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金沢市立額中学校吹奏楽部絆コンサート2011
2011年3月26日(土) 18:00〜 金沢市文化ホ−ル
1)ソーシールド/第3惑星のためのファンファーレ
2)天野正道/ウィンクルム=絆(小説「アインザッツ」劇中曲)
3)堀田庸元/マーチ「ライブリーアヴェニュー」(2011年度全日本吹奏楽コンクール課題曲)
4)大栗裕/吹奏楽のための神話:天の岩屋戸の物語による
5)ワーグナー(カイリエ編曲)/歌劇「ローエングリン」〜エルザの大聖堂への行列
6)プッチーニ(後藤洋編曲)/歌劇「トゥーランドット」から
7)カステレード/フルート吹きの休日 から(フルート四重奏)
8)ドゥファイ/オーディションのための6つの小品 から(クラリネット四重奏)
9)AKB48セレクション
10)吉俣良(後藤洋編曲)/NHK大河ドラマ「江:戦国の姫たち」〜テーマ
11)CMソング・メドレ−
12)(アンコール)水野良樹/ありがとう
13)(アンコール)田嶋勉/潮風のマーチ(2012年度全日本吹奏楽コンクール課題曲)
●演奏
田中一宏*1,3-4,11-13,山本光太郎*2,9,中村睦郎*5-6,10指揮金沢市立額中学校吹奏楽部
司会:室照美
Review by 管理人hs  

今年度(2010年),全日本吹奏楽コンクールに金沢市の中学校として初めて出場し,銀賞を受賞した金沢市立額中学校吹奏楽部が,その出場記念として「絆コンサート2011」と題した演奏会を行ったので聞いてきました。高校の吹奏楽部が定期演奏会を行うことは珍しくありませんが,中学校の吹奏楽部が,単独で公共ホールを借り切って約2時間のコンサートを行うというのは,大変珍しいことです。

この公演が実現したのは,何よりも額中吹奏楽部が全国大会に出場したことによりますが,保護者や地域の強力な支援の力が大きかったようです。会場の運営の見事さ,カラーのパンフレットに掲載された地元のお店の数の多さを見てそう実感しました。演奏もさることながら,その熱いサポートに感銘を受けました。それと3年生が参加していたことが素晴らしいと思いました。高校入学への準備が忙しい時期ですが,このメンバーで演奏する最後の機会ということを意識していたのだと思います。

今回の演奏会は,吹奏楽オリジナル曲,アンサンブル曲,ポップスステージの3部構成でした。中学生バンドが,これだけのレパートリーを持っている点がまずすごいところです。ステージの幕が開くと,学校の制服ではなく,演奏会用の黒のスーツを着た生徒がずらりと並んでいました。非常に大人っぽく見えました。指揮の田中一宏先生が入ってくると,全員が機敏な動作で立ち上がりました。演奏前から「さすが」と感じさせてくれました。

まず,「第3惑星のためのファンファーレ」で始まりました。キビキビとした明るさのある曲で,明快なサウンドが開幕にぴったりでした。田中先生は,日本の吹奏楽界でも有名な指導者ということで,見るからに(?)存在感のある方です。実は音楽の先生ではなく,国語の先生というのが面白いところです。体全体からエネルギーと音楽が伝わってきます。音楽全体としては弾けているのに,ギュッと引き締まった響きがしていました。

続く,次の「ウィンクルム」は,吹奏楽部が出てくる「アインザッツ」という小説から生まれた曲です。「絆」という意味ということで,今回のコンサートのテーマにもなっています。編成は,今回演奏された曲の中で唯一,1,2年生メンバーだけによる演奏でした。指揮も田中先生ではなく,山本光太郎先生でした。シリアスな雰囲気の曲ということもあり,やや堅く,慎重な感じがしましたが,この曲は,さらにこれから練り上げていくのでしょう。

「ライヴリー・アヴェニュー」は,2011年度の全国吹奏楽コンクールの課題曲です。この時期,既にしっかりと演奏しているところがさすがです。この曲も,1曲目同様,明るいサウンドが気持よく響いていましたが,ちょっと変拍子っぽい感じになったり,ブルーな音が時々入るのが,魅力的でした。

「吹奏楽のための神話」は,2010年度の全国吹奏楽コンクールの自由曲で額中が演奏した曲ということで,この日のコンサートの目玉曲です。やはり,他の曲の演奏とは一段上の集中力と緊張感が漂っており,聞きごたえ十分でした。日本神話の「天の岩戸」のエピソードを題材にした曲ということで,途中で妖しい踊りの雰囲気になる部分がありました。この辺は,和風「サロメ」といった趣きでしょうか。クラリネットをはじめとした各楽器のソロが見事でした。雄弁なパーカッションの動きも印象的でした。曲全体としては,「どこかバルトークっぽいな」と思って作曲者を見てみたところ,「東洋のバルトーク」と言われている大栗裕さんの曲だと分かり,なるほどと思いました。

前半最後は,客演指揮者の中村陸郎さん指揮による演奏でした。田中先生もすごいキャリアですが,この中村先生も,「全国大会で金賞を12度受賞」ということで吹奏楽界のカリスマ先生の一人なのだと思います。

演奏された,ローエングリンは,昨年,日本テレビの「笑ってコラえて!」の「吹奏楽の旅」で取り上げられた鹿児島情報高校の演奏でおなじみにになった作品です。個人的に一度,吹奏楽の実演で聞いてみたかった曲です。今回の演奏は,思ったよりもすっきりとした演奏で,フルートから始まる清らかな音の流れが,ストレートに大きく広がっていくような演奏でした。指揮にしっかり喰らいついていく,ひたむきさを感じさせてくれる瑞々しいでした。

後藤洋編曲による「トゥーランドット」は,高校の吹奏楽部がコンクールの自由曲で演奏するのを聞いたことあります。近年の人気曲の一つなのではないかと思います。前半最後ということで,ちょっと疲れがある気もしましたが,テンションの高さとダイナミックさのある演奏で(中村先生の指揮ぶりもダイナミック!),前半を見事に締めてくれました。

第2部のアンサンブルステージでは,額中学校の中からアンサンブルコンテスト(アンコン)に出場した木管アンサンブル2チームが演奏しました。フル編成だけでなく,アンコンの全国大会でも同時に入賞したのは快挙だと思います。

このステージでは,緞帳が締まったまま,その前で演奏が行われました。ちょっと変わった雰囲気でしたが,どちらも立派な演奏でした。フルート四重奏の方は,タイトルどおり後半に向かうにつれて,リラックスした感じになりました。ちょっとラテン音楽的な軽快さが出てきて,気持良いハモリを聞かせてくれました。クラリネット四重奏の方は,大変クリアで鮮烈な演奏でした。それでいて,4人のまとまりが良く,1つの楽器の演奏を聞いているようなまとまりの良さがありました。「さすがアンコン全国大会出場!」というステージでした。中学校の吹奏楽部員の場合,楽器を始めて2,3年という人が大半だと思うのですが,そんなにすぐに上手くなるのだろうか,と感心してしまいました。

第3部はこれまでと趣きを変え,学校の文化祭や地域のイベントなどにもそのまま使えそうな,いかにも学生の演奏らしいポップスステージでした。

最初の「AKB48セレクション」は,AKB48のヒット曲メドレーでした。現在,全国の学校の吹奏楽部でもっとも良く演奏されている曲かもしれません。最初の「会いたかった」では,10名ほどの部員による,AKB48そのまんまに近いダンスが入っていました。途中の曲(タイトルが出てこない...卒業式に歌うような曲)では,合唱が入るなど,前半のプログラムでのシリアスな演奏とは一味違った「歌って踊れる」吹奏楽部に変貌していました。

続いて,NHK大河ドラマ「江」のテーマ曲が演奏されました。この大河ドラマのテーマというジャンルは,実は吹奏楽曲の重要なレパートリーです。我が家の子供も別の学校の吹奏楽部に入っていますが,毎年毎年,その年の大河ドラマのテーマを演奏しています。今年の「江」については,ピアノのソロが入る点で,吹奏楽向きでない部分はあるのですが,そこがまた大変優雅でもあります(ちなみにこのピアノは,山本先生が演奏されていました。)。「篤姫」のテーマとよく似ていますが(悪くいうと「二番煎じ」),コンサート全体の中でほっと一息つける時間になっていました。ステージ背景の照明も大河ドラマのタイトルを思わせる水色系統で,ムードを盛り上げていました。

プログラム最後は,CMメドレーでした。地域のイベントでもよく演奏しているのか,見せ方,聞かせ方を心得た演奏でした。「♪それにつけてもオヤツはカール」から木村カエラの曲まで,どの世代でも楽しめるような曲が集められていました(後で,サイトを調べてみたところ,このメドレーは額中オリジナルだったようです)。途中,音楽に合わせて楽器を揺らしたり,最後大きく盛り上がった後,楽器も大きく持ち上げて終わったり,とても楽しい演奏になっていました。

その後,今回が最後のステージとなる3年生のための「ステージ上での卒業式」がありました。1人ずつ名前が呼び上げられた後,田中先生と握手をして,ステージの袖に順に並んでいくという,シンプルかつ感動的な演出でした。その後,3年生の代表の生徒の挨拶がありました。3年間,共に練習を重ね,憧れの普門館のステージを踏んだチームもこれで解散,ということで指揮の田中先生もウルッとなってしまうぐらい感動されていたようです。

その後,この3年生たちに感謝するように,いきものがかりの「ありがとう」が演奏されました。演奏会の締めは,今年度の額中吹奏楽部のテーマ曲と言ってもよい2010年全日本吹奏楽コンク−ル課題曲「汐風のマ−チ」が,沸き立つようなテンポで演奏されました。客席から手拍子も加わり,熱く大きく盛り上がって終演となりました。

立派に演奏をやり終えた生徒たちと指導された先生方に対して,盛大な拍手が続き,幸せな気持ちで,ホールの外に出ると,生徒たちが早くも出迎えてくれていました。その輝く顔を見てさらに幸せな気分になりました。生徒たちは,ステージ上だと大人っぽく見えたのですが,近くで見ると,みんな普通の中学生でした。子供の成長した姿を見て,その潜在能力の大きさに感動した保護者の方も多かったのではないかと思います。実は,我が家の子供も吹奏楽部に入っているのですが(レベルは結構違いますが...),終演後は,同じような顔をしていました。吹奏楽というのは,本当にいいものですね。

PS.実は,私は額中学校の卒業生です。今は校区とは違う場所に住んでいるのですが,パンフレットの広告にずらりと載っていた店の名前を見て非常に懐かしくなりました。何と私の通っていた保育園の広告まで載っていました。

PS.この日は北陸放送のアナウンサーが司会担当でした。昨年末,北陸放送が額中学校吹奏楽部を特集した番組を放送したのがきっかけで,今回も登場することになったとのことです。この日もカメラが入っていましたので,そのうち,何らかの形で放送されることになると思います。

PS.この公演ですが,額中吹奏楽部保護者会のサイトで,動画が既に公開されています。
http://nukawindorchestra.web.fc2.com/kizuna_concert.html
 (2011/04/01)

関連写真集


公演のパンフレット。カラー写真を使った立派なものでした。



ホールに着くと既に列ができていました。会場は満席に近かったと思います。


列の最後です。サポートするスタッフも大勢いました。


チラシの貼られたガラス窓


ホール入口


全国大会のトロフィーと賞状などが飾られていました。


終演後,お出迎えをする部員たち


この日は震災の義援金の募金も行っていました。