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オーケストラ・アンサンブル金沢第295回定期公演PH
2011年2月20日(日)15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
2)ラモー/歌劇「プラテ」組曲
3)フォーレ/パヴァーヌop.50
4)フォーレ/レクイエムop.48
●演奏
ニコラス・クレーマー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング),小林沙羅(ソプラノ*2,4),与那城敬(バリトン*4)
Review by 管理人hs  

金沢の2月にしては珍しく快晴だった日曜の午後,ニコラス・クレーマー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演を聞いてきました。このところOEKの公演は,(オペラも含め)声楽の入る公演が続いているのですが,今回もメインがフォーレのレクイエムということで,通常の定期公演とはかなり違ったプログラミングとなっていました(ただし,OEKの場合,このところ,どれが「通常」とも言えなくなっているのですが...)。

前半はラヴェルとフォーレのパヴァーヌの間にラモーの歌劇「プラテー」組曲が入るという構成でした。両パヴァーヌは,どちらも大変すっきりとした自然な音の流れが美しい演奏で,重苦しくなる部分の全くない,水彩画風の上品な演奏でした。

ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」は,冒頭のホルンのソロがやや不安定でしたが,とても高音が美しく,曲想に相応しい高貴な雰囲気を出していました。その後に続く部分でも,特に管楽器の音が大変鮮やかでした。弦楽器の音は,非常に軽やかで,薄いヴェールを思わせる浮遊感を漂わせていました。

フォーレのパヴァーヌの方には,合唱も加わりました。こちらの方は冒頭に出てくる上石さんのフルートの低音が大変魅力的でした。ちょっとミステリアスな音が真っ直ぐ耳に飛び込んできました。その他の管楽器の音もとてもクリアで,地中海的なカラリとした明るさを感じました。この曲には,フランス語の歌詞が付いていましたが,激しく叫ぶようなところは全くなく,柔らかい声がスーッと耳に入ってきました(意味は分からなかったのですが...)。後半のレクイエムへの期待をしっかり盛り上げてくれるような演奏でした。

クレーマーさんの作る音楽は,テンポが大変自然で,停滞することがありません。濃い表現や奇を衒った部分もなく,音楽が非常に奇麗に流れていきました。両曲の雰囲気にとてもよく合った演奏だと思いました。

この両曲の間に演奏されたラモーの曲は,CDでも聴いたことはなかったのですが,大変楽しめる作品でした。ヴィヴァルディの曲を思わせるような明快さがあったり,何かを音で描写しているようなユーモアがあったり,クレーマーさんのにこやかな顔が浮かんでくるような生き生きとした上機嫌な演奏でした。

もともとは喜劇のための音楽ということで,時々,意表を付くような,大胆な音の動きが出てくるのも特徴的でした。ピッコロが2本出てきたかと思うと,今度は低弦が強烈な音を出したり,ただ優雅なだけではなく,油断も隙もならないようなところがありました。

そして,最後の曲で「サプライズ」がありました。今回のプログラムの曲目解説はかなり不親切で,組曲中の演奏順や何という曲が演奏されたのかがはっきり書かれていませんでしたがが(直前まで決まっていなかったのかもしれません),この最後の曲で,後半だけに出てくると思っていたソプラノの小林沙羅さんがいきなり登場しました(ちなみに,この最後の曲は,小林さんのブログによると「フォリーのアリア」という曲とのことです。組曲以外の曲が特別に加えられたようです。)。

最後の曲が生き生きとした感じで始まるとステージ下手側の入口の扉が開き,薄いピンクのドレスを着た小林さんが小躍りするような感じで入ってきました。小林さんの声は,その雰囲気そのままに大変軽やかで,凛とした張りがありました。フォリーというのがどういうキャラクターの人物かは知りませんが,水を得た魚という感じの見事な歌でした。最後は超高音で締められ,会場は拍手大喝采に包まれました。

フォーレのレクイエムでソプラノが出てくるのは,第4曲だけなので,「ちょっともったいないかな」と思っていたのですが,それを逆手に取ってのサプライズ選曲だったのかもしれません。

さて,後半のフォーレのレクイエムです。この曲は,OEK合唱団が設立された頃に一度聞いた記憶があります(1993年2月,ジャン=ピエール・ヴァレーズ指揮OEKによる演奏です。会場は石川厚生年金会館でした。)。石川県立音楽堂で聴くのは,今回が初めてのような気がします(どこか別の合唱団が取り上げてい可能性はありますが)。ここ数年,OEK合唱団は,バッハを中心としたドイツの宗教曲を集中的に取り上げていましたので,”新生OEK合唱団”のスタートを象徴するような選曲だったのかもしれません。

私にとっては,めったに聞くことのできない「名曲中の名曲」という位置づけの曲です。そのとおり,最初から魅惑的な響きの連続でした。ヴァイオリンが出てくる機会が非常に少ない稀有な曲ということもあり,ヴィオラがステージの前列。その後ろにヴァイオリンという変則的な配置になっていましたが,まず,このオーケストラの響きが非常に洗練されており,明るさと同時にスケール感をしっかり伝えてくれました。ちなみに,オーケストラは,右のような配置でした。

OEK合唱団の声も大変晴れやかで,フランスの曲らしい軽やかさと繊細さをしっかり伝えてくれました。第1曲,オーケストラのユニゾンで,どっしりと,しかしくっきりと締まった音で始まった後,本当に気持ちよく音が流れていきました。クレーマーさんの音楽作りは,前半同様,大変自然で,伸びやかなものでした。

第2曲もまた,ヴィオラとチェロを中心とした何とも艶やかな音で始まりました。その後,合唱が,ア・カペラで儚げに続きました。今回,パイプオルガンは,バルコニー席で演奏していましたが(お馴染みの黒瀬恵さんが担当していました),そのこともあり,オーケストラと溶け合うというよりは,独自の音の動きが目立っていました。この辺は,昨年までのドイツ系の宗教曲の演奏とは,かなり違った印象でした。

第2曲の中間部で,バリトン独唱が加わるのですが,与那城敬さんは,自分のパートが近づくと立ち上がって,ステージ中央まで歩いて移動しました。ミサ曲というよりは,演奏会形式のオペラといった趣きもありました。この与那城さんですが,本当に美しく,滑らかな声でした。レクイエムで陶酔させる,というのは,考えようによっては,ちょっと変なのかもしれませんが,その瑞々しい声には,有無を言わせぬような魅力がありました。

3曲目で初めてヴァイオリンが加わります(ちなみに,ヴィオラが2つのパートに分かれている代わりに,ヴァイオリンの方は,1パートだけです)。この曲の中でも特に奇麗な部分で,陳腐な表現ではありますが,「心が洗われる」というのは,こういう演奏のためにある,と思いながら聴いていました。中間部では雄々しく盛り上がります。この部分でのホルンの強奏も印象的でした。非常に清々しい音で,曲のクライマックスをしっかりと感じさせてくれました。

第4曲は,感動的でした。何といっても小林さんの歌が見事でした。飾り気を廃した素朴さと芯の強さとを感じさせてくれるような歌でした。小林さんの声は,ボーイソプラノのように軽やかなのですが,根源的な輝きのようなものを持っており,ホール中に声が染み渡っていました。人間の声の素晴らしさを伝えてくれるような素晴らしい歌でした。小林さんは,2008年の「トゥーランドット」,先月の「椿姫」に続いての登場でしたが,今回の名唱で金沢の音楽ファンには,すっかりお馴染みになったのではないかと思います。

第5曲は,前曲からの流れを受け,しっとりとした雰囲気で始まりました。ここでも第3曲同様のホルンを中心とした音のクライマックスが印象的でした。そして,最後の方で,第1曲の冒頭の主題がずしりと再現されます。今回の演奏は,基本的に,メロディが自然にすっと流れていくような滑らかさが特徴でしたが,所々でこのようにメリハリが効かせており,曲の構造をしっかりと感じさせてくれました。ステージ上の楽器の配置もシンメトリカルでしたが,曲全体の流れもシンメトリーを意識していたように思いました。

第6曲には,再度,与那城さんによる朗々としたバリトン独唱が加わります。この曲でも与那城さんは,歌う位置を移動しており,最後は,合唱団の傍で歌っていました。音の遠近感を出すためのシアター・ピース的な演出と言えます。ミサ曲としてはかなり珍しいと思いますので,賛否両論あったかもしれません。

ちなみにこの第6曲の中間部で初めて,トロンボーンが登場し,「怒りの日」的になります。オーケストラの中のトロンボーンは,もともと出番があまり多くない楽器ですが,満を持しての登場という感じで,思わず注目してしまいました。やはりレクイエムには欠かせない楽器ですね。

終曲の「天国にて」では,オルガンの単純な伴奏音型の繰り返しの上に,女声合唱を中心とした,とてもデリケートな歌が続きます。この部分を聞きながら,「この時間がずっと続いて欲しい」と思いました。最後は,パタっと止まって,儚く終わるのですが,拍手が起きるまでかなり時間がありました。他のお客さんも,この時間がずっと続いていて欲しいと思ったのだろうな,と思いながら,余韻に浸っていました。

今回の演奏では,2人の独唱者の声とオーケストラと合唱の響きとが相乗効果を産み,心が揺さぶられるような瞬間が何回もありました。やっぱり,フォーレのレクイエムは,名曲中の名曲だ,と再認識した演奏会でした。

PS.終演後,恒例のサイン会がありました。なぜか(?),コンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさんがいらっしゃったので, 「You played behind the viola?(この英語で合っていた?)」と言ってみたところ,「I'm happy.ただし,今回だけね(英文は忘れました)」と嬉しそうに 答えてくれました。きっといつもより暇で楽だったんだろうな,と思って尋ねてみたのですが,やっぱりそうだったようです。そうなると,サイン会には,ヴィオラの方に登場してもらった方が良かったのかもしれませんが...皆さんお疲れだったので,ヤングさんが登場したとも言えそうです(こういうのをヴィオラ・ジョークと言う?失礼しました)。(2011/02/23)














関連写真集

公演の立看板


ラ・フォル・ジュルネ金沢のマークと井上道義音楽監督。この「ほぼ等身大ミッキー」さんもすっかり音楽堂の名物になりましたね。


ラ・フォル・ジュルネ金沢のPRも少しずつ増えてきているようです。


2月27日にOEKと合同公演を行う石川県学生オーケストラが交流ホールで練習をしていました。


上と同じように見えますが,こちらは約3時間後です。OEKの定期公演の間中,ずっと練習をされていたようです。お疲れ様です。

この時は,サン=サーンスの交響曲第3番の最終楽章の練習中。さすがに音が廊下までもれていましたが,良いPRにもなりますね。大勢の人が立ち止まって眺めていました。


サイン会

ニコラス・クレーマーさんのサイン


小林沙羅さんのサイン


与那城敬さんのサイン


アビゲイル・ヤングさんのサイン