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カレッジ・コンサート:第8回石川県学生オーケストラ&オーケストラ・アンサンブル金沢
2011年2月27日(日)15:00開演(14:15開場)石川県立音楽堂コンサートホール
1)ビゼー(ホフマン編曲)/「カルメン」第1組曲
2)レスピーギ/リュートのための古代舞曲とアリア第3組曲
3)サン=サーンス/交響曲第3番ハ短調op.78
●演奏
山下一史指揮石川県学生オーケストラ(金沢工業大学室内管弦楽団,金沢大学フィルハーモニー管弦楽団,北陸大学室内管弦楽団のメンバー)*1,3;オーケストラ・アンサンブル金沢*1-3,黒瀬 恵(オルガン)*3
Review by 管理人hs  

石川県内の大学オーケストラの有志とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)による合同公演を聞いてきました。毎年この時期に行われているこの公演も今回で8回目となります。OEK単独では演奏できないような大編成の交響曲を聴くことのできる貴重な機会ということで,毎年楽しみにしている演奏会です。

今回の指揮は,山下一史さんでした。山下さんは,OEKも金沢大学フィルも頻繁に指揮されていますので,今回の合同公演には打ってつけの指揮者ということが言えそうです。

前半まず,合同でカルメンの第1組曲が演奏されました。この曲では,コンサートマスターの松井直さんをはじめ,各パートのトップ奏者をOEKメンバーが担当していました。OEKがリードする合同オーケストラということになります。カルメン組曲は,アマチュア・オーケストラが頻繁に取り上げる定番レパートリーと言っても良い曲です(数年前のこの合同公演でも取り上げられたことがありますね。)。山下さんの作る音楽は実に滑らかで,オーケストラをしっかりと鳴らす,明るく健康的な音楽を聞かせてくれました。

この演奏ですが,まず,いきなり深刻な「運命のテーマ」で始まりました。カルメン組曲と言えば,いわゆる「前奏曲」で始まるのが普通なので意外に思った人もいたかもしれません。我が家にあるCDを調べてみたところ,シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団の演奏がこの形でした(ホフマンという人による編曲版のようです)。冒頭からたっぷりとした音が滑らかに広がり,弦楽器を中心に非常に高級感のある響きを聞かせてくれました。

スペイン気分たっぷりのアラゴネーズも慌てることのない演奏でした。ここでは水谷さんのオーボエの音が大変魅力的でした。続く第3幕への間奏曲では,いつも通りの,しっとりとした落ち着きのある岡本さんのフルートを楽しむことができました。セギディーリアは,本来は歌の入る曲ですが,今回の編曲版では水谷さんのオーボエがそのパートを担当していました。OEKメンバーによる,瑞々しいソロが続き,学生さんも「さすが」と思ったことでしょう。アルカラの竜騎兵もまた,じっくりと聞かせる演奏でしたが,それと同時に,心地良い軽やかさもありました。大人数で演奏する弱音の面白味を感じさせてくれるような演奏でした。

最後は,「闘牛士」(通常「カルメン前奏曲」と呼ばれているお馴染みの曲)が演奏されて締めくくられました。この曲でも熱狂的にテンポを煽るようなことはなく,無理のないテンポで,しっかりとオーケストラを鳴らしていました。その中で若々しく熱いテンションを維持していました。いつも情熱的な指揮ぶりの山下さんならではの演奏だったと思います。

2曲目のレスピーギは,OEKの弦楽セクションのみによる演奏でした。恐らく,指揮者なしでも演奏できるような,OEKの十八番の曲だと思いますが,山下さんが指揮することで,さらにニュアンス豊かで聞き応えのある音楽になっていました。山下さんは指揮台があるにも関わらず,指揮台から降りて指揮されていました。オーケストラを上から見下ろすのではなく,同じ視点からオーケストラを盛り上げようとする指揮ぶりで,インティメートな暖かさに溢れていました。組曲の中では,3曲目のシチリアーノが特に有名ですが,その他の曲についても大変しっかりと演奏されており,随所で底知れぬ深さを感じさせてくれました。大変完成度の高い演奏だったと思います。

# この日のプログラムの解説ですが,この組曲については,なぜか第1集の解説が入っていました。「トランペットの入る賑やかな終曲」といった記載があり「?!」となった人も居たのではないかと思います。

後半は,サン=サーンスのオルガン付き交響曲が演奏されました。この曲は,数年前,金沢大学フィル単独の定期演奏会で聞いたことはありますが,石川県立音楽堂の機能を最高に生かせる曲ということで,今回もまた大満足の出来でした。

じっくりとした深い音を聞かせる冒頭部に続き,第1部前半は,ザワザワザワ...という感じの弦楽器の音が印象的な部分になります。畳み掛けるような速いテンポの部分もありましたが,オーケストラのメンバーはしっかりと山下さんの指揮に喰らいついていたと思います。合同オーケストラということで,特に金管楽器の人数が多かったのですが,その輝きのあるサウンドも曲を大きく盛り上げてくれました。

第1部後半で,初めてパイプオルガンが入ってきます。BGM的な音楽ではあるけれども,その魅力には,誰も逆らえないような「超魅力的なBGM」といった趣きのある部分です。パイプオルガンの醸し出す,ゆるーく,ゆったりとした雰囲気と弦楽器とが絶妙のブレンドを聞かせてくれました。管楽器については,粗が見えやすい部分ではありますが,この部分の魅力をしっかり味わうことができました。

第2部前半は,非常に力強くくっきりとした弦の音で始まりました。この演奏では,最初の曲とは逆に,学生オーケストラ側がコンサートマスター及びトップ奏者でしたが,特にこの部分では,気合が入りまくった弦楽器の音が鮮烈でした。妥協を許さない,集中力とエネルギーに満ちた,生きた音楽を聞かせてくれました。

この日,開演前や休憩時間中,ステージ上のスクリーンでリハーサル風景の写真がスライドショーで投影されていました(このアイデアはとても良かったと思います)。恐らく,本番に向けて相当熱い練習を積んできたのだと思います。この部分を聞きながら,そのことをしっかりと実感することができました。

第2部後半は,全曲のクライマックスです。まず,オルガンの和音が,バーンと大音量で入ってきます。この曲の中でいちばん格好良い爽快な部分ですね。その後に続くピアノ連弾が加わる部分もいかにもサン=サーンス的です。あとは音楽の流れに乗って,壮大なクライマックスを作ってくれました。大編成の金管楽器や打楽器が加わることで出てくる高揚感も素晴らしく,いかにも若々しく爽やかなエンディングとなっていました。

OEKがこの曲を演奏するのは,多分,初めてだと思いますが,学生オーケストラと一体になって,熱く新鮮な音楽を作っていました。

今回の演奏会は,全体の演奏時間自体はそれほど長くはありませんでしたが,いつもにも増して,学生オーケストラとOEKの熱いコラボを楽むことができました。指揮の山下さんは,上述のどおり,OEK,学生オーケストラの双方を頻繁に指揮されている方ということで,指導のツボをしっかりと押さえていたのだと思います。今回の合同公演の最適の指揮者だっだんだなぁ,ということを再認識しました。

さて,来年は何が取り上げられるのでしょうか?予想し,期待することもまた,楽しみです。

PS. 私がもしも,オーケストラと共演できるならば,一度やってみたいと思っているのが,この交響曲の第2部後半でオルガンがバーンと入ってくる部分の和音です。和音の指の形をあらかじめ作っておき,あとは鍵盤に下ろすだけという状態にしておけば,やってやれないことはない?などと勝手に思っているのですが...3月10日に,今回のソリストだった黒瀬恵さんによる,石川県立音楽堂のオルガン体験講座がありますので,どなかたやってみませんか?

PS.この日,プレコンサートで学生オーケストラメンバーの弦楽四重奏で,モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の第1楽章を演奏していました。演奏自体は,良かったのですが,開場前の時間に演奏していましたので,お客さんが閉じた扉の前に列をついたまま聞く形になってしまいます。演奏者の回りのスペースがガランと空き,遠巻きに聞くという感じになるのが妙な感じです。いっそ,開場後に演奏した方が良いのかな,という気がしますが,指定席でないので,難しい面があるのかもしれませんね。このプレコンサートについては,もう一工夫あっても良い気がしました。 (2011/03/01)

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公演のポスター