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「オーケストラの日」コンサート
2011年3月31日(木)18:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール
いしかわ子ども邦楽アンサンブルのステージ
1)口上:いしかわや
2)三番叟
3)うさぎ
4)さくらさくら
石川ジュニアオーケストラのステージ
5)シューベルト/軍隊行進曲
6)アンダーソン/舞踏会の美女
7)アンダーソン/ホーム・ストレッチ
出演者との交流会
オーケストラ・アンサンブル金沢のステージ
8)ベートーヴェン交響曲アラカルト(交響曲第5番〜第1楽章,交響曲第7番〜第2楽章,第8番〜第3楽章,交響曲第4番〜第4楽章)
9)(アンコール)渡辺俊幸/NHK大河ドラマ「利家とまつ」〜永久の愛
●演奏
いしかわ子ども邦楽アンサンブル*1-4
金聖響*5-9指揮石川県ジュニアオーケストラ*5-7;オーケストラ・アンサンブル金沢*8-9
司会:上坂典子
Review by 管理人hs  

3月31日は「オーケストラの日」ということで,毎年,全国各地でオーケストラのコンサートが行われます。今年は,東日本大震災の影響を大きく受けることになりましたが,「頑張ろう日本!!わかちあうシンフォニー」というサブタイトルの下,石川県立音楽堂では,例年通り,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)定期会員ご招待のファン感謝デー的な演奏会が行われました。

昨年までと違うのは,いしかわ邦楽アンサンブルが登場した点です。コンサートホールで邦楽合奏の演奏を聞くこと自体珍しいことです。ステージ前面に赤毛氈,その背後に金屏風という和風のセッティングがされる中,アンサンブルの子どもたちが入場し,いろいろな邦楽器による合奏を聞かせてくれました。

演奏の方は,半年前に活動を始めたばかりの団体ということで,結構ハラハラする部分もありましたが,ちょっとたどたどしいところが微笑ましく感じられるところもあり,大きな拍手を受けていました。休憩時間,ロビーで邦楽器に触れる機会があったのですが,実際にこういう大きなステージを踏めるということは大変意味のあることです。将来,この中から伝統を担う音楽家が出てくることを期待したいと思います。石川県ジュニアオーケストラと対を成すアンサンブルということで,今後の活動に注目したいと思います。

続いては,石川県ジュニアオーケストラのステージになりました。いつもは鈴木織衛さんが指揮をされており,つい先日行われた定期演奏会でも鈴木さんが指揮されていましたが,今回は金聖響さんの指揮でした。プログラムのプロフィールには,ジュニアオーケストラは,サイモン・ラトルをはじめ,多くの指揮者から指導を受けていることが書かれていますが,その肩書きにさらに1人著名な指揮者の名前が加わることになります。

場面転換時間を利用した聖響さんのトークによると,「指揮者はオーケストラを乗せるのが仕事」ということで,ジュニアオーケストラからいかに楽しい音楽を引き出すか,ということに苦心をされたようです。ジュニアオーケストラとは今回が初顔合わせだった聖響さんからは「とてもおとなしい」と見えたようですが,演奏は大変のびのびとしたものでした。

ラ・フォル・ジュルネ金沢2011にちなんでの選曲(だと思いますが)のシューベルトの軍隊行進曲は,落ち着いたテンポでうっとりするような音楽を聞かせてくれました。中間部はとてもすっきりと,しかしよ〜く歌っていました。オーボエのソロなどもとても巧かったと思います。私自身,子どもの頃からこの曲の中間部が大好きです。転調という言葉は知らなかったのですが,マジックにかけられたような気持ちになり,それがクラシック音楽を好きになったきっかけになった気がします。子どもたちの演奏を聞きながら,昔のことを思い出しました。

その後,ルロイ・アンダーソンの曲が2曲演奏されました。「舞踏会の美女」は,大変リラックスしたムードのあるワルツでした。低音がしっかり効いており,聞き応えもありました。「ホーム・ストレッチ」の方は初めて聞く曲でしたが,大変楽しい曲でした。最初から最後まで,ギャロップのリズムでカララ,カララ,カララ...と馬の蹄のような打楽器の音が入っており,停滞した世の中の雰囲気を吹き飛ばしてくれるようでした。演奏全体もピリッと引き締まっており,充実感がありました。

どの曲もオーケストラの音が良く鳴っており,音にキラキラした色彩感がありました。アンダーソンの曲は,演奏時間的に短く演奏しやすい上,親しみやすいので,これからもジュニア・オーケストラのレパートリーにしていって欲しいと思いました。

休憩時間は通常の倍の40分取られていました。出演者もロビーに出ていましたので,演奏者とお話をしたり,サインをもらったりしている方もいたようです(プログラムには,「サインも大歓迎」と書いてありましたが,お客様感謝デーということで,「一緒に写真撮影してもOK」という案内があっても面白いかと思いました。)。

その他,飲みものの無料サービスもありました。私は,軽く缶ビールを飲んだ後,ホール入口付近でやっていた,楽器体験コーナーに参加してみました。先ほど,子供たちが演奏していた小鼓を「ポポポポン(ACではありませんが)」と叩かせてもらいました。が...あまり冴えた音は出ませんでした。女の子に叩き方を尋ねてみると「真ん中を叩いてください」と言われました。真ん中を叩いているつもりなのですが...どこが悪いのか...。同じ楽器でも,間近で聞くと音が全然違うことが分かり(非常に良い音を出す子どもがいましたねぇ),邦楽器の奥深さを実感しました。邦楽器以外にも,ヴァイオリンやチェロの体験コーナーもありました。こちらは金沢大学フィルのメンバーが担当していたようです。

カフェコンチェルト前では,金沢大フィルのメンバーによる室内楽演奏も行っていました。チラシによると,弦楽四重奏を行われるはずだったのですが,団員がインフルエンザにかかったということで,次の2チームの演奏が行われました。

  • エヴァルド/金管五重奏曲第3番〜第1楽章,第4楽章
  • イベール/木管三重奏のための5つの小品〜I,II,III,V

演奏者のまわりには大勢のお客さんが集まり,ラ・フォル・ジュルネ金沢の前哨戦的な,ちょっとしたお祭り気分を味わえました。

後半は,金聖響指揮OEKによるステージでした。聖響さんとOEKといえば,ベートーヴェンの交響曲の演奏がそのつながりの原点にあります。録音自体は既に完了しており,あとは第4番と第8番の発売を待つばかりです。今回は,そのプロモーションを行うように,ベートーヴェンの4つの交響曲の4つの楽章を組み合わせ,1つの交響曲のように再構成した「ア・ラ・カルト」が演奏されました。各楽章は次のとおりです。

  • 第1楽章 第5番の第1楽章
  • 第2楽章 第7番の第2楽章
  • 第3楽章 第8番の第3楽章
  • 第4楽章 第4番の第4楽章

通常の交響曲の場合,楽章の調性に統一感がありますので,いつもと多少雰囲気は違いましたが,さすが,ベートーヴェン。意外に違和感なく,新しい交響曲のような新鮮さを楽しむことができました。

聖響さんの作る音楽は,CD同様,古楽奏法を意識したもので,全般にすっきりとした流れの良さとニュアンスの豊かさが同居していました。楽器の配置もいつもどおり,コントラバスが下手側に来る,古典的な対向配置でした。

第1楽章は,大げさに「ジャ・ジャ・ジャ・ジャーン」ともったいぶるようなところは全く無く,スッーと始まったのですが,演奏全体にテンションの高さあるので物足りなさは感じませんでした。逆に音の純粋な美しさがストレートに伝わって来ました。ホルンが時々面白い音(ゲシュトップト奏法?)を出していたのも聖響さんのベートーヴェンらしいと思いました。

第2楽章は,深い味わいを持った演奏でした。弱音になるほど,エネルギーの集中力が高まるようなところがあり,室内オーケストラらしい,緻密さを感じさせてくれました。中間部に出てくるクラリネットをはじめとする管楽器の音も瑞々しく,雄弁でした。

第3楽章以降は,CD未発売の第8番と第4番ということで,CDの予告編ということになります。第3楽章は,若々しく颯爽とした晴れやかな音楽でした。トリオの部分は,テンポをぐっと落とし,室内楽的な気分になります。表現力豊かで,しっかりと歌ったホルンの演奏が特に見事でした。

第4楽章は,猛スピードという演奏ではななく,冒頭部分から,弦楽器のクリアな音の刻みが気持ち良く響いていました。常にエネルギーを内包しており,しっかりと歌われているのが素晴らしいと思いました。「春間近」といった沸き立つ気分いっぱいの演奏でした。ティンパニはバロックティンパニを使っていましが,その硬質な音も効果的でした。エンディングも格好良く鮮やかに決まっていました。

アンコールでは,大河ドラマ「利家とまつ」の音楽が演奏されました。この曲がOEKのレパートリーになって,10年近くになりますが,今回演奏されたのは,「紀行テーマ」として演奏された,「永久の愛」でした(「永遠」ではなく「永久」です)。当時のサントラ盤では,樫本大進さんが演奏していましたが,この日のコンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさんの演奏も大変熱い演奏でした。うっとりと聞いているうちに,ハリウッドでも活躍した作曲家コルンゴルトのヴァイオリン協奏曲のように響いていたのが面白いと思いました。ここでもホルンの音が大変充実しており,まつ(ヴァイオリン)と利家(ホルン)の対話のように聞いてしまいました。

この日,全国でどのくらいオーケストラの演奏会が行われたのかは分かりませんが,1日も早く,東日本で”日常的に”オーケストラの演奏会が行われる状況に戻ることを祈っています。音楽というのはお腹の足しになるものではありませんが,聞けば気分や気持ちが変わるし,エネルギーが沸いてきます。震災後,「一つにまとまろう」という言葉を良く聞きます。音楽には,大勢の人の気持ちをまとめる力もあると思います。ここしばらくは,音楽の持つ力を信じながら演奏会に行きたいと考えています。 (2011/04/02)

関連写真集


公演の案内


公演のポスター。全国共通のデザインだと思います。


休憩時間の楽器体験コーナーの様子


こちらは筝の体験コーナー


休憩時間中のロビーは大賑わい。奥の方では金沢大フィルのメンバーが演奏中