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オーケストラ・アンサンブル金沢第294回定期公演M
2011年2月2日(水)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
第1部 イタリアオペラアリアより
1)ヴェルディ/歌劇「ルイザ・ミラー」序曲
2)ヴェルディ/歌劇「オテロ」〜「柳の歌〜アヴェ・マリア」
3)ヴェルディ/歌劇「リゴレット」〜女心の歌
4)ボイト/歌劇「メフィストーフェレ」〜「はるかに,はるかに」
5)ポンキエルリ/歌劇「ジョコンダ」〜時の踊り
6)プッチーニ/歌劇「トゥーランドット」〜「誰も寝てはならぬ」
7)ジョルダーノ/歌劇「フェドーラ」〜「真実に光り輝く瞳」
8)マルトゥッチ/夜想曲
9)ヴェルディ/歌劇「アイーダ」〜勝ちて帰れ
10)ヴェルディ/歌劇「ドン・カルロス」〜「天国で会える日を」
第2部 カンツォーネより
11)ベックッチ/私の愛する人よ
12)ティリンデッリ/春よ
13)カプア/マリア,マリ
14)トスティ/最後の歌
15)カルディッロ/カタリ・カタリ
16)キアラ/スペイン女性
17)ベックッチ/フィレンツェからフィエーソレまで
18)ピクシオ/愛の歌
19)クルティス/忘れな草
20)ナポリ民謡(コットラウ編曲)/サンタ・ルチア
21)(アンコール)デンツァ/フニクラ・フニクラ
22)(アンコール)ビクシオ/マンマ
23)(アンコール)ディ・カプア/オー・ソレ・ミオ
●演奏
ジョルジオ・メザノッティ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
濱真奈美(ソプラノ*2,3,7,9,10,12,14,16,19,20-23),ルカ・ボディーニ(テノール*3,6,10,13,15,18,20-23)
プレトーク:池辺晋一郎

Review by 管理人hs  

2月のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演マイスター・シリーズは,金沢出身のソプラノ歌手,濱真奈美さんとイタリアのテノール歌手,ルカ・ボディーニさんによる,イタリア・オペラのアリアとカンツォーネを中心としたプログラムでした。オーケストラの定期公演で,こういうプログラムが組まれるのも,「何でもあり」のOEKならではです。変則的な定期公演ではありましたが,このところの大雪で積もった50cmほどの雪が一気に溶けてしまうのでは?と思わせるほど,”熱い演奏会”になりました。

前半は,濱さんとボディーニさんが交互にイタリア・オペラのアリアを歌いました。

歌劇「ルイザ・ミラー」序曲に続いて,まず,紫のドレスを着た,濱さんが登場しました。濱さんの声からは,1月の金沢歌劇座での「椿姫」公演で聞いた森麻季さんのような透明感はあまり感じなかったのですが,脂が乗り切ったような充実した声で,「アリアを聞いたなぁ」という満足感を感じさせてくれました。密度の高い声は,熱いドラマを表現するのにもぴったりだと思いました。

これまで,濱さんとOEKは「トスカ」「蝶々夫人」全曲,「椿姫」ハイライトで共演してきましたが(いずれもタイトル・ロールです。こうやって並べると,マリア・カラスのレパートリーと重なっていますね),今回は,こういった有名曲以外の比較的馴染みの薄い曲も含め,充実した歌を聞かせてくれました。

「オテロ」の「柳の歌〜アヴェ・マリア」,「アイーダ」の「勝ちて帰れ」は,どちらも有名なアリアです。どちらもドラマを内に含んだような声で,オペラの舞台を彷彿とさせるような所作を加えながらの歌唱を聞かせてくれました(体が自然に動くのかもしれないですね。)。

「勝ちて帰れ」では,ドラマティックで堂々とした風格としっとりした雰囲気の両面を感じさせてくれ,濱さんの歌のスケールを実感できました。金沢歌劇座も改修され,規模の大きなオペラ公演にも対応できるようになりましたので,濱さん&OEKによる「オテロ」「アイーダ」の全曲にも期待したいと思います。

それ以外では,ジョルダーノの歌劇「フェドーラ」の中の「真実に光り輝く瞳」という曲が歌われました(濱さんは,前半途中でもドレスを着替え,この曲では美しい青緑の衣装で登場しました)。この曲は,オペラのタイトル自体聞いたことはなかったのですが,しっとりとした良い曲でした。ただし,今回は,この曲を含め,馴染みの薄い曲がかなり含まれていたので,もう少し詳細な曲目解説が欲しいなと思いました。

テノールのボディーニさんは,とても立派な体格で,オペラの主役にぴったりという雰囲気を持った方でした。まず,「リゴレット」の「女心の歌」,「トゥーランドット」の「誰も寝てはならぬ」など超の付く名曲が歌われました。体格の割には,それほど声の威力は感じなかったのですが,物足りない感じはなく,「いかにも」という感じのカラっとした声は,イタリア・オペラにぴったりでした。

ただ,両曲とも全体的にやや締まりがなく,メリハリが弱い気がしました。オーケストラとも音が微妙にずれたり,濱さんの歌唱に比べると,やや雑な印象を受けました。「誰も寝てはならぬ」は,非常にテンポが遅く(遅いというよりは,もたれるという感じ),そのまま眠ってしまいそうな感じが無きしもあらずでした。

途中,「メフィストーフェレ」の中の二重唱が,お二人によって歌われました。全体的に穏やかな歌でしたが,ちょっとミステリアスなムードもあり,魅力的な曲だと思いました。最後は,「ドン・カルロス」の中の二重唱が歌われ,前半は締められました。

指揮の,ジョルジオ・メザノッティさんは,OEKの指揮をするのは今回が初めてでした。見るからにベテラン指揮者という風貌の方で,無難にまとめているという印象でした。オーケストラ単独で演奏された,「ルイザミラー」序曲(遠藤さんのクラリネットが,ソリストのように大活躍),「時の踊り」などは,もう少しテンションの高さが欲しいと思いました。

「時の踊り」は,OEKが定期公演で演奏するのは,初めてだと思います。大好きな曲なので,生で聞けてとても嬉しかったのですが...やはりこの曲は,我らが井上道義音楽監督のように流麗に振って欲しいですね。今回の演奏は,特に前半部分で音楽の流れが悪い感じでした。

ただし,前半の途中,間奏曲的に演奏されたマルトゥッチという作曲家による「夜想曲」は,曲全体に漂う,”ゆるさ”と夢見るようなロマンの香りが心地良く,メザノッティさんのキャラクターに合っていました。ホルンやチェロなどのソロもしっかり聞かせてくれました。

後半は,カンツォーネ集でした。オーケストラの定期公演の後半がカンツォーネというのは,「ちょっと物足りないかな?」と予想していたのですが,前半以上に楽しめるステージになりました。

短い曲が次々歌われ。「歌っては引っ込み,引っ込んでは歌い」というテンポ感が心地良く,2人でカンツォーネ版紅白歌合戦をしているようでした(その通り,ここでは,濱さんは赤系統のドレスに着替えていました)。前半よりも伸び伸びとした自然な歌が続き,ステージが進むにつれて熱気が増して行きました。

前半のオペラが高級レストランの料理とすれば,後半は庶民的な食堂または家庭料理ということになると思います。レストランで食べる高級料理よりは,家庭料理の方が地域性を強く感じさせることが多いように,さらにディープな本場イタリアの音楽を楽しむことができた気がしました。

濱さんの歌った曲の中では,「スペイン女性(考えてみるとあまり詩的でないタイトル)」が印象的でした。カスタネットの音が心地良く,ラテンのムードたっぷりでした。ボディーニさんの歌は,ここでもちょっとテンポが遅めでしたが,これは指揮者のテンポ設定だったのもしれません。演奏会の最後は2人でお馴染みの「サンタ・ルチア」が歌われました。ここでは,こののんびりしたテンポ感がぴったりで,”音によるイタリア旅行”の終わりの情緒を感じさせてくれました。

後半の最初と途中では,オーケストラのみで,ベクッチという作曲家の曲が2曲演奏されました。ベクッチは,日本ではほとんど知られていませんが,「イタリアのヨハン・シュトラウス」と呼ばれる作曲家とのことです。ワルツと速いポルカ風の曲が演奏されましたが,そのキャッチフレーズどおり!という楽しめる演奏でした(きっと,シュトラウス・ファミリーの音楽と言われれば,そのまま信じてしまうと思います。)。

今回は,当然,アンコール曲も歌われました。後半のカンツォーネ集の熱気をそのまま受け,フニクラ・フニクラ,マンマ,オー・ソレ・ミオといった定番曲3曲がお2人によって歌われました。「オー・ソレ・ミオ」では,お二人による「コブシ回し合戦(?)」もあり,楽しい余興ムード満点でした。

実は,このアンコール曲に入る前に,ボディーニさんが上手奥に向かい,ハープ伴奏で朗々と「ハッピー・バースデイ・トゥ・ユー」を歌うという,サプライズがありました。もちろん,”Dear Manami!"。この日は濱さんの誕生日だったようです。意図的にこの日を選んだのかどうかは不明ですが,この声のプレゼントには,濱さんも感激していたようで,アンコール曲の途中から,濱さんは感極まっているようでした。

その感動のこもった歌を聞きながら,「故郷に錦を飾る」というのは,こういう感じなのかな,と実感しました。こういう晴れの舞台が故郷にあるのも,OEKのお陰です。今回は演奏会の終盤に向かうにつれて,お客さんとお二人の歌手の間の一体感がどんどん増して行きました。アンコールの「フニクリ,フニクラ」では手拍子も入っていました。お客さんにとっても,濱さんにとっても,忘れられない,「金沢ならでは」の感動的な演奏会になりました。

PS.「23曲+ハッピー・バースディ」ということで,終演時間は,9時30分を過ぎていたと思います。全般に各曲のテンポがゆったりしたこともあると思いますが,この辺の時間に頓着しない感じもイタリアらしいな,と思ったりしました。

PS.プログラムには,「編曲:ジャンフランコ・イウッツォリーノ」と書かれていましたが,どの曲を編曲したかは不明でした。恐らく,後半のカンツォーネの編曲をされたのだと思います。
(2011/02/05

関連写真集


公演の立看板


プレ・コンサートの様子が外から見えました。イタリア・プログラムに合わせ,ロッシーニの曲を演奏していました。