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東日本大震災復興支援チャリティ・コンサート:大震災で親を亡くした子どもたちに伝えたいことがある
2010年4月10日(日) 15:00〜16:00/17:00〜 タテマチ大学
1)エルガー/愛の挨拶 (未聴)
2)ドビュッシー/シリンクス (未聴)
3)バッハ,J.S./無伴奏フルート・パルティータ〜サラバンド,ブーレ・アングレーゼ (未聴)
4)テレマン/無伴奏ヴァイオリンのための幻想曲第7番
5)イザイ/無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第4番〜アルマンド
6)いずみたく/見上げてごらん夜の星を
7)BEGIN/涙そうそう
8)アーレン/虹の彼方に
9)ハーライン/星に願いを
10)サティ/ジュ・トゥ・ヴ
11)モーツアルト/アヴェ・ヴェルム・コルプス
12)バッハ,J.S./主よ人の望みの喜びよ
13)(アンコール)一青窈/ハナミズキ
●演奏
寺田愁吾(フルート*2,3,6-13,坪倉かなう(ヴァイオリン*1?,4-13)
Review by 管理人hs  

3月11日,世界史的に見ても,かつて体験したことがないような大災害が東北地方で起こってしまいました。その影響が多方面に長く残ることは確実ですが,復興への祈りを込めた行動が,その反作用として日本各地で湧き起こり始めているのも確かです。

この日,金沢では,タテマチ商店街の中にある「タテマチ大学」で,大震災で親を亡くした子どもたちのためのチャリティコンサートが行われたので参加してきました。コンサートを企画したのは,自身6歳で父親を亡くしているか金沢市出身のヴァイオリニスト,坪倉かなうさんでした。坪倉さんは,2003年の北陸新人登竜門コンサートに出演された方ですが,その行動力に,まず拍手を送りたいと思います。

演奏会の方は,1時間以内の「ミニコンサート」でしたが,非常に間近で聞いたこともあり,何ともいえぬ満足感と感動を味わうことができました。会場のタテマチ大学は,NPO金沢マチナカ大学が運営する,学生や市民のための交流スペースで,いろいろなイベントに使われているようです。演奏を行うには狭すぎるかな,とも思ったのですが,実際聞いてみると,今回のようなヴァイオリンとフルートという小型楽器の組み合わせには,ピッタリでした。少し地下に潜り込む,文字通りアングラといった空間なのですが,その閉ざされた雰囲気は悪くありません。何とも言えない,隠れ家的な落ち着きを感じました。

演奏会は,この日2回行われ,私は後半の17:00からの方を聞いてきました。実は,開演時間を間違ってしまい,プログラムの最初の方は聞き逃してしまいました。後からの情報によると,まず,この演奏会の開催に関するスピーチがあったようです。

私は,テレマンの曲の途中から聞き始めました。無伴奏ヴァイオリンの曲だったので,一瞬,「バッハから?」とも思ったのですが,雰囲気はどうも違います。後でチラシを見てテレマンの曲と分かりました。テレマンの曲自体,あまり聞いたことはなかったのですが,この曲は素晴らしい曲だと思いました。

坪倉さんの演奏には,時に叫ぶような,別の瞬間には唸るような独特の強靭さがありました。狭い空間,しかも至近距離で聞いたこともあり,聞くというよりは,演奏そのものに巻き込まれてしまうような迫力を感じました。その演奏からは,「生きる力」であるとか「希望」を感じ取ることができました。今回の演奏会は,「あしなが育英会」への募金活動が目的でしたが,坪倉さんの演奏を聴くこと自体,多くの人に勇気を与えてくれるのではないかと感じました。

続く,イザイの無伴奏曲もまた,求心力のある演奏でした。テレマンよりも新しい時代の曲ということもあり,さらに振幅の大きい表現力の豊かさを感じとることができました。

後半は,フルートの寺田愁吾さんと坪倉さんとの二重奏で,ポップス系の曲を含む,お馴染みの小品が次々と演奏されました。小品集とはいえ,祈りの気分をもった曲が中心で,前半のシリアスな曲との落差は全く感じませんでした。

お二人の二重奏ですが,大変美しくハモっていました。加藤さんの方は,”草食系男子”といった雰囲気でしたが,音の方もそのとおり大変優しく,穏やかな音を聞かせてくれました。ちょっと肉食っぽい感じのある(失礼しました。良い意味です)坪倉さんと良いコンビだったと思います。

演奏中は,壁面に震災関係の写真がスライドショーで投影されていました。悲しいけれども美しい―そういう写真が多く,演奏を聞きながら見入ってしまいました。どういう基準で選んだ写真かはわからなかったのですが,Pray for Japan という英語のメッセージが多いのが目立ちました。今回の演奏会は,商店街の片隅という音楽を聞くには独特の空間で行われたのですが,聴いているうちに,被災者への「祈り」と生きていることへの「感謝」の気持ちが自然と湧き上がってきました。狭い会場の中で,若い2人の奏者によるヴァイオリンとフルートの響きに包まれながら,「これからは,ちょっと心構えを変えないといけないかな」などと感じた演奏会でした。

PS. 今回の演奏会は,坪倉さんによるタテマチ大学での演奏会の第2弾でした。前回は,バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータの演奏だったようです。そちらの演奏も聞いてみたかったですね。
(2011/04/12)



タテマチ商店街の写真
久しぶりにタテマチ商店街を歩いてみした。
Wi-Fi Streetということで公共無線LANが使えるようです。

タテマチつぶやきストリートということです。1人でブツブツつぶやくのも変なので,私は無言で歩いていました。


関連写真集


タテマチ大学の入口


もう少し近寄ったところ


公演のポスター


公演のポスター


左側でスライドを投影していました。


演奏会後の様子