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オーケストラ・アンサンブル金沢第299回定期公演PH
2011年4月22日(金)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)モーツァルト/2台のピアノのための協奏曲第変ホ長調,K.365
2)ヴィヴァルディ/4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲ロ短調op.3-10(合奏協奏曲集「調和の霊感」から)
3)ウェーベルン/弦楽四重奏曲〜緩徐楽章
4)ハイドン/交響曲第92番ト長調Hob.I-92「オックスフォード」
5)(アンコール)メンデルスゾーン/弦楽のための交響曲第10番ロ短調
●演奏
安永徹(リーダー)
オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
市野あゆみ,神永睦子(ピアノ*1)
安永徹,サイモン・ブレンディス,江原千絵,ヴォーン・ヒューズ(ヴァイオリン*2)
Review by 管理人hs  

ラ・フォル・ジュルネ金沢2011の開幕1週間前のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演には,お馴染みの安永徹さんが弾き振りで登場しました。安永さんとOEKの共演は,これで通算6回目ですが,4月に公演が行われるのは今回が初めてだと思います。

安永さんといえば,ピアニストの市野あゆみさんです。今回の演奏会では,まず,市野さんに加え,神永睦子さん独奏者に迎えて,モーツァルトの2台のピアノのための協奏曲が演奏されました。独奏者が2人必要なこともあり,実演ではあまり演奏されない曲ですが,「のだめカンタービレ」で人気の出た,2台のピアノのためのソナタを協奏曲にグレードアップしたようなところがあり,2人のピアノとオーケストラとの楽しい対話を楽しむことができました。この日のティンパニは,バロック・ティンパニを使っていましたが,そのカラリとした音も効果的でした。

この曲の編成ですが,響敏也さんの解説に書かれていた「ウィーン版」で演奏されており,クラリネット,トランペット,ティンパニがが入っていました。そのこともあり,第1楽章の冒頭から,祝祭的な気分のある元気のある響きを楽しむことができました。安永さんが登場する時のOEKは,いつも弦楽器の歌い方が緻密で,ニュアンスの変化も豊かです。それが「やり過ぎ」とはならず,古典的な気分の中でまとまっているのが素晴らしいと思います。

ちなみにこの日の楽器編成は,コントラバスが下手側に来る,古典的対向配置で,ティンパニは上手奥に居ました。

お二人のピアノは,息がぴったりでした。第1ピアノの市野さんが攻め,第2ピアノの神永さんが受ける,という雰囲気で,「対等」というよりは,「主従」という感じもしましたが,2人がピアノで対話をしながら次第にしなやかに盛り上がっていく様は,聞きものでした。

第2楽章では,2人のピアノの作る,静かだけれどもクリアな世界にしっかりと浸らせてくれました。水谷さんのオーボエの高く,長〜く伸ばされた音も印象的でした。第3楽章のロンドは,再度躍動感のある世界に戻りました。2人のピアノの作る雰囲気音は華麗で,特に2台で演奏するカデンツァの華やいだ気分は大きな聞きものでした。そういった華やかさの中に品の良さもあり,安永さんのリードするOEKともども,勝気だけれども抑えるところは抑える,といったバランスの良い演奏となっていました。

前半はこの1曲だけでした。後半の演奏時間は,かなり長くなったのでちょっとバランスが悪いかな,と感じましたが,前半はピアノが主役,後半は弦楽器中心と気分の切り替えのメリハリをはっきりさせたかったのかもしれません。

後半は,ヴィヴァルディの4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲で始まりました。ヴァイオリン4人がソロという曲は滅多にありませんが,お馴染みのOEKのヴァイオリン奏者の皆さんが,丁々発止とやり取りをする姿を見るのは,大変楽しいものでした。

これだけ沢山ソリストがいると,ソリストのやり取りを聞くだけで室内楽のようになります。4人のヴァイオリンの音色のちょっとした違いが美しく重なり合い,デリケートだけれども華やかな美しさがありました。演奏全体としては,焦って演奏するようなところはなく,オーケストラがソリストたちをしっかりと支えるような安心感がありました。

続く,ウェーベルンの弦楽四重奏曲からの緩徐楽章は,1961年,作曲者の死後に発見された曲とのことです。以前,「もっとカンタービレ」シリーズで一度聞いたことはあるのですが,ウェーベルンとは思えないほど聞きやすい作品です。「緩徐楽章」というほどには,テンポは遅くはなく,むしろ「緩急自在」という印象を受けました。曲の最初の方は比較的サラリとした感じで始まりましたが,次第に後期ロマン派的な曲らしく,熱く厚く盛り上がっていきました。それでも緻密さがあり,音楽に溺れた感じにならないのは,安永さんのリードの力だと思います。終盤になるにつれて,爽やかな気分になり,演奏後は,後味の良さが残りました。ウェーベルンの曲に,どういう曲があるのか,よく知らないのですが,もしかしたら,彼の作品の中でも,いちばん分かりやすいのがこの曲かもしれません。隠れた逸品という感じの作品でした。

演奏会の最後は,ハイドンの「オックスフォード」交響曲で締められました。私自身,この曲を実演で聞くのは,初めてでした(だと思います)。ここ数年,OEKはハイドンの後期の交響曲を「しらみつぶし」という感じで定期演奏会で取り上げていますが,今回もまた,ハイドンの良さとOEKの良さを実感できました。

第1楽章は,序奏部の主部の対比が鮮やかでした。しっとりと神秘的な気分で始まった後,次第にテンションを高め,主部に入った後は,ダイナミックな展開となりました。今回の演奏は,完全なノン・ヴィブラート奏法というわけではなかったのですが,演奏全体の雰囲気は,古楽奏法を意識したもので,ティンパニの強打を核とした,音のアタックの強さが印象的でした。音の清潔感やメリハリの付け方も非常によく考えられており,音楽のダイナミックさと同時に,ちょっと知的な雰囲気を味わうことができました(サブタイトルの「オックスフォード」という語感に引っ張られている気もしますが...)。

第2楽章もまた,各部分ごとのコントラストが鮮やかでした。何のストレスもないようなおっとりした雰囲気で始まった後,中間部ではキッパリとした力強さが出てきて,ベートーヴェンを思わせるような雰囲気を作っていました。第3楽章はメヌエットですが,ここでも躍動感が特徴的でした。間延びした感じはなく,筋肉質の美しさがありました。途中,何回も何回もホルンが下向するフレーズを演奏していましたが,その野性味とユーモアのある味(音量や表情の変化が面白かったですね)が,とても個性的でした。

第4楽章は,快速で走り抜けていくような楽章でした。スピード感たっぷりに駆け抜けていく軽やかさが,OEKならではでした。その一方,いかにもハイドン的な「間」が出てきたり,変化にも富んでいました。基本的に音楽は緻密にまとまっており,爽快なのですが,他の楽章同様に,ティンパニ,トランペットの強打が随所で効果的なアクセントになっており,全体を生き生きしたものにしていました。さすが,安永&OEKという演奏だったと思います。

安永さんの場合,毎回,弦楽合奏の曲をアンコールで取り上げるのが,「慣例」になっています。今回もこの慣例どおりで,メンデルスゾーンの弦楽のための交響曲第10番が演奏されました。

ただし,アンコールにしては,大変立派な曲です。メンデルスゾーンが10代の頃に作曲した曲ですが,非常に聞き応えのある作品です。実は昨年の9月のOEKの定期公演で井上道義さんが取り上げています(この時は演奏会の最初に演奏されました)。バロック音楽的な静謐な雰囲気で始まった後,暗い情熱を湛えたメロディが流れ始め,最後は軽やかにキリっと締められました。聞きながら,昨年聞いたことを思い出したのですが,この曲もまた,OEKにぴったりの曲だと再認識しました。

安永さんがOEKのリーダーを務めるときは,毎回,密度の高さとニュアンスの豊かさを持った集中力抜群の音楽を聞かせてくれます。今回も同様でした。久しぶりに震災のことをすっかり忘れて,純粋に音楽だけに浸ることができた気がしました。これは不謹慎と言われるのかもしれませんが,「心のバランス」を維持するためには,こういう気分転換は,大切なことではないかと思っています。いずれにしても,「音楽だけ」「OEKの素の魅力」をしっかりと味わうことのできた演奏会でした。 (2011/04/23)

関連写真集

公演の立看板

この日もサイン会が行われました。

市野さんと安永さんには,昨年発売されたショスタコーヴィチのピアノ協奏曲他のCDのジャケットに頂きました。


神永睦子さんのサイン

ソリストで登場した,OEKメンバーのサイン。上から,サイモン・ブレンディス,江原千絵,ヴォーン・ヒューズ,ルドヴィート・カンタの皆さんです。サイン会の時,ブレンディスさんとヒューズさんが並んで座っており,一瞬,どちらか分からなくなってしまいました。



ラ・フォル・ジュルネ金沢のスマートフォン用アプリがダウンロードできるようになったので,もてなしドーム下で,どういうことになるか試してみました。


何か黄色いものが出てきましたが,よく分かりませんでした。