OEKfan > 演奏会レビュー
第10回北陸新人登竜門コンサート ピアノ部門
2011年4月17日(日)15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)シューマン/ピアノ協奏曲イ短調,op.54
2)モーツァルト/ピアノ協奏曲第25番ハ長調,K.503
3)プーランク/2台のピアノと管弦楽のための協奏曲
●演奏
大野真理子*1,前垣内美帆*2,相良容子,田島睦子*3
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:サイモン・ブレンディス)
Review by 管理人hs  

4月恒例の,北陸地方の新人演奏家発掘のための北陸新人登竜門コンサートを聞いてきました。今回はピアノ部門で,次の3人の方が登場しました。

  • 大野 真理子 (金沢市出身,チェコ・ヤナーチェク音楽アカデミー在学中)
  • 前垣内 美帆 (野々市町出身,ドイツ・ヴュルツブルグ音楽大学在籍中)
  • 相良 容子   (金沢市出身,現在七尾市在住)

この3人は,いずれも石川県出身の女性で,指揮者の井上道義さんが語っていたとおり,皆さん大変充実した演奏を聞かせてくれました。それぞれのドレスも華やかで,ホールの外の桜(満開でした)同様の晴れやかさがありました。

まず,今年のプログラムですが,ソリストが2人登場する「2台のピアノのための協奏曲」が演奏されたことが特徴です。独奏者にスポットを当てるコンサートで2人の奏者が登場するのは異例のことです。オーディションに合格したのは,相良容子さんでしたが,ゲスト・ピアノとして,10年ほど前のこのコンサートに出演したことのある田島睦子さんも登場しました。これまでになかったパターンですが,この演奏会のレパートリーを広げることになるので歓迎したいと思います。

当初は,時間的にいちばん短い,この曲が最初に演奏されることになっていましたが,時間は短くとも,フランス風の華やかな曲で終わる方が良いのでは,という判断で,シューマン,モーツァルト,プーランクの順に演奏されることになりました。

大野さんの独奏によるシューマンのピアノ協奏曲の演奏は大変たっぷりとした,しかも瑞々しい演奏でした。格好良く始まる印象的な冒頭から,芯のある音が素晴らしく,安心して聞くことができました。続いて出てくる加納さんのオーボエの音も,いつもながら大変瑞々しいもので,ピアノにぴったりでした。

第2楽章はとてもデリケートな表情で始まりました。楽章前のインターバルで,「鈴を持ったお客さん(残念ながら,時々いらっしゃいますね)」が居て,井上さんが,「シーっ」という動作を見せていましたが,それにも動じず,この楽章もたっぷりと聞かせてくれました。この楽章では,ストレートに歌うチェロ合奏も大変爽やかでした。

深く沈潜するような哲学的といっても良い気分で第2楽章が終わった後,そのまま第3楽章に入ります。この部分での開放感も見事でした。一気に春になったような鮮やかさがありました。この楽章では,音自体の力強さがもう少し欲しいかなという気もしましたが,乗りにのって指揮をしていた,ミッキーさんともども,大変流れの良い,まとまりの良い音楽を聞かせてくれました。

続いて,前垣内さんが登場し,モーツァルトのピアノ協奏曲第25番が演奏されました。OEKの定期公演では,モーツァルトの後期のピアノ協奏曲はよく演奏されますが,この曲が演奏されるのは,久しぶりだと思います。プーランクの曲ともども,定期公演の空白を埋めるような選曲は大歓迎です。

この曲ですが,まず,ティンパニがバロックティンパニに変わっていました。序奏部のファンファーレ風の音の動きも大変キビキビとしたもので,カラッとした祝祭感を出していました。前垣内さんのピアノは,とてもクリアで清潔でした。とても上品で,何の過不足もない完成度の高い演奏を聞かせてくれました。第1楽章最後のカデンツァは,いつの間にか「ラ・マルセイエーズ」のメロディになる面白いものでした。そう考えると,冒頭のファンファーレ風の響きをはじめとして,曲全体が「フランス革命風」に聞こえるから面白いものです。

調べてみると,この曲が作曲されたのが1786年,フランス革命が1789年ということで,カデンツァとして使われても全く違和感ありません。どなたのカデンツァか分かりませんでしたが(モーツァルト自身のものは残っていないはずです),とても印象的でした。

第2楽章は,一点の曇りもない空のようなクリアな音楽でした。東日本の大震災とは別世界の,しっかりと地に足の着いた,平和な気分のある音楽でした。第3楽章は,大変軽妙で,ソツなく上品にまとめていました。その中に品の良い華やかさもありました。第1楽章のカデンツァ以外では,強い個性はあまり感じなかったのですが,その分,全曲を通じて落ち着いた気分が持続しているのがとても良かったと思いました。

さて,後半ですが,前述のとおり,プーランクの2台のピアノと管弦楽のための協奏曲が演奏されました。この曲を聞くのは,初めてのことだったのですが,いかにも井上さんのキャラクターにぴったりの明るく,キラキラした曲で,相良さんと田島さん以上に井上さんが楽しんでいたようにも見えました。

相良さんと田島さんですが,それぞれ,鮮やかな赤と黒のドレスで上手側からと下手側からとに分かれて登場しました。そのファッショナブルな雰囲気は,プーランクの音楽にピッタリでした。第1楽章のキラキラと才気走った音楽は大変楽しく,モダンな雰囲気のあるお祭り騒ぎを聞かせてくれました。楽章の途中から,次第にデリケートな夜の気分になって行くのも印象的でした。

第2楽章は,モーツァルトの音楽を思わせるようなシンプルで優しい音楽でした。同じプーランクの「ゾウのババール」の中に曲が出てきそうなムードがあり,聞いていて幸福感を感じました。第3楽章は一転して速い音楽になりました。この曲は,通常のOEKの編成よりもかなり大きく,テューバ,トロンボーン,打楽器各種が追加されていました。そのこともあり,スケールが大きく,ビッグバンド・ジャズを聴くような面白さがありました。

全曲を通じて,ピアノのパートだけが目立つというよりは,しっかりとオーケストラの中のパーツになって,一緒になって盛り上がるという演奏だったと思います。ガーシュインの曲辺りと組み合わせても面白そうな,楽しく,ちょっとモダンな作品でした。

このように,今年の登竜門コンサートは,大変充実した演奏ばかりでした。定期公演で聞けない,ちょっとひねった選曲だったのも,とても良かったと思いました。毎年,ラ・フォル・ジュルネ金沢の時期になると,多くの地元ピアニストが音楽祭を盛り上げるために,いろいろな場所で演奏会を行う機会が増えていますが,今回登場した3人の方も,これからいろいろなところでお会いすることになりそうです。今後の活躍に期待したいと思います。 (2011/04/23)

関連写真集

公演のポスター





翌日に急遽行われることになった,「大震災からの復興支援コンサート」に向けての寄せ書きボードが出ていました。


演奏曲順変更のお知らせ


金沢エキコンに続いて,仙台フィルの皆さんがプレコンサートに出演されていました。