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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2010:ショパン,ジェネラシオン1810
La Folle Journee de Kanazawa : CHOPIN et la generation 1810
本公演2日目
2010/05/04 石川県立音楽堂,JR金沢駅周辺

Review by 管理人hs  
ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)2010の本公演2日目に行ってきました。この日も快晴で,1日目同様に大盛況でした。この連休は,我が家の女子供とは別行動になったこともあり(見放された?),幸か不幸か好きなだけ演奏会に行ける状態になってしまいました。午前中の予定は決めていなかったのですが,フラフラと出かけて,朝10:00の吹奏楽と11:00からの室内楽を当日券で聞いた後,夜8:00のピアノ・リサイタルまで,有料公演8つを聞いてきました(これまでの新記録かもしれません)。

この日の特徴ですが,何と言っても3人のピアニストだったと思います。LFJK前はプラメナ・マンゴーヴァさんとかルイス・フェルナンド・ペレスさんといっても,「覚えにくい名前だなぁ」とぐらいにしか思っていなかったのですが,お二方とも素晴らしい実力と他にないようなスター的なキャラクターをお持ちの方でした。もう一人のリーズ・ドゥ・デ・ラサールさん(こちらも覚えにくい名前ですが)については,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演に出演されたときから注目していましたが,さらに個性的になり,迫力を増していました。

ちなみに,この日は,このリーズさんのリサイタルを起点として公演を選んだこともあり,井上さんとOEKの公演については「仕方がないか」と今回は諦めました(超満員だったようですね。)。OEKファンとしては申し訳なかったのですが,代わりに「管理人の母」に行ってもらいました。

それでは,私が足を運んだ各公演・会場の様子を時間の流れに沿ってご紹介しましょう。

まず,朝一に目覚ましのつもりで大阪桐蔭高校の吹奏楽部の演奏を聞きました。

【211】10:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)早川太海/フレデリック・ファンファーレ
2)オッフェンバック(ロザンタール編曲)/バレエ音楽「パリの喜び」(吹奏楽用に編曲された抜粋)
3)リスト(リード編曲)/ハンガリー狂詩曲第2番嬰ハ短調
4)メンデルスゾーン/劇音楽「夏の夜の夢」〜結婚行進曲(吹奏楽用に編曲された版)
5)宍倉晃/狂詩曲「ショパン・エチュード」
6)ショパン(藤田玄播編曲)/幻想即興曲
7)真島俊夫/シャンソン・メドレー:モンマルトルの小径(パリの空の下,ムーラン・ルージュの歌,バラ色の人生,枯葉,セ・シ・ボン)
●演奏
池辺晋一郎*1;梅田隆司*2-7指揮大阪桐蔭高等学校吹奏楽部
司会:池辺晋一郎


交流ホールでの公演。もの凄い人数でした。
大阪桐蔭高校吹奏楽部のメンバーですが,何と160人もの部員が音楽堂コンサートホールのステージに乗っていました。大半のパートが10人以上いる,驚きの編成でした。

最初に司会役の池辺晋一郎さんが登場したのですが,舞台袖から入ることができず,客席からステージ上の指揮台にのぼりました。こういう光景を見たのは初めてでした。池辺さんは,公式ファンファーレの指揮をし,この吹奏楽部や演奏曲の紹介等をした後,引っ込み,代わりに指揮者の梅田隆司さんが登場し,演奏が始まりました。

今回のプログラムですが,ショパン,リスト,メンデルスゾーンの曲とフランス関係の曲がしっかり盛り込まれていました。しっかりと依頼のテーマに対応できるのが,まず,素晴らしい点です。最初に演奏されたオッフェンバック(ロザンタール編曲)の「パリの喜び」ですが,最初の音を聞いて感激しました。パイプオルガンのような包容力のある響きでした。これだけの大編成なのにうるさく感じる部分は全くありませんでした。演奏のキレも良く,重苦しさは感じませんでした。

クラリネットなどは20人ぐらいいたかもしれません。そうなるとオーケストラで言うヴァイオリンのようなイメージとなって聞こえてきました。リストのハンガリー狂詩曲第2番など,吹奏楽というよりはオーケストラで聞いている印象を受けました。

指揮の梅田先生の結婚記念日が前日だったことにちなんで,追加でメンデルスゾーンの結婚行進曲が堂々と演奏された後,宍倉晃作曲の狂詩曲「ショパン・エチュード」が演奏されました。この曲は,もともと演奏するのが難しいショパンの練習曲集の中から4曲を抜粋して吹奏楽用としてまとめたものです。鍵盤打楽器やティンパニが大活躍し,他の楽器も細かい音の動きが続くなど,かなりの難曲だと思いました。

梅田先生のトークによると,今回の約160人のメンバーの中に60人ほど1年生がいるそうです(この数字もすごいですね)。「今の曲など弾ききれていませんでした」とのことでしたが,入学して1カ月でこういう舞台に立つなどちょっと信じられないぐらいのレベルの高さだと思います。

ニュー・サウンズ・イン・ブラスの楽譜による,途中からディスコ風になる幻想即興曲が演奏された後,演奏会の最後は,真島俊夫編曲のシャンソン・メドレーで締められました。こちらもニュー・サウンズ・イン・ブラスの楽譜だと思いますが,ソロが次々と続く,視覚的にも楽しめる演奏でした。パートごとに立ち上がったり,上下・左右に動いたり,ちょっとしたショーを見るような面白さでした。この演奏を見た,石川県内高校の吹奏楽部の生徒たちも「やってみたい」と思ったのではないかと思います。

大阪桐蔭高校は,このステージの後,JR金沢駅,交流ホールなどあちこちで演奏していましたが(動くパイプオルガンか?),今日1日で強烈な印象を金沢駅周辺に残していったのではないかと思います。恐るべき吹奏楽団でした。



次は,一転して邦楽ホールでの室内楽公演です。この振幅の大きさがLFJKの特徴だと思います。

【221】11:00〜 邦楽ホール
シューマン/幻想小曲集op.73
ショパン/チェロ・ソナタト短調op.65
(アンコール)シューマン/子供の情景〜トロイメライ
●演奏
タチアナ・ヴァシリエヴァ(チェロ),プラメナ・マンゴーヴァ(ピアノ)


チェロのタチアナ・ヴァリシエヴァさんとピアノのプラメナ・マンゴーヴァさんの共演でしたが,この組み合わせは金沢のみとのことでした。お二方とも,今回初めて聞く奏者でしたが,安心して音楽に身を任せることのできる演奏を聞かせてくれました。

最初のシューマンの曲は,似た名前の曲が沢山あるのでパッと分からなかったのですが,CDで聞いたことのある曲でした。ヴァリシエヴァさんのチェロは,大変流れの良い,スムーズな演奏でした。

ショパンのチェロソナタは,大変堂々とした作品です。マンゴーヴァさんも大変堂々とした体格の方ですが,その音も輝きに満ちており,演奏のスケールを大変大きなものにしていました。第2楽章での美しく滑らかなメロディ,ノクターン風の第3楽章など,息の長いチェロの歌いっぷりも印象的でした。最終楽章でのノリの良い,勢いのある演奏も素晴らしく,2人の相性の良さを感じさせてくれました。

アンコールでは,しっかりと歌いこまれたトロイメライが演奏されました。宮澤賢治の「セロ弾きのゴーシュ」の中にチェロでトロイメライを演奏する場面があったと思いますが,そんなことを思い出しながら聞いていました。


続いて,山田和樹さん指揮OEKとスペインのピアニスト,ルイス・フェルナンド・ペレスさんの公演を聞きました。

【212】12:15〜 コンサートホール
1)メンデルスゾーン/劇音楽「夏の夜の夢」〜ノクターン
2)メンデルスゾーン/序曲「美しきメルジーネの物語」op.32
3)メンデルスゾーン/ピアノ協奏曲第2番ニ短調op.40
●演奏
ルイス・フェルナンド・ペレス(ピアノ*3)
山田和樹指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)


今回のLFJKでは,OEKは”メンデルスゾーン担当”になっています。最初に「夏の夜の夢」の中のノクターンが演奏されました。山田和樹さんのテンポ設定は大変ゆったりとしたもので,柔らかなホルン・ソロをはじめとして,どこか官能的な響きがありました。

序曲「美しきメルジーネの物語」は,あまり演奏されない曲ですが,かなり以前,OEKが定期公演で演奏するのを聞いた記憶があります。クラリネットのソロが活躍する冒頭部から海をイメージさせるようなキラキラした雰囲気があり,大変鮮やかな演奏となっていました。途中,ティンパニを中心にドラマティックに盛り上がる部分があったり,ストーリーの流れをしっかり音楽で伝えてくれるような分かりやすさがありました。

後半は,ルイス・フェルナンド・ペレスさんが登場し,メンデルスゾーンのピアノ協奏曲第2番が演奏されました。この曲を実演で聞くことは初めてでしたが,とても聞き映えのする曲だと思いました。これは,ペレスさんの演奏の力にもよると思います。

ペレスさんのピアノは,時折激しいパッションの爆発を感じさせるもので,演奏全体に華麗さを漂わせていました。それでいて,音楽全体としてのバランスも悪くなく,奇をてらったような箇所はありませんでした。

第2楽章の歌にも濃厚な味があり,ここでも聴衆の耳をしっかりと引きつけていました。第3楽章も芯のある音が素晴らしく,軽快さと同時に聞き応えのある音楽を
聞かせてくれました。

ペレスさんの打鍵は非常に強靭で,随所で,鍵盤の上で大きく跳ねるような動作を見せていました。それが非常に様になっており,爽やかささえ感じさせてくれました。山田和樹さん指揮OEKの演奏もそれに合わせるかのようにノリの良い音楽を聞かせてくれました。

ペレスさんは,ルネ・マルタンさんのお気に入りのピアニストとのことですが,今回のLFJKで金沢でも一気に人気が出たのではないかと思います。

公演後,ペレスさんのサイン会が行われるということで,コンサートホール左側の階段からササッと1階まで降り,速攻で頂いてきました。とても気さくな感じの方でした。その後,邦楽ホールに向かいました。



【222】13:30〜 邦楽ホール
1)ショパン(ミルシュタイン編曲)/ノクターン嬰ハ短調KKIVa-16
2)ショパン(サラサーテ編曲)/ノクターン変ホ長調op.9-2
3)メンデルスゾーン/無言歌集〜春の歌
4)メンデルスゾーン/八重奏曲変ホ長調op.20
●演奏
西澤和江(ヴァイオリン*1-3),鶴見彩(ピアノ*1-3)
IMA弦楽アンサンブル

この公演は,「石川県枠」と言っても良いコーナーで,前半は,金沢市出身のヴァイオリニスト西澤和江さんと同じく金沢市出身のピアニスト鶴見彩さんによるデュオ,後半は,いしかわミュージックアカデミー(IMA)受講者からの韓国人の弦楽器奏者の選抜メンバーによる演奏でした。

西澤さんの演奏は,大変丁寧に歌ったもので,ショパンやメンデルスゾーンの小品の世界をくっきりと描いていました。サラサーテ編曲によるノクターンop.9-2は,5月2日にソレンヌ・パイダシさんの演奏でも聞いたのですが,それに比べるとかなり重く感じました。こういう聞き比べができるのもLFJKならではです。

後半に登場したIMA弦楽アンサンブルは,常設団体ではなく,LFJK2010のために集められたメンバーによるアンサンブルです。演奏されたメンデルスゾーンの八重奏曲は,個人的に大好きな曲の1つです。若いメンバーらしく,非常にスピーディーで切れ味の良い演奏を聞かせてくれました。リーダーを務めていたのは,有名コンクールでの入賞暦もある,シン・アラーさんだったと思いますが,ほとんど独奏ヴァイオリンのような形で演奏を引っ張っていました。その分,全楽器が一体となって盛り上がるようなシンフォニックな面はあまり出ていなかった気がしました。

第3楽章のいかにもメンデルスゾーンらしいスケツルォも非常に緻密でデリケートでした。低音楽器から徐々に高音楽器へと楽器が昇っていく面白い始まり方の第4楽章も,非常に元気の良い演奏でした。

今回のIMA弦楽アンサンブルについてですが,できればメンバー名を全部書いて欲しかったところです。数年後にリーフレットを見て,「こんな大物が参加していたんだ」ということがあるかもしれません。

演奏後,再度コンサートホールに戻りました。ここで登場したのは,午前中,タチアナ・ヴァシリエヴァさんと共演していたピアノのプラメナ・マンゴーヴァさんでした。共演は,カントロフさん指揮のシンフォニア・ヴァルソヴィアです。

【213】14:30〜 コンサートホール
リスト/ハンガリー幻想曲S.123
リスト/ピアノ協奏曲第2番イ長調
●演奏
プラメナ・マンゴーヴァ(ピアノ)
ジャン=ジャック・カントロフ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィア


マンゴーヴァさんは,見るからに(?)迫力満点のピアニストですが,演奏の方もまた大迫力でした。私は3階席で聞いていたのですが(経費節約のため,今回,私は基本的にコンサートホール公演については,3階席でした),豊かな音量とクリアなタッチはしっかり伝わってきました。

今回演奏された,リストの2曲は,実演ではあまり取り上げられない作品ですが,大変聞き映えがしました。ハンガリー幻想曲の方は,ピアノ独奏曲のハンガリー狂詩曲をピアノ協奏曲のスタイルに編曲したもので,ハンガリーの民族音楽的な要素が沢山盛り込まれています。シンフォニア・ヴァルソヴィアの演奏も野性味があり,曲の持ち味にぴったりでした。

ピアノ協奏曲第2番の方も,似た性格の曲ですが,より勇壮な気分を持っています。最後の方など,行進曲調になるのですが,室内オーケストラとの共演にも関わらず,重戦車軍団の進軍を思わせる豪快さがありました。その一方,緩徐楽章でのチェロとの絡み合いなども聞き応えがあり,有名なピアノ協奏曲第1番に負けない魅力のある曲だと思わせてくれました。

両曲とも,クライマックスになるとリスト特有の華麗なグリッサンドが再三出てきましたが,マンゴーヴァさんは,いとも簡単に決めており,会場も大盛り上がりでした。女王のような貫禄を持った素晴らしいリストだったと思います。

再度,邦楽ホールに移動。


次の公演は,ショパンを題材とした新作能で,「金沢オリジナル」企画でした。大きな注目を集めていた公演ということで,客席は大入り満員でした。

【223】15:30〜 邦楽ホール
新作能「調律師:ショパンの能」
●配役・演奏
作・解説:ヤドヴィガ・M・ロドヴィッチ
能舞:観世銕之丞,ピアノ:鶴見彩,語り:若村麻由美,
使われた音楽:
ショパン/前奏曲第20番ハ短調op.28-20
ショパン/前奏曲第4番ホ短調op.28-4
ショパン/ノクターン第7番嬰ハ短調op.27-1
ショパン/ノクターン第20番嬰ハ短調遺作


邦楽ホールのステージの奥はスクリーンになっており,開演前,ドラクロアが描いた有名なショパンの肖像画が投影されていました。このドラクロアとショパンのつながりに焦点を当てた作品でした。

まず,上演前,作者のヤドヴィガ・マリア・ロドヴィッチさんによって作品の意図について解説がありました。ロドヴィッチさんは,駐日ポーランド共和国特命全権大使であると同時に能及び日本文化の研究者で,今回の作品も能についての理論的なバックボーンの上に作られたものだということがわかりました。

ただし,口頭だけによる説明だとかなり難解に感じました。大変流暢な日本語でしたが,作品の背景や基本的なストーリーについてはリーフレットにあらかじめ書いてある方が親切だと思いました(例えば,ウジェーヌ・ドラクロワとかノアンとか口頭でだけ言われてもピンと来ないお客さんが居たのではないかと思います。)。

能の設定ですが,ショパンの死後,友人で画家のドラクロワが調律師の姿をしたショパンの亡霊に出会い,その音楽への思いに触発されるというものでした。亡霊役が観世流シテ方の観世銕之丞(かんぜてつのじょう)さんでしたが,その他の部分は女優の若村麻由美さんの語りによって進められました。

この説明は,公演後,次のサイトの記述を元にまとめたのですが,
http://kanazawa.keizai.biz/headline/959/
実は,公演を見ながら,この展開を理解することができませんでした。若村さんの語りも観世銕之丞さんのセリフも,とても迫力があり,声自体は聞きやすかったのですが,文語調で語っていたこともあり,少々情けないのですが,「ショパンが死後,亡霊となってドラクロアに会いに来た...のかな」というのが分かった程度でした。背景に投影されていた写真は非常に美しく,鶴見彩さんのピアノもクールな美しさを漂わせていて雰囲気にぴったりでしたが,少々もどかしさを感じてしまいました。

先のサイトによると,「この能はまだ制作途中のため,全編の3分の2は女優の若村麻由美さんの語りで進められた。」ということなので,これが完成形ではないことになりますので,機会があれば,実際の能として上演されたものを観てみたいと思いました。

この後,井上道義音楽監督指揮OEKによるメンデルスゾーンの公演を聞く選択肢もあったのですが,今回のLFJKの主要テーマは,ショパンということで,密かに注目していたピアニスト,リーズ・ドゥ・ラ・サールさんのピアノによるオール・ショパンの公演を聴くことにしました。開演まで,1時間ほど時間があったので,鼓門下で行われた石川県立小松明峰高校吹奏楽部の演奏を聞くことにしました。


16:30〜 もてなしドーム 
小松明峰高校吹奏楽部の演奏については,過去何回か聞いたことはあったのですが,そのサービス精神に感激しました。嵐あり,演歌あり,ダンスあり...と吹奏楽の枠を超えた総合エンターテインメント集団と化しており,大喝采を浴びていました。私も明峰のファンになってしまいました。
石川県立小松明峰高校吹奏楽部のステージ
最初は黄色のトレーナーでしたが,最後の曲では鮮やかなポンチョに変身(指揮の斎藤先生は,金色!)



さて,リーズ・ドゥ・ラ・サールさんのピアノによるショパンです。

【224】17:30〜 邦楽ホール
ショパン/バラード第1番ト短調op.23
ショパン/バラード第2番ヘ長調op.38
ショパン/バラード第3番変イ長調op.47
ショパン/バラード第4番ヘ短調op.52
ショパン/ピアノソナタ第2番変ロ短調op.35「葬送」
(アンコール)リスト/灰色の雲
●演奏
リーズ・ドゥ・ラ・サール(ピアノ)


リーズさんは,数年前(まだ十代だった頃です),OEKの定期公演に登場し,大変迫力のあるリストのピアノ協奏曲第1番の演奏を井上道義さんと共に聞かせてくれたことがあります。きっとショパンも素晴らしいだろう,と期待しながら,この公演を選びました。

今回のプログラムは,バラード全4曲とピアノ・ソナタ第2番「葬送」という聴き応えのある内容でした。「ショパンばかり,1時間以上」という公演は,LFJK2010の中でもこの公演だけだったかもしれません。

そのリーズさんのショパンですが,ちょっとやり過ぎか?と思わせるほど,重いテンポでバラード第1番が始まりました。音楽の流れが止まるほど遅いテンポでしたが,その音楽には聞き手を弾き付けるテンションの高さがあり,充実感を感じさせてくれました。しばらくして新しいテーマが出てくると,音楽の表情が一気に変わり,一気に流れ始めます。その技巧の鮮やかさも見事でした。途中,大輪の花が広がるようにテーマが出てくる部分の華麗さなど,スケールの大きさもありました。

その他の曲は,第1番ほど激しいテンポの変化は付けていなかった気がしますが,嵐のような激しさと非常にデリケートな弱音のコントラストなど,音量面でのコントラストも印象的でした。

後半のピアノ・ソナタ第2番も重量感たっぷりの演奏でした。第3楽章の葬送行進曲など,妙に深刻かな,という気もしましたが,その集中力の高い演奏は,大変説得力があり,リーズさんならではのショパンとなっていたと思います。

こういう演奏の場合,演奏者のポテンシャル・エネルギーが高くないとだれてしまうのですが,最後までエネルギーに満ちていました。聞くほうもかなり疲れましたが,凄い奏者に成長したな,と実感しました。

これだけ長いプログラムだったので,アンコールはないかな,とも思ったのですが,盛大な拍手に答え,リストの「灰色の雲」が演奏されました。「葬送」ソナタの最終楽章もほとんど現代音楽のような不気味さを持っていましたが,このリストもほとんど印象派風の不思議な色合いがあり,リーズさんのまた違った面を聞かせてくれました。

リーズさんには,LFJKの常連として,これから何回も金沢に来て欲しいですね。

19:00からの公演についても,コンサート・ホールのシンフォニア・ヴァルソヴィア公演に行こうか,アートホールでのルイス・フェルナンド・ペレスさんのピアノ公演に行こうか迷ったのですが,シューマンとショパンを比較して,ショパンの曲ばかりを集めたペレスさんの公演の方に行くことにしました。

【235】19:00〜 金沢市アートホール
ショパン/バラード第1番ト短調op.23
ショパン/ワルツ変ニ長調op.70-3
ショパン/ノクターン嬰ハ短調op.27-1
ショパン/ノクターン変ニ長調op.27-2
ショパン/ノクターン嬰ヘ短調op.48-2
ショパン/ノクターンハ短調op.48-1
ショパン/ワルツホ短調KKIVa-15
ショパン/スケルツォ第3番嬰ハ短調op.39
(アンコール)曲名不明(スペインの音楽)
(アンコール)グラナドス/スペイン舞曲集op.37第5番
●演奏
ルイス・フェルナンド・ペレス(ピアノ)


というわけで,リーズ・ドゥ・ラ・サールさんの公演から引き続いて,ショパンのピアノ独奏曲を聴き続けることしました。会場は,金沢市アートホールでした。考えてみると,今回のLFJKでアートホールに入ったのはこの時だけでした。やはり,ピアノ独奏の迫力を味わうにはこのホールがいちばんだなと実感しました。昼間の協奏曲の公演(その後のサイン会にも行きました)で,ペレスさんの明るい雰囲気について,既に好感を持っていたのですが,アートホールの前の方で聴けたこともあり,ペレスさんの愛すべき人柄をさらにしっかりと実感できました。
金沢市アートホールは,少し距離がありますが,5分以内で到着できるのではないかと思います。

プログラミングですが,最初にバラード,最後にスケルツォと中規模の曲を演奏し,その間にワルツとノクターンを挟み込むというシンメトリカルな構成になっていました。

最初に演奏されたバラード第1番は,リーズさんの公演でも聴いたばかりの曲でした。LFJK期間中では,中林理力さん,鶴見彩さんの演奏でも聞いたし,サロン・ド・ノアン(邦楽ホールの入口付近)でも聞いた気がします。今回のテーマのショパンの場合,聴き比べができる,というのも楽しみの一つだった気がします。

ペレスさんの演奏は,リーズさんほど,もったいぶった感じはなく,よりストレートに輝かしい音で曲をまとめていました。特に間近で聴くキレの良い打鍵は迫力たっぷりでした。

ワルツやノクターンの方は,「ピアノを演奏する幸福感,ピアノを聴く幸福感」を味わわせてくれるような,明るく滑らかな演奏が印象的でした。今回のLFJKでは,ショパンのピアノ小品を沢山聞きましたが,特にノクターンについては,1曲1曲が自分の友人のように感じられるようになってきました。24の前奏曲のような曲の場合,全曲を通して聞く方が良いのですが,ノクターンについては,1曲1曲をそれぞれに個性があり,その日の気分に応じて,好きな曲を聞くというスタイルの方が良いのではないかと思いました。ペレスさんの人懐っこさのある演奏を聴きながら,一生付き合えるような友人が増えたような気がしました。

そのノクターンの中では,op.48-1のドラマティックな曲想に特に引かれました。ペレスさんは,op.48-2の後にop.48-1を演奏していましたが,迫力のある打鍵によって,曲のみならず,プログラム全体の頂点を築いていました。

公演の最後は,スケルツォ第3番でした。ペレスさんにとっても,東京,金沢と続いたラ・フォル・ジュルネ公演の最後の演奏ということになります。そのこともあるのか,大変思い切りの良い,渾身の演奏となっていました。聞いていて爽快さを感じました。

最後にアンコールが2曲も演奏されました。全公演を終えたペレスさんは,大変上機嫌で,リラックスしていたようでした。2曲ともお国もののスペインの作品ということで,大変生き生きとした演奏を聞かせてくれました。お得意の十八番の曲だったのだと思います。

今回のアートホール公演で,どうみても「いい人そう」な雰囲気もしっかりと会場に伝わりましたので,一気に人気者になったのではないかと思います。


2日目の最後は,チェロのタチアナ・ヴァシリエヴァさんのサイン会で締めました。

この日の公演では,3人のピアニストの演奏が特に印象的でしたが,改めてLFJKに登場するピアニストのレベルの高さと個性の多彩さを実感することができました。
(2010/05/13)




j地元新聞等の切り抜きコーナー


この日も青島広志さんは大活躍。


昼食はANAホテルのサンドウィッチとコーヒー


ヴァンドーム広場では,今日もヴァイオリンの講習会


音楽堂地下のプレスルーム


スナップ写真は日に日に増えています。


野外のお茶席もLFJKの定番になりました。


地下広場では井上道義指揮OEKの公演の生中継。メンデルスゾーンのフィンガルの洞窟かスコットランドのどちらかです。


昨年のLFJKがDVDになりました。北陸朝日放送が作ったものです。


JR金沢駅コンコースです。珍しく何も公演を行っていませんでした。


金沢エキコンでもおなじみのステージです。毎月行っているエキコンの積み重ねが,LFJKの盛り上がりに繋がっている気もします。


クロージングコンサートの内容が発表されていました。