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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2010:ショパン,ジェネラシオン1810
La Folle Journee de Kanazawa : CHOPIN et la generation 1810
本公演3日目
2010/05/05 石川県立音楽堂,JR金沢駅周辺

Review by 管理人hs  
ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)2010の本公演3日目・最終日です。この日もまた快晴で大盛況でした。LFJKの1年目から,音楽祭期間中”雨が全然降らない”ことがジンクスのように続いていますが,いつまで続くのでしょうか。LFJKは,いろいろな点で,運の良さに恵まれていますね。

さて,この日ですが,”出勤時間”がさらに早まり9:30のJR金沢駅コンコースでの徳永雄紀さんによる無料コンサートからスタートしました。

9:30〜JR金沢駅コンコース 徳永雄紀
徳永雄紀さんは,バッハの曲から弾き始めましたが,ショパンも「朝はバッハから」ということにちなんでいます。英雄ポロネーズが始まると急に立ち止まる人が増えたのが面白かったですね。
徳永雄紀さんが,バッハとショパンの名曲を演奏


最終日も名ピアニストや個性的なピアニストが続々と登場しました。最初は,ブリジット・エンゲラーさんです。

【321】10:00〜邦楽ホール
メンデルスゾーン/無言歌 ト短調op.19-6「ヴェネツィアの舟歌第1」
メンデルスゾーン/無言歌 嬰ヘ短調op.30-6「ヴェネツィアの舟歌第2」
リスト/コンソレーション第3番
リスト/愛の夢第3番
シューマン/ウィーンの謝肉祭の道化op.26〜間奏曲
ショパン/ノクターン第20番嬰ハ短調KKIVa-16
シューマン/「森の情景」op.82〜予言の鳥
クララ・シューマン(リスト編曲)/秘密のささやき
ショパン/ノクターン ハ短調op.48-1
(アンコール)リスト/ナイチンゲール
(アンコール)ラフマニノフ/ポルカ
●演奏
ブリジット・エンゲラー(ピアノ)


ブリジット・エンゲラーさんは,今回,LFJKに登場したピアニストの中では,最もキャリアの長い方の一人ではないかと思います。もう25年以上も前,私がFM放送からエアチェックをしていた頃から聞きなじみのあった方です。当初,午前中の予定は入れてなかったのですが,予定を追加して聴きに行くことにしました。

今回演奏された曲ですが,夢みるような穏やかな曲が続き,まるで1枚のCDのような選曲でした。エンゲラーさんの演奏は,気負いなく,音楽をたっぷりと聞かせるようなスタイルで,リストの愛の夢など,ベルカント唱法のアリアを聞くような気持ち良さがありました。

近年,ショパンの公演では,本当によく演奏される「遺作のノクターン」は,比較的速目のテンポ設定でしたが,個人的には,あまりにも思い入れの強い演奏よりも,音楽の流れが感じられる,今回の演奏のようなテンポの方が好みです。その他,演奏された曲の中では,シューマンの「予言の鳥」も好きな曲です。村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」の第2部のタイトルにもなっていますが,謎めいた雰囲気は,「ちょっと本でも読んでみるか」という気にさせてくれます。

最後のノクターンop.48-1は,前日ペレスさんの公演でも聞いたばかりですが,今回はトリで演奏されました。静かな曲が中心だったので,演奏会の構成としては物足りないかなという部分もあったのですが,この曲の中間部以降で,圧倒的な迫力を聞かせてくれました。非常によく考えられた,まとまりの良いプログラムでした。

演奏時間が短いかな,と思っていたら,アンコールも2曲ありました。しっかりと「アンコール込み」で構成を考えていたようです。アンコールの1曲目はリストのナイチンゲールということで,先ほどの「予言の鳥」と鳥つながりの連想が働きました。最後は,ラフマニノフのポルカ(だと思いますが)でした。往年のピアノのヴィルトーゾ,ホロヴィッツ辺りが演奏しそうな「大家の芸」を見せ付けるような演奏でした。

プログラム全体としては,「ノクターン=夜想曲」「夢」など,朝一の公演というよりは,夕方から夜に掛けての方がお似合い?という曲が多かったのですが,「さすがベテラン!」という感じの大変聞かせ上手の公演でした。気持ちよく楽しむことができました。


10:50〜 石川県立音楽堂玄関 早稲田大学グリークラブ
音楽堂の玄関に行ってみると,早稲田大学グリークラブがどこからともなく現れ,「ワセダ,ワセダ...」と力強く校歌を歌い始めました。その音に釣られて,どこからかともなくゾロゾロと人が集まってきました。これもLFJKです。間近で聞く男声合唱は,身が引き締まるような迫力がありました。その後,ワセグリの皆さんは,ANAホテルでミニコンサートを行ったようです。



11:00〜もてなしドーム地下 OEKエンジェルコーラス,OEK合唱団
次の公演までもう少し時間があったので,もてなしドーム地下ヴァンドーム広場に行ったところ,OEKエンジェルコーラスとOEK合唱団の演奏が始まりました。エンジェルコーラスは「おおひばり」「砂の精」「「流浪の民」など,おなじみの愛唱歌を4曲披露しました。特に「流浪の民」を聞くと,中学生の音楽の時間を思い出します。



OEK合唱団の方は,ショパンの生涯を描いたドラマ仕立てのような曲を歌っていました。最初の部分だけしか聞けなかったのですが,機会があれば,じっくり聞いてみたい曲でした。
 

11:00〜鼓門下 スキヤキ・スティール・オーケストラ
引き続き,すぐ上のもてなしドーム鼓門下に移動し,プログラムを見たときから「一体何だろう?」と気になっていたスキヤキ・スティール・オーケストラの演奏を聞きました。この団体は,富山県南砺市(LFJ発祥の地と同じナント市!)から来たスティールパン(ドラム缶?)とドラム,パーカッションからなる音楽グループです。音を聞いたとたん,鼓門下がラテン系の雰囲気に一転しました。

(参考ページ)http://www.sukiyaki.cc/sso/ http://ssoinfo.jugem.jp/?eid=133

ちなみに,2008年のナント(フランスの方です)のLFJで次のように,スティールドラムによる公演が行われています。
http://www.lfj.jp/lfj_report/2008/02/post-309.php
「ナントつながり」ということで,これからもLFJKの常連として演奏を聞かせてもらいたいですね。


そうこうしているうちに,次の公演が迫ってきたので,邦楽ホールへ。今回初めての,弦楽四重奏団の登場する公演です。

【322】12:00〜邦楽ホール
1)メンデルスゾーン/弦楽四重奏曲第4番ホ短調op.44-2
2)シューマン/ピアノ五重奏曲変ホ長調op.44
●演奏
ベルトラン・シャマユ(ピアノ*2)
ライプツィヒ弦楽四重奏団

昨年はメンデルスゾーンの生誕200年ということで,12月に音楽堂で行ってメンデルスゾーン・フェスティバルでライプツィヒ弦楽四重奏団が金沢での演奏会を行いましたが,その続編のような公演でした。

最初に演奏されたホ短調の弦楽四重奏曲は(リーフレットの曲目表記では「変ホ長調」となっていますが,どうみもて短調の曲でした),ほの暗い雰囲気が大変魅力的でした。アンサンブル全体としては,しっかり主張しているのにパート間では,しっかりと音のバランスが取れていました。室内楽のお手本のような演奏だったのではないかと思います。最終楽章の「シュトルム・ウント・ドランク」といったビシッとしまった雰囲気も大変魅力的でした。

後半は,ピアノのベルトラン・シャマユさんを加えてのシューマンのピアノ五重奏曲でした。個人的に,シューマンの全作品の中でもいちばん好きな作品の一つです。

今回の演奏ですが,ピアノの音をはじめとして,力んだところや慌てたところが全くありませんでした。互いの美しい音を聞きあってしっかりと響かせるような見事な演奏でした。チェロの演奏する第1楽章の第2主題など,とても甘いメロディなのですが,節度があり,おぼれたような感じになっていないのが素晴らしいと思いました。

第3楽章から第4楽章にかけては,快活で大変ダイナミックな演奏を聞かせてくれました。がっちりと5人が組み合った音の充実感が最高でした。ピアノのシャマユさんは,まだ若い方ですが,非常に室内楽に適性のある演奏家だと感じました。今後の活躍にも期待したいと思います。

ライプツィヒ弦楽四重奏団の4人は,お揃いのベストを着て,よく磨かれた靴を履いていらっしゃいました。なかなかお洒落な4人組でした。

13:10〜交流ホール 山田和樹指揮早稲田大学グリークラブ
次の公演まで1時間ほど時間があったので,チケットの半券を見せて,交流ホールの公演を聞いてきました。今回は有料公演ばかりを聞いていたので,このホールに入るのは2回目のことです。

早稲田大グリークラブが演奏しているかな...と思って行ってみると,指揮者の山田和樹さんが一人でトークをしていました。今回のLFJKでは,山田さんはオープニング・コンサートでの指揮,吹奏楽コンクールの課題曲の指導をされていましたが,それに加え,今回は合唱指揮です。しかも,この時は「時間調整」「場つなぎ」のためにトーク&ピアノも披露されていました。まさに八面六臂の活躍です。

この時は,何故か「「革命」のエチュードを,少々ごまかしながら,上手く弾く方法」という話になっており,実演を交えて,そのコツを披露されていました。本来左手だけで演奏するパッセージを右手も加えて演奏すると弾けてしまう,という内容でしたが,本当に遠くから見ている分には全然分からないですね。

山田さんは,「のだめ」の千秋と似た経歴ということで話題になっていますが,ピアノも上手いとなると,ますます千秋そっくりです。この素晴らしい才能を,LFJKだけでなく,定期公演等でも披露して欲しいと思います。「オーケストラの指揮も合唱の指揮もできると良い」と故岩城宏之さんから言われたことがあるようですが,そのうちにオペラの指揮などにも挑戦してもらいたい気もします。

さて,ワセグリの方です。山田さんのトークの後,「ワセダ,ワセダ」と校歌を歌いながら交流ホールに入ってきました。日本一有名な校歌ですね。その後,マーラーの「さすらう若人の歌」が全曲ドイツ語で歌われました。もともとはバリトン独唱の曲ですが,男声合唱で聞くと,古き良き旧制高等学校時代の香りが出てくる気がしました。失恋の歌なのですが...気のせいか,妙に実感(?)がこもっていた気がします。

失恋の歌で終わるのも...ということで,最後にワセグリの十八番の「斎太郎節」が歌われました。非常に景気の良い,力強い歌声で,失恋気分も一気に吹き飛びました。

エンディングは,早稲田大学の応援歌でした。「♪紺碧のソラ〜」と歌いながら,またまた行進して退場しました(本当に行進の好きな人たちです)。例の八角形ステージをぐるりと一周して退場したのですが,合唱団の最後尾に山田和樹さんとピアニストもくっついて,一緒に行進&退場されました。これは大受けでした。

13:30〜 もてなしドーム地下
その後,もてなしドーム地下で軽く昼食を食べました。モニターをよくよく見てみると,コンサートホールの様子をライブで放送しており,エンゲラーさんがショパンのピアノ協奏曲第2番を演奏中でした。エンゲラーさんのサイン会が14:00から行われるということで,その演奏が終わった後,音楽堂インフォメーション前に行ってサインの列に並んだのですが...なかなか出て来られませんでした。次の公演が迫ってきたので残念ながら,断念しました。

 

さて邦楽ホールの公演ですが,今回のLFJKでも特に注目度の高かったジャズ・ピアニストの小曽根真さんの登場です。会場は超満員でした。

【323】14:15〜邦楽ホール
1)ショパン/マズルカ第13番イ短調op.17-4
2)ショパン/マズルカ第24番ハ長調op.33-3による即興演奏
3)ショパン/ノクターンop.9-2
4)ショパン/ワルツ変ニ長調op.64-1「小犬」
5)ショパン(ヨペック編曲)/17のポーランドの歌〜第13曲「ドゥムカ(あるべきものなく)」
6)(アンコール)ショパン(ヨペック編曲)/マズルカ嬰ハ短調op.6-2によるポーランド風歌曲
*演奏曲については,CD等から推測して記入した部分もあります(1曲足りないかもしれません)。
●演奏
小曽根真(ピアノ),アナ・マリア・ヨペック(歌*5-6)


小曽根さんは,ポーランドの歌手アナ・マリア・ヨペックさんとショパンの作品を題材とした「Road to Chopin」というアルバムをつい最近発表しました。その中に収録されている曲を中心とした公演でした。

公演は小曽根さんのトークを交えて進行しました。小曽根さんはマズルカが特にお好みということで,マズルカを中心に,ショパンのピアノ小品を基にした即興演奏やジャズ風味を交えた演奏が数曲披露されました。どれも個性的な演奏だったのですが,”普通のショパン”しか聞いたことのない私にとっては,どうもジャズの即興演奏は少々苦手です。クラシック系のピアノ協奏曲の中のカデンツァ部分がアドリブでどんどん長くなる...というぐらいならば良いのですが(いつか,そのうちに曲の本体の方に戻るという安心感があるので),普通の即興演奏については,演奏者の気の向くまま,どこまで続くか分からない...という感覚があり,落ち着かないのです。

もう少し分析してみると,(ジャズ一般についてですが)「演奏者ばかりが楽しんでいる?」という感じることがあります。ジャズについては,「聞く」というよりは,「参加する」というスタンスでないと楽しめないのではないかと思ってしまいました。LFJKは基本的に通常のクラシックの演奏会を聞くスタイルですので,その点で純粋なジャズを聞くには,ちょっと頭の切り替えが必要なのかなと思ってしまいました。

一方,アナ・マリア・ヨペックさんとの共演による歌は,純粋な歌曲として楽しむことができました。ヨペックさんの声には,不思議な透明感と哀愁が漂い,ポーランドという国の根底に流れる哀しみのようなものが伝わってきました。アンコールに演奏された,マズルカによるポーランド風歌曲では子守唄風の安らぎを感じました。

その他,曲名は忘れましたが,最後の方で演奏された曲で,ヨペックさんと小曽根さんの足踏みの入りの曲がありました。前衛的な舞踏を思わせる雰囲気があり,非常に迫力がありました。

演奏前に「Road to Chopin」CDを購入してあったので,終演後,サインをもらうためにインフォメーション前の列に並んだのですが...今回もまた次の公演が迫ってきたので断念しました。公演時間が延びたので,仕方がありません。

ちなみにこのCDですが,本当に素晴らしいCDです。ヨペックさんの声には,癖になってしまうような味わいがあります。個人的には,小曽根さんの演奏についても,ライブよりCDの方が落ち着いてじっくりと楽しめるように感じまいた(即興演奏をCDで聞くのは邪道なのかもしれませんが...。)。

続いては,この日初めてとなるコンサートホールでの公演でした。

【313】15:30〜コンサートホール
1)ショパン/演奏会用ロンドヘ長調op.14「クラコヴィアク」
2)メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調op.64
3)(アンコール)曲名不明(シュテファン・グラッペリの作品)
●演奏
アブデル・ラーマン・エル=バシャ(ピアノ*1),レジス・パスキエ(ヴァイオリン*2-3)
井上道義指揮オーケストラアンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)*1-2


まず,2年ぶりの金沢のステージとなるエル=バシャさんとOEKの共演です。恐らく,OEKとの共演は,今回が初めてだと思います。エル=バシャさんのピアノには,聞いているうちにこちらまで賢くなった気になるような知的な雰囲気がありました。何事もなかったかのように,透き通るように美しい音色で鮮やかな演奏を聞かせてくれました。恐らく,すべての人が「尊敬すべきピアニスト」と感じたのではないかと思います。

後半のレジス・パスキエさんとの共演によるメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の方は,音程の甘い部分があったり,必ずしもパーフェクトな演奏ではなかったと思いますが,「若いものには負けられん」といった気概が伝わってきて,妙に心に迫るものがありました。哀感のこもった第1楽章の第2主題であるとか,「どうだ!」という気迫に満ちたカデンツァであるとか,超満員のお客さんに全力でアピールするようなパスキエさんの姿に感動しました。井上さん及びOEKのメンバーも,パスキエさんに対して尊敬の念を感じていたのではなないかと思います。

しっかり熱く歌う第2楽章,少々スリリングだけれども熱さを感じさせてくれる第3楽章と,曲を聞き進むうちに,パスキエさんを応援してくなるような演奏でした。他のお客さんも同様に感じたのか,演奏後の拍手は大変盛大でした。今回,パスキエさんは,LFJKでは3回の演奏があり,さらにその間,一度,東京に行っているという超ハードスケジュールでした。そういったことも含め,個人的には,今回のLFJKのMVPはパスキエさんかな,と思いました。

満員のお客さんからの拍手に応えて,さらりと無伴奏でジャズ風の曲が演奏されました。ジャズ・ヴァイオリンのシュテファン・グラッペリの曲だと思います。個人的には,ジャズならば,これぐらいの昔風の粋なジャズの方が好みです。

さて,ここからは,かなりのハード・スケジュールとなってしまいました。まず,先ほど聞いたばかりのエル=バシャさんの独奏です。

【324】16:45〜邦楽ホール
シューマン/クライスレリアーナop.16
ショパン/24の前奏曲op.28
●演奏
アブデル・ラーマン・エル=バシャ(ピアノ)


ここでエル=バシャさんが演奏したのは,シューマンのクライスレリアーナとショパンの24の前奏曲という大曲2曲でした。このうちのクライスレリアーナについては,謝肉祭から変更になったのですが,いずれにしても,この2曲で一晩の演奏会にできるぐらいの聞き応えのある内容でした。超名演と言っても良い内容だった思います。

クライスレリアーナは,シューマンの傑作と言われている作品ですが,私自身,実演で聞くのは今回が初めてのことです。文学的な情念が巻き上がる...という感じではなく,もう少し世界の上の方から俯瞰して,全てを見通した上で曲が再現されているような印象を持ちました。その平然とした落ち着きのある弾きぶりは,ある意味シューマンらしくないのかもしれませんが,抑制の効いた乱れのない透明で明晰なタッチによって,曲の姿を完全に表現しているように思えました。

24の前奏曲の方も同様でしたが,曲ごとに調性が移り変わるのを聞きながら,和音のうつろいが大変美しいと感じました。速い部分でも乱暴に演奏するところがなく,端正なタッチでショパンの曲の美しさをしっかりと伝えてくれました。反対にテンポの遅い曲でも,もったいぶったような感じにはならず,ただただ曲の美しさや深さをストレートに伝えてくれました。

両曲とも冷たい機械のような演奏というわけではないのですが,あらゆる点で乱れがないことに感嘆しました。これまでは一般的な知名度がそれほど高くなかったこともあり,金沢では,それほど注目されてこなかった感がありますが,今回の演奏で一気に尊敬されるピアニストになったのではないかと思います。

ただし...この公演の予定時間には無理がありました。スケジュール表では,2曲で65分という見積もりになっていましたが,曲間のインターバル,出入りの時間なども考えると少々非現実的でした。24の前奏曲が終わりに近づくにつれ,次の公演の開演時間が気になるお客さんが少しずつ退出しはじめました。

結局,この公演は予定時間内に終わらなかったのですが,この凄い24の前奏曲を最後まで聞かないわけにはいかないと思い,私自身,次の公演に間に合わなくなってしまったのですが,最後まで聞きました。大半の人も同様だったと思います。段々と,「皆で遅れれば怖くない?」という感じになってきた気がします。この公演については,2曲を2公演に分けるぐらいでも良かった気がします。というわけで,エル=バシャさんには,申し訳なかったのですが,拍手もそこそこに次の公演に向かいました。

この公演の終了後,LFJKの1年目を思い出させるような,”民族大移動”が起こりました。これだけ大勢の人が今からコンサートホールに向かうのだから,まだ開演していないだろう,と読んでいたのですが...すでに次の公演は始まっていました。この公演後,クロージング・コンサートが用意されていましたので,あまり遅れるわけにもいかなかったのかもしれません。

今回324と314の公演の連携がうまくいきませんでしたが,来年以降には改善して欲しいと感じました。

【314】18:00〜コンサートホール
1)メンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調op.90「イタリア」
2)シューマン/ピアノ協奏曲イ短調op.54
※アンコールもあったようです
●演奏
ジャン=フレデリック・ヌーブルジェ(ピアノ*2)
ジョセフ・スウェンセン指揮パリ室内管弦楽団


というわけで,1楽章の演奏中にソロソロ,ゾロゾロとホールに入れてもらい,1楽章後に自分の座席に座りました。その人数のあまりの多さに指揮のスウェンセンさんも「まいった!」という感じで苦笑されていたようです。

そういう中で聞いた「イタリア」ですが,本当に素晴らしい演奏でした。パリ室内管弦楽団は,管楽器をはじめとして,非常に音色の明るいオーケストラでした。「イタリア」交響曲は,2楽章以下は意外に短調の部分の多い曲ですが,どの楽章も音が大変晴れやかで,いつまでも浸っていたくなるような気持ちの良い音色を楽しませてくれました。テンポ自体は,どちらかというとゆっくり目でしたが,スウェンセンさんの作る音楽は大変滑らか,かつ率直だったので,大変開放感がありました。最終楽章は流石に速目のテンポで颯爽としていました。そのパッションの爆発も聞きものでした。

パリ室内管弦楽団(Orchestre Ensenble de Paris)は,OEKファンには,OEKが設立に際してモデルにしたオーケストラとして知られていますが,今回の演奏を聞いて,今でも目標にすべきオーケストラだと実感しました。

後半に演奏されたシューマンのピアノ協奏曲も期待どおりの演奏でした。ここでは,何と言っても期待の若手奏者,ジャン=フレデリック・ヌーブルジェさんの演奏が聴きものでした。衣装からして,通常の燕尾服とは違い,普段着っぽい服装でしたが,出てくる音は,輝きに満ちており,若々しい力感に溢れていました。怖いもの知らずの若者にぴったりの胸を空く演奏でした。

オーケストラの方も「イタリア」同様,管楽器の音がオーケストラの中から突き抜けて聞こえてきました。ヌーブルジェさんのピアノを華やかに盛り上げるようなサウンドを随所で聞かせてくれました。第2楽章の途中で出てくる,チェロの音の透明感など,絶品でした。

第3楽章では,多彩に色合いが変化し,軽快に上下するアルペジオが印象的でした。シューマンの曲でも特に好きな部分なのですが,ピアノとオーケストラが一体となって,色彩感と熱気に満ちた素晴らしい盛り上がりを作っていました。ガツンと来るような重厚さを持ったドイツ的なシューマンとは一味違っていたと思いますが,どこを取っても魅力的な,お客さんに対するアピール度の非常に高いシューマンになっていたと思います。

というようなわけで,LFJK2010の実質上の最終公演も大満足の内容でした。ただし,ここでも「先ほどの二の舞は嫌」ということで,拍手もソコソコに次の公演(これは聞き逃せないクロージング・コンサート)に向かいました。先のエル=バシャさんのリサイタル公演辺りから非常に慌しくなってしまい,ちょっとせわしなくなってしまいましたが,このバタバタした感じもまた,LFJKの特色とも言えます。

このクロージング・コンサートですが,流石に「本当に最後」ということもあり,開演時間が10分ほど遅らされることになりました。「そんなに慌てることはなかったなぁ」「ヌーブルジェさんに悪いことをしたなぁ」と思いながら,心の中で拍手をしました。

さて,交流ホールですが,既に人がいっぱい入っていました。オーケストラの正面の側は既にほとんど座る場所がなく,サイド〜真うしろ辺りしか空席がありませんでした。この公演では,交流ホールの壁面が取り払われ,非常に広くなっていましたが,それでも入りきらないぐらい大勢のお客さんが詰め掛けていました。OEKが赤い八角形ステージに乗るクロージングコンサートは,昨年はなかったのですが,やはり,このコンサートを望んでいるお客さんが多かったんだなぁと実感しました(右の写真は開演前です。暗くなっていました.。)。

【クロージングコンサート】19:25〜交流ホール
1)ショパンの主題による即興
2)ショパン/「ドン・ジョヴァンニ」の「お手をどうぞ」による変奏曲変ロ長調
3)ショパン/アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ変ホ長調
●演奏
小曽根真*1,ブリジット・エンゲラー*2,アブデル・ラーマン・エル=バシャ*3(ピアノ)
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)


このステージには,最終日に登場した,3人のピアニスト(小曽根さん,エンゲラーさん,エル=バシャさん)と井上道義さんとOEKが登場しました。音響は悪いのですが,これだけ演奏者とオーケストラ近いと異様に盛り上がります。交流ホールでは,大阪桐蔭高校吹奏楽部ももの凄い人数で演奏を行いましたが,LFJKにはなくてはならない,場所と言えます。

ステージマネージャさんが譜面を置くために登場するだけで,うっかり拍手が起こるほど,ハイな雰囲気でした。やはり,この赤いカーペットには,人を興奮させる力があるのかもしれません。何よりも「私たちのオーケストラ」OEKを皆で取り囲むという光景は,年に一度のお祭りLFJKのトリにぴったりだと思います。

この日は,本公演の方からテレビの収録も入っていたようで,OEKメンバーも,そのことを意識してか,ちょっとカラフルな衣装を着ていました。満員のお客さんが八角ステージを取り囲み,その上にOEKがいるという光景は,LFJKを象徴するシーンと言えそうです。

公演の方は,小曽根さん,エンゲラーさん,エル=バシャさんの順に登場しました。小曽根さんがノリの良い音楽を即興で演奏した後(ここでは,会場から手拍子を入れたかったですね),本公演では演奏できなかった,ショパン作曲のオーケストラとピアノのための作品が落穂拾い的に演奏されました。3日目には,演奏会用ロンド「クラコヴィアク」というピアノとオーケストラのための作品が演奏されましたが,その代わりに,ここで演奏されたどちらが演奏されてもおかしくなかったと思います。恐らく,「いちばん知名度の低い曲」が本公演では選ばれたのだと思います。

どちらも静かな前半と華麗な後半というような構成の曲でした。両曲とも華麗過ぎて少々長いかなと思える部分もあったのですが,聞いているうちに「ラ・フォル・ジュルネも終わりなんだな」と名残惜しい気分になってきました。エル=バシャさんの方は,妙に普通っぽい服装で登場しました。それがまたクロージング・コンサートの気分とマッチしていました。LFJKは,基本的には,リラックスして参加する音楽のお祭りなんですね。

演奏の方は,先ほど同様のエル=バシャさんらしい演奏で,「華麗なポロネーズ」というよりは,「アンダンテ・スピアナートと華麗だけれども結構端正なポロネーズ」という感じでした。私自身,先ほどは,拍手もそこそこに退席してきたので,その分の拍手も加えてエル=バシャさんに送りました。

演奏後,演奏者全員で,四方のお客さんに挨拶をしていました。八角ステージならではの光景です。間近でみる奏者の皆さんはどなたもとても嬉しそうでした。

最後にルネ・マルタンさんが登場しました。大勢の熱いお客さんに取り囲まれてのエンディングという光景に感動されているようでした。そして,スピーチの中で,早くも来年のテーマが発表されました。来年は「ウィーンのシューベルト」とのことです。数年前に東京で行われたテーマと同じだと思いますが,OEKと金沢には相応しいテーマだと思います。OEKの得意とするレパートリーが多く,市民ピアニストなどの参加も期待できそうなので,来年のLFJKも盤石なのではないかと思います(あとは,やはり資金問題ですね)。

公演が終了し,OEKメンバーが退場し(この大型モニターに入退場の様子が映るというのは,サッカー選手がピッチに登場するようなワクワク感があります。),一旦お開きとなりましたが,名残惜しさでいっぱいのお客さんの拍手は,さらに続き,井上さんとマルタンさんが再度呼び戻されました。LFJKの1年目同様,井上さんがクルリとピルエットをし,「これでおしまい!」と叫んで,本当のお開きとなりました。井上音楽監督,お疲れ様でした。

クロージング・コンサートの後は,ちょっと空気が緩み,祭りの後といった空気が音楽堂一体に流れていました。名残の赤じゅうたんの上で,スタッフの方々に,「ありがとうございました」と頭を下げられると,妙にジーンときました。金沢に暮らしていて良かったな,と実感できた瞬間でした。
(2010/05/15)


交流ホールでリハーサル中のOEKエンジェル・コーラスの皆さん


音楽堂内は朝から行列


スナップ写真コーナーの写真はどんどん増殖中


もてなしドーム地下では吹奏楽公演を中継中


地下広場に和倉温泉のキャラクター,「わくたま」登場。


その他にも県内のゆるキャラが大勢集まっていました(左はNHKのキャラクター?)


LFJK全公演終了後の音楽堂玄関付近。記念撮影をする人が目立ちました。


売り切れ続出も毎年恒例となりました。


音楽堂玄関でも記念撮影。名残惜しさを大勢の人に残せれば,そのイベントは大成功と言えるでしょう。


結果的に20以上の有料公演に行きました。今回は,珍しく時計を持って行動しました。


こちらはリーフレットの束


子供向けの「ショパンからのおねがい」カード。1枚記念に頂いてきました。


今回購入したCD。左が公式CD(1000円),中央が小曽根さんのショパン,右がエンゲラーさんによるピアノ小品集。


家族向けにかったお土産(マグネットとイヤフォン用飾り)のつもりだったのですが...


マグネットの方は切り離しているうちに自分で使いたくなってしまいました(鍵盤はマグネットではありません)。


期間中,チラシなどをちょっと入れるために買った不織布製のトートバッグ(300円ほど)。これからも演奏会用に使っても良さそうです。