,十分な力強さはあるけれどもこれ見よがしの大げさな身振りのない見事な演奏でした。リグットさんは,往年のフランスの名ピアニスト,サンソン・フランソワの数少ない弟子ということで有名な方ですが,演奏のスタイルはかなり違っても,「フランス風のショパン」の精神のようなものをしっかりと受け継いでいる方なのだな,と実感しました。

尊敬の意を評するような拍手が続く中,最後にアンコール(私の記憶が確かならば,ショパンのワルツ第19番遺作だったと思います)がさらりと演奏されて公演は終了しました。

さて,本公演1日目の最後の公演です。ショパンがテーマのLFJKで,この曲が演奏されなければ始まらないという曲が演奏されました。


【115】19:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)シューマン/序曲「ヘルマンとドロテーア」
2)ショパン/ピアノ協奏曲第1番ホ短調op.11
3)ドビュッシー/ベルガマスク組曲〜月の光
●演奏
井上道義指揮シンフォニア・ヴァルソヴィア*1-2
ジャン=クロード・ペヌティエ(ピアノ*2-3)

ショパンのピアノ協奏曲第1番です。ただし,この公演の,J-C・ペヌティエさんによる演奏は,少々期待はずれでした。何と楽譜を見ながら,譜めくり付きの演奏でした。実は,翌日以降の公演でも譜面を見ながらの協奏曲演奏はあったのですが,さすがに譜めくりの人は居ませんでした。その影響もあるのか,この曲の良さである音のきらめきや闊達さが少なく,やっとやっと慎重に演奏しているように感じてしまいました。

「今年のLFJKの目玉」「誰もが聞きたい曲」という期待が大きかったせいもあるのですが,やはり譜めくり付きで,譜面を見ながらこの曲を演奏...というのは,視覚的な面でも少々がっかりでした。

会場は超満員で,演奏後の拍手も盛大で,アンコールまで演奏されたのですが...何とこの曲がショパンではありませんでした(こちらは暗譜で演奏していました)。これもまた「?」でした。他の公演でもテーマとは無関係の曲が演奏されるケースはあったのですが,アンコールで演奏されたドビュッシーの「月の光」の音があまりにも美しかったので,かえって,「ショパンは苦手?」「ショパンが好みではない?」などと勘繰ってしまいました。そうなると,「他にこの曲を弾きたかったピアニストは居ただろうに...」などと少々釈然としない思いを感じました。

対照的に井上道義さん指揮シンフォニア・ヴァルソヴィアの演奏は,ポーランドのオーケストラということもあり,細かいニュアンスの変化に富んだ,こなれた演奏でした。1曲目に演奏された,シューマンの「ヘルマンとドロテーア」序曲は,滅多に演奏されない曲ということもあり,井上さんのプレトークの後演奏されました。ラ・マルセイエーズが青年ヘルマンを意味するモチーフとして使われているなど,なかなか面白い曲でした。井上さんのしなやかな指揮の下で,大変雄弁な音楽になっていました。

そう考えると,ショパンの後の井上さんの様子は,演奏前に比べると随分と冷静な感じでした。やはり,会心の出来ではなかったのかな,という気がしてしまいました。

というようなわけで,本公演1日目は,午前11:00過ぎから午後20:30頃まで音楽堂周辺で音楽に浸りました


終演後の音楽堂前

PS.音楽堂コンサートホールは,入るときの入口は1箇所ですが,出るときは両サイドからも1階に抜けられるのが好都合です。まるでLFJのためにあるような通路ですね。邦楽ホールに急ぐときは右側から,サイン会に行くときは左側を使うと便利です。
(2010/05/13)




午前中の音楽堂前


既に賑わっていました。


玄関では井上道義音楽監督がお出迎え


交流ホールではリハーサル中(平野さんと鶴見さん?)。このホールはついついのぞきこみたくなります。


インフォメーションでは,ボランティアの皆さんも活躍


インフォメーション前のANAホテルの売店。350円のサンドイッチはボリュームもあり,お買い得でした。


昼頃の音楽堂前。


もてなしドーム。上も下もショパンです。


JR金沢駅から地下広場へ。赤じゅうたんが敷かれていました。


地下広場から音楽堂方面へ。こちらも赤じゅうたん。昨年昨年までよりは赤じゅうたんの面積が増えた気がします。


地下広場の屋台


地下広場はヴァンドーム広場という名前でした。


石川県ジュニア・オーケストラだと思います。


ヴァイオリン体験コーナー


ハープ体験コーナーもありました。


キッズプログラムも大繁盛でした。


キッズプログラムはスタンプラリー形式だったようです。


地下広場から音楽堂に向かうあたりの展示


これもキッズプログラムの一つ?


JR金沢駅コンコース尚美ウィンドオーケストラの皆さんだと思います。


ヴァンドーム広場を示す看板


邦楽ホール付近には音楽祭のスナップ写真を飾り始めていました。


邦楽ホールに向かう途中の壁面にはショパンの全作品のリストが


こちらはショパンの肖像画。これは有名なドラクロワ作のものですね。


ショパン時代のピアノ?弾くことができるようになっていました。


交流ホールでのピアノ連弾。こちらも大賑わい


石川県ジュニア・オーケストラ


LFJ名物のヴォトルバさんおイラストの絵ハガキ


ショパン市場では生ビールも売っていました。


LFJK名物のト音記号マークのクリームパン

地下広場ではマズルカの踊り方のレッスン中


音楽堂前のつつじ?は,毎年,LFJKの時期に合わせるように咲いていますね


音楽堂周辺は車両通行止めだったので実質歩行者天国でした。


スナップ写真もどんどん増えていました。


学生オーケストラ(京都大学?)が交流ホールでリハーサル中